『ペンギン・ハイウェイ』や『泣きたい私は猫をかぶる』など話題作を世に送り出してきたスタジオコロリドの待望の長編アニメ・映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』が現在公開&配信中。人間と鬼の世界を舞台に、少年少女の冒険や旅の先々で経験する大人たちとの交流など、多くの世代の心に響く内容となった本作。W主演を務めた小野賢章さん、富田美憂さんにキャラクターたちの魅力、アフレコの様子などをたっぷりうかがった。
【小野賢章さん&富田美憂さん撮り下ろし写真】
柊とツムギは足りない部分を補い合っている、互いに大切な存在
──この作品は“誰かに必要とされたい”と願う高校1年生の柊と、消えた母親を探している鬼の少女・ツムギの冒険譚です。お2人はご自身の役にどのような印象を持ちましたか?
小野 柊には親友と呼べる存在がいないんですよね。でもそれは引っ込み思案だからとか、そういうわけでもなくって。友達を作る行動はしているけど、どこか空回りしてしまっている。空気を読み過ぎて、相手の懐にあと一歩入り込めない男の子という感じがしました。
富田 ツムギにはたまに周りが見えなくなるところがありますけど、柊は逆に見過ぎちゃうんでしょうね。でも、柊には客観的に自分以外を見られる良さがあるし、精神的に大人だなと思いました。
小野 確かに。ただ、柊にはツムギのように初めて会う相手や大人に対してガツガツと言えるところがないから、柊からすれば、ツムギのほうが大人っぽいと感じているかもしれないですね。
──富田さんから見てツムギはどんな女の子ですか?
富田 鬼であるというところ以外は至って普通で、年相応の天真爛漫さがある子だなと思いました。賢章さんがおっしゃったように、自分の思ったことをハッキリと口に出せるタイプですし、きっと頭で考えるよりも先に行動に移せてしまう子なんだと思います。
──確かに2人が出会ったばかりの頃は、なかなかすぐに行動に移せない柊に対し、ツムギがちょっとモヤモヤしているところがありましたよね。
富田 そうなんです。“なんではっきり言えないの?”っていう苛立ちみたいなところもあって(笑)。ただ、柊は大人と会話をするときにちゃんと敬語を使うけど、ツムギは“敬語が苦手なのかな……?”って思えるようなお茶目なところがある。それぞれに良さと短所があるんですよね。
小野 お互いに足りないところを補い合っている存在だとも言えるし。だから性格は正反対だけど、相性はいいんだと思います。
──なるほど。
富田 ただ、急に大人だらけの空間に放り込まれたとき、きっと一番かわいがられるのはツムギみたいな、物怖じせずに何でも言えちゃう子なんですよね。
小野 そうなの?
富田 私、年下の兄弟がいるんですけど、真ん中の弟がまさにツムギタイプなんです。小さい頃から大人に囲まれると、「おまえはかわいいな」って言ってもらっていて。それを見ながら、“私にはない部分だなぁ”っていつも思っていました(笑)。
──それを思うと、旅先でツムギが倒れ、柊が旅館の方に「ここで働かせてください!」と談判する姿は、大人を相手にすごく頑張っていましたよね。
小野 なかなかすぐに行動に移せない柊とは思えない積極さがありましたし、実は彼ってすごく頑固な一面を持っているんだなと知れたシーンでした。それに、ツムギの体を気遣って休ませるためにあそこまで必死に頼み込んでいて。もしかしてツムギのことが好きなのかな? って、ちょっと思いましたね。
富田 早くないですか?(笑) だってあのシーンって、2人が出会ってからまだ2日目とかですよね。
小野 うん。でも、柊くらいの年頃の男の子って、好きな女の子からかっこよく見られたいという思いがあるじゃない? だから頑張れたのかなって。ものすごく勝手な妄想ですけど(笑)。
富田 そっかぁ〜。
小野 と言いつつ、ツムギの意識が戻って、「助けてくれたの?」って聞かれたとき、「いや、旅館の人たちが助けてくれたんだよ」って返していて。あの言葉から考えると、純粋にツムギのためになんとかしてあげたいと思ったのかなという気もしました。
──柊のツムギに対する思いは、いろいろと想像させられますよね。
小野 そうですね。そもそもツムギと出会い、彼女から「一緒に母親を探してほしい」と言われたことが、柊にはすごくうれしかったんだと思います。彼は学校でもよくクラスメイトに「これ、やっといてくれる」って頼まれることがありましたけど、それは言うなれば押し付けに近くて。でも、ツムギから言われたときは、本当に自分が必要とされていると感じた。だから、彼女と一緒に行く決心をしたんでしょうね。
──反対に、ツムギが柊に頼み込むとき、“柊じゃないとダメだ”という思いがあったと思いますか?
富田 う〜ん、どうかなぁ……。
小野 いや、あれは計算だと思う(笑)。
富田 はははははは!
小野 だって、あのシーンのときのツムギは単純に柊を利用しようと思っていただけでしょ?
富田 はい! 目的のために!!(笑) でも、聞いてください。ツムギの行動原理には大前提として、消えた母親にとにかく会いたいという、強い思いがあるんです。ですから、最初のうちはそれを助けてくれる人が柊でなくてもよかったという思いはあったはずで。ただ、それが一緒に旅をすることで、だんだんと“柊だから頼みたい”に変わっていく。そうした心の変化もこの作品の見どころの1つになっていると思います。
母親を思い続けるツムギの感情と、意外と頑固な柊に注目を
──アフレコはいかがでしたか?
小野 こうした単発長編作品だと1日で一気に録ったり、多くても2日で録り切ることが多いんです。でも今回は4回に分かれていて、2人で一緒に収録もできたので、丁寧に作ることができたなという印象があります。
富田 私、最初の頃はすごく探り探りでした(笑)。賢章さんとここまでしっかり共演するのは初めてでしたし。
小野 僕も柊の高1という設定には少し苦戦しました。最近は大人の役を演じる機会も増えてきたのですが、ここにきて年齢がまたぐっと下がって(笑)。高1というと、ほぼ中学生ですしね。でも、監督がすごく時間をかけてくださったんです。アフレコ前には監督が抱いているキャラクター像の説明を細かく教えていただく時間もあったので、役作りはとてもスムーズでしたね。
富田 そうでしたね。収録時はまだ映像が完全にはできておらず、物語に登場する“本当の気持ちを隠す人間から出る”という《小鬼》についてもたくさん説明をいただいて。おかげで頭のなかでイメージしながら演じることができました。
──アフレコで特に印象的だったシーンはありますか?
富田 物語の序盤のほうなんですが、ツムギが柊のお母さんにお風呂上がりに髪をすいてもらう場面があるんです。そこで監督から、「多分、ツムギは母親からあまりこういうことをしてもらった経験がないから、気恥ずかしさやちょっとドキドキしている感情も出してみてください」というディレクションを受けて。それ以来、彼女が母親を思う気持ちというのが物語の要所要所に出ればいいなということを意識するようになりましたね。
小野 僕はやはり旅館のシーンが印象的でした。柊って、譲らないときは本当に譲らないんだなって思いましたし。だって、女将さんから何を聞かれても、「ここで働きたいんです!」しか言わないんです(笑)。
富田 3〜4回くらい繰り返していましたよね(笑)。
小野 あの、“てこでも動かんぞ!”という柊の意志の強さは本当に意外でした。
──また、今作ではツムギと母親に関することだけでなく、柊と父親の関係性も描かれています。それぞれのキャラクターの立場から見た父親、母親はどのように映りましたか?
小野 柊の父親は「俺の言ったとおりにしておけば間違いないんだ」と考えを押し付けるタイプなんですよね。柊にとっては自分のやりたいことを優先させてもらえないから、もしかしたら父親に大事にされていないんじゃないかと不安を感じている部分もあるのではないかと思います。だからこそ、ツムギに「一緒に行こう」と言われて着いていく。それがまるで家出のようにも思えて。子どもが家出をするのは、大抵が親に構ってほしいときだと思いますし。
富田 “探さないで”って言いつつ、本心では“絶対に探しに来てよ”って思ってるような?
小野 そう(笑)。だから、父親のことが決して嫌いなわけではないんだけど、自分が思っていることをちゃんと伝えたいし、聞いてほしいという気持ちがあったんじゃないかなって思いますね。
富田 私はこの作品に触れて、“親も人なんだな”と、より強く思いました。私自身、長きにわたり反抗期を続けていた過去がありまして(苦笑)。ある日、母と大げんかをし、思わず「こんな家なんかに生まれなければよかった」って言ってしまったことがあるんです。それを聞いた母が目の前で号泣して。その瞬間は、“どうしてこんな言葉なんかで?”と不思議に思ったのですが、自分が大人になって振り返ると、“お母さんだって人なんだから、あんなことを言われたら絶対に哀しむはずだ”と分かり、すごく反省したんです。当時は気づくことができませんでしたが、親はいつも子どものことを見ているし、私のためを思ってしてくれていたことや、かけてくれていた言葉がたくさんあって。それがどれだけ幸せなことなのかが今ではよく分かるので、この作品をご覧になり、同じように感じてくれる人がたくさんいるとうれしいですね。
思わず買ってしまった浮遊する電球と、一目惚れして購入した念願のレスポール
──お2人の仕事道具についてもうかがいたいのですが、アフレコ現場に必ず持っていくものなどはありますか?
富田 多くの声優が持っていると思うのですが、持ち運びができる吸入器ですね。私は特に乾燥に弱いので、お薬を入れられるタイプのものを使用しています。
小野 オムロンのだよね?
富田 そうです。多分、みんな同じものを使っていると思いますし、私も今のもので三代目になります。
小野 僕はアプリのアクセント辞典ですね。
富田 もしかして、NHKの?
小野 そう。台本を読み、“あれ? この言葉の正しい発音ってどうだったっけ?”と思ったときにすぐ確認できるので、ものすごく重宝しています。
──では、プライベートで最近購入して、ご自身のなかでヒットだったものはありますか?
富田 少し前からギターを始めたんです。レスポールのエレキギターが欲しくて、都内のいろんな楽器屋さんと転々と探し歩いていたところ、渋谷のとあるお店で見つけたギターにひと目惚れをして。
小野 ギブソン?
富田 そうです。ただ、やはりそれなりのお値段なので、なかなか踏ん切りがつかなくて。その後3〜4回ほど通い、それでも欲しいという気持ちが変わらなかったので、“この思いは本物だ!”と思って(笑)、マネージャーさんたちと買いに行きました。
──ギターを始めたいと思ったのは何かきっかけがあったんですか?
富田 実家にいた頃、父がエレキギターを弾いていたんです。それに、私ももともと楽器に興味があって。すっごく昔にちょびっとだけベースをやっていた時期もあったのですが、あまり向いてないと思って、そのときは断念したんですね(笑)。でも、今は音楽活動もさせてもらっていますし、今年になり何か新しいことをしたいなと思って、意を決して始めました。
小野 ということは、いつか自分のライブで披露する日も……?
富田 そんな日が来るといいですね。今は本当に自信がなくって、果たしてちゃんと弾けるようになるかどうか不安しかないので(笑)。
小野 僕は結構、ガジェットが好きなんです。“それ、絶対にムダでしょ”って思われるようなものでも、興味が湧くとつい買っちゃいます。最近は宙に浮いている電球を買いました。
富田 あ、もしかして、磁石か何かで電球が浮いているということですか?
小野 そうです。インテリアとしても面白いし、浮いている電球の下にスマホを置くと充電もできて。
富田 おしゃれだし、便利! でも、どこでそういうのを見つけるんですか?
小野 たまにショート動画とかで、「今きてるガジェット!」とか、「買ってよかった家具」みたいなのが流れてきて、面白そうだなと思うと、気づいたらポチリと押してますね(苦笑)。
富田 つい買っちゃう気持ちは分かります。私、ワンコを飼っているんですが、ワンちゃん用の給水器を最近新しくしたんです。普通の水道水をろ過して軟水にしてくれるというもので。そしたら、ガブガブ飲んでくれて(笑)。その姿を見て、買ってよかったなぁって思いましたね。
映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』
Netflix世界独占配信&日本劇場公開中
【映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子・柴山智隆
出演:小野賢章、富田美憂、浅沼晋太郎、山根 綺、塩田朋子、斎藤志郎、田中美央、ゆきのさつき、佐々木省三、日髙のり子、三上 哲、京田尚子ほか
(STORY)
みんなに嫌われたくないという想いから、頼まれごとを断れない性格になってしまった高校1年生の柊。季節外れの雪が降ったある夏、柊は泊まるあてがないという女の子・ツムギと出会い、彼女を助けることに。そしてツムギを家に泊めたその夜、事件が起きる。寒さで目を覚ますと、目の前にいたのはお面をつけた謎の化け物。そして、ツノが生えた鬼の姿のツムギがいた。彼女は物心つく前に別れた母親を探しているといい、ツムギからの願いを断りきれず、柊は彼女と一緒に旅に出る。
公式HP:https://www.amanojaku-movie.com/
撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/yuto スタイリスト/DAN (kelemmi)