エンタメ
2023/8/20 21:00

「未知な部分が大きい」俳優・福地桃子、初舞台『橋からの眺め』への思いを語り尽くす

2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13 人』(NHK)で、北条泰時の妻・初役を演じ大きなインパクトを残した若手俳優の福地桃子さん。6月には準主役として、俳優・國村隼さんの孫役を演じた映画『青と白』が上海国際映画祭でプレミア上映されるなど話題に事欠かない。

福地桃子●ふくち・ももこ…1997年10⽉26⽇⽣まれ、東京都出⾝。2019年の連続テレビ⼩説『なつぞら』(NHK)に夕見子役で出演し注目を集める。2023年にはドラマ『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)を皮切りに、同時期のドラマ『それってパクりじゃないですか?』(日本テレビ)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK BSプレミアム)など続々と出演している。XInstagram

 

そんな福地さんが、キャリア初の舞台作品となる『橋からの眺め』(9月2日開演)に挑戦。福地さんは伊藤英明さん演じる主人公・エディの姪役で、重要な役どころとなっている。今回は、映画『青と白』の制作当時の話に加え、『橋からの眺め』での舞台デビューに懸ける思いをたっぷりと語ってもらった。

 

【福地桃子さん撮り下ろし写真】

 

「國村隼さんの気さくで素敵なお人柄に救われました」

 

──出演作続きで活躍されている福地さん。先日は映画『青と白』が上海国際映画祭でプレミア上映され、話題になっていましたね。

 

福地 作品が様々な場所で上映され、大変うれしく思いました。日本らしい雰囲気を海外の方にも感じていただけていたら良いなと思っています。

 

──日本ではまだ公開されていませんが、『青と白』はどのような作品なのでしょう?

 

福地 妻を失くしてしまった昔気質の塩職人が、自らの仕事や家族と向き合う姿を描いた物語です。塩職人の役を國村隼さんが演じられ、私はその孫娘という役柄でした。撮影自体は1年以上前に行いました。ドラマとはまた違って、季節を巡ってから皆さんの元に届くという、映画独特のリズムをしみじみと感じているところです。

 

──完成作品をご覧になった感想を、ぜひ聞かせてください。

 

福地 撮影から少し時間が経っていましたが、見た瞬間に当時の土地の空気や過ごした時間が強く思い起こされました。撮影時の肌感覚がよみがえってくるというか。そういった現地の雰囲気を感じ取れる作品になっているのではと思います。

 

──なるほど。その場にいるような感覚になると。

 

福地 はい。日本ではない別の場所で上映された時も、日本の空気や、職人さんの仕事や伝統を感じ取ってもらえるんじゃないかと。それが伝わっていたらいいなと思いました。

 

──祖父役の國村隼さんとは、ご共演されていかがでしたか?

 

福地 初めて共演させていただきましたが、気さくで素敵なお人柄に、とても救われました。作品では、すごく繊細なやりとりや心の動きが描かれます。そのため短い撮影期間中に、祖父と孫という関係を作らなくてはいけないのですが、國村さんが明るく話しかけてくださって。

 

──素敵ですね。

 

福地 ご一緒できて本当にうれしかったです。撮影自体も全編ロケで、実際に海の近くにある塩工房をお借りして撮ったので、美しい塩を作りながら本当に一緒に生活しているような感覚でした。画がある映像になっていると思います。

 

──それは楽しみです。ほかに、観客にはどんなところに注目してほしいですか?

 

福地 作品を観たときの感想として土地のにおいを感じました。風景を見つめて想像してもらい楽しんでほしいですね。亡くなったおばあちゃんとの思い出や関係性を知り見えてくる、おじいちゃんの知らない一面も感じ取れるような気がしました。映画を見ながら、大切な人と過ごす時間について、あらためて思い出していただけたらいいなと思います。

 

初の大舞台に「眺めは一体どんな感じなんだろう」

 

──9月2日から東京芸術劇場プレイハウスで開演となる『橋からの眺め』は、20世紀を代表するアメリカの劇作家アーサー・ミラーの作品で、ブロードウェイなど世界各地で上演されてきた名作です。初めての舞台を前に、今のお気持ちは?

 

福地 これまで自分が足を運んで、お客さんとして舞台を見ることはありましたが、今度は逆の立場になるわけで。舞台からの眺めは一体どんな感じなんだろうと、未知な部分が大きいです。

 

──舞台からの眺めは、本番になるまで分からないですもんね。

 

福地 はい。その場の空間を作るのは、そこにいる全員だと思っています。大きくみたら同じ場所なのに、立つ場所が変わるだけで空気が全く違うものになるかもしれない。今は、お客さんと一緒に作る舞台ならではの一体感を楽しみにしながら、観客の皆さんにもそこを楽しんでほしいなと想像しています。

 

──その点、映像作品より緊張感がありますか?

 

福地 公演ごとのお客さんの反応や温度感が、きっと自分にも影響があり、その都度お客さんとコミュニケーションを取りながら進めていくことになる。そこに緊張を感じつつも、とてもワクワクする部分でもありますね。

 

──当日が楽しみですね。脚本を読んでみていかがでしたか?

 

福地 この物語では、夫婦や兄弟、親戚などの関係を持つ登場人物たちの人間味あふれるやりとりの中で、 衝撃的な展開が次々と起こります。私は一度読み終えた後に、希望なのか喪失感なのか、言葉では表せない感情を受け取りました。また、きっと読むたびに変わっていく感情なんだろうな、と思いました。

 

──戯曲は1950年代のアメリカ・ブルックリンを舞台にしたお話ですが、観客はどういったところに感情移入したり、共感を持ったりするのでしょうか?

 

福地 近しい人との会話のやりとりの中で、微妙な“ズレ”が生まれることがありますよね。あとから振り返ると気がつくこともあるけれど、何気なく過ぎていってしまうズレもあると思うんです。それが今回、この作品で悲劇として描かれているポイントで、ものすごく深い意味があるところなのではと思っています。人間が持つ泥臭さが現れ、皆さん共感できる部分があるんじゃないかなと。

 

──なるほど。いつの時代も変わらない普遍的な部分なのかもしれませんね。

 

福地 だからこそ、この戯曲がブロードウェイをはじめ、さまざまな場所で演じられ続けてきたゆえんなのではないか、と感じました。

 

「登場人物誰一人、悲劇だと思って演じないでほしい」

 

──今回、演出を担当するのは英国内外で高い評価を受けている演出家のジョー・ヒル=ギビンズさんです。ジョーさんとの顔合わせで何かアドバイスはもらいましたか?

 

福地 舞台が始まる前のアドバイスのようなものではなくて。ジョーさんがこれまで手掛けてきた数々の舞台で起きたハプニングなど、楽しかった出来事をお話してくださったんです。こんな事件があったけどお客さんは笑っていたよ、とか。未知な領域への興味を広げてくださり、のびのびとした気持ちで稽古に臨めたらと思えたので、とても心強かったです。

 

──素敵な方ですね。ほかの出演者の方とは、もうお会いされましたか?

 

福地 まだですね。作品などでお会いしたことのある方もいらっしゃいますが、長い時間をかけてご一緒させてもらうのは初めての方が多いです。稽古の中で皆さんの人柄を知れる時間があると思うので、家族として少しずつパーソナルな部分を知って作品を作れればと思います。

 

──稽古が楽しみですね。

 

福地 坂井真紀さんとは、ひとつのシーンですがドラマの現場でご一緒させていただいたので、ジョーさんとお会いした時のお話ができました。ジョーさんの言葉で、「登場人物誰一人、このお話を悲劇だと思って演じないでほしい」と言っていたのが強く印象に残っていて。なんだか普通のように思えるのかもしれませんが、良い方向へ向くように歩いて行く気持ちを最後まで持ち続けることを大切に、作品に向き合おうと考えました。

 

──福地さんの軸となる言葉を、坂井さんに伝えられたのですね。

 

福地 はい。始まる前と始まってからとでは言葉の印象がまた変わると思うので、なるべく受け取ったときのままお伝えできたらいいなと思った言葉でした。すると坂井さんは「その話を聞けて良かった」と言ってくださったので、「あぁ良かったなぁ」と思いました。

 

──福地さんは、共演者の方との関係づくりを大切にしている印象を受けました。

 

福地 なるべくですが。心がけていることは、普段から“この人に伝えたい”ということがあったら、新鮮な気持ちのまま伝えようと思っています。もともと自分の言葉を伝えるのが得意だった訳ではないですが、関係性をより良いものにするために、思いを伝えることは大切にしたいなと考えています。

 

赤チェックの水筒から生まれた異文化交流

 

──GetNavi webでは、皆さんに今ハマッているモノをお聞きしているのですが、撮影現場に持って行ったり、重宝したりしているモノはありますか?

 

福地 最近、毎日暑いので水筒を持ち歩くようにしています。赤いチェック柄の水筒ですね。

 

──あ~、かわいいですね!

 

福地 丈夫なのでどこでも持ち歩けますし、大容量で気に入っています。

 

──使いやすそうですね。

 

福地 実は、この水筒に1つエピソードがあるんです! 仕事で出会った海外の方が、この水筒のチェック柄を指差して、声をかけてくれたんです。どうやらその方の母国では、チェック柄に親しみがあるようで。チェックにまつわる文化を教えてくれました。たまたま持っていたアイテムで、交流ができたのがうれしかったです。さらに愛着がわきました。

 

──素敵ですね。公演がある9月も暑いと思いますので、まだまだ重宝しそうですね。それでは最後に、『橋からの眺め』を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 

福地 私が演じさせていただくキャサリンは、子どもでも大人でもない年代の女の子です。正しい選択とは何かに悩み、とても複雑な思いを抱える役ですが、一方で、起きる物事を一番純粋に捉えているキャラクターでもあります。私もキャサリンの年齢だったころの気持ちを引き出して演じるので、皆さんにも、この家族に起きていることを純粋な目線で見つめてもらいたいです。

 

また“家族みんなが同じ方向を向いている”と思っていても、思わぬ事態が起きたり、思わぬ展開になったりと、想像してなかったことが発生するのは、日常生活でもあることだと思います。それでも、それぞれが真剣に生きている。皆さんが、この作品のどこかに共感を覚えつつ、何か受け取ってもらえたらいいな、と思います。

 

PARCO PRODUCE 2023『橋からの眺め』

【東京公演】東京芸術劇場 プレイハウス
2023年9月2日(土) 〜2023年9月24日(日)
チケット料金:S席1万1000 円、A席9000 円 ほか
※スマホアプリ「パルステ!」および各プレイガイドで発売中

【北九州公演】J:COM北九州芸術劇場 大ホール
2023年10月1日(日) 13:00開演

【広島公演】JMSアステールプラザ 大ホール
2023年10月4日(水)18:30開演

【京都公演】京都劇場
2023年10月14日(土) 〜2023年10月15日(日)

 

(STAFF&CAST)
作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明、坂井真紀、福地桃子、松島庄汰、和田正人、高橋克実
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/aviewfromthebridge
企画・製作:株式会社パルコ

 

撮影/映美 取材・文/kitsune ヘアメイク/秋鹿裕子(W) スタイリング/GOTO KANAE