品川ヒロシさんが自らの青春時代をベースに綴った小説「ドロップ」を、2009年の映画化に続いて、自身でWOWOWドラマ化。今回、主人公の信濃川ヒロシ役を演じるのは、ドラマ『ドラゴン桜』や大河ドラマ『どうする家康』などでも注目の若手実力派・細田佳央太さん。「リメイクではなくリブート」にこだわった品川監督の思い、初ヤンキー&初アクションに挑んだ細田さんの現場エピソードなどについて語ってもらいました。
【細田佳央太さん、品川ヒロシ監督撮り下ろし写真】
「やったことないから、やってみないと分からない」という気持ち(細田)
──ご自身の分身といえるヒロシ役に、品川監督が細田さんを起用された理由は?
品川 表情の作り方やしぐさなどが面白くもあり、しっかり男前な部分もある。それに長ゼリフで大立ち回りするシーンが多いので、演技力がしっかりした人じゃなければならない。それも含めて、実力派である細田くんを選ばせてもらいました。それで決まった後に、『ドラゴン桜』を見たんですが、「すごい俳優さんだなぁ」と改めて思いました。
──これまで演じてきた役のイメージからは程遠いヤンキーを演じることについて、細田さんはいかがでしたか?
細田 映画版が既にあって、今度はドラマ版を自分が演じるというプレッシャーはなかったんですが、自分がヤンキーを演じるという不安というか心配は、やはりありました。今までやったことのないタイプの役ですし、自分が生きてきた中でリアルに見たことがなかったですから。ただ、「やったことないから、やってみないと分からない」という気持ちもありました。
──品川監督から細田さんへのアドバイスは?
品川 そもそも、今回は映画版とは違うものにしたかったんです。あくまでもリメイクじゃなくてリブート。第1話から第2話にかけては映画版をなぞっている部分もあるんですが、第3話以降からは全く違うんですよ。漫画版や小説版のエピソードを盛り込んだり、ドラマ版のオリジナルストーリーも加えましたし。だから、細田くんには「映画版は観ない方がいい」と言いました。
ツッコミの音、その語感が気持ちいいというところも注目してほしい(品川)
──そう言われたときの細田さんの気持ちは?
細田 僕以外の役者、達也役の板垣(瑞生)くんにしろ、ルパン役の森永(悠希)さんにしろ、森木役の(林)カラスさんにしろ、ワン公役の大友(一生)さんにしろ、みんながみんな自分の人生を歩みつつ、役者の経験値も積んでいる方たちばかりなので、違う作品になって当たり前だと思っていました。だから、僕たち世代の狛江北中、僕たち世代の『ドロップ』になるんじゃないかと。
──ヒロシの絶妙なツッコミについて、品川監督はどんな演出をされたのですか?
品川 映画版のときは、もっと細かく「この間で言ってほしい」とか言っていたんですが、今回はそこまでお笑い芸人みたいなツッコミにしたくなかったんです。作品を撮るうちに、「僕のリアルとお客さんのリアルは違う」と思ったのがきっかけですね。普通に生活しているなかでは、そこまでツッコんだり、ツッコまれたいしないですから。クランクイン前は細田くんにレクチャーしましたけど、撮影が始まってからは、そこまでしていません。だけど、芝居にちゃんとツッコミの音は残っていて、その語感が気持ちいいというところも注目してほしいです。
──細田さんは、これまでにもコミカルな役柄を演じられていますが、今回の現場は違いましたか?
細田 ヒロシはツッコミが多い役柄なので、そこは台本読みのときに品川監督から丁寧に教えていただきました。これまでコミカルな芝居をやってきて、少しはセリフの間やテンポ感の知識みたいなものはありましたが、今回はコメディ作品のノリでやったらダメだったと思うんですよ。品川監督が実際にお手本をやってくださることもあって、そのニュアンスをたどっていきながら、少しずつできるようになりました。そう考えると、それがヒロシを演じるうえで、一番気を遣った部分かもしれません。
今まで本格的なアクションをやっていなかったことに助けられた(細田)
──ヤンキー作品ならではのアクションシーンについては、今回どのような方向性を目指されたのでしょうか?
品川 とにかくケンカのシーンが多いので、ずっと殴って蹴って、殴って蹴ってだけでは、見る人が飽きてしまうと思ったんです。それで、アクションにも一人ひとりにキャラ付けして個性を持たせました。例えば、ヒロシはとにかく弱いとか、達也は無茶苦茶するとか、ルパンだったら逃げるとか、ワン公だったら噛みつくとか。そうすることによって、一人ひとりにお芝居があるところを目指しました。
──細田さんは本格的なアクションが初めてだったと思います。
細田 ヒロシはヤンキーへの憧れから始まっているキャラなので、僕の場合は何もないというか、変にカタチ作られていない方がいいわけで、今まで本格的なアクションをやっていなかったことに助けられたところがありますね。常にケガしないように心がけましたが、それに関してはやりながら感触をつかんでいった感じです。
ずっと怒鳴っているだけなのにいいセリフに聞こえてきてグッときた(品川)
──ラスボスといえる最凶のヤクザ・片桐役で、映画版で森木役を演じられた波岡一喜さんが出演されています。
品川 森木をやったから波岡くんに出てもらったわけでもないんですが、狛江北中の5人というか、最終的には9人が向かっていくデカい存在じゃないといけないと思ったので、一世代上の役者さんということで、片桐役を波岡くんにお願いしました。彼に向っていく若い役者という構図や、今回森木をやっているカラスくんと波岡くんが現場で話している姿を見たりするとどこか感慨深いというか、お願いしてよかったですね。
細田 僕みたいなひよっこがベテランの方に向かっていく現場はこれまでも何度かあったので、今回も遠慮なく勉強させてもらう気持ちでぶつかっていきましたし、このタイミングでご一緒できて本当に良かったです。波岡さんからも映画版の撮影当時のお話も聞けましたし、いろんな意味で刺激になりました。
──ほかにも、刑事役の三浦誠己さんや達也の父親役で深水元基さんなど、過去にヤンキー映画に出演されていたベテラン陣との共演も見どころです。
品川 映画版で哀川翔さんとエンケン(遠藤憲一)さんがやられていたキャラクターで、僕も思い入れが強いシーン。あの化け物の迫力を出せる人ということでお願いしたので、三浦さんも深水くんもプレッシャーだったと思うんですよ。でも映画版にないシーンでも、どんどん面白くなっていったし、ずっと怒鳴っているだけなのにいいセリフに聞こえてきて、なんかグッときましたね。
細田 三浦さんも深水さんも、『ドロップ』の後の現場でもご一緒したんです。ボコボコにしてもらうぐらいの気持ちでぶつかっていって、お二人からもたくさん勉強させてもらいました。
品川 クライマックスのトンネルのシーンで、役柄と同じように三浦さんと深水くんが後ろの方で、細田くんたちを見ていて、「なんか、いいっすね」と言っていたんですよ。役者としてヤンキーものを卒業した2人が、そうやって俯瞰しているんだけど、そんななかで波岡くんが現役で頑張っているという(笑)。この瞬間も嬉しかったですね。
ぜいたくな作品で環境にも恵まれていました(細田)
──全10話の連続ドラマとしての見どころをお願いします。
品川 『異世界居酒屋「のぶ」』に続いて、今回もWOWOWのプロデューサーさんに「全話撮らせてほしいです」と無理を言わせてもらいましたが、ドラマになったから無理矢理エピソードを作ったというよりは、映画版の2時間の尺に収め切れなかったものを入れました。だからこれまでどおり、ヒロシと達也の友情を描きつつ、他の3人のキャラも色濃くなっていると思いますし、調布南中の赤城と加藤だったり、狛江西中のテルとジョーだったり、徐々に仲間が増えていく感じは意識しました。こんなことを言うのも変ですが、映画版とは全く別モノの「第3話」から見るのもアリかと思います(笑)。
──全話を同じ監督が演出されることについては、役者さんとしてはありがたいことですよね。
細田 監督が品川さんお一人なので、変な話、監督同士の擦り合わせなどで疑問に思うようなことが全くない。それにプラスして、全話撮り終えてからの放送というのも恵まれていました。基本、連ドラは放送しながら撮っていくスタイルなのでメリットもありつつ、どこか追われている感覚もあるんです。だから、よりぜいたくな作品で環境にも恵まれていました。
──お二人が現場に必ず持っていくモノやアイテムがあれば教えてください。
細田 僕はイヤホンとかiPhoneとか音楽を聴くものは、肌身離さず持っていきます。集中力を高めるためというか、電車移動しているときに周りの人の会話を聞いてしまいがちなので、それを塞ぐためのもので……特に病んでないです(笑)。
品川 僕はストレッチポールです。すぐ肩が凝るし、背中を伸ばしたくなるんです。あと、僕自身アクションをやることもあるので、撮影の合間とか、ナイター撮影の待ちのときには必ず使っています。
連続ドラマW-30「ドロップ」
WOWOWにて6月2日(金)午後11時より放送・配信スタート(全10話)
WOWOWプライム、WOWOW4K第1話無料放送/WOWOWオンデマンド無料トライアル実施中
【連続ドラマW-30「ドロップ」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督:脚本:品川ヒロシ
原作:品川ヒロシ「ドロップ」(リトルモア刊)
出演:細田佳央太、板垣瑞生、森永悠希、金城碧海(JO1)、波岡一喜 / 深水元基 ほか
(STORY)
ヤンキー漫画に憧れて「不良」になることを決めたヒロシ(細田)は、私⽴から公⽴の狛江北中へと転校する。そこで待ち受けていたのは、想像以上にハードな不良⽣活だった……。転校初日に不良グループのリーダー・達也(板垣)から呼び出され、早速ケンカをすることになるも、達也に完膚なきまでに叩きのめされ、刑事の荒牧(三浦誠己)にも捕まってしまう。そんなヒロシだったが、達也やルパン(森永)、森⽊(林カラス)、ワン公(大友一生)からケンカを通じて仲間の⼀員と認められ、ヒロシはその得意の口ゲンカとハッタリを武器に、不良たちとケンカの日々を送っていくことに。近隣の狛江⻄中の不良グループの襲来、そして隣の調布からは調布騎兵隊の登場、さらには最強のヒットマン(金城)!? から元ヤクザ(波岡)まで、ヒロシの相当ハードな不良⽣活が続く……。
撮影/映美 取材・文/くれい響