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2022/3/4 6:30

三宅弘城&ともさかりえインタビュー「二人芝居で一番大切なのはお互いの信頼感。その意味では、このコンビは最初からバッチリです」

劇作家・松尾スズキが2019年に新たに立ち上げた演劇プロジェクト「東京成人演劇部」の第1弾として発表された『命、ギガ長ス』が待望の再演。今回はタイトルを『命、ギガ長スW(ダブル)』とし、名が示すとおり【ギガ組】(宮藤官九郎&安藤玉恵)と【長ス組】(三宅弘城&ともさかりえ)のダブルキャストで上演される。そこでGet Navi webではそれぞれのチームの特別対談を2日にわたり公開。2日目は【長ス組】が登場。お互い、「なぜ自分たちが……!?」とキャスティング理由を不思議がる【長ス組】の2人が感じるこの作品の面白さとは?

 

【三宅弘城さん&ともさかりえさん撮りおろし写真】

 

三宅弘城●みやけ・ひろき…1968年1月14日生まれ、神奈川出身。1988年より「劇団健康」(現:ナイロン100℃)に参加し、主要メンバーとして活躍。近年の出演作に舞台「イモンドの勝負」、「サ道2021」(テレビ東京系)、映画「孤狼の血 LEVEL2」など。今年7月、自身が主演を務める舞台「鎌塚氏、羽を伸ばす」が東京・本多劇場にて上演予定。Twitter

 

演出家さんはみんな、お手本の芝居が上手だからたまに頭にきます(笑)

 

──最初に、出演が決まった時のお気持ちを教えていただけますか。

 

ともさか 私はただただびっくりしました。まさか松尾(スズキ)さんからお声かけいただけるとは思っていなくて。ずっと、“松尾さんの作品とは一生縁がないんだろうな”、“これからも客席から見るだけの人生で終わるんだろうな”と勝手に思い込んでいたんです。

 

三宅 でも、機会があれば出てみたいという思いはあったの?

 

ともさか いえ、恐ろしくて。舞台を拝見するたびに、“これはもう見ているだけで十分だ”と思っていました(笑)。ですから、出演のお話をいただいた時は、驚いたのと同時に、“あの大好きな向こう側の世界に行けるんだ!”という喜びと、最後の最後まで、“でも、どうして私が…!?”といった思いがグルグルグルグル頭の中で駆け巡ってました。

 

三宅 今はもうそんなことないの?

 

ともさか いまだに稽古場にいる自分が不思議だなって思います(笑)。三宅さんは慣れていらっしゃるからそんなことないですよね?

 

三宅 僕は2013年にやった『悪霊 -下女の恋-』が、まさに今回と同じような流れだったんです。松尾さんが初演で演じたタケヒコという役を2001年の再演で宮藤君が演じて、それを2013年に僕が演じて。今回は宮藤君とWキャストという形ですけど、“また、この流れだ!”と思って(笑)。役者としてのタイプが全然違うのに、それこそともさかさんと同じように“なんで、俺なんだろう?”って思いましたよ。

 

──キャストの少ない舞台という意味でも、『悪霊』と今作は近いところがありますね。

 

三宅 そうですね。『悪霊』は4人だけの芝居でしたからね。その時も楽しかったんですけど、今回も役者2人だけでがっつりと松尾さんの演出を受けられると思うと嬉しくて、二つ返事でやらせてくださいって言いました。しかも、お相手が勝手知ったるともさかさんですから。『鎌塚氏』シリーズ(作・演出/倉持裕)で何度も共演してきた盟友ですので、すごく安心感があります。

 

ともさか 私も二人芝居と聞いて、最初は不安だったんです。でも、三宅さんのお名前を見てすごくホッとしました。“これは私の知らないところで導かれているのかもしれないな”と感じましたし、本当に心強いです!

 

ともさかりえ●1979年10月12日生まれ、東京出身。2010年、映画「ちょんまげぷりん」で報知映画賞最優秀助演女優賞を受賞。最近の出演作にミュージカル「『衛生』〜リズム&バキューム〜」、ドラマ「雲霧仁左衛門5」(NHK BSプレミアム)、「第三の時効」(テレビ東京系)、映画「酔うと化け物になる父がつらい」など。Instagram公式ブログ

 

──では、台本を読まれてみての印象はいかがでしたか?

 

ともさか 三宅さんは初演を劇場でご覧になっているんですよね?

 

三宅 観ました。ザ・スズナリという小さな劇場でしたし、DIYというか、手作り感のある舞台を松尾さんが作りたかったんだろうなというのを感じました。それに役者が2人だけですし、90分というコンパクトさもあって。今回は2チームに分かれていますけど、今後もいろんな組み合わせでたくさんの役者さんたちが挑んでいく舞台になるのかなって感じましたね。

 

ともさか 確かにいろんな組合わせ見てみたいですね。私は松尾さんの書いたセリフを初めて口に出して読んでみたんですが、「てにをは」だとか、いろんな語尾の表現の中に、キャラクターの個性が綿密に描かれているんだなという印象を受けました。ですから、自分が言いやすいようにセリフを変えたりせず、台本に書かれている言葉の面白さを、お客さんにダイレクトに伝えられたらなと思っていますね。

 

──稽古は今まさに中盤といったところですが(※取材時)、手応えはいかがでしょう。

 

三宅 ……難しいよね?

 

ともさか ですね……(苦笑)。

 

三宅 松尾さんのオーダーはどれも面白いし、“あぁ、なるほど!”って思うことばかりなんです。でも、いざ自分の体を通して演じてみると、“あれ? こうじゃないんだよな…”って頭の中でイメージしているニュアンスと違ったりして。これから稽古を重ねていけばしっかり形になっていくのかもしれないですけど、まだ今はあがいている感じです。

 

ともさか 私も同じです。松尾さんって物腰が柔らかくて、すごく丁寧に演出してくださるんです。でも、ダイレクトに笑いにつながる動きやセリフ回しを松尾さんが実際に演じて見せてくださる時って、本当に軽やかに表現されていて。それを次に自分で体現しようとすると、“あれ? ……あれ? できない!”ってなっちゃう(笑)。

 

三宅 演出家って、そういう人が多いよね。役者より面白い動きをされる方が。倉持さんもそうだし。「劇団☆新感線」でも、よく役者たちで、「もう、いのうえひでのりさんが8人いればいいのに」っていう話をしてますから。

 

ともさか ケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんもですよ。みんなお芝居が上手いから、たまに頭にきます(笑)。“そんなのできないよ!”って(笑)。

 

──(笑)。では二人芝居の面白さ、難しさはどんなところに感じていらっしゃいますか。

 

三宅 面白さでもあり、難しさでもあると思うんですが、二人芝居って、もはやタイマンなんですよね(笑)。逃げ場がないですし。それに、疲れるけど、そのぶん刺激もある。あと、これが一番大事な要素だと思うんですが、相手を信用してないとできないです。

 

ともさか それは、今回稽古をしてみてすごく思いました。自分のすべてを解放できる相手じゃないと、二人芝居はできないなって。ですから、改めて相手役が三宅さんで良かったなと感じています。

 

三宅 うん。最初から信頼関係が築けているのはすごく大きいです。

 

ともさか その一方で、稽古場に来るたびにいつも思うんですけど、“本当に2人しかいないんだな”っていう感覚って、なんとも言えない恐怖感と面白さがありますよね。

 

三宅 あと、徒労感もね(笑)。

 

ともさか そうそう(笑)。椅子が2つしか置いてなくて、その中ですべてをたった2人で、しかも人力で作っていく感じがして。特に私が客席で観ていた近年の松尾さんの作品って、劇場も大きく、ゴージャスな舞台が多かったので、今回のストイックな感じが新鮮であり、恐ろしくもあり、面白くもあり……。日々、いろんな感情が自分の中で交錯しています(笑)。

 

 

最近、ともさかさんと共演すると、すごく母性を感じるんです

 

──先ほどWキャストの話題がありましたが、【長ス組】はどんなチームになると感じていますか。

 

三宅 宮藤君と安藤さんの【ギガ組】とは役者のタイプも違いますし、明らかに別々の個性を持った作品が生まれると思います。

 

ともさか 【ギガ組】はどんな雰囲気で仕上がっているんでしょうね? 両方の稽古を見ているスタッフさんたちはみんな、「全然違う」とおっしゃってますけど。

 

──そういえば、宮藤さんはご自身の演技がある程度固まるまで、あえて三宅さんと作品の話をしないように避けているとおっしゃっていました。

 

三宅 そうなんですか?(笑) 全然気づかなかったなぁ。僕は別にそんなにこだわってないんですけどね(笑)。

 

ともさか でもちょっと、宮藤さんの気持ちも分からなくはないです。

 

三宅 いや、僕も気になるといえば気になりますよ。けど、もし仮に宮藤さんの稽古を見て、何か面白いところを見つけたら、“これ、いただいちゃおうかな”って思っちゃいますね(笑)。“なるほど、こういうセリフ回しだと言いやすいんだな”っていうところとか。ただ、それでも最後には絶対に同じ芝居にならないと思うんです。

 

ともさか そうなんですよね。けど、私は同じにならないと分かっていても、安藤さんの稽古は怖くて見られないです。

 

三宅 ほう。それはどういうところが怖いの?

 

ともさか やっぱり一度でも見ちゃうと、それに引っ張られちゃう気がするんです。正解を見せられたような感じといいますか。純粋に宮藤さんと安藤さんのお芝居を見てみたいなという気持ちもあるんですが……やっぱり、今はまだ怖いですね。

 

三宅 そもそも、安藤さんは初演を一度経験してますしね。それに対して僕はいつも、「ハンデだ! ハンデだ!」って言ってるんですけど(笑)。

 

ともさか そうなんです。それも怖い理由のひとつなんです。

 

──また、ともさかさんが今作で演じるのは認知症気味の母・エイコと、ドキュメンタリー作家志望の女子大生・アサダ役。対して、三宅さんはニートの息子・オサムと、アサダの師であるキシ、その他にもう1人の3役を演じられます。それぞれ相手役にどのような印象をお持ちですか。

 

ともさか 三宅さんとこれまで共演した『鎌塚氏』はシリーズ作品ということもあって、役柄の関係性が出来上がっている状態で稽古に入れたから。でも、今回はゼロの状態から関係性を構築していっているので、すべてが新鮮で楽しいです。それに、私自身が実際に私生活でも息子を育てている母親なので、すごくエイコの気持ちが分かるんです。年齢や環境は違うのに不思議と感情移入もしてしまって。正直、オサムのことがかわいくてしょうがないです!(笑)

 

三宅 オサムって、ダメな息子だけどね(笑)。

 

ともさか そのダメなところも含めて、“そうだよなぁ。こんな息子でも許しちゃうよなぁ”、“最後には受け入れちゃうよなぁ”って思いながら演じてます(笑)。

 

三宅 ははははは! エイコの役づくりには驚かされましたよ。汚れた歯のマウスピースをはめて、ちゃんとおばあさんになって。“すごいなぁ”っていつも感心して見ています(笑)。それに、先ほどオサムがかわいく見えるとおっしゃっていましたけど、僕もまさに同じで。最後に共演した『鎌塚氏、舞い散る』(2019年)でも思ったことなんですが、ともさかさんにすごく母性を感じるんですよね。

 

ともさか え〜、どうして!?(笑)

 

三宅 なんか、大きな愛で包んでくれてるような感じが年々増えていって(笑)。で、今回は文字通り、母と息子という関係でしょ? いつも稽古で、“これは甘えちゃうよなぁ”って思ってて(笑)。本当に素敵なお母さんです。僕にとって舞台でのともさかさんは『鎌塚氏』で演じた執事のケシキ役しか知らないので、初めて見るともさかさんの一面を間近で楽しめることができて、毎日が面白いです。

 

──ともさかさんはエイコに共感するということでしたが、三宅さんはいかがでしょう? これも宮藤さんがお話しされていたことですが、劇中で出てくるオサムの「人間には2種類いる。気がついたら祭りに参加している人間と、気がついたらどうやって祭りに参加していいか分からなくなっている人間が」というセリフで言えば、三宅さんは前者だとおっしゃっていました。

 

三宅 えっ!? それは大きな誤解ですよ。だって僕、神輿とか担いだことないですもん(笑)。

 

ともさか 本当?

 

三宅 ないない! それこそ、どうやって担ぐんだろうって思うし。あります?

 

ともさか 私はあります。でも、言われてみれば、どうして担ぐことになったのかは覚えてないです。

 

三宅 きっと町内会とかそういう集まりみたいなところで決まるんでしょ? そういうの意外と苦手だし。確かに世間的な僕のイメージとしてお祭り男的な印象があるのかもしれないですけど、同時に、すごく文化系な僕もいたりしますから(笑)。

 

ともさか ははははは!

 

三宅 だから、どちらかといえば僕は、お祭りに参加できないほうの男なんです。

 

──ちょっと意外でした。また、この作品では8050問題を題材にしていますが、お2人は“こんな老後を送りたい”といった願望はありますか?

 

三宅 老後かぁ。考えたことないなぁ。

 

ともさか 私は最近すごく考えます。母親の年齢もそうですが、息子の将来を考えると、おのずと自分の老後のことにたどり着いてしまうんですよね。それもあって、この戯曲を読んだ時は、あまり他人事とは思えなかったんです。会話のやりとりやセリフは面白いんですけど、どこか心から笑えない自分もいて。エイコの気持ちも“分かるなぁ”って共感するところが多いですし。

 

三宅 それはオサムを放っておけない母親の気持ちとかですか?

 

ともさか そうです、そうです。“最後は安心して死にたいなぁ”って、最近すごく思うんですけど、でも子どものことを考えると、いろんな不安や心配ごとがあふれてきて。

 

三宅 そうなんですね。僕は子どもがいないので、どんな老後になるのかとか、本当に見当がつかないです。ただ、必要とされているうちは仕事を続けていきたいなと思ってますね。あと、これは夢の話なんですが、いつかサウナを作って、サウナばかり入っている生活がしたいです(笑)。

 

ともさか それは経営とかではなく、自分だけのサウナですか?

 

三宅 そうです。完全にプライベートのサウナ。経営になるとまたいろんな大変さがありますから。自宅と郊外にそれぞれ作って、好きな時にサウナに入る。それが老後の夢ですね。

 

──最後に、Get Navi webということでご登場いただいている皆さんに、最近購入した家電やお気に入りのアイテムをお聞きしているのですが、お2人はどんなものがありますか?

 

三宅 家電ではなく人力のものなんですが、鰹節削り器。母親がずっと使っていたのを譲り受けたんです。もう、40年ぐらい使っていたもので、先日、刃を研いて調整してもらったら削り具合が抜群になりまして。それで取るだしが全然違う!

 

ともさか いいなぁ! そのまま食べても美味しいですよね。

 

三宅 うん。ほんと、最高です!

 

──なぜ、その鰹節削り器を譲り受けることになったんですか?

 

三宅 小学生の頃から鰹節を削るのが僕の仕事だったんですよ。よく母に「だしを取るから削って」と頼まれて。

 

ともさか 素敵! それはいいお手伝いですね。

 

三宅 それで、母が亡くなったので実家からもらってきて。だいぶ年季が入ってますけど、まだまだ使えますね。

 

ともさか 私は食洗機ですね。家にずっとあったんですけど、まったく使ってなくて、ただの食器棚みたいな感じになっていたんです。でも最近になってそれらを片付けて使ってみたら、「なんでこんなに便利なものを放置していたんだろう?」って思うぐらい感動しちゃって(笑)。

 

三宅 ものすっごくきれいになるよね。

 

ともさか なります! しかも、洗ってくれるだけじゃなく、乾燥までしてくれるんです! 私、ご飯を作るのは大好きなんですけど、食器を洗うのが苦手で。それで、これまでは洗い物を減らしたくて、なるべくワンプレートにしたりしていたんですけど、食洗機を使い出してからというもの、小皿をたくさん使うようになりました(笑)。心のゆとりも全然違いますし。きっと、こうした知らない便利なものが人生にはたくさんあるんだろうなって思いましたね。

 

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東京成人演劇部vol.2「命、ギガ長スW(ダブル)」

(東京公演)
会場:東京・ザ・スズナリ
日時:2022年3月4日(金)~4月3日(日)

※そのほか、大阪、北九州、松本で上演

(STAFF&CAST)
作・演出:松尾スズキ
出演:【ギガ組】宮藤官九郎、安藤玉恵 【長ス組】三宅弘城、ともさかりえ

(STORY)
80代で認知症気味のエイコと、ニートでアルコール依存症の50代の息子・オサム。貧困生活を送っている彼らを1台のカメラが追っていた。ドキュメンタリー作家志望の女子大生・アサダが、日々、撮影で彼らを密着していたのだ。しかし、アサダが撮る映像を見た所属ゼミの教授・キシは、あることをアサダに指摘する。実は、エイコとオサムにはカメラの向こう側に隠された秘密があったのだ……。

チケット:6,500円(全席指定・税込)、ヤング券3,800円(22歳以下/チケットぴあのみ取扱)

公式HP https://otonakeikaku.net/stage/2007/

 

【ライブ配信】
2022年3月16日(水)13:00の回【長ス組】
2022年3月16日(水)18:00の回【ギガ組】

※特典配信では、ライブ配信終了後には、宮藤官九郎×安藤玉恵×三宅弘城×ともさかりえ キャスト4名による座談会を配信。「稽古どうだった?」「お互いの本番観た?」など、稽古場で交わることがなかった2組のクロストークを送る。3月16日(水)13:00開演の【長ス組】本編終了後に前編、3月16日(水)18:00開演の【ギガ組】本編終了後に後編を配信。

配信チケット:3,500円(税込)

チケットは https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2195744

 

撮影/干川修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/伴まどか(ともさか)スタイリスト/斉藤くみ(ともさか)衣装協力/ノーブル、ノーク バイ ザ ライン、ブランイリス