太宰治の小説『斜陽』が書かれてから今年で75年。
公開中の映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』はそれを記念して製作・公開された話題作。ヒロイン・島崎かず子を演じるのが、本作が映画初出演で初主演作品となる宮本茉由。いきなり主演ということで得た経験は多かったという。
映画初出演・初主演のプレッシャー
「なんていうか、一気に度胸がついたような気がします(笑)。撮影中にいきなりひょうが降ってきたりするなど、想定外のアクシデントがあったりしましたが、(主役である)自分が動揺しちゃいけないと、動揺しなくなったような気がします」
2016年、「第1回ミス美しい20代コンテスト」審査員特別賞を受賞。もともとモデル志望で「CanCam」の専属モデルをつとめるなどしたが、18年の連続ドラマ『リーガルⅤ〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』(テレビ朝日系)への出演をきっかけに、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)、『ボイスⅡ110緊急指令室』(日本テレビ系)、『ドクターX〜外科医・大門未知子』(テレビ朝日系)、そして現在放送中の『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)など人気作に次々とレギュラー出演。チョーヤ梅酒の「The CHOYA」のCM出演でもお茶の間ではおなじみだ。着実にキャリアを重ね、今回の映画での初出演を獲得した。
初主演作が太宰作品、しかもその代表作のひとつといえる小説の映画化ということからのプレッシャーはもちろん大きいが、
「大学が文学部国文学科だったので、課題で読み込んだ経験もありました。『走れメロス』のギリギリまで人を信じようという気持ちが好きでした」
宮本さん自身も、メロスのような選択を迫られたら、「走ると思います(笑)。そしてちゃんと戻ってきます」とのこと。撮影にあたり、あらためて太宰治の世界と向き合ってみた。『斜陽』についての印象も変わったという。
「昔読んだときは、ちょっと暗い小説だなという印象がありました。映画出演にあたり、よりしっかり原作と台本、どちらも何度も読み込んでいくうちに、暗いのではなく、それぞれのキャラクターにちゃんと『光』が描かれている。昔は気がつかなかった、生きるための希望が描かれていると思いました。その希望という意味では『走れメロス』など、他の作品にも通じるものがある気がしました。『斜陽』には、その希望をあきらめてしまったキャラクターがいれば、希望に向かって生きていこうとするキャラクターもいる。そこが印象的でした」
作品の舞台は終戦直後。没落貴族となったかず子の一家。貴族の誇りを最後まで失わない母。麻薬と酒に溺れていく弟・直治。売れっ子中年作家で太宰自身の姿とも重なり合う上原二郎。そして、かつて上原と一夜の恋に落ち、運命的な再会から道ならぬ恋へと、まさに自分の中で「鳩のごとく」「蛇のごとく」顔を見せる感情に突き動かされていくかず子。それぞれの形で抱く「希望」がスクリーン上に描かれていく。
同年代であるかず子を演じるにあたり、現代の同年代の感覚との違いが印象的だったという。
「やっぱり私たちよりもどこか大人、肝が据わっている気がします。戦後という激動の時代を生きるという、今の自分たちが想像もつかない大変な思いを経験してきた27歳。それを常に意識して挑んでいかなければと思い演じました」
そんなかず子と似ていると感じた部分は、「最初はなくて悩みました」と言う。
「かず子の『世間で評判がいい人はみんなウソつきで偽物だわ。不良だけが本物で正直なの』というセリフ、そこにすごく共感できました。表向きはよさそうな人でも中身はわからないなということはあるかもしれないな、という部分は感じました」
アピールポイントは目ヂカラ?
執筆から75年。2022年の今と通じるものはあるだろうか。そうたずねると、「どの時代であれ、生きるっていうことは大変なんだということだと思います」と答えた。
「今もコロナがあり、他の国では戦争があったり、世界中で多くの人の命が失われることもたくさんあります。生きるということ、それも、健康に平和に生きて日々を過ごせること、そんなごく当たり前のことが、すごく幸せなことなんだということに、かず子という役を通じて気づけた気がします」
身長167センチ。取材時の淡い色合いのドレスでの長身とスリムさが際立つ立ち姿とあいまって、撮影中、どこか彫刻のようにも見える瞬間があった。この先、本格的なアクションを身につけていきたいと語る。
「ちゃんと身につけたいと、アクションクラブに通いはじめたんです。まだ筋肉があまりついていないのでパンチはまだまだですが、キックのほうは強そうに見えるみたいです(笑)」
乗馬にも挑戦中だそうだ。
「たとえば時代劇などで馬に乗るシーンとかできたらいいなって思っています」
ズバリ、宮本茉由のアピールポイントは?
「目ヂカラです!自分で言うのも恥ずかしいですが…(笑)あと実はほくろが意外と多いです!(笑)」
『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』の主演経験は、女優・宮本茉由としての可能性や幅を大きく広げたようだ。
「ダークヒーローみたいな、悪の気持ちにも寄り添えるような役ができる女優になれるといいなと思うようになりました。不安を抱えたり悩んでいる人も、この作品とかず子を通して、自分もがんばろう、そう思っていただけたらうれしいです!」
【INFORMATION】
『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』
出演:宮本茉由、安藤政信、水野真紀、奥野壮
監督:近藤明男
TOHOシネマズ日本橋他全国公開中
【オフィシャルサイトはコチラ】
(C) 2022『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』製作委員会
文:太田サトル/撮影:我妻慶一