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声優
2023/3/27 6:30

三石琴乃が語る仕事へのポリシー「仕事は真摯に。じゃないと、神さまは運や巡り合わせをほかの人のところに持っていっちゃうんです」

声優、ナレーターとして常に第一線で活躍する三石琴乃さんが、自身の半生や仕事に対するポリシーを綴った『ことのは』を上梓。「上がり症で、人前で発言することも恥ずかしくてできなかった」という彼女が、声の仕事や芝居に魅了され、いかにして不動の人気を得るようになったのか――。その秘密がたっぷりと詰め込まれた今作は、ファンのみならず、夢に向かって頑張る多くの人にとってのバイブルのような一冊となっている。本が完成したばかりの今、本書に込めた思いをうかがった。

 

三石琴乃●みついし・ことの…1989 年デビュー。代表作に『美少女戦士セーラームーン』(月野うさぎ)、『新世紀エヴァンゲリオン』(葛城ミサト)、『ONE PIECE』(ボア・ハンコック)、『名探偵コナン』(水無怜奈)、『呪術廻戦』(冥冥)など。また、海外ドラマ『グレイズ・アナトミー』(メレディス・グレイ)のほか、バラエティ番組や CMのナレーションなどで多岐にわたり活躍。近年はTBS『リコカツ』などのドラマ出演にも幅を広げ、常に第一線を走り続けている。2024年には大河ドラマ『光る君へ』にも出演。Twitter

 

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自分の過去のことなのに、新鮮に感じました

──まずは書籍『ことのは』を作り終えた、今の心境をお聞かせください。

 

三石 “大変だったなぁ”という気持ちが一番かも(苦笑)。ギリギリまでしっくりくる言葉に修正したり、新たに付け加えたりして。“これ、本当に終わるのかな……”と思ったりもしました(笑)。でも、完成品を手にした時は嬉しくて感激して、編集者さんの仕事の喜びを少しだけ垣間見られた気がしました。産みの苦しみを知った、宝物の一冊です。

 

──書籍のお話があった時は“やってみたい!”という気持ちが強かったのでしょか?

 

三石 いえ、その真逆です。自分なんか大した人生を送ってきていないので、“本にするようなエピソードは何もないですよ……”と思っていました。でも、本としてまとめていくにあたって自分の過去を振り返っていくと、それなりにいろんなことがあったなと思えて。楽しいことも苦しいことも忘れていた記憶が甦ってくることもたくさんありましたので、自分の過去なのになんだか新鮮さを感じたりもしました。

 

──自分の過去が新鮮というのは面白い感想ですね。普段、過去を振り返ることってあまりなさらないんですか?

 

三石 そうですね。仮に振り返ったとして、そこに何かいいことがあるわけでもないし、今さら身につくようなこともないのでは……? と思ってしまって(笑)。それよりは、常に前を向いていたい。もちろん、失敗したり痛い目に遭った時は反省し、同じことを繰り返さないように気をつけますけどね。

──でも、今回の本を拝読すると、過去にアドバイスをいただいた先輩の言葉や収録現場で感じた経験などが細かく描かれていますよね。

 

三石 自分の糧になっていることはすごく覚えているんです。けど、それは今も常に自分の中にあるものなので、過去を振り返ることとは少し違うんですよね。

 

──なるほど。今も自分の中で現在進行形で生き続けている記憶ですもんね。

 

三石 そうなんです。7、8年に一回くらいご褒美みたいな言葉をいただいて、その嬉しさでなんとか今日まで仕事してきた感じです。今回、自分の歴史を掘り起こす作業が思っていた以上に大変で(笑)。それでも、こうした機会がなければ過去を振り返ろうとも思わなかったですからね。今回、「本を作りませんか」と声をかけていただいて、本当に感謝しています。

 

──また、この『ことのは』にはご自身の軌跡だけでなく、仕事をする上でのさまざまなポリシーが書かれています。特に《自分は天才ではなく普通な人間だから常に努力していた》という仕事への姿勢は、多くの方に響くのではないかと思います。

 

三石 嬉しいです。そこは今回、私の生き方で浮き彫りになったことの一つでした。本の中では『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』で大きな役をいただいた時のことや、『美少女戦士セーラームーン』でヒロインを務めた時の心境、それに『新世紀エヴァンゲリオン』での庵野秀明監督とのエピソードがあり、こうした大きな作品が20代のうちに続いたので、その部分だけを切り取ると、とても順風満帆な声優人生を送っているように思えるかもしれません。でも、あくまで軌跡として並んでいるだけで、そのときどきは、次の仕事があるか分からず不安でしたし、目の前にある作品に対してコツコツと真摯に向き合うことしか、私にはできなかったんです。

 

──とはいえ、そうした姿勢の大切さは頭で分かっていても、継続していくのは大変だと思います。

 

三石 もちろん、ときには疲れてしまうこともありました。でもやっぱり、自分が好きで始めたことですし、運や巡り合わせがあっていただいたお仕事なので、しっかり向き合わないといけませんよね。そうじゃないと、神さまは運や巡り合わせをほかの人のところに持っていっちゃいますから。だからこそ、努力を怠らない。コツコツコツコツ練習をして、自分に何が足りないのかを見つけ、それを補っていく。そんなやり方しかできなかったし、そうしていないと怖かったんです。

 

──本の中でも、「真面目すぎる性格」と書かれていましたね。

 

三石 本当に(笑)。でも、こういう性格で本当に良かったと思いました。自分の真面目さは嫌いでもあるけど、その結果として今があるわけですし、こうして本を出すこともできたわけですから。

 

家族座談会は読んでほしい半面、ちょっと恥ずかしいですね(笑)

──コロナ禍になってからのアフレコ現場の在り方など、三石さんの憂いの思いなどを感じることができたのも興味深かったです。

 

三石 コロナ禍になり、キャストたちがスタジオに集まって一斉に収録することがほとんどなくなりました。自分の出演シーンだけを録ることを考えるとスケジュールが組みやすく効率的でプラスの面もありますが、やはり掛け合いでしか生まれないものってあるんですよね。海外とは違い、掛け合いの収録は日本独特の文化で、こうした習慣があったからこそ、胸に刺さるキャラクターのセリフが生まれ、日本のアニメは多くの人に愛され続けるものになってきていると思います。ここ3年の間にデビューした方たちはコロナ禍以降の収録方法がスタンダードに感じるかもしれませんが、役者が呼吸を合わせて作り上げていくことの面白さは、表現者の世界では改めて重要なことだったんだと思いました。最近は少しずつ緩和され、一回にスタジオに入る人数が増えてきたんですよ。

 

──また、《声優を目指すのであれば、声の技術だけでなく、役者としての基礎をしっかり学ぶことが必要》という考えも、なくしてはいけない普遍的な要素だと感じました。

 

三石 私が通っていた養成所の勝田声優学院の教えがそうでしたからね。そこで出会った仲間と劇団活動を始めて身につけたことは、すべて今の自分の礎になっています。それに当時は、収録現場に行くと役者魂が熱い方々と外画やアニメで共演できて、学ぶことがたくさんありました。

 

──なお、この『ことのは』の中には特別対談などいろんな企画も盛り込まれています。特に印象的だったものはありますか?

 

三石 一つはやはり豪華すぎるほどの方々からの寄稿です。ドラマで共演させていただいた北川景子さんや、『おるちゅばんエビちゅ』の原作者である伊藤理佐さん、それに『美少女戦士セーラームーン』の原作者・武内直子さんにも描き下ろしのイラストをいただいて。庵野秀明監督からのコメントもちょっとした当時のエピソード付きで嬉しかったですね。ほかにも(高山)みなみさんとの対談や、(高木)渉くん、森川(智之)くんとの同期対談でもいろんな懐かしいお話ができて楽しかったです。ただ、そうしたなかで、自分でも“これは貴重だぞ!”と思ったのが家族座談会! 家族4人で話している時はなんだか不思議な感じでした。私と弟はそれぞれ独立して家族もいますし、実家の両親といざ顔を合わせてお互いのことを話すなんてことはないですから。みんなで「なんかへんな感じだね」って照れくさくて。それに、私も知らなかった当時の両親や弟の思いなどもいくつか出てきたので、皆さんに読んでもらいたい半面、ちょっと恥ずかしい気持ちがあります。できれば、ササッと読んでください(笑)。

──(笑)。では、GetNavi webということで、普段、三石さんが収録スタジオなどに持っていく必須アイテムを教えていただけますか?

 

三石 私はほとんどこだわりがないほうなんです。台本とメガネとボールペンさえあればなんとかなります。ペンは文字が読みやすい黒色であれば何でも大丈夫。……というか、すぐに無くしちゃうのでこだわってる場合じゃないんですよね。いつも現場に置いてきてしまうみたいで。ですから、いつもネットでまとめ買いしたものを使っています。私にとってペンは、消耗品ではなく消滅品ですね(笑)。

 

──文房具自体にもあまり関心がないんですか?

 

三石 いえ、文房具は大好きなんです。お店に行って、「へ〜! こんなものがあるのかぁ〜」って便利なアイテムを見つけるのも楽しいですし。ただ、整理が下手なんですよね(苦笑)。今も自宅のパソコン近くにあるペン立てが大変なことになってます。“これ以上、もう入らない!”というぐらいパンパンの隙間にペンが刺さっている。毎年、年の瀬になるとザザーッと全部取り出して、まだ書けるかどうかをチェックするんですが、ほとんどが残ってしまって(笑)。三色のペンだと、「赤はもう使えないけど、黒のインクが残っているから取っておこう」って思うから全然減っていかない。何かいいアイデア、ありませんか?(笑)

 

──ボールペンであれば、なくなったインクの芯だけ入れ替えるという方法もあるかと。

 

三石 そんなマメな性格なら、そもそもペン立てにいっぱいにならない気が……(笑)。

 

──確かに(笑)。では、いっそのことペン立てを増やすという手は?

 

三石 あ、そっちですか! 盲点でした(笑)。でも、根本的な解決にはなってませんよね。やっぱりどこかで捨てる努力をしないといけないのかなぁ。

 

──(笑)。では、もう一つ質問を。今欲しい家電はありますか?

 

三石 ずっと欲しいなと思っているのが、油を使わないないフライヤー。唐揚げや油ものって家で作ると、調理後の処理が大変なんですよね。だからといって、外で買ってきたものを再加熱すると食感が変わってしまいますし。ノンフライヤーがあると便利だなと思っているんですが、どれを購入すればいいのかが分からず、結局今に至ってしまっています。これも、もしおすすめがあればどなたか教えてください!

 

 

「ことのは」

2023年3月27日(月)発売

発売元:主婦の友社
定価:1980円(税込)

※電子版もKindle、Google Play ブックス、Apple Books 、楽天Kobo、hontoほかにて同時発売

 

取材・文/倉田モトキ