エンタメ
2023/3/11 21:15

「普段から2~3時間は徘徊」ピエール瀧に聞く『夜散歩』の楽しみ方

電気グルーヴのピエール瀧さんの多才ぶりについては今さら説明不要だと思うが、“散歩マスター”であることをご存じの方はどれくらいいるだろうか。しかも夜散歩を信条としていて、ご自身も「普段から夜な夜な2~3時間は徘徊している」という。2012年には23区を夜な夜なガッツリ歩く『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター・刊)を上梓した。そして2022年、前作から10年を経てセカンドシーズンとなる『ピエール瀧の23区23時2020-2022』をリリース。

 

ちょっとマニアックですごく奥深い、夜散歩の面白さを瀧さんに伺った。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:牛島フミロウ)

 

 

●ピエール瀧(ぴえーる・たき)/1967年、静岡県出身。1989年に、石野卓球らと電気グルーヴを結成。音楽活動の他、俳優、声優、タレント、ゲームプロデュース、映像制作などマルチに活動を行う。著書に『ピエール瀧の23区23時』(2012年、産業編集センター/刊)などがある

 

街の特殊な瞬間を味わいに行く

――今回の『ピエール瀧の23区23時』セカンドシーズンは2020年から2022年までの夜散歩の記録ということでした。

 

ピエール瀧(以下、瀧)「そうです、2年分ですね」

 

――なんと600ページの大ボリュームです! 東京23区を瀧さん一行(瀧さん、編集者、ライター、カメラマン、マネージャー)が、時には街のスペシャリストも加わって散歩されています。かなり綿密に回られたんですか

 

「うーん、綿密でもないですけどね」

 

――そうでもないんですか? 板橋区なんて1万6000歩も歩かれてますが(※各章の最後に歩数が掲載されている)。

 

「“夜散歩”と帯には書いてありますけど、散歩とかウォーキングが主眼の企画ではないので、たくさん歩くことが目的じゃないんです。今回は中央区、今回は世田谷区……と決めて、気が済むまで徘徊する。歩数は、結局どのくらい歩いたんだっていう参考に載せているという感じです」

 

――てっきり歩数が多い区は隅々まで回られたのかと……。

 

「より多く歩いた区のほうが、結局は何もなかったということでもあります(笑)」

 

――なるほど(笑)。

 

「夜中に、23区という区切りで、しかもちょっと知らないとこに行ってみようっていうテーマなんです。知らないところをウロウロしたら、何があるかしらんっていうことがメインなので、歩数や内容は区によって変わりますね」

 

――散歩するのに夜を選ぶというのはどういった理由があるんでしょうか?

 

「夜のほうが対象にフォーカスしやすいですよね。昼間よりも余計な情報がなくなりますし、人もいなくて街も静かになるので、住宅街とか繁華街じゃないようなところとなると貸切状態になるんです。そうなると“街vs俺”とか“団地vs俺”、“だだっ広い公園vs俺”とか“あそこのゴミの山vs俺”みたいな感じになるんですよね」

 

――たしかに昼間はノイズが多いともいえます。

 

「たとえば、築地の場外って朝行くのと深夜誰もいない時に行くのとでは雰囲気が全然違うじゃないですか。深夜の住宅街、さらに自分があんまりよく知らない区ともなればなおさら知らない。たとえば、僕は北区へはあんまり行かないですけど、昼間だったりとか、夕方の飲み屋が開いてる時間とかっていうのはなんとなく想像はできるけど、飲み屋が閉まった後ってほぼ知らないし、また特殊な瞬間だったりする。そういう意味で、夜行くっていうのは、各街の特殊な瞬間を味わいに行くって感じですかね」

 

――夜には、昼間とはまた違った街の顔があると。夜散歩ならではの醍醐味というわけですね。

 

「ウォーキング目的じゃなく、夜に無目的に歩くことってあんまりしないと思うんですけど、1回やってみると、街のいろんな側面が見えると思いますね。マンションがあっても、昼間だと『でっかいマンションだな』ってくらいですけど、夜の1時に見ると『なんであの部屋だけ電気ついてんだろうな』とか想像したりできるっていうのが面白いんです」

 

ピエール瀧の散歩視点

――瀧さんが散歩で面白く感じるポイントってどういうところでしょうか?

 

「なんでもないものでも、意味があるように見える瞬間ってあるじゃないですか。たとえば、公園に3つもブランコがあるとか、植え込みがなぜかアップルミントだとか、住宅街の中に工場が1軒だけあったりとか。その場で『えっ?』となった時に、ちょっと面白そうだなって感じたりしますね」

 

――どれも何だか意味ありげですね。

 

「たまに、公園のツツジの植え込みの間に人が歩いたような形跡があるじゃないですか。これは誰かがショートカットに使ってるのかな?とか、思いを巡らせたりするのが好きなので」

 

――本を読んで、そういった街の違和感を見つけて面白がれる瀧さんって想像力の怪物だと思いました(笑)。

 

「どうなんすかね。まぁ、一人だとなかなかそこまで言葉にしないし、喋りながら歩くわけでもないですし。誰かと歩いてるからそういう話題にもなるわけです。散歩は一人でも全然楽しめますけど、いろんな考察をするんだったら誰かと歩くのがベターですね。ただ、『夜中ちょっとウロウロしようぜ』『いいっすね』って付き合ってくれる人はあんまいないっていう(笑)」

 

――この企画に集まった編集の松本さんをはじめとしたメンバーは賛同者というわけですね。

 

「そうですね。なるべく断れなさそうな人を選んでます(笑)」

 

――(笑)。

 

「一緒に行く人は大事ですね。一応、企画がある区もありますし、ゲストの方がいらっしゃる区もありますけど、基本はその見出しだけ決めておいて、会話や細かいところは本当に行き当たりばっかりです」

 

――じゃあ基本は本当にフリースタイルなんですか?

 

「その場の臨機応変さの方が大事ですね。ネタを決めてやると取材になっちゃうじゃないですか。取材だと、相手を必要以上に立てなくちゃいけないって感じがありますから(笑)、それよりは自由にやっていって、出来上がったものの全体を見て盛りつける感じにするんです」

 

――自由にするから生まれるものが大事なんですね!

 

無目的がゆえにたどり着ける目的地もある

――瀧さんはプライベートでも、散歩がお好きとのことですね。

 

「夜、普通に2~3時間徘徊したりします。自分が歩いた軌跡が残る散歩アプリも使ってて、自宅から半径2キロで曲がっていない角はないです(笑)」

 

――すごい!

 

「家から駅までの道とか、どっかの繁華街とか、自分が生活する上で行く場所って、歩くルートはだいたい決まっちゃうんですよね。それは最短コースだったりもするし、良く行くお店や商店街を通るルートだったりしますけど、それと違う歩き方をすると、自分の住んでる街でも、裏から見れたりするんですよ」

 

――いつもと違う道を、ですか。なんだか日常のちょっとした冒険という感じもします。

 

「街を裏から見ると、ここに図書館あったんだとか、こっちにでかいスーパーあるじゃんとか、こっちからこっちはちょっと谷っぽくなってるぞ、とか(笑)。そういう“知ること”が面白いと言うか……要は塗りつぶしたいんでしょうね僕は、初めてのところを。ファーストタッチの高揚感ってやっぱりありますから」

 

――発見は散歩の楽しみですよね。

 

「さっき取材になっちゃうって言いましたけど、取材になっちゃうと、その取材のラインから外に出ないと思うんですよね。そしたら、葛飾区編で出会った上平井水門(注※やたらディストピア感が漂う巨大水門)にしろ、田中賞(注※優れた建造物に送られる土木学会賞)を取っていたかつしかハープ橋にも出会ってないと思います。あれはモンチッチ公園(注※2016年にオープンしたモンチッチがたくさんいる公園。ちなみにモンチッチは葛飾区観光協会の広報課長でもある)に向かってたんですけど、道をまっすぐ行けば着くのに、あえて何でもない住宅街の『この角を曲がってみよう』って言って曲がったからこそたどり着いたっていうものなんです。無目的がゆえにたどり着ける目的地もある、というのはあります」

 

――無目的ゆえにたどり着ける目的地ですか、うーん深いですね。

 

「やることが決められてないっていうのはすごく贅沢ですよ。そういう意味で、無駄は贅沢だと思う。そんなことって普段、みんな意識しないのかもしんないですけど」

 

――瀧さんの信条である「無駄こそ宝」ということでしょうか。無駄は贅沢ですね、本当に。

 

瀧「そうですね。だからその2年間は、すごい贅沢な時間だったなとは思います」

 

ルール1「100円自販機を見つけたら味見する」

――そんな自由気ままな『23区23時』ですが、2つだけルールがありますよね。「100円自販機を見つけたら味見する」「23時になったら写真を撮る」。こちらについて教えてください。

 

「2012年のファーストシーズンの時も100円自販機を見つけたら買うってルールはあったんですけど、今ほど100円自販機がメジャーじゃなかったんですよ。設置場所もちょっと路地裏のほうだったり、入っているのも『何このメーカー?』みたいな商品だったんですね。今回セカンドシーズンになって、まず相変わらず100円だと。10年だって物価も変わってるのに100円ですよ?」

 

――考えてみるとスゴイことですね。

 

「100円自販機業界が多分あると思うでんすけど、安いなりにいろいろ工夫してるのが垣間見えたりするんです。100円自販機業界はCMもやんないですし、雑誌の裏に広告も打たないじゃないですか。でも、企業努力しているわけですよ。応援するっていうわけではないですけど、見かけたら全部にとりあえず乗っかってくっていうのは、それはそれで、なんか面白い結果が出るんじゃないかなっていう気持ちでやってます」

 

――この10年間、100円自販機業界はたゆまぬ努力をしていたんですねえ。

 

「その自販機を置いてるとこが、どんなルートで引っ張ったのかはわからないけど、有名メーカーのミネラルウォーターが100円で売られる時もある。それは会社の企業努力だし、あと自販機にガシャンガシャンって補充する人たちがいますよね。そういう人たちの生活は100円自販機で回ってたりしてるわけじゃないですか。それはそれで味わい深いなって思うんですよね」

 

――そこまで考えて100円自販機で買ってるのは瀧さんだけですよ!

 

「それに2度と会えない商品もありますから」

 

――あ、なんかすごい美味しいジュースがあってもう1回買いに行ったら見つからなかったというエピソードがありましたね。

 

「渋谷の50円の柑橘ソーダですね。あとは途中で飲んだファンタの“ルロ味”。そんなのまず見ないじゃないですか。一期一会なんですよ、100円自販機って。だからこそ見かけたら飲まないとなっていう」

 

――100円自販機の楽しみ方がわかってきました!

 

「あとオートスナック寄りの自販機コーナーみたいなところもまだちらほらあるんですよ。江戸川区だったかな、ビールと日本酒の自販機があるんです。タバコの自販機でも稼働してるとちょっとびっくりするじゃないですか。それが、酒の自販機が稼働してましたからね」

 

――それは今や貴重ですね。

 

「そういうのも含めて、やっぱり記録してかないといけないと思ってます」

 

ルール2「23時になったら写真を撮る」

――もう1つのルール「23時に写真を撮る」、こちらはどうでしょう。というか、そもそも何時頃から散歩をスタートされるんですか?

 

「スタートは夜8時だったり、9時だったりですかね。お店が絡む時はもうちょっと早めの7時からスタートしましょうか、みたいな時間調整はあります。そのあたりの時間からスタートして、夜中の1時2時ぐらいまでやったりすることはありますね」

 

――ということは23時というのは行程の半分ぐらいで、前半と後半の切り替えということになりますか?

 

「それもあるし、区切りと言いますか、23時にはそこにいたっていう記録をしておくのは、それはそれで面白いんですよね」

 

――印象深いエピソードとかありますか?

 

「割とそれっぽいのが写真に現れてくれるんですけど(本の口絵のジャスト23時写真コーナーを見ながら)あ、大田区の男の子たち、これ良かったですねー。なんか、バイト終わって友達と一緒にチャリでケツ上げて飛ばして、羽田空港から離発着する飛行機を眺めながら足湯で2人で青春トークみたいのをしてるんですよ。この子たちの生活が垣間見えて、すごくいい子たちだなと思いました」

 

――なんて素敵な高校生! この写真もめちゃくちゃ良いっすね。

 

「いやー、めちゃくちゃ良かったです」

 

――2つだけルールを作ったことで一層面白みが増してますね。

 

「全体的に自由にやってますけど、23時に写真を撮ることと100円自販機を買うこと、それだけルールがあると“遭難”しなくて済むんです(笑)」

 

今後やりたいこと

――夜散歩に対する瀧さんのこだわりや視点がよくわかりました。ただ、メジャースポットで満足しちゃう人には、ちょっと難しい本かもしれないですね。

 

「万人向けではないことは確かです。でも、楽しめる瞬間があるかもしれないですよ。会社を辞めた瞬間とか、離婚したとか(笑)、あとは結婚して子どもができたりっていうような、楽しめる条件みたいなのはあると思うんですよね」

 

――年齢もあるかもしれないですね。40過ぎてから急にあれ? って気になることが増えてくるとか。

 

「今も好きですけど、若いころはダークな三流スポットみたいなところを面白がってた時期もあります。最近はもう本当になんでもないことを楽しめるようになった感じはありますね。たぶん自分も人生経験をして当てはめられるカードが増えたってことかもしれません。『すげえ細長い家だけど、これはこれでこの家のお父さんが頑張って建てたんだろうな』とか『狭い家って馬鹿にしちゃいけねえな。なるほど、子どもがいない夫婦だったらこれでいいかもしんねえな』みたいな」

 

――めちゃくちゃ読み解いてる!

 

「カードが増えてこっちの対応力が上がってるから」

 

――今後やりたいことや考えていることがあれば聞かせて下さい!

 

「個人的には相変わらず徘徊もしてますしね。ただの街歩きじゃなく記録するものっていうのは、『23区23時』は書籍ですけど、動画だとYouTubeでやってる『YOUR RECOMMENDATIONS』。あれも完全に無目的で、男4人で海外に行って、現地に着いてから人に聞いたところに行くっていうルールでやってます。そういう、何かに巻き込まれながらのフィールドワークっていうのは、これからもやっていきたいなとは思ってますね」

 

――瀧さんに自分の町に来て徘徊してほしいって人が現れるかもですね。

 

「もう全然行きますよ。このセカンドシーズンではあんまりやんなかったですけど、ファーストシーズンでは森山直太朗がやってくれました。セカンドシーズンだと、うちのマネージャーのサンちゃんとか、担当編集の松本さんとか、ライターのカルロス矢吹くんが街案内してくれましたし、人の思い出に寄り添って歩くのもすごく面白いなと思ってます。もし広げられるんだったら、やってみてもいいですね」

 

――次は10年後のサードシーズンを目指して今後も続けていってほしいです!

 

「ファーストシーズンがあったから、セカンドで変化した街を比較できたりもしました。ファーストも無駄といえば無駄でしたけど、無駄じゃなかったってことになる。渋谷なんか10年経って半分知らない街になったじゃないですか。みんながスケボーやってた宮下公園が今やハイブランドストリートになるなんて真逆もいいとこ。なんでもないところが、本にちゃんと記録されてるっていうのはいいんだなと思いますよね。それは咲いてる花かもしんないし、道に出されてる植木の種類とかかもしんないし(笑)」

 

――いや、本当ですね。そこを面白く記録できる人は瀧さんしかいないと思います。

 

「そこを掘りたい人もあんまいないんですけどね(笑)」

 

【information】

ピエール瀧の23区23時 2020-2022

ピエール瀧・著
産業編集センター・刊

大の大人が、時に真面目に、時にはしゃぎながら、2年かけて東京全区を踏破する悪ふざけ企画。2012年に刊行された『ピエール瀧の23区23時』が、令和にパワーアップして帰ってきた!
「23時になったら写真を撮る」「100円自販機を見つけたら興味本位で味見する」だけがルール。

夜の23区を1区1区歩いてみたら? 角という角を曲がってみたら?
「無駄こそ宝」が信条のピエール瀧が、無駄足を踏み、時間の無駄をし続け歩いた先に見えてきたものとは?

−深い時間にこそ見えてくる、東京の姿がある。

ピエール瀧の23区23時 2020-2022

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