『ミッドナイトスワン』の内田英治監督と『さがす』の片山慎三監督が共同監督を務める『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』が6月30日(金)より公開します。主人公・マリコを演じるのは、来春のNHK連続テレビ小説「虎に翼」でヒロインを務めるなど、ドラマ・映画と出演作が続く、伊藤沙莉さん。新宿・歌舞伎町を舞台に、行方不明になった地球生命体を探すバーテンダー兼探偵というブッ飛んだキャラを演じる伊藤さんに、撮影エピソードや女優としての醍醐味など伺いました。
【伊藤沙莉さん撮り下ろし写真】
魅力的な2つの職業を同時にできたことでお得感があって嬉しかった
──5月に公開された『宇宙人のあいつ』に続き、奇しくも“宇宙人”がキーワードになっています。
伊藤 企画の立ち上げでいえば、『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(以下、『マリコ』)の方がずっと前なんです。かれこれ5年ぐらい前から動いていたんですが、その頃は宇宙人の話になるとは聞いてなかったんですよ。その後、いろいろあって……撮影は『マリコ』が先だったんです。
──『宇宙人のあいつ』の飯塚健監督も、『マリコ』の内田英治監督も、以前から伊藤さんを起用してきた恩師ともいえる監督なのも興味深いですよね。
伊藤 飯塚さんと内田さんは友人同士でもあるんですけど、さすがに「なんで、ここに来て宇宙人被りしているんだ!?」と思いました(笑)。劇場公開のタイミングまで一緒になったことには、本当にビックリです!(笑)
──今回演じられた新宿にある小さなバーのバーテンダーで、探偵であるマリコというキャラクターについてはどう思われましたか?
伊藤 私にとって魅力的な2つの職業を同時にできたことで、お得感があって嬉しかったです。もともとスナックやバーの雰囲気が好きで、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』や『すずめの戸締まり』ではスナックのママやチーママをやらせてもらっているんですよ。それに『探偵はBARにいる』のような探偵ものも好きで、志村(けん)さんの助手役をやらせていただいたドラマ(「志村けんin探偵佐平60歳」)も楽しかったんです。マリコには助手がいない設定ですが、あえて一人でやっている感じもかっこよかったです。
どこか演劇をやっているような楽しさも
──まさに内田監督による当て書き&ハマり役といえますが、演出に関しては、伊藤さん長編初主演映画『獣道』のときとの違いは?
伊藤 内田さんは『獣道』のときとは……全くの別人でした(笑)。優しく寄り添ってくれるような感じで、とにかく丸くなった感じ(笑)。私もこれといった役作りもしませんでした。コロナ禍とはいえ、歌舞伎町で撮影できましたし、舞台となるバー「カールモール」も実在している店内で撮影できました。とてもぜいたくな現場で楽しかったです。
──伊藤さんも出演された「全裸監督」では助監督を務めていた片山慎三監督が、本作では共同監督で参加しています。
伊藤 監督としての片山さんとご一緒したい気持ちが強かったので、「なんてぜいたくでありがたい機会なんだ!」と思いましたね。片山さんは『さがす』や『岬の兄妹』のようなハードな作風の作品を撮る方とは思えないぐらい優しい方で、こっちが恐縮するぐらい腰が低くて驚きました。それにいろいろとキャラの濃い人たちと交わりながら群像劇を作っていく、どこか演劇をやっているような楽しさもありました。
──とはいえ、ほとんどのキャストが初共演だったということで、以前からおっしゃっていた人見知りは出ませんでしたか?
伊藤 スナックやバー独特の話しかけたくなるような雰囲気もありましたし、マリコは基本バーカウンターの中にいるので、その設定に助けられたような気がするんです。本当のママのように、入れ替わり立ち代わりやって来るお客さんをもてなして、捌いていくような気分でした(笑)。内田さんの映画らしい自由度の高いシーンもありますし。
休憩中の竹野内さんの真摯な姿に感動しつつ、不思議な空気感に笑いを堪えていました
──自称忍者・MASAYA役の竹野内豊さんとの撮影現場でのエピソードは?
伊藤 竹野内さんは、とても不思議な魅力をお持ちの方。休憩時間にふと気づいたら、真剣に忍術指導の先生と会話をされている竹野内さんがいらっしゃったんです。「ここができないんですよ」と真剣に質問されていて、まるで本当に忍者修業をしているお弟子さんのようで……。そのあまりに真摯な姿に感動しつつ、不思議な空気感に笑いを堪えていました。
──内田監督・片山監督が各3話を演出。全6話で構成されていますが、お気に入りのエピソードを教えてください。
伊藤 どのエピソードも面白かったのですが、そのなかでも北村有起哉さんが演じた落ちぶれたヤクザと行方不明の娘さんとのエピソード(「鏡の向こう」)が一番好きですね。どうしようもできない、救いようもない感じに泣きました。北村さんの娘役を舞台版の「幕が上がる」と「転校生」で一緒だった藤松祥子さんがやっていて、好きな女優さんなんです。今回は久しぶりの共演で、残念ながら一緒のシーンがなかったんですが、そういう特別な思いもあって好きですね。
「今日は宇宙人と一緒だ」とか、よく分からない愛着がわいてきました(笑)
──他にお気に入りのキャラはありましたか? また宇宙人との共演はいかがでしたか?
伊藤(「姉妹の秘密」に登場する)殺し屋姉妹というか、妹さんの彼氏を含む、三角関係が好きですね(笑)。3人の、宇宙人よりもファンタジーな設定が意味不明すぎて面白かったです。あと、宇野祥平さんがバスケットケースの中に入れた宇宙人を運んでいるんですが、実際には箱の中に何も入っていないんですよ。でも、撮影が進むにつれて、「今日は宇宙人と一緒だ」とか、よく分からない愛着がわいてきました(笑)。
──7月から放送のドラマ「シッコウ!!~犬と私と執行官~」に続き、日本初の女性弁護士を演じる24年放送のNHK連続テレビ小説「虎に翼」に主演。宇宙人に続いて、今度は法を司るリーガル系の役が続きます。
伊藤 前々から同じクールのドラマで、同じ題材やテーマが扱われることが不思議だなぁと思っていたんですよ。いろんな方のアンテナの張るタイミングだったり、前から温めていた企画がたまたま重なっただけだと思うんですが、今の私はまさにその渦中にいる感じです(笑)。ファンタジーから、リアルと、ふり幅はすごすぎますが、それでこそ私が目指していた幅広い役を演じられる女優さんに近づいているようで光栄ですね。
探偵マリコの生涯で一番悲惨な日
6月30日(金)より全国ロードショー
【映画「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督:内田英治、片山慎三
脚本:山田能龍、内田英治、片山慎三
主題歌:Da-iCE「ハイボールブギ」(avex trax)
出演:伊藤沙莉
北村有起哉、宇野祥平、久保史緒里(乃木坂46)、松浦祐也
高野洸、中原果南、島田桃依、伊島空、黒石高大、
真宮葉月、阿部顕嵐、鈴木聖奈、石田佳央、
竹野内豊
(STORY)
新宿歌舞伎町にある小さなバー「カールモール」のカウンターに立つ、27歳の女・マリコ(伊藤)。さまざまなワケあり常連客を相手にする一方、「新宿探偵社」の探偵としての顔も持つ彼女のもとに、ある日FBIを名乗る3人組から「アメリカへの移送中に連れ去られた地球外生命体を捜してほしい」という、謎の依頼が舞い込む(「歌舞伎町にいる」)。ほか、全6エピソードから完成するコラボレーション・スタイル。
(C)2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会
撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/岡澤愛子 スタイリング/吉田あかね