12月18日(日)に開催される決勝戦に向け、世間を沸かせている「M-1グランプリ2022」。エントリー数は過去最多となる7261組。11月30日にファイナリスト9組が発表され、残る1枠をめぐり、決勝戦前に敗者復活戦が開催される。今回は、準決勝で敗退し、敗者復活戦を控えるかもめんたるにインタビュー。漫才歴2年であり、ラストイヤーでもある、生粋のコント師として知られキングオブコント2013王者のふたりに、知られざる胸の内を明かしてもらった。槙尾さんの、う大さんへの愛にも注目されたし!
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:有山千春)
劇団かもめんたるをやっていなかったら、M-1にも繋がっていない
ーーM-1グランプリ(以下、M-1)には、21年からの挑戦で2度目となります。出場を決めたきかっけを教えてください。
う大 20年12月放送の『お笑い二刀流 MUSASHI』(テレビ朝日系)で、コント師に漫才をやらせるという企画があり、そこで漫才をやったら好評だったんです。僕たちも意外と楽しかったんですし。周りの人から「かもめんたる、M-1出たらいいんじゃない?」と言われて。
槙尾 手応えはありましたよね。周りの声が後押しになりました。
う大 それでそれまであった、漫才への苦手意識がちょっと拭えたんです。
ーー苦手意識があったんですね。
う大 かもめんたるが漫才をするなら……とストレートに考えると、漫才の中にコントが入る構成のネタかと思うじゃないですか。でも、実はそれってすごく難しくて。ひとつのネタの中でふたつのパーソナリティが必要なんですが、その感覚が、僕には掴めなかったんです。
それが、テレビで漫才を初めてやる直前、劇団かもめんたるの公演があり、そのとき僕がやっていた役柄が自分の素に近いキャラクターで、ふと「この役でしゃべくり漫才をやったら、意外とおもしろいんじゃないか」と思いついたんです。僕が自分のいろいろな持論を語って、槙尾は聞き手というか、被害者というか。それでひとつの形になるかなと思いました。
槙尾 漫才師の人って究極に演技が上手いですよね。だって、事前に決まっているネタを、練習しているわけじゃないですか。それを、そのときその瞬間に思ったことのように、素で喋る感覚で自然にやっているから。みなさん、相当すごいですよ。
そんなふうに普通の漫才師さんは素に近い感じでやっていると思いますが、僕たちは、う大さんは「う大さんに近い別人」で、僕は「その人の相方」という感じといいますか、“漫才のお芝居”という感覚でやっています。
ーー演劇が漫才に繋がったんですね。
う大 そうですね。劇団かもめんたるをやっていなかったら、M-1にも繋がっていないという感じがすごくするので、人生わからないものですよね。
ーーそうしてかもめんたるさんの漫才が形になり、テレビで披露されて反響もよかったことで、すぐに2021年のM-1出場を決断したのでしょうか。
う大 決断なんて大したものでもなく、「出てみましょうか」という感じです。誰も期待していないし(笑)、マネージャーも「別にいいけど。好きにしたら」という反応でした。
ーー結果は、初出場で準々決勝まで進みました。M-1にはいわゆる“M-1戦士”という単語がありますが、おふたりもそういった心境でしたか?
う大 大会である以上、極端な言い方をするとほかの人たちはライバルですしね。とはいえ、僕らはほかとはかぶっていないという自覚があったので、僕らのやるべきことは自分たちのクオリティを上げることだなと思っていました。今年がラストイヤーですし、昨年の時点で2年というリミットがあったことは最初からわかっていたことですから。5年後、10年後に完成する漫才を目指す方法もありますが、僕らは2年しかないから、そんなことも言っていられない。だから、「できないことはやらない」に徹しました。
実際ほかにも仕事がたくさんあるし、M-1にかけられる時間は限られていました。だからこそ、去年は正直、「是が非でも決勝!」とは臨めていなかったかもしれないですね。突き詰めすぎると、いやになっちゃっていたかもしれないし。
ハードルが高すぎると越えられませんから。「M-1なんか挑戦しなければよかった」となるのが嫌だったんです。今年のM-1の最年長コンビでもあるんですが、若いころとはいろいろと変わりますよね。昔は「キングオブコント(以下、KOC)で優勝するしかない!」と、それだけに賭けていましたけどね。
ーーKOCに出場していたころとは、挑み方が変わったんですね。
う大 若いころとは違い、俯瞰で考えているかもしれません。
かもめんたるに時代が追いついてきた!?
ーーKOCには2013年に優勝してから、2015年から2017年まで3年連続出場し、最後の年は準決勝進出で終わってしまいました。当時、おふたりのラジオ「ラジオかもめんたる」で敗退の原因を巡ってケンカになったことは、業界内で知られていますよね。それも若さや、現在との挑み方の違いゆえだったんでしょうか。
う大 あれはそういうことじゃなかった気がしますね。僕は失敗を笑いにしたかったけど、そういった意思の疎通が取れていないことでケンカになったんだと思います。
槙尾 当時はかもめんたるとして一番どん底でした。今でこそ地上波で、たとえば『有吉の壁』(日本テレビ系)などにも出ていますが、そういう仕事もないし、大変な時期だったと思います。それで、「もう一度KOCで優勝して、ネタ番組に呼ばれるようになりたい」という気持ちがあったと思うんです。
う大さんは「そんなことない」と言うかもしれませんが、当時のかもめんたるはギスギスしていると感じていました。ツッコミやイジリのつもりでも、無意識に言い方がきつくなってしまうというか。
だって、ネタ番組の「過去のKOC王者を呼びました」という企画があっても、僕らはそういうのに呼ばれないんですよ。なんでですかねえ。チャンピオン感が薄いのかな(笑)。
う大 そういう周りの感じもわかるんですよね。
ーー時代の流れなど、純粋な面白さ以外の要因で置かれている状況が変わることは、あると思います。
槙尾 そう、それこそ今のう大さんは、「先生すごい!」「天才!」「キングオブう大!」とかいろいろ言われているじゃないですか。当時は全然言われていなかったですからね。当時から今にかけて面白さが急激に増したとかでもないんですよ、絶対に。「評価されるの遅くない?」と思います。
ーー流れがきている実感があるのですね。
う大 noteでいろんな賞レースのことを書き始めるようになって、KOCの寸評を書いていたのを『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)に見つけてもらえて、「キングオブう大」という企画が始まったこととかですかね。
槙尾 あと、劇団かもめんたるが実を結んできたのもありますね。
ーー新人劇作家の登竜門とされる岸田國士戯曲賞に、20年、21年と2年連続ノミネートされましたね。
う大 それで『有吉の壁』で有吉弘行さんが「う大は偉いんだから。こんなことやらせちゃダメだよ」と、たまにイジってくれたりもしました。
槙尾 2017年はそういう流れが来る前で、う大さん自身は「なんで認められないんだ」というストレスが絶対溜まっていたはずだし、僕も同じでした。
う大 僕はこれから寸評キャラでやっていきたいわけじゃないんですが(笑)、純粋なお笑いだけでやっていけるほどの才能がないですから。と、思う一方で、劇団が漫才に繋がったように、この寸評の道もなにかほかの道にぶつかることがあるかもしれません。
ーーう大さんは公式YouTubeチャンネル「う大脳」でも、昨年のM-1決勝を実況&寸評していましたよね。
う大 ああやって真剣に見ると笑わなくなるので、生配信とか苦手なんですよね……。「こいつ、笑ってないじゃん」と言われそうで。でも、意識的に笑いを見せるのもちょっと余計な行動ですし。
ーー槙尾さんはどうご覧になっていましたか?
槙尾 「クソ—! ここに立てなくて悔しい!」というのはまったくなく、客観的に見ていました。そもそも去年は“M-1戦士”というよりも、初めての漫才に慣れる期間だったと思います。ライブや予選でお客さんの前でやるうちに、「あ、漫才ってこんな感じなのか」と、徐々に掴んでいく感じでした。
最初は「僕ら漫才もやるんですよね。今日はコントじゃなくて漫才をやらせてもらいます」と、掴みで言わないと違和感がある気がしていましたが、だんだんとそれが取れて、普通に「どうも、かもめんたるです」とやり始めた、そんな段階でした。
それで、あれよあれよと準々決勝まで来られて。もちろん決勝なんて夢のまた夢だったんです。
敗者復活戦は”寒空に映えるネタ”を
ーー今年の出場は、いつごろから考えていましたか?
槙尾 今年1月から、M-1を見据えてライブで漫才のネタをやっていました。周りのコンビと話したら、「え! もうM-1のネタを試しているの!?」とすごい言われて。当初から2年計画だったというのもあり、スタートダッシュは早かったですね。
う大 がむしゃらにやるほどの時間もないから、逆算してお客さんの前でネタを試して、脈アリ・脈なしをジャッジしていました。
ーーということは、昨年と意気込みが変わったということでしょうか。
槙尾 今年も最初のころは「決勝なんて行けないだろう」という感じでしたが、やっていくうちに「お? これは……!?」となって、準決勝に行けることが決まったときは、「絶対に決勝に行きたい!」となったし、準決勝が終わったあとは「決勝、イケたんじゃないか!?」と思ったりしました。ただ、敗者復活戦についてはイメージしていなかったです。
う大 正直僕も、「今年はストレートで決勝に上がる」というのは唯一目指していた場所で、リアルに想像するようにしていたんですよね。だから敗者復活戦から上がる自分たちは想像していなかったし、今もできていないです。それに、通常かもめんたるって、屋外で映えるタイプじゃないですしね。漫才とこれで「さようなら」となるのか、それとも「続けよ」という結果がもらえるのかは、笑いの神様がどうジャッジするかですかね。
ーー敗者復活戦のネタは決まっていますか?
う大 決まっています。寒空に映えそうなネタをやる予定です。
ひとつ思うのは、急に漫才をやりはじめた年長者としては、M-1 はすごい盛り上がっているけど、同時にみんなM-1を追いかけすぎているような気もして。だから「もっと自由にやればいいのに」というニュアンスを込めて、「コントからきたかもめんたるが、こんな漫才をやっているんだ」と伝えられたらいいなという気持ちもちょっとあるんです。そんなふうに、お笑い界に還元できたらうれしいと思っています。
なぜそんなことを言うのかというと、そういうことを考えていればお笑いの神様が微笑んでくれるんじゃないのかな、という打算というか。スピリチュアルな考え方かもしれないですけど。
槙尾 う大さんはスピリチュアルが結構好きなんですよ。だから、さらば青春の光さんの公式YouTubeに出たときも、「う大さんなら全然ありえるな」と思って。
ーー「【100万円詐欺チャレンジ】信頼してる相方からの儲け話に槙尾は騙されてしまうのか!?」の動画ですね!(笑)う大さんが槙尾さんに電話をして、「植物由来のスピリチュアルスーツを、40万円で売る」というドッキリ企画でした。
槙尾 う大さんがスピリチュアル好きじゃなかったら、いきなりあんなことを提案されたとしたら「なんでそんなことを言うんだろう」と怪しむはずじゃないですか。でもあのときは、「たしかにう大さんなら、信頼するスピリチュアルな先生がいそうだな」と。
ーーそれであのとき素直に、40万円のスーツを作ることに了承したんですね。
槙尾 あとは「一緒にスーツを作ろう」と言ってくれたのが嬉しい気持ちがあったから。その嬉しさが怪しさを上回って「作りましょう!」と言ってしまいました。
ーーなんだかすごく泣けます……! M-1グランプリ公式YouTubeの『M-1グランプリ2022「かもめんたる」直撃!インタビュー【東京2回戦】』のコメント欄には「槙尾さんがう大さんに近づきすぎ」「槙尾さんがう大さんと一緒にいるのが嬉しそうなのが伝わります」というコメントが散見されました。
神様からのキャリーオーバーがそろそろ来るはず!?
槙尾 僕の目線から話すと、う大さんは当たりが優しくなりました。こういう場で話すときはどうしてもう大さん中心になりますが、「おまえも入ってこいよ」と言われても、やっぱりう大さんに質問されていることについては入りずらかったりするじゃないですか。そんなときに、僕に振ってくれることが多くなったんです。目線を送ってくれて、話しやすくしてくれたり。
ここ何年かですごくマイルドになりました。一言一言が優しいし、僕が言ったことに自然と乗っかってくれたり、僕に関わってくれるようになったんです。
以前のう大さんは「頑張っているのに評価されない」というジレンマがあったと思います。それが、少しずついろいろな形で仕事が増え、う大さんの評価も高まり、そういうことがコンビの中で良い関係の底上げになったのかなと思います。
ーーそれが観ているファンにも伝わっているのかもしれませんね。
槙尾 そうだと思います。あと、前は一人称が多かったんです。いまは「かもめんたるとしては」とか「僕らは」と言ってくれることが多くなったと思います。う大さんがネタを書いているので、僕はプレイヤーとして、う大さんが面白いと思うことを一緒に表現する人としてずっとついてきている側面があるので、それなのに一人称で語られるとすごく孤立感があるんです。
だから「かもめんたるは」と言ってくれると、報われるというか……。僕はう大さんが考えたものを演じてきただけで、だから「おもしろいことをやって」と言われても作ることはできないし、比例して需要もないんですよね。プレイヤーとしての需要もまだ難しいし、そっちの需要もう大さんのほうが多かったりするんですよ。だから「マキオカリー」というカレー屋をやってるんですけど(笑)。
ーー(笑)。そういった話は普段からしますか?
う大 しないですね、大人ですし(笑)。
槙尾 漫才を始める前、「今後はひとりでやっていく」という話はあったかもしれないです。いままでは、かもめんたるの中に岩崎う大と槙尾ユウスケがいて、そうではなく、“岩崎う大”で活動するという話をされたときに、初めて危機感を抱いたんです。
コンビって、どうしてもどちらかがどちらかに依存しちゃうコンビも少なくないと思います。お互いが自立して、そのなかで相乗効果を生み出すコンビが理想ですよね。僕はお笑いでは全然自立できていないですが、カレー屋では自立できています(笑)。
ーー(笑)冷静に分析されていますね。
槙尾 冷静でもないです。その時期から何年か経っているから言えるだけですよ。当時はヤバかったですから。「どうしようどうしよう、生活できないし」って。それこそ、今は漫才をやるようになってコンビでネタをやっていますが、それ以前はコントもやっていなかったから、コンビでネタをやる機会がほとんどなかったんです。
ーー単独ライブも一切なしですか?
槙尾 やっていませんでした。劇団かもめんたるはありましたが、あれは僕は“いち劇団員”なので。カレー屋をやり出して、経済的に安定し出して、自然と僕のピンの仕事も少し増えてきて、コンビでの仕事も『有吉の壁』とかで増えてきての、今です。
ーー今はコンビ間のバランスも良い状態で、敗者復活戦に臨むということですね。
槙尾 そうですね。う大さんは今、劇団の脚本もあって大変ですけど。
う大 それも込みでの人生ですからね。忙しいからマイナスなのかというと、それは違うかもしれない。運命に任せます。漫才も一生懸命やるし、演劇も一生懸命やるし、どこかでいいことがあるだろうと。そのタイミングがいつ来るかは、神様次第ですけどね。
ーーそのタイミングが、いまかもしれないです。
う大 M-1決勝が、キャリーオーバーを吐き出すタイミングかなと思っているんです。僕の中では、KOCも2013年以降ダメで、岸田國士戯曲賞を2回も取り逃したし、この前の『ドラフトコント2022』(フジテレビ系)も負けたんです。だからほくそ笑んだんですよね。「ここで負けたから、M-1決勝、あるかもな」と。
ーーキャリーオーバーするだろうと(笑)。
う大 そうですね(笑)。そう思わないと、いちいち負けてへこまないといけないから。感情的に、絶対にへこむんですよ。「うわ! 負けた! 悔しい!」と。それを引きずらないために、「これはキャリーオーバーだな」と思っています。
槙尾 僕も関わってますからね、キャリーオーバー。11月の「神田カレーグランプリ」で、一番売ったので優勝できると思っていたら3位だったんですよ。だから「これはM-1決勝に行くフラグが立ったな」と思ったんです。そのあと、いつもピンで出ている即興ライブの大会でも最後の3人まで残って、「これはヤバい! ここで優勝しちゃったらM-1ヤバいかも!」と思っていたら負けました。
ーーいろんなところでM-1がよぎるんですね(笑)。
槙尾 よぎりますね。う大さんはファイナリスト発表のとき、「行けそう」という感覚、なかったですか?
う大 あったよ。行くかもなとは思ったけど。でも呼ばれなかったら呼ばれないで、すんなり受け入れました。「うそだろ!」とはならなかったです。敗者復活でどうなるか分かりませんが、決勝に上がれたら本当にキャリーオーバーがくるかもしれない。
槙尾 ストレートで決勝にいけなかった分も溜まったということですからね。
う大 でも期限があると思うんだよなあ。
ーーたしかに(笑)。いまはどれくらいなんでしょう。
う大 相当溜まっているはずだけど、いつの間にか有効期限が切れている分もあって、半分くらいになっている可能性もありますよね。神様に「noteがいっぱい読まれたよね? あれでキャリーオーバー吐き出したよ」と言われたら、「あ……そうっすよね……」って感じですけど。
ーーもっと派手なものがほしいですよね(笑)。
槙尾 準決勝に行けたことで、キャリーオーバーが支払われた可能性もありますよ。だってすごいことですからね、ここまでいけただけで。
う大 それあるよ、あるある。でもキャリーオーバーは、メンタル的に信じることにメリットがあるから、信じるべきだと思います。
槙尾 敗者復活戦、18組中の1組ですからね……。この前YouTubeで「18組の中でどのコンビが通過するのか、AIで予想する」という動画を観たんですよ。18位から予想されていて、「当たっていそうな感じがするな」と思って観ていたら、かもめんたる、13位でした。
ーーあははは!
槙尾 低っ!(笑)だから応援よろしくお願いします!
【INFORMATION】
劇団かもめんたる 第12回公演
奇事故
日時:2023年1月25日〜29日
会場:あうるすぽっと
詳細は劇団HPへ