歌舞伎、松竹新喜劇といった舞台だけでなく、100年以上の歴史を持つ数々の映画コンテンツを保有する松竹グループ。交通、不動産、ホテル事業からシアターコクーンなどの劇場も運営する東急グループ。松竹ブロードキャスティング株式会社と東急株式会社の2社が出資して作ったのがBS松竹東急であり、2022年3月26日にいよいよ開局する。BS松竹東急 執行役員 編成局 局長の中村敦史氏が開局への意気込みと新番組の編成について語ってくれた。
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(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)
編集部もイチオシの土曜ドラマ『家電侍』
ーーBS松竹東急が3月26日(土)に開局します。少しずつ発表されていますが、視聴者に見てほしい番組はありますか。
中村 それはたくさんありますが、まずは、編成コンセプトを知ってください。コンセプトは3つあります。
1.伝統から革新まですべてを見せる映画
2.誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化
3.多彩な作り手とコラボレーションする挑戦的なオリジナルドラマ
1.に関しては100年にわたり作ってきた映画コンテンツを活用しながら発信します。2.は松竹の歌舞伎、東急の劇場文化を伝えていきます。3.では、今まで舞台や映画で活躍されている方ともうまく組んでオリジナルドラマを作っていきたいですね。
特に重きをおいているのは3番目のオリジナルドラマです。BS松竹東急でしか見られない、この局だけの番組をいかに開発していくか。それにより、BS松竹東急が視聴者の方に認知され、受け入れられる根本の部分となります。もちろん、ドラマだけでなく、バラエティ、スポーツ、音楽、ドキュメンタリーなども考えています。
ーーそれでは、一番力を入れたドラマを教えてください。
中村 4月9日(土)の夜9時放送予定の開局記念ドラマスペシャルで、井上真央さん主演、尾野真千子さん、村上虹郎さんが姉弟役を演じる『夜のあぐら ~姉と弟と私~』です。BS松竹東急を代表するコンテンツとなります。3人のお父さん役に岸部一徳さんも出演する、笑って泣けるヒューマンドラマに仕上がっています。
ーー遺産相続を取り扱って、家族のつながりを見つめ直すドラマですね。期待しています。ほかにも新作の連続ドラマがありますね。
中村 4月4日(月)夜10時30分からの月曜ドラマ『いぶり暮らし』は大島千春さんの同名漫画が原作で、志田未来さん、泉澤祐希さんが同棲中のカップルを演じるハートフルグルメドラマとなっています。
一方、4月2日(土)夜11時からは土曜ドラマ『家電侍』が始まります。主演に滝藤賢一さんを迎えたオリジナル作品です。滝藤さん演じる江戸時代の長屋に暮らす貧乏浪人の元に、ひょんなことから現代の最新家電が届くようになり、それが原因で、様々な事件が巻き起こる時代劇コメディです。
江戸時代には電気がありません。電気がなければ家電は使えないのにどうするんだ!? ここにも面白い仕掛けがありますので、楽しみにしていただきたいと思います。非常に面白い作品です。
映画枠では、新旧、邦画洋画問わずにいい映画を放送
ーー『家電侍』はGetNavi webとしても注目作品ですね。夜の時間帯のドラマ以外にはなにがありますか?
中村 コンセプトにあったように、映画を思う存分楽しんでいただけるように編成しました。『よる8銀座シネマ』は月曜から金曜の夜7時54分からスタートします。“いちばん身近な映画館”をコンセプトに、邦画洋画を問わず、古今東西の映画を幅広く放送します。
月曜日に見たら、火曜日も見たくなる。さらに水、木、金曜日も見ていただけるようにテーマを作って放送をします。これには、映画好きとして知られる落語家の柳亭小痴楽さんの映画解説がつきます。
早い時間帯は、視聴者を50代以上のコアターゲットとし、夜10時30分を超えると、バラエティも始まり、少しずつ若いターゲットを狙っていきます。夜11時30分にはアニメもあるので、さらに視聴者の裾野を広げようと考えています。
ーー『よる8銀座シネマ』で現在発表できる作品はありますか?
中村 「マダム・イン・ニューヨーク」」などを放送します。
ーー松竹配給のものだけではないのがスゴいですね。
中村 他社さんの配給映画も放送しますし、新しいもの、古いもの、邦画、洋画も問いません。視聴者の方にも一度番組表を見てもらえれば、どこかに興味をもっていただける作品があると思います。
土曜は劇場、日曜はプレミアム感のある映画も用意
ーー月曜から金曜はわかりましたが、土日はどうですか? テレビでは重要な時間帯ですよね。
中村 土曜日の夜6時30分〜9時は『土曜ゴールデンシアター』です。コンセプトの2と連動していて、劇場文化を伝えるために、いろんな舞台や演劇のラインアップを考えています。舞台は週末にゆっくり落ち着いて見たい方が多いと思っています。また、いままで劇場文化に馴染みがなかった方にも手軽にテレビで楽しんでもらいたいです。「演劇の面白さ」が伝われば、松竹・東急両グループが運営している劇場にも実際に足を運んでもらえるようになると思っています。
日曜日の『日曜ゴールデンシアター』では週末の特別なひとときを届ける作品を予定しています。例えば、アカデミー賞受賞作品、大ヒット作品、そのような編成をしていきます。
ーーなるほど。名作映画の後には、オリジナルコンテンツも入ってきますね。
中村 さきほど話した月曜〜金曜の映画の後には、ドラマ以外にも『こんなところでキャンパーズ!』などのバラエティ番組があります。土曜日夜9時は『ゴルフW』という番組です。女子プロのチームVSアマチュアの男性チームで対決をし、レッスンコーナーなどもあります。日曜日の夜9時は『号外! 日本史スクープ砲』。週末の夜にじっくり楽しんでいただける上質なバラエティを目指しました。ちょっとタメになり、知識を得ることができる日本史バラエティです。
土曜夕方、6時の『エンタメ情報ステーション 土曜のトオルとカヲル』は、松竹グループ、東急グループだけに限らないさまざまな演劇や舞台、街の情報を取り上げる情報番組です。日曜日の夕方6時『がむしゃら』は、アマチュアスポーツに的を絞ったドキュメンタリー。中学生、高校生、大学生などが、青春を懸けてがんばる姿を追いかけていきます。
ーー映画、演劇の内容も気になりますが、オリジナル番組が濃いですね。
中村 そうなんですよ。エッジのたったバラエティ番組もあります。日曜夜11時の『シェイクスピア・ラン』。人間が全力で走る姿はなぜか面白いですよね。そこに目をつけて生まれたのがこの番組です。走っている人が、シェイクスピアの劇中のセリフをずっと話すというだけの番組なんです。実際に、社員でパイロット版を制作してみましたが、シュール過ぎてめちゃくちゃ面白いです。この番組でBS松竹東急が「面白いチャレンジをやっているぞ」と思ってもらえればと思います。初回の出演者は出口亜梨沙さんと、小西遼生さんなので、楽しみにしていてください。
新番組は硬め、柔らかめ、スポーツ、ドキュメンタリー、バラエティ、ドラマと取り揃えているので期待してください。
ーー『土曜ゴールデンシアター』『日曜ゴールデンシアター』の開局の目玉企画は考えていますか。
中村 開局からすぐは、歌舞伎界に新風を吹き込む『コクーン歌舞伎』を3週連続でお届けします。日曜日は、アカデミー賞受賞作でダスティン・ホフマン主演の『クレイマークレイマー』。日本アカデミー賞受賞作、井上真央さん主演の『八日目の蟬』を考えています。
番組表を開き、左に行くとBS松竹東急があらわれる
ーー土日の編成では、まさにプレミアムを感じます。
中村 いよいよ開局するBS松竹東急は260chです。リモコンのEPG(電子番組表)でチャンネルを合わせていただくのが一番わかりやすいです。EPGボタンを押すとNHKのBSが出ます。右に行くと既存の局が並んでいますが、左に行くと、新規開局の3局が並んでいます。ぜひ、EPGを押したら左に行ってください。
ーー「番組表で左」が合言葉ですね。ちなみに午前中〜昼はどのような番組構成になりますか?
中村 午前、昼帯は時代劇、韓国ドラマ、テレビショッピングなどを放送します。BS松竹東急は開局から24時間放送です。深夜帯にも土曜に『週末ミライシアター』という新番組があります。これは、これから世に出る若き演劇人たちの舞台を応援し、一緒に育っていきたいという番組です。BS松竹東急も生まれたてなので、この枠でお互い成長していきたいと考えていますね。
ーー小劇場での演劇や単館上映の映画ということですね。そのあたりが電波に乗ることはなかなかないので楽しみです。
中村 そうですね。舞台を見せるというテレビの枠もあまりないのでご期待ください。
ーー24時間放送は、大変だと思いますが、会社はどんな規模でやりくりするのでしょう?
中村 BS松竹東急は社員が50人くらいなので、開局にむけて社員たちはしゃかりきで頑張ってます(笑)。みんな新しいことをやりたいとBS松竹東急に集まってきて、面白い発想を持っています。キー局系のBS局に比べると規模が小さいのですが面白い番組を作るために「いかに知恵を搾るか」という勝負をしています。それをできるメンバーが集まってものづくりをしているので、開局が非常に楽しみです。
われわれは最後発のスタートなので、特色を出し、視聴者の方に選んでもらわなければなりません。わかりやすいコンセプト3つを打ち出し、BS松竹東急のカラーを出していきたいと思います。
ーー番組編成はわかりましたが、気になるのは、BS松竹東急という会社です。松竹グループの松竹ブロードキャスティングと東急が作った会社ですよね。なぜ、この2社だったのでしょう?
中村 松竹グループはエンタメ企業なので、BS放送をやることに意義があります。東急グループのイメージは電車ですよね。実は、東急の業態は幅広く、まちづくり、スーパー、ホテル、不動産などで、渋谷の再開発にも力を入れています。Bunkamura、シアターコクーンなどもあり、演劇、劇場文化にも尽力しています。両者に共通するのが「日々の暮らしとともに、人々に感動をもたらすこと」です。そこで手を組んで新たな会社BS松竹東急を作り、BS事業に乗り出しました。BS放送は日本全国に一気にコンテンツを届けられることがメリットですね。ぜひ、BS松竹東急のドキドキ、ワクワクを感じてほしいですね。
全国に届けられるのがBS放送のメリット、伸びしろはまだまだある
ーー現状BS放送の広告費は横ばい状態だと思います。このタイミングで新規参入する理由を教えてください。
中村 BSの電波は、日本全国に届けられます。われわれは1社で全国を相手にできるのが、一番のメリットです。いいコンテンツを作れば、BS放送には伸びしろがまだまだあると思います。
現在どの放送局も、放送だけでなくTVerやオンデマンド配信を利用していますが、われわれもその方向性を考えています。いつでも、どこでも、誰とでも楽しめるコンテンツになりえますね。これからもオリジナルコンテンツを作っていきます。
ドラマには特に注力しています。ドラマは特別なコンテンツなんです。みなさんの中にも自分のお気に入りのドラマがあると思います。それは思い出のひとつであり、人生とリンクするんです。いいドラマを送り出すことで、みなさんの人生とリンクし、局のいいイメージも持ってもらえたらいいですね。そうすれば、視聴者の方に一番近い存在で、ともにある放送局になれると思うんです。もちろんオリジナルコンテンツは全部重要ですが、そのなかでもドラマを重要視したのは、以上のような理由です。
ーーネット同時配信はどうでしょうか?
中村 今すぐには難しいですね。設備の準備も必要なので、今後考えたいですね。まずは、放送の土台を固めてからです。
ーー開局してから、どのように利益を出していくんですか?
中村 民放は広告放送なので、スポンサー様にCMを出稿していただいて、それが利益になります。「この番組にCMを出したい」とスポンサー様に思ってもらうには、たくさんの視聴者に番組を見ていただくしかありません。そのためには面白いコンテンツをいかにそろえるかに尽きます。つきつめると放送局は面白いものを作ることが使命です。だから幅広いジャンルでオリジナルコンテンツが求められます。
ーー広告以外の収入はどうでしょう。例えば、コンテンツのDVD化などでしょうか?
中村 それよりはもっと手近な配信での収入を目指しています。
ーー松竹ブロードキャスティング株式会社が運営しているCSの『ホームドラマチャンネル』や『衛星劇場』とは、どのようにすみ分けをしていきますか?
中村 CSの『ホームドラマチャンネル』や『衛星劇場』は視聴者から直接お金をいただいて運営する有料チャンネルなので、ビジネスモデルが違います。なので、BS松竹東急とは、差別化する部分とタッグを組む部分の両方があります。タッグは例えば、韓国ドラマを共同で買い付けに行って、最初にCSで放送して、その後、BSで放送ということもできますね。同じコンテンツを放送するにしても、違う戦略で戦っていくと思います。
ーー同じタイミングで開局する『BSよしもと』『BSJapanext』はライバルになりますか?
中村 われわれを含めた新規3局はライバルでもあり、一緒になってBS市場を盛り上げていく仲間でもあると考えています。チャンネルのカラーは違いますし、それぞれのいい部分を最大限発揮して、BS市場の活性化につなげたいですね。
ーー同じく、ネット系のAmazonプライムビデオ、NETFLIXはライバルになっていきますかね。
中村 さきほど話したように、インターネット企業はコンテンツの配信先でもあるので、パートナーでもあるんですよ。例えば、BS松竹東急のオリジナルドラマを配信してもらい、ユーザーに見ていただければ、放送に帰ってくるかもしれないんです。経路は電波でも、パートナーの力を借りた配信でも、多くのユーザーに届くことが大事です。だから「配信はライバル」という議論ではないと思います。
ーー地上波は視聴率至上主義な面があると思います。BS松竹東急ではどうですか?
中村 開局してすぐは、視聴率というより、局を知ってもらうことが大事なので、そこから始めたいですね。「こんな面白いことをやっている放送局があるんだ」と気づいてもらいたいです。いずれは他のBS局に肩を並べるぐらいの視聴率を取っていくことが重要です。いいコンテンツでアピールしていきます。
ーーなるほど。では、現在は、開局を知ってもらうプロモーションに力を入れる段階ですね。
中村 プロモーションはプレスリリースももちろん出していますが、BS松竹東急のTwitterでも開局に向けたショートムービーを展開しています。「開局までもう少し」をテーマにした 「#まだ開かない」シリーズです。
ーーまずは知ってもらうことが、短期的な目標ですね。その先はどうでしょう。
中村 その先は、局の規模が大きくなってくると、オリジナルコンテンツを作れる時間帯が増えていく可能性があります。購入番組だけでなく、自分たちで作った番組を増やして、より多くの人に見てもらい、スポンサー様にも出稿をいただくという流れを大きくして、作っていきたいですね。
早速BS松竹東急のツイッターを見てみると、プロモーションにもシャレっ気があって、開局を楽しみにさせられた。オリジナルドラマに、古今東西の映画名作、劇場文化など、松竹グループらしさと東急グループらしさが融合したBS松竹東急。3月26日になったら、みなさん、番組表を左に動かしてみてはどうだろうか。新しいテレビ局との出会いは、新しいコンテンツとの出会いであり、人生の思い出になるのかもしれない。