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2021/6/8 17:00

「北斎の数少ない幸せな時間を担当させてもらった」『HOKUSAI』瀧本美織インタビュー

世界の美術史に大きな影響を与えた偉大なる絵師・葛飾北斎。日本はもちろん、世界でもその知名度は非常に高いものがある。が、老齢になって作品が世に聞こえるようになるまでの彼の人生には謎が多く、これまで北斎の人生そのものを描いた作品はほとんど見られなかった。その描かれなかった部分にフィーチャーしたのが5月28日から公開中の映画『HOKUSAI』だ。

ということで、北斎の妻、コトを演じた瀧本美織さんにインタビューを敢行! 女性目線から本作を通して感じる北斎の魅力について聞いた。

 

瀧本美織:1991年生まれ、鳥取県出身。NHK連続テレビ小説「てっぱん」(10)でヒロインに抜擢され注目を集める。主な映画出演作に『彼岸島』(10)、『貞子3D2』(13)。声優として『風立ちぬ』(13)、『天才バカヴォン〜蘇るフランダースの犬〜』(15)など。

 

あくなき創作意欲、命が尽きるまで自分の芸術をやり遂げる姿こそ北斎の魅力

――オファーを受ける前は、北斎にどんな印象を抱いていましたか?

 

瀧本 『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』など誰もが知る有名な作品を知っているくらいで、どういう生い立ち、人生を送ってきたかはあまり知らず、漠然と偉人というイメージでした。ただ、今回のお話をいただいて、(すみだ)北斎美術館に行って実際に絵を観たりといろいろと勉強しました。自然の中でも波は動きのあるもので、それをとらえて絵に描くというのはすごく挑戦的。当時はすごく斬新だったんだなと感じました。

 

――ちなみに、瀧本さん自身は絵心はありますか?

 

瀧本 小さいころから絵を描くのが好きで、少女漫画のようなものも自分で描いたりしてましたし、美術の授業も好きだったので、比較的絵心はあるんじゃないかなと思っています(笑)。

 

――瀧本さんが演じた北斎の妻、コトはほとんどその詳細が明らかになっていない人物です。

 

瀧本 コトに関する情報はまったくなかったのですが、(橋本一)監督からは「お嫁さんにしたくなるようなわかりやすい女性」というイメージを伝えていただきました。それを自分の中で膨らませて、役を作るというよりは現場に入って(壮年期の北斎役の)柳楽(優弥)さんとの空気感から生まれるものを大事にしました。具体的には、北斎は人生全体を通して自分と戦い続けた人という印象だったので、コトといるときは夫婦の時間でやすらぎを感じてもらえるような、北斎の数少ない幸せな時間を担当する気持ちで演じました。

 

――天才を支える役を演じる難しさはありましたか?

 

瀧本 柳楽さんの演じる北斎は絵に対してはものすごい凄みを感じさせる一方で、コトと一緒にいるときは男女が逆転したような繊細さを見せる。ですから、難しさもありましたが、家庭では私が守ってあげなくてはという気持ちで北斎と接していたので、家庭での北斎の意外な一面が垣間見られるシーンになったんじゃないかと思います。

 

――今回の北斎役は壮年期を柳楽優弥さん、老年期を田中 泯さんが担当しました。ふたりが演じる北斎も見どころのひとつ。

 

瀧本 私はすごく柳楽さんと泯さんの北斎が好きです。柳楽さんの北斎は年齢的に血気盛んで、人に対して悔しいという思いをぶつける純粋さがありますし、年齢を重ねた泯さんの北斎は静かなる自分との戦いを表現されています。どちらの北斎も気負いと情熱があるところが魅力です。

 

――実際に北斎のようなこだわりの強い男性はどうですか?

 

瀧本 私はそういう男性を自分で支えるというよりも、私も負けないように輝かなきゃ! と一緒になって頑張るタイプですね。コトのように影で支えるのはあんまり性に合ってないかもしれません(笑)。

 

――映画での時代劇は初挑戦。不安は?

 

瀧本 動きが制限されるお着物を着た状態でどう動くか、その動きの中で気持ちをどう乗せていくか、というのが時代劇の難しさのひとつ。ただ、以前泯さんと共演させていただいた『妻は、くノ一』というテレビドラマで所作指導していただいた先生が今回もついてくださったので、そのあたりは心強かったですね。

 

――着物は好きですか?

 

瀧本 好きです。プライベートで浴衣を着ることはありますが、着物を着ることはあまりないので、撮影で着られると違った自分になれる気がして刺激になります。

 

――いつか時代劇でやってみたい役は?

 

瀧本 花魁とか(笑)。私自身、好奇心旺盛で、反骨精神もあるので、イメージと違うことにチャレンジしてみたいです。花魁の衣装への憧れもありますしね。

 

――セットや小道具の緻密さも印象的でしたが、瀧本さんが現場で気になったモノはありましたか?

 

瀧本 北斎とふたりで床に就くシーンで吊られていた蚊帳がすごく印象に残っています。最近まで使われていたモノですが、古き良き日本を感じられるところとか。ノスタルジックにひたれるものは、小さいころの記憶が呼び起こされるので引かれるものがあります。

 

――本作のテーマのひとつに、体制から創作物が規制されてしまう作家の葛藤も描かれています。

 

瀧本 それぞれの時代にいろいろな政治背景などがあるとは思いますが、規制の中でも自分の中の芸術をつくるために反骨精神を持って描き、それが時代を超えてずっと人の心に残すことができる人は本当に尊敬します。今の時代もそれ相応の生きにくさや、対峙していかなきゃいけない問題はありますが、私も微力ながら表現する立場にいる者として、自分を貫いて作品で人を元気にできたらと思います。

 

――改めて、北斎という人物の魅力を教えてください。

 

瀧本 見ていただいて感じることは人それぞれ違うと思うのですが、私は北斎のあくなき創作意欲、命が尽きるまで自分の芸術をやり遂げるという姿に刺激を受けたので、やはりそこが一番の魅力だと感じます。今、新型コロナで世界がこういう状況ですが、今を生き抜いていく力にも通ずるところもあります。本作の北斎を見ていただいて、自分ももっと素直にやりたいことを突き詰める人生もいいんじゃないか、そんなポジティブなメッセージを受け取ってもらえたらうれしいです。

 

【INFORMATION】

HOKUSAI

出演:柳楽優弥、田中 泯、阿部 寛、永山瑛太、玉木 宏、青木崇高、瀧本美織、津田寛治

監督:橋本一
企画・脚本:河原れん
配給:S・D・P

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

公式URL:hokusai2020.com

 

(撮影・構成:丸山剛史/執筆:武松佑季)