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2021/11/30 19:15

片桐 仁「僕のほぼ全作品を網羅。まだ死んでいないのに回顧展みたいになっています(笑)」『大百科展』開催中!

芸人、俳優だけでなく、アーティストとしての顔も持つ片桐 仁さん。22年前からスタートした「粘土道」の展覧会はこれまでにも幾度となく国内外で開催され、大きな話題を集めてきた。現在開催中の『粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展』は、そんな彼の創作活動の集大成とも言える内容。これまでに発表された粘土作品はもちろん、初公開となる学生時代の絵画、そしてランドマーク作品の『公園魔』など見どころ満載の展覧会となっている。片桐さんが感じる粘土の魅力とは…? 作品群の見どころも含め、芸術への想いをたっぷりと語ってもらった。

 

片桐 仁●かたぎり・じん…1973年11月27日生まれ。埼玉県出身。多摩美術大学卒業。芸人、俳優、彫刻家。現在、テレビ・舞台を中心にドラマ・ラジオなどで活躍中。最近の出演作に、ドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』シリーズ、『あなたの番です。』、舞台『「バクマン。」THE STAGE』がある。1999年より俳優業の傍ら彫刻家としても活動を開始。2015年にはイオンモール幕張新都心、 2016年からは全国のイオンモールにて「片桐仁 不条理アート粘土作品展『ギリ展』」を開催。4年間で18都市を周り合計7万8000人を動員した。TwitterYouTube チャンネル「ギリちゃんねる」

 

粘土には誰もが気軽に楽しく自由に作れる、絵画にはない良さがある

 

――片桐さん史上、過去最大の展覧会ということで見応えたっぷりですね!

 

片桐 かなり大ごとになってますね〜。いや、大ごとにしないといけないんですけどね(笑)。今回はせっかく広い会場で開催できるので、やれることは全部しようと、僕のこれまでのアート作品をほぼ網羅する形になりました。中には、実家の階段の壁に貼ってあった小学生の頃の写生会の絵まで持ってきていて。なんだか、死んでもいないのに回顧展みたいになってます(笑)。

 

――展示の主軸となっているのは「粘土道」で制作された作品群です。改めて、この「粘土道」が始まった経緯を教えていただけますか?

 

片桐 1999年に雑誌で連載をスタートさせたのが始まりでした。その後、掲載誌が変わりながらも毎月1つずつ粘土作品を作っていたら、気づけば20年も経っていて。まさかこんなにも続くとは夢にも思わなかったですね。

↑初期の作品「俺ハンテープ台」。今回の出展にあたり右手を作り直したという

 

――20年続けてきて感じる粘土作品の魅力とは何でしょう?

 

片桐 粘土って、指で触って、変な形を自由に作れる。そこがまず楽しいんですよね。小中学校の頃の美術や図工の時間って、すごく授業が好きな人と地獄のように感じていた人に分かれていたと思うんです。それはきっと、「絵を描け」と言われると、「うまく描きたい。失敗したくない」って構えてしまうからで。でも、粘土だと誰もがすぐに作りはじめる。たとえ思ったとおりにできなくても、楽しめるんです。これは、僕が全国で展覧会をしながら、子ども向けワークショップをやって実感したことです。今回も「風鈴づくり」のワークショップ体験の場を会場内に設けていますので、ぜひご家族でやってみてほしいですね。

↑実際に粘土での創作ができる体験スペースも

 

――言われてみると、粘土に限らず、子どもの頃って誰もが一度は泥遊びをして、いろんなものを創作していますよね。

 

片桐 そうなんです。今回の『公園魔』もそうですが、子どもから大人まで多くの方に協力していただきましたから、本当に誰でも気軽に挑戦できる。ちなみに、そうやって手伝ってくださった方々の痕跡を残そうと、(『公園魔』の)裏側には皆さんに顔を粘土で作ってもらっていて。それも、目と口さえあればどんなものでも顔に見えるし、皆さんの作風も見事にバラバラなので、ぜひ裏側にも注目してほしいです。

 

――そうした仕掛け的な面白さが楽しめるのも、展覧会の良さですね。

 

片桐 立体の展示物の魅力は、会場に来て、直接間近で触れた方にしか分からない部分があるというところで。今はインターネットですぐにある程度の姿や形を情報として知ることはできますが、誰かの手で作られたという“実在感”は体感できない。そこも楽しみにして、会場に来てほしいですね。

↑新作「公園魔」
↑公園魔の裏側にはさまざまな顔が

 

――なお、今回の展覧会では総展示数380点のうち、100点以上の粘土作品が集まっていますが、もともと造形がお好きだったのでしょうか?

 

片桐 いえ、僕は絵描きになりたかったんです。小学生の時にゴッホ展を見に行って、そこで絵に圧倒されて。でも、それと同じくらい、絵に人が群がっている様子にも興味を持ったんです。“たった一枚の絵が、こんなにも多くの人を惹きつけるのか!?”ということに驚いて。にも関わらず、ゴッホ自身は生きている間に評価されることがなく、貧乏のまま死んでいった。そうしたエピソードも衝撃的で、“芸術家ってすごいな”と子供心に思ったんです。

 

――では、造形物は美大に入ってからだったんですか?

 

片桐 そうです。それまで造形物といえばプラモデルを作るのが大好きで、よく改造して自分流にアレンジして遊んでました。大学は版画科だったんですが、次第に板よりも粘土を彫るほうに楽しさを感じて、どんどん造形のほうに興味を持っていって。それに、美大には恐ろしい才能がゴロゴロしていて。どんどんコンプレックスを感じていく中で、“俺はどうすればいいんだ?”と思っていた時に出会えたのが粘土だったんです。

↑学生時代の作品も展示

 

――なるほど。プラモデルの話題が出ましたが、今回の展覧会にはガンプラの残骸で作った自画像も展示されています。

 

片桐 あれは15年くらい前に雑誌の『ホビージャパン』で連載していた時の「ガンプラ輪廻転生」という企画で作ったものです。いらなくなったガンプラを読者に送ってくれと呼びかけたら100kg分くらい集まって(笑)。それで何かを制作しようということになり、ガンプラを貼り付けた自画像を作ったんですよね。

↑「ガンプラ輪廻転生」の企画で誕生

 

――ほかにも数え切れないほどの作品が並んでいますが、特に制作に苦労したものを挙げていただくと……?

 

片桐 ひとつは「俺メット(ヘルメット)」ですね。連載中、締切までに完成させられなくて、原稿を落としてしまい、僕の土下座写真が雑誌に載りました(笑)。雑誌ってページ数が決まっているから、1ページだけ飛ばして構成するということができないんですよね。編集者さんに、「これ(休載)は一生に一度しか使えませんよ」と、ものすごくキツく言われて、“本当にダメなことなんだ”と反省しました(笑)。もうひとつのすごく苦労した作品は、やはり今回の『公園魔』です。

↑連載時ページを落としたという「俺メット」

 

――この『公園魔』にはモデルがあるんですか?

 

片桐 僕の地元である埼玉県宮代町にタコ公園というのがありまして。40年くらい前から、「この公園、いいなぁ」と思っていたんです。で、それを題材に僕が作るのであれば、やはり世界観は地獄だろうということで、タコ公園の地獄版にしました。発泡スチロールで土台を作ったのですが、そこに絵の具を塗ったらすぐに終わるところを、全部、粘土を貼り付けて。これが思った以上に時間がかかりましたね(笑)。ちなみにですが、裏側にある階段とベロの先っちょは実際に乗れるようになっています。

 

――そもそもなぜ地獄なんでしょう?

 

片桐 地獄の絵が好きなんです。いわゆるヨーロッパのヒエロニムス・ボッシュとか、宗教画とか。そういえば、以前、宮藤官九郎さんの映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)に出演した時も地獄のセットがすごく楽しそうでした。あの映画では当初、小道具だけを作ってくれと頼まれたんです。それで鬼Phoneと鬼Padを作ったんですけど、僕から宮藤さんに「(映画に)出してよ!」ってお願いして、それで鬼役で出させてもらいました(笑)。

↑「鬼Phone」
↑「鬼Pad」

 

――そんな経緯が(笑)。

 

片桐 それで、その時に、“地獄ってパビリオンとして捉えると相当面白いんじゃないか”と感じたんですよね。昔、ディズニーシーで開催していた「レジェンド・オブ・ミシカ」もお化けのようなキャラクターが出てきたりしていたので、もしかすると地獄とファンタジーって紙一重なんじゃないかなって。“地獄”っていう言葉の響き自体はあまりよくないですが、あの世界観にはどこかしら人が惹きつけられるエッセンスがあるように思うんです。

 

――天国とはまた違う面白さや魅力がありますよね。

 

片桐 むしろ、天国をモチーフにした絵や創作物って、まわりを見渡しても意外となかったりする。僕の中で、“天国って、実はつまんないじゃないか説”もあって(笑)。もしかしたら本当に何もない世界で、争いもないかわりに、ただ寝て起きるだけなんじゃないかという気もします。もちろん、本当の天国だったらそれでいいんでしょうけど、今の自分たちの生活に置き換えてみると、盛り上がりに欠けるというか(笑)。やっぱり、辛いことがあっても、それを乗り越えたりだとか、いろいろあるのが人生で、それをギュッと濃縮したのが地獄なんじゃないかって思うんです。

 

――では、こうした創作活動をするにあたって、片桐さんは普段、どのようなインプット作業をされているのでしょう?

 

片桐 縄文時代の遺跡を見に行ったり、美術館に行くことが多いですね。そこで、かなりいろんな刺激をもらいます。美術の面白さって、作品の上手い下手だけじゃなく、“この画家の目のフィルターを通すと、世界はこんなふうに見えるのか”と感じられるところでもあると思うんです。すると、美術館を出たあとに、自分がそれまで当たり前だと思っていたものに対して違う見え方ができたり、心が豊かになったりする。それが芸術の素晴らしさだと思いますし、僕なんかが語るのもおこがましいのですが、だからこそ“失敗を恐れず、自由に作品づくりをやっていいんだよ”ってみんなに伝えていきたいですね。

 

――同じ作品を見ても隣の人とまったく違う印象を抱く。そこに正解、不正解はないということですよね。

 

片桐 本当にそう思います。以前、僕の作品で人気投票をしてみたら、見事に結果がバラバラでしたし。僕自身が“これはイマイチだったなぁ”と思っていたものに対して、「あの作品、最高傑作ですね!」という感想をいただいたりして。それは俳優業をしていても感じることです。自分の中で演技がしっくりこなくて落ち込んでいても、共演者の方や監督に「今日はよかったよ!」って言われたりする。そうやって、受け手や観る人に良し悪しを委ねるのも芸術の面白さだと思うんです。もちろん、一生懸命作ったものに、“ここ面白いでしょ!”という思いはあるにせよ、どう感じてもらっても構わない。今回の展覧会をご覧になった方々からも、いろんな感想を聞いてみたいですね。

 

【『粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展』展示作品の一部】

 

『粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展』

2021年12月19日(日)まで東京ドームシティ Gallery AaMoにて開催中

時間:11:00~19:00 ※開催期間中無休、最終入館は閉館の30分前
料金:大人(高校生以上)1,200円/小人(小・中学生)800円
※未就学児は入場無料(単独入場不可)
展覧会公式HP https://katagirijin20th.com/

(取材・文/倉田モトキ)