2015年放送の「元祖!大食い王決定戦」(テレビ東京系列)で、初出場初優勝という快挙を成し遂げたフードファイター・MAX鈴木こと鈴木隆将。デビューから7年経った今も、日本最強と称されるその食べっぷりは健在だ。愚直なまでに大食いを追求する、熱い生き様が魅力のMAX氏。そんな彼が「人生を賭けた使命」と断言する大いなる野望とは?
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:黒木絵美)
大食いファンの度肝を抜いた鮮烈なデビュー。
しかし、卵1個でドン底へと転落
——MAXさんが大食いデビューしたのは、34歳と遅咲きだったそうですね。
2015年の「元祖!大食い王決定戦」がデビュー戦です。それまでの僕って、超が付くほどのドクズ男。ギャンブル三昧で借金まみれだし、仕事もロクに続いた試しがなく、ヒモみたいな生活を送っていました。
でも初出場した大食い王で優勝して、突然「すごいすごい」とチヤホヤされて仕事も舞い込むようになって……。あの時は、人生がひっくり返るような成功体験を味わわせてもらいました。
——いつごろから大食いの自覚があったのですか?
番組に出るちょっと前ですよ。それまでは、たくさん食べるといっても牛丼2杯がせいぜい。ただ、うちは父親が大食い番組が好きで、自分もよく観ていたんです。そしたら、大食いアイドルとしてもえのあずきちゃんが出てきて、普通にめっちゃ可愛いじゃんと思って(笑)。
そのあずきちゃんが、チャレンジメニューに挑戦したことをブログに書いていたので、同じ店に行ってみたんです。45分制限で2.8kgの油そばを食べ切るというチャレンジでしたが、30分程度でペロッと完食。「俺、こんなに食えるんだ?」って自分でも驚きました。
——事前準備はまったくなしで?
そう、ノリとミーハー心で行ってみただけ。なのに、特に苦もなく食べ切れたと思ったら、店中のお客さんが「兄ちゃんすごいな」と拍手喝采されて。賞金5000円までもらい、生まれて初めてヒーローになったような気分でした。
それに気を良くして、2.8キロから3・4・5キロと少しずつ食べる量を増やし、料理もラーメン・餃子・カレー・チャーハンなど、階段を登るような感覚であらゆるメニューに挑戦。面白いように全部クリアして、その最終ステージとして大食い王に応募したのが始まりです。
ただね、優勝して「日本一の大食い王」として有頂天で1年間過ごしたんですが……。翌年の2016年は、わずか卵1個の差で優勝を逃してしまいました。
——負けたことで、また環境は変わりました?
大違いですよ。だって、テレビ局もイベント会社も、わざわざ負けた人なんて呼ばないでしょ?「惜しくも大食い2位だったMAX鈴木さんです!」って煽られても、お客さんは全然ありがたみないですもん(苦笑)。
結局、仕事ゼロの負け犬生活に逆戻り。一旦は人生が上向きになった時期を経験しただけに、さらに地の底まで落ちたような気がして、精神状態はズタボロでした。
でも、その人生で一番苦しかった時期に、今の嫁さんから逆プロポーズを受けて結婚することになったんです。
——なんと! そのタイミングで?
腐っている僕を見て「入籍することで何か刺激になればと思った」って本人は言ってますけどね。ドクズな自分が結婚できるなんて夢にも思ってなかったし、いつも献身的に僕を支えてくれている彼女には感謝しかありません。
——再び、大食いへの火がついたのは?
2017年大食い王の予選会の知らせが来て、「試合に出たい! 勝ちたい!」と心底望みました。正直それまで、大食いに対する僕の姿勢は「テレビに出て有名になれるしラッキー」くらいの中途半端なもの。でも、一度負けてドン底を味わったからこそ、自分の生きる道は大食いしかないと強く思ったんです。
けれど前回の経験から、試合前は数か月間かけてトレーニングをしなければ勝てないのは分かっていました。大食いに集中するとなると、その間はまともな仕事なんてできません。もう一度、大食い王に出たいと恐る恐る嫁さんに話したところ、「優勝できなかったら大食いはキッパリやめて普通に働く」という条件付きで出場を許してくれました。
——後がない状況に追い込まれたんですね。
まさに背水の陣です。優勝したい。そして、支えてくれる嫁さんに報いたい。ただその想いだけで厳しいトレーニングを重ね、その年の「元祖!大食い王決定戦」を制することができました。
常人には不可能!命をかけた大食いトレーニング
——大食いのトレーニングって、どんなことをするのか見当もつかないのですが……
(※死の危険を伴う事なので、絶対に真似はしないで下さい!!)
試合で勝つために一番効率が良い食べ方は「短時間でどれだけ摂取できるか」です。例えば、カレー10キロを60分かけて食べるというのは、やろうと思えば結構簡単なこと。でもそれだと勝負には勝てないため、同じ量を10分で食べる練習を行います。
ビニール袋って、ゆっくり時間をかけて引っ張れば、表面が薄くなりながら徐々に大きく伸びますよね? でも、突然ドンと重い物を入れると破れてしまいます。原理はそれと同じで「急激に胃に負荷をかける→破れないギリギリのラインを伸ばす」の訓練を繰り返すことで、胃の柔軟性・可動域を広げていくんです。
——お話を伺っているとなるほどと思いますが、実際やれるのかと言われると無理だなと感じます。
もちろん、すごく危険な行為ですよ。でも無理矢理にでもやる。そうしないと勝てる胃袋がつくれませんから。
——トレーニングに使う食材は何でも良いんですか?
食べ物でも水でもOKです。ただ、最初は胃が温まっていないので、始めにカレーライスなど主食系を食べ、その後で水を入れます。30分〜1時間もすると膨張してくるから、その痛みに耐え続けるという訓練です。
——痛みというのはやはり「胃が痛い」ということ?
いや、骨の痛みですね。胃が背中側まで目一杯広がるので、その他の臓器が色んな場所へ押し動かされます。最終的には、肥大した胃と動いた臓器によって、内側から肋骨が押されるんですよ。そうなると、ギューっと骨が軋むような苦痛が出てきます。
——やだ……聞いてるだけで痛い……
僕にとっては日常茶飯事なんで大したことはありませんが、皆さんそういう顔をされます(笑)。
それで、この作業を反復して、身体が固形物に慣れてきたら、次は水を3分で10リットル飲めるかといった訓練に変えていきます。アメリカで活躍するフードファイター・小林尊さんも同じトレーニング法を実践していましたが、やっぱりこれが究極の答えですね。
ただ、短時間で水分を大量摂取すると水中毒になる恐れがあるため、細心の注意が必要。実際、僕も一度死にかけたことがあります。その時は、帰りの電車の中で「ああ、これはマジでダメだ」と半分諦めました(苦笑)。
名トレーナーとの運命の出会いで優勝奪還
——食材の量が半端ないだけに、大食いトレーニングは金銭面でもかなり痛みを伴いそうです。
この件に関しては、恩人と呼べる方がいてね……。
2017年の大食い王では絶対勝たなきゃいけないのに、そのころはもう本当にお金がないから、トレーニング用の食材なんて用意できませんでした。
そんな時、高田馬場にある「旨辛ラーメン・表裏」というお店を紹介してもらったんです。店主の松下さんに切羽詰まった現状を話したところ「いいよ、やろうよ」と一言。それで、その日から毎日お店に通い、無償でトレーニングメニューを用意してもらうようになりました。
——松下さんは大食い番組のファンだったとか?
それが、大食いを見たこともないような人で。でも、やり始めるとどんどん大食いの世界に詳しくなっていって、僕はただ松下さんの指示に従うだけ。「お前、今日は10分でこれを8キロ食え」なんて独自のメニューを組んでくれて、それをこなしていれば不思議といつも優勝しちゃうんですよね(笑)。
——名トレーナーですね!MAXさんのほかにも、どなたか大食いファイターを育てていらっしゃるんでしょうか。
いや、僕だけです。そもそも、何の面識もなかった僕に、なんでこんなに良くしてくれるんだろう? とはずっと疑問に感じていました。でも以前テレビ出演した際、「表裏」にも取材クルーが話を聞きに行ったんです。その時に「何かに夢中になれるヤツは嫌いじゃない」なんてコメントされていたので、当時の僕の必死さというのが伝わっていたのかもしれないなと。松下さんと嫁さんには、一生頭が上がりません。
大食い向きの食材の条件は「重さ・のどごし」
——大食いで苦手な食材はありますか?
熱いもの・辛いものがまず苦手。僕は大食いの極意のひとつって「ペース」だと考えていて、最初から最後まで一定のリズムで食べ進めたいんです。でも、熱いものは箸を止めて冷ます必要があったり、辛味にグッと詰まってしまう瞬間が出て、どうしてもペースが乱れてしまいます。
あとはお肉。咀嚼が増える分、時間がかかるんですよね。また、パスタも鬼門です。
——パスタ? 意外です。ツルっといけそうですけど。
カレーや牛丼などは、体内に入れた後、自重で胃に落ちていってくれるんです。でもなぜかパスタは落ちにくい。食道のあたりで止まってしまう感覚があって、僕はすごく苦手。食べやすい料理の代表格であるラーメンも、細麺だと重さが足りず、途中で止まってしまいます。
——揚げ物も大変だと聞いたことがあります。
あいつらは口の中を切り裂きますからね。サクサクに揚がってる美味しいやつほど厳しいです。だからトンカツなんかはラスボスの最終形態ですよ。観ている人から批判は受けますが、僕は衣を剥がして肉と分けて食べています。
——では逆に、得意な食べ物は?
カレーや卵かけご飯、ラーメン・つけ麺は得意かな。要は、のどごしの良いものは大抵イケます。
——スイーツ類はいかがですか?
あー、厳しいですね。血糖値が急激に上がるからか、途中で眠くてぼんやりしてくるのがツライ。加えて、ケーキなどスポンジ系スイーツは、細麺ラーメンと同じで軽くて胃まで落ちていかないんです。
落ちないということは、その都度お茶などで流す必要性があって、手間もかかるし余計なものを入れる分、胃の容量を奪ってしまいます。プライベートで一番好きな食べ物はイチゴのショートケーキなんですけどね(笑)。
本場・アメリカでの勝利を目指す。
大食いへのモチベーションはただ「勝つこと」
——MAXさんがここまでストイックに体を張って大食いを続ける、一番の原動力は何でしょうか?
強いヤツに勝ちたい。ただそれだけです。
——試合に挑むアスリートのような考え方ですね。
僕は大食いをスポーツとして捉えていますから。
日本で大食いをやってる人間って、2パターンに分かれます。大食い自体を極めたいと思っている僕みたいなタイプはレアケースで、大多数の方は何かの手段のひとつとして捉えている人たち。大食いはタレントとして差別化するためとか、自分の商品をPRするためとかそういった感覚です。どっちが良い悪いって話ではないけれど、一緒にやっていて隔たりは感じます。
——MAXさんは、あくまでスポーツとしての大食いにこだわりたい?
そうですね。大食い王で優勝を奪還した後、燃え尽き症候群になったんです。とにかくそこで勝つことだけを目指してましたから、いざ優勝すると心が空っぽになってしまって。そんな時、小林尊さんに誘ってもらって、アメリカのネイサンズ(世界最高峰と称されるホットドック早食い大会)に挑戦してみました。
現地に行って、まず感じたのが文化のギャップ。米一粒残さないような食べ方が美徳とされる日本では、大食いにも「美味しそうに綺麗に食べる」ことが求められます。でも、アメリカでマナーを気にしていたら「お前、何やってんだ!?」とブーイングの嵐ですよ。1gでも多く、1秒でも早く。スポーツと同様に、記録を貪欲に追い求めるのがアメリカンスタイルです。
だからネイサンズでは、初めて人の目を気にすることなく、食べることだけに集中できました。会場も熱気も日本の比じゃないし、「俺の居場所はここだ!」という興奮と高ぶりが腹の底からせり上がってきて、武者震いが止まりませんでした。本当の意味で大食いに取り憑かれたのはこの時。それ以来、いつかネイサンズで勝利したいというのが、僕のモチベーションの全てになっています。
——ちなみにネイサンズでの成績は?
2019年の本戦5位が最高かな。その大会での僕の記録は10分間でホットドック42.5個ですが、1位の選手はなんと75個。最初の1分で10個以上食べるとか信じられます?彼らは右手でソーセージを鉛筆削りみたいに口に入れ、左手に持ったパンを水に浸して流し込んでいきます。
日本の大食いは60分で10キロ食べる。でもアメリカは10分で10キロ食べないと通用しない「早大食い」の世界なんです。胃にかかる負荷が全然違います。アメリカの選手から見ると、日本の大食いは「お遊戯会」レベルでしょうね。
日本の大食い観を変えることが自分の使命
——もし全米制覇できたら、やはり最終的に目指す姿は、フードファイターとして世界的に成功した小林尊さんですか?
実はそこまで考えていないんです。僕の無責任な性格が出てますけど(苦笑)。優勝が叶ったとしても、その先のことは真っ白。ただ、僕は勝ちたい。本場・アメリカで勝ちたいという気持ちだけ。シンプルでバカみたいでしょ?
——熱くてカッコイイです! そうすると、日本で活動する時は、自分のやりたい大食いスタイルを封印しなければいけないストレスがあるのでは?
最初はモヤモヤだらけでしたよ。自分の出し方や目指すべき道もよく分からず、失敗と葛藤の繰り返し。でも、経験を重ねることで器用さが身についたのか、時と場所に応じて自分自身の感情を使い分けられるようになってきました。でも、こういった処世術というか、落とし所を見つけられたのはかなり最近の話です。
——「これは俺のスタイルじゃない」と尖っていた時期もあったんですね。
そうそう(笑)。でも、我を貫いて何も為せずに終わるより、ある程度一般に融合しておけば、世間からプラスの感情で見てもらえます。いやらしい言い方かもしれないけど、好感度が上がれば仕事の幅も広がるし、結果的にできることが増えてやりたいことがやれるようになる。回り道かもしれないけれど、自分の理想の実現のためには、一歩一歩道を作っていくしかありません。
——MAXさんの目指す理想とは?
僕はね、「綺麗に食べる」という日本の素晴らしい価値観を変えたいわけじゃないんです。けれど、それとは異なる世界もあるんだとは知ってもらいたい。大食いをスポーツとして捉え、命を賭けてチャレンジしている人たちがいることを受け入れてほしい。
汚い・もったいないと眉をひそめるだけじゃなく、違った視点から大食いを認めてもらうこと。そして、この意識改革を実現できるのは日本では僕しかいない。全米制覇の夢と共に成し遂げたい、僕の人生最大のテーマです。
注目の次世代フードファイターはズバリこの人!
——今、MAXさんが注目している大食い選手を教えてください。
エンタメ的な視点だと、ぞうさんパクパクさん、しのけんさん、海老原まよいちゃんの3人はかなりの実力派。たくさん食べられるというのはもちろん、3人とも見せ方が上手いですね。YouTubeの編集技術も卓越していて、新世代の大食いエンターテイナーの中では飛び抜けた存在だと思います。
——スポーツとしてのフードファイターはいかがですか?
厳密に言うと……日本にはいません。そんな中で、唯一光るものを感じたのが「けんチャンネル大食い」の番組名でYouTube配信しているけんチャンネルさん。活動をはじめて1年も経っていないのかな。登録者数1万人にも満たないくらいですが、彼はスポーツ寄りだという印象を受けました。
——けんチャンネルさん、知りませんでした。期待大ですね!
久しぶりの大型新人かなと。とはいえ、先日コラボもさせてもらいましたが、ご本人はお子さんもいて本業はサラリーマンという方。どこまで本気で大食いをやれるのか未知数だし、まだ脅威に感じるような存在ではないですね。
——MAXさんの後に続くアスリートタイプが出てこないのは寂しい気がします。
まぁね。日本の文化である「美味しく綺麗に楽しく食べる」に沿ったコンテンツを作っていれば、ある程度のお金は稼げます。そうすると、やっぱり誰しも無理をしない流れになるのは当然ですよね。
一方で、例えば「優勝賞金1000万円!」といった大食い企画が持ち上がれば、本気で戦いにくる人もいるんじゃないかとは思っていて。僕もいろいろなメディアに働きかけて、大食い界を盛り上げられるよう頑張っているところです。
大食いファン待望の「元祖!大食い王決定戦」の復活はあるか!?
——道は険しそうですが、NETFLIXやAmazonプライムビデオなど、メディアが地上波テレビ一辺倒ではなくなったのは、既定路線を壊したいMAXさんにとって追い風といえますね。
ええ、地上波ではできなかったチャレンジングなコンテンツ制作も期待できるようになりました。僕も自分のYouTubeチャンネルでは、食べ方なんて気にしない全解放バージョンの動画を定期的に発信しています。
——視聴者の反応はいかがですか?
もちろん、批判コメントはめっちゃ来ますよ。でも関係ないっす。「大食いってカッコよくね?」という感覚が、ネガティブな意見を上回る日がいつか訪れてほしい。このゴールへたどり着くため、ただ挑戦するのみです。
それに、最近では僕の考えに賛同してくれるイベンターさんも現れ始めて、日本各地でガチの大食い対決を開催できるようになりました。先日も仙台でホットドック対決をやったんですが、中村ゆうじさんがMCで入ってくださってね。
——「元祖!大食い王決定戦」の名物司会者の中村有志さんについては。
やっぱり、有志さんが出ると全然違います。煽りも実況もマジで最高。会場の空気がガラッと変わるんですよ。コメント・閲覧数は爆上がりするし、僕ら選手もめちゃくちゃテンション上がります。
——MAXさんが世に出るきっかけになった「元祖大食い王決定戦」は、現在はなくなってしまったんですかね?
名前を変えて大食い番組自体は継続していますが、スタイルは大きく変わりました。以前は男女混合戦だったのに、今は女性だけが戦ってますし。でも「昔のようにまた混合戦をやってくれ」というファンの声は多く聞きます。やっぱり、とにかく強いヤツ同士のガチンコって燃えるじゃないですか。
——元祖大食い王の番組を期待するファンは多そうです。
YouTubeでも大食い動画は人気コンテンツの一つ。再生数が伸びているということは、世間にそれだけニーズがあるということです。コアなファンもたくさん付いているし、注目度の高さはひしひしと実感します。ひょっとしたら来年あたり、大食い王の混合戦、あるかもしれませんよ?