現在放送中のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」がドラマデビュー作ながらも、新人離れした演技力が大きな話題を呼んでいる黒崎煌代さん。現在公開中の「さよなら ほやマン」でも映画デビュー作にしてメインキャストを務め、生まれつき障害がある主人公の弟という難しい役柄を、明るく爽やかに好演しています。いま最も注目される新星に、2作品の撮影エピソードや、俳優になるきっかけなどについて聞きました。
【黒崎煌代さん撮り下ろし写真】
趣里さんは実の弟のように接してくれた温かい方
──朝ドラ「ブギウギ」で主人公の趣里さん演じる鈴子の弟・花田六郎を演じて話題を呼んでいますが、これが俳優デビュー作になるんですよね。
黒崎 事務所に入って半年ぐらいで受けたオーディションだったんですけど、どうせ落ちるだろうなと思っていたので、合格と聞いたときはビックリして、どっきりかと思いました(笑)。ドラマのオーディション自体が初めてのことだったので、事の大きさも分かっていなかったです。
──選ばれた理由は聞きましたか?
黒崎 “ピュア”さと言われました。そんなこと言われたこともなかったし、僕自身もピュアだとは思っていないのでピンとこなかったですけど。
──出演が発表されたとき、周囲の反応はいかがでしたか?
黒崎 ほとんど連絡を取っていないような人からも「おめでとう」って連絡がありましたし、すごい影響力を感じました。ただ親に関しては、「どうして事務所に所属して半年で朝ドラに出られるの?」というのが第一声で。もちろんうれしいんでしょうけど、息子がうまくいきすぎているから、逆に心配だったみたいです。
──花田六郎を演じる上で、どんなことを意識したのでしょうか。
黒崎 六郎は拾ってきた亀をペットにして、いつも一緒にいるぐらいピュアで好奇心旺盛な男の子。僕も一つのことにのめり込むタイプなので、自分自身の好奇心を拡張させて演じました。
──現場の雰囲気はいかがでしたか?
黒崎 とにかく楽しかったです。聞いたところによると、大阪制作の朝ドラは、いつも以上に和気あいあいとした空気になるそうなんです。というのも東京だったら現地で集まって解散ですけど、みんなが同じホテルに泊まって、一緒にご飯に行くことも多かったので、自然と仲良くなれるんです。キャストの皆さんは僕が新人ということもあってNGを出しても笑ってくださって、優しく包み込んでくれました。
──朝ドラは撮影期間も長いので、一体感がすごいとよく聞きます。
黒崎 そうなんですか? まだドラマの現場は一本だけなので、他の現場が分からないんですが、デビューが朝ドラで良かったなと思います。
──六郎の家族を演じた俳優さんの印象をお聞かせください。まずは主人公の趣里さん。
黒崎 実の弟のように接してくれて、何度もご飯に連れて行ってくれて、とても温かい方でした。朝ドラのヒロインで大変なことも多いのに、全員に気を配っていて、ザ・座長ですね。お芝居もすご過ぎます! たとえば泣くシーンを何度も何度も画角を変えて撮るんですけど、その度に同じタイミングで涙を流すんです。
──父親・梅吉役の柳葉敏郎さん、母親・ツヤ役の水川あさみさんはいかがでしたか。
黒崎 お二人とも裏表がなくて、ものすごく優しく接してくださいました。柳葉さんはよく笑わせてくれましたし、水川さんがいるからこそ和気あいあいとした空気が作られていて現場のキーマンでした。
──錚々たる役者さんが揃う中でお芝居をするプレッシャーは相当なものだったのではないでしょうか。
黒崎 最初は緊張で手が震えて、それを抑えるだけで必死でした。でも周りの方のおかげで徐々に慣れていって、早い段階で溶け込むことができました。
MOROHAのアフロさんは根っからのエンターテイナーで、生きるパワーがすごい
──映画「さよなら ほやマン」もオーディションで決まったそうですね。
黒崎 初めて受けたお芝居のオーディションでした。
──それでメインキャストに選ばれるってすごいですね。
黒崎 運命を感じましたし、ありがたかったですね。
──シゲル役を決めるオーディションだったんですか?
黒崎 そうです。オーディションの段階では、もっとシゲルは重い障害を抱えていたんです。だから事前準備として自閉症に関する本を読んだり、「さよなら ほやマン」のストーリーラインが「ギルバート・グレイプ」という映画とコード進行が一緒なので、久しぶりに観返したり。「ギルバート・グレイプ」で重い知的障害のある弟を演じたのがレオナルド・ディカプリオなんですけど、何回も観返すとディカプリオになってしまうので、参考程度にとどめて。現場では監督とディスカッションしながら、シゲルをチューニングしていきました。
──撮影は宮城県石巻の離島で行われたそうですね。
黒崎 石巻から船で30分ぐらいの場所にあって、のどかで良い島でした。本当に何もないんですけど、そこがいいんですよね。撮影期間は3週間だったんですが、一度も島から出なかったです。
──島で買い物をすることもなく?
黒崎 なかったです。だから島では1円も使わなかったです(笑)。
──3週間という撮影期間はいかがでしたか?
黒崎 体感としては一瞬で、とにかく楽しかったです。おそらくスタッフさんたちは大変だったと思うんですけど、僕たちには見せないようにしてくれていたのかなと。
──メインキャストの3人は初めて尽くしなんですよね。
黒崎 主演のアフロさんは俳優初挑戦で映画初主演、呉城久美さんは初ヒロイン、僕も映画初出演。庄司輝秋監督もこれが長編デビュー。だからプロデューサーの方は心配だったらしいですけど、庄司監督のチャレンジ性を買ったんでしょうね。それに津田寛治さん、松金よね子さんとキャリアも実力も絶対的な方々がいたので、やりがいのある現場でした。
──アフロさんも黒崎さんも映画初出演とは思えないほど堂々たる演技で、お二人は本物の兄弟のようなリアリティーがありました。
黒崎 島に行く前に、アフロさん、呉城さん、僕の3人で何度もリハーサルをやりましたし、ご飯にも一緒に行って。仲は深くなってからの島入りだったので、やりやすかったのはあります。島の宿舎でも、1階のホールに3人で集まって練習しましたしね。
──アフロさんの印象はいかがでしたか。
黒崎 漁師役ということで、小型船舶の免許を取得して、素潜りのスクールにも通ったそうで、役への入り込み方がすごかったです。撮影以外でもずっと人を楽しませたくてしょうがないといった感じで、よくそんな力が残っているなと感心しました。島にいる間に曲も一曲作っていましたしね。あとは美術部、衣装部など各部署の方々に好きなものを聞いて、こっそりネットで島まで取り寄せて、それをサプライズでプレゼントするんです。根っからのエンターテイナーで、生きるパワーがすごいなと。
──ひょんなことで兄弟と共同生活を送る漫画家の美晴を演じた呉城さんの印象は?
黒崎 初ヒロインとはいえ、演技経験は豊富な方なので、我々のむちゃくちゃな芝居を受け入れてくれて、分かりやすくアドバイスもくださって、とても優しい方でした。
──庄司監督の演出はいかがでしたか。
黒崎 わりとリハーサルのときから好きなようにやらせてくれて、現場で細かい指示はなくて、委ねてくれました。ただ撮影始まった当初は毎晩LINEで「今日はどうでした?」とか「素晴らしい演技でした」とか気遣って励ましてくれて、それが支えになりました。
──ちなみに、ほやは好きですか?
黒崎 そもそも、ほやという存在も知らなくて、初めて島で食べたんですけど、大好きになりました。獲れたてのほやを海水で洗って、そのまま刺身で食べて、たまらなかったですね。蒸しほやや焼きほやも食べましたけど、生が一番です!
恥ずかしいけどラブストーリーをやってみたい
──この世界に入ったきっかけを教えていただきたいんですが、どうして「レプロ主役オーディション」に応募したのでしょうか。
黒崎 中学生の頃から、将来は映画に関係する職業に就きたいなと思っていて。ずっとVFXに関心があったんですけど、大学生になって、まずは実際に行動してみようと。それで、たまたまInstagramのストーリーでオーディションを見つけて応募しました。
──映画に興味を持ったのは誰かの影響ですか?
黒崎 父が映像関係の仕事をしていたのもあって、小さい頃から父と一緒に映画を観ていて、映画は身近なものでした。中学生になると自主的に大量の映画を観るようになって、高校時代は気の合う友達と脚本を書いたり、撮影をしたりしていました。
──最初にハマった映画は覚えていますか?
黒崎 「スターウォーズ」シリーズです。そこで特殊メイクに興味を持って、キャラクターの物まねなんかもしていました。
──「スターウォーズ」の物まねをしても、同級生には伝わらないですよね。
黒崎 全く学校では伝わらなかったですね。みんなが仮面ライダーごっこをする中、僕はクリスマスプレゼントでもらったライトセーバーのおもちゃを持って、ダース・ベイダーやダース・モールのまねをしているわけですから(笑)。
──映像に興味を持ってからは、それ以外の道はあまり考えずに?
黒崎 考えられなかったですね。
──それは家族にも伝えていたんですか?
黒崎 伝えてなかったです。事務所のオーディションも合格してから事後報告でしたし、親は僕が俳優になるのも賛成ではありませんでした。「さよなら ほやマン」の出演が決まった後も、「そろそろ就職活動もしないとね」みたいなことを仄めかされていて。「ブギウギ」の出演が決まって、ようやく「頑張ってみなさい」と認めてもらいました。
──大学も映画に関わる専攻ですか?
黒崎 全く関係なくて、法律を学んでいます。なぜかと言うと、YouTubeやSNSに無断で映画やドラマを切り抜きしてアップロードして問題になっているじゃないですか。そういった著作権の問題を、ちゃんと学びたかったんですよね。
──高校時代にオーディションを受けようとは思わなかったんですか?
黒崎 そうですね。兵庫県にいましたし、友達と一緒にもの作りをすることで満足していたんですよね。たまたま東京の大学に受かったので上京しましたけど、それほど東京に行きたいという気持ちも強くなかったんです。
──上京して生活は一変しましたか?
黒崎 大学1年生のときは、いろんな映画館に行って映画を年間300本ぐらい観まくって、観た映画を脚本に書き起こす日々でした。コロナ禍というのもあってサークルにも入らなかったので、たくさん時間があったんです。
──事務所に所属したのは2022年5月で、大学2年生のときだったそうですが、それまでお芝居経験はあったんですか?
黒崎 全くの未経験でした。
──それで、よく「ブギウギ」と「さよなら ほやマン」のオーディションに合格しましたよね。どうして合格できたと自己分析しますか?
黒崎 まだまだ自分の演技が良いとは思えないんですが、おそらく映画はたくさん観ているほうだと思うんです。いろんな役者さんの動きを研究していましたし、小学生の頃から鏡の前で物まねをして遊んでいました。だから初めて人前で演技をしたときも恥ずかしさは一切なかったです。まあ頭のネジが飛んでいるだけかもしれないですけど(笑)。
──特に物まねをした役者は誰ですか?
黒崎 ライアン・ゴズリングですかね。
──事務所に所属して生活に変化はありましたか。
黒崎 あまり変わらないです。一つ挙げるとしたら、これから邦画に関わっていく人間なので、より邦画を観るようになりました。去年は邦画の歴史を意識しながら、新旧の作品をたくさん観たんですが、特に印象的だったのが「清作の妻」(1965年)で、僕の中では邦画No.1です。
──増村保造監督作品ですよね。
黒崎 「妻は告白する」(1961年)も最高でしたけど、増村監督は画作りがすごいんですよね。比較的に最近の邦画で言うと「シン・ゴジラ」(2016年)も面白かったです。
──ワークショップにも通っているそうですね。
黒崎 まだお芝居初心者なので、基礎を学べる大事な場所ですし、めちゃくちゃ勉強になります。ただ全て鵜呑みにするのはどうかなと思っていて。もちろん、ちゃんと言われたことをやるのも真面目で素晴らしいことですけど。そういうのを見ると逆張りしたくなる性格なんですよね(笑)。
──今後出演したいジャンルは何ですか?
黒崎 恥ずかしいんですけど、ラブストーリーをやってみたいです。いわゆるキラキラ系じゃなくて、たとえばリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」(1995年)のように奥の深いラブストーリー。あとはジム・キャリーやベン・スティラーといった役者が大好きなので、コメディにも出たいです。でも今は、どんな作品でもチャレンジしたいですね。
連続テレビ小説「ブギウギ」
NHK総合【毎週月曜~土曜】 午前8時~8時15分(*土曜は一週間を振り返ります)
BSプレミアム【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
BS4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
(STAFF&CAST)
脚本:足立紳、櫻井剛
主題歌:「ハッピー☆ブギ」中納良恵、さかいゆう、趣里
音楽:服部隆之
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
出演:趣里、水上恒司/草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/boogie/ts/NLPYVZYM29/
公式Instagram:https://www.instagram.com/asadora_bk_nhk/
公式X:https://twitter.com/asadora_bk_nhk
さよなら ほやマン
全国公開中
【映画「さよなら ほやマン」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本:庄司輝秋
音楽:大友良英
エンディングテーマ:BO GUMBOS「あこがれの地へ」(EPIC RECORDS)
アニメーション:Carine Khalife
出演:アフロ(MOROHA)、呉城久美、黒崎煌代
津田寛治 / 園山敬介、澤口佳伸 / 松金よね子
(STORY)
豊かな海に囲まれた美しい島で、一人前の漁師を目指すアキラ(アフロ)は、「ほや」を獲るのが夏の間の仕事だ。船に乗ることができない弟のシゲル(黒崎煌代)と2人、島の人々に助けられてなんとか暮らしてきたが、今も行方不明の両親と莫大な借金で人生大ピンチに直面中。そんな折、都会からふらりと島にやってきたワケありっぽい女性、漫画家の美晴(呉城久美)が兄弟の目の前に現れた。「この家、 私に売ってくれない?」その一言から、まさかの奇妙な共同生活が始まる。3人のありえない出会い、それは最強の奇跡の始まりだった。
公式サイト:https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html
公式X:https://twitter.com/hoyaman_movie
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撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕