ミュージシャンになる夢を追う主人公・川嶋が、メジャーシーンに進んでいくなかでの栄光と挫折を描いた映画『さよなら、バンドアパート』が7月15日(金)より公開。劇中、川嶋とバンドを組むベーシスト・シンイチロウを演じたのが小野武正さん。4人組ロックバンドKEYTALKのリーダーで、ギターやMCを担当している小野さんに、本作の魅力や今改めて感じている音楽の楽しさについて伺った。
小野武正●おの・たけまさ…1988年9⽉ 19⽇、埼⽟県⽣まれ。ロックバンド「KEYTALK」のリーダー。同バンドではギターとコーラス、MCも担当。「Alaska Jam」のギタリスト、DJとしても活動するほか、アーティストへの楽曲提供も手掛ける。Twitter/Instagram
KEYTALK…東京・下北沢発4人組ロックバンド。2009年7月に小野武正、首藤義勝、寺中友将、八木優樹で結成。 2015年には初の日本武道館単独公演、2017年には横浜アリーナ、さらに2018年には幕張メッセでのワンマンライブを敢行。2022年6月から、バンド史上最長となる50本に及ぶ全国ツアーを開催。2023年3月1日に、2回目となる日本武道館単独公演を予定している。公式サイト/Twitter
【小野武正さん撮り下ろし写真】
十年以上バンドをやってる人間じゃなきゃ書けないバンドマン特有の空気感
──本作の原作者である平井拓郎さんと小野さんの出会いを教えてください。
小野 確か、2008年か09年ぐらいだと思うんですが、平井さんがダラーズというバンド、僕がKEYTALKの前身となるrealというバンドをやっていて、新宿の「ナインスパイス」というライブハウスで、対バンしたのが最初でした。ポストロックとポップなメロディを混ぜ合わせるという、お互いやろうとしていた音楽が近いものがあったと思うんですが、平井さんは僕よりもギターのテクが巧いし、一歳上の先輩という印象が強かったです。
──そんな平井さんが書かれた小説「さよなら、バンドアパート」を読んだときの感想は?
小野 平井さんがTwitterで、ユニークな投稿やお悩み相談をやっているのは知っていたんですが、2020年ごろ、共通するバンド仲間たちと会ったときに「小説を書いたから、コメントくださいよ」という話を聞いたんです。それで実際に読んでみたら、十年以上バンドをやってる人間じゃなきゃ書けないバンドマン特有の空気感が描かれていましたね。なので、僕はドンピシャで世界観に浸ることができました。
──具体的にいうと、どこがドンピシャだったのですか?
小野 タイトルにもなっているthe band apartは、10代でバンドを始めた僕ら世代にとってかっこいいバンドの象徴なんです。僕自身もthe band apartの影響を受けて、音楽を始めたわけですし。バンドマンでなくても、音楽好きにはたまらない話じゃないかと。また、いい部分だけでなく、心の闇の部分を包み隠さず、さらけ出しているのもいいなぁと思いました。
シンイチロウはKEYTALKでいえば、僕自身と八木優樹を合わせたような立ち位置
──映画『さよなら、バンドアパート』では、主人公のバンド仲間であるシンイチロウ役(ベーシスト)を演じられるほか、KEYTALKの小野さん本人役(ギタリスト)としても演じられています。
小野 実は平井さんから小説のコメント依頼を受けたときに、ノリで「今後映画作ることになったら出してくださいよ!」と言っていたんですよ(笑)。なので、とてもうれしかったですが、シンイチロウというこんな重要な役を頂いて、申し訳ない気持ちもありました。僕自身としても出演することに関しては、最初は戸惑いもあったんですが、宮野ケイジ監督と出方や見え方を話し合ううちに、「ライブシーンだけなら大丈夫かも?」と思うようになりました。ファンの方は気づいてしまうでしょうけど(笑)。
──シンイチロウというキャラクターを演じて、いかがでしたか?
小野 過去に一度だけ、スペースシャワーTVのショートムービーでお芝居したことはあったんですが、それ以来の撮影現場は刺激的で、楽しかったです。メンバー3人の中では、一番真面目で現実主義な考え方の持ち主というように、シンイチロウのバンドの中の立ち位置みたいなものを宮野監督と平井さんと逐一確認しながら、伸び伸び演じさせてもらいました。あえてKEYTALKでいえば、僕自身とドラムの八木優樹を合わせたような立ち位置でしょうか(笑)。
あの特別な空間はファンの方も喜んでくれたかなと思います
──一方、KEYTALKとしての渋谷CLUB QUATTROで行われたライブシーンはいかがでしたか?
小野 ファンクラブの方に集まってもらって、撮影したんですが、映画の時代設定に合わせて、2012年、13年ぐらいのKEYTALKのライブを再現しているんです。その時代にメンバーが好きだったラフな格好で、当時の曲をやっています。映画の中では「太陽系リフレイン」のシーンが使われていますが、当日は「MABOROSHI SUMMER」も演奏しているんです。撮影はコロナ禍で、KEYTALKもライブができるかできないかのタイミングだったので、あの特別な空間はファンの方も喜んでくれたかなと思いますね。
──完成した作品を観た感想は?
小野 今の映画ではありますが、どの時代にも通じる普遍的なテーマがありつつ、あの時代に浸れるノスタルジックさも感じました。原作よりもポップな部分が強調されているので、音楽やバンド好きだけでなく、サブカルチャー映画としてもハマるんじゃないかな? と思いますね。ちなみに、KEYTALKのほかのメンバーは、まだ観てません(笑)。
音楽やりたてというか、楽器始める前の中学生のころの気持ちに戻ってます
──小野さんがライブやツアーに必ず持っていくモノを教えてください。
小野 完全に仕事道具ですが、いつでもギターを録音できる環境を作るために、パソコンとオーディオインターフェイスは持っていきます。この間行った北海道ツアーの合間も、それでほかの仕事のアレンジと友達のバースデイソングを作っていました。あとはグローブとボール。リハと本番の合間とかに、ドラムの八木くんとキャッチボールしてます。旭川ではなぜかライブ後の暗い中、やっていましたね(笑)。
──ちなみに、いまハマっているモノは?
小野 「チルアウト」という飲み物とカラオケですね。カラオケって、これまでは昔好きだった歌える曲を歌う程度だったんですが、あえて最近の曲を練習して行っています(笑)。仕事柄、最近の曲って「こういう曲が流行ってるんだ」程度の認識だったんですが、飲み屋の常連さんとか、音楽とは関係ない友達とカラオケに行くと、みんな純粋に楽しそうに歌っていて……。それがうらやましくって、「自分も歌えるようになりたい!」と思い始めたんです。音楽をやり始めて18年ぐらい経つんですが、音楽やりたてというか、楽器始める前の中学生のころの気持ちに戻ってますね。今の十八番はAdoの「踊」とsaucy dog の「シンデレラボーイ」。流行ってる曲って、改めていいと思うし、歌ってて楽しいです!
さよなら、バンドアパート
7月15日(金)よりシネマート新宿ほか公開
【映画「さよなら、バンドアパート」からシーン写真】
(STAFF&CAST)
原作:平井拓郎「さよなら、バンドアパート」(文芸社刊)
監督・脚本:宮野ケイジ
出演:清家ゆきち、森⽥望智、
梅⽥彩佳、松尾 潤、小野武正、上村 侑、髙⽯あかり、石橋穂乃⾹、千原せいじ、阿南健治、⼤江 恵/ ⽵中直⼈
(STORY)
コロナ禍のもっと前、東日本大震災よりも前の大阪で、都会の喧騒に揉まれながら、音楽の道に進みたいとささやかな夢を持っていた川嶋(清家ゆきち)。大いなる道の手前で、まだ誰でもなく、何も持たなかったあの頃。彼の背中を押しステージへと導いてくれたのは、大阪で出逢ったユリ(森田望智)だった。彼女との出逢いが、彼の全てを変えた。その後、ミュージシャンとしてプロデビューした川嶋を待ち受けていたのは、厳しい現実だった……。
(C)2021「さよなら、バンドアパート」製作委員会
撮影/徳永 徹 取材・文/くれい響