機械式時計が動くためには、少なくとも約100個のパーツが必要となります。その多くは特定の役割を持っており、働きごとに固有名詞が付けられています。これらの名前を把握しておくと、スペックが深読みできるようになり、もっと時計に詳しくなれます。
【アンクル】
エスケープメント(脱進機構)の構成パーツ。エスケープメント・ホイール(ガンギ車)からの動力を受けてテンプを振動させると同時に、テンプの規則正しい振動をエスケープメント・ホイール以降の輪列へと戻すパーツ。
フランス語のAncre(錨)が語源となっている通り、錨のような形状が特徴。先端部にはガンギ車と噛み合う爪石(パレッツ=斜めにカットされたルビーなど)をセットするなどして、耐久性が高められている。
【石(ルビー)】
常に回転している歯車の軸受けなどに、摩耗を防ぐために設置される人工ルビーのこと。カタログやムーブメントに知るされるRubiesやJEWELSの表記は、そのムーブメントに人工ルビーがいくつ使われているかを示したもの。
【エスケープメント(脱進機)】
アンクル、ガンギ車などで構成される機構部の総称。テンプと輪列の間にあり、時計のリズムを正確に保つ。日本では、脱進機構とも呼ばれる。
【エスケープメント・ホイール(ガンギ車)】
アンクルと共に脱進機構を構成するパーツ。歯車の歯先がカギ形になっており、アンクルの爪石と連動。ホイールの軸に伝えられたエネルギーをアンクル以降へと伝えると同時に、テンプによって制御された正確なリズムを輪列機構に戻す役割を担う。日本ではガンギ車とも呼ばれる。
【緩急針】
組み立てた後の時計の精度誤差を微調整するための装置。一般的には+と−の表示方向へ針を動かすことでヒゲゼンマイの振幅する長さを調整し、テンプの振動具合をチューニングできる。
【香箱(バレル)】
ゼンマイ(メインスプリング)が収納された平べったい円筒状の部品。周囲に歯車が切ってあるものを香箱車と言い、ゼンマイの緩む力で生まれた回転力が歯車を動かすエネルギーとなる。輪列機構の最初であることから、一番車とも呼ばれる。
【コラムホイール】
形状の複雑さから主に高級時計に採用される、クロノグラフの制御パーツ。歯車の上に円柱状の歯車も持つ二段構造で、ボタンを操作すると下段の歯車が送られ、クロノグラフを制御するアームやレバーが上段の歯車に乗ったり、歯車の間に落ちたりする。これらアームやレバーの位置によって、クロノグラフのスタート、ストップ、リセットを行う仕組みとなっている。普及版のクロノグラフムーブメントには、コラムホイールを簡略化した「カム式」が使われることが多い
【シャトン】
ルビーなどの石を設置する際に設けられる金枠のこと。プレートに直接封入する一般方式よりも手間がかかることから、高級時計で主に使われる。
【ゼンマイ】
機械式時計の動力源となるパーツで、通常は香箱の中に収まっており見ることはできない。香箱真(軸)の中心から外周部まで、全体がS字に収まるように取り付けることで、ゼンマイ全体になるべく均一に力が加わるようにしつつ、ゼンマイが正しく巻き戻るようになっている。機械式時計の駆動時間(パワーリザーブ)は、このゼンマイが完全に巻き上げられた状態から解けきるまでの長さとなる。
【地板(メインプレート)】
ムーブメントの土台となる金属盤。組み立て段階ではあらかじめ穴や窪みが設けられており、それに合わせて歯車やネジ、軸などの部品が加えられていく。
【テンプ】
天輪(テンワ)とヒゲゼンマイ、軸となる天真で構成された、機械式時計の心臓部となる部品。
【ヒゲゼンマイ】
テンプの振動を安定させると共に輪列機構から伝わったゼンマイの動力をテンプに伝え蓄えるため、その上部に固定された渦巻き状の部品。髪の毛の数十分の1程度と繊細だが、1年間に約2億5000万回の振幅運動を行う、テンプ機構の重要部品。
【ブリッジ(プレート)】
地板(メインプレート)にセットされた歯車類をサンドイッチのように挟み込んで固定するための板状パーツ。自動巻き機構などは、プレートに歯車が圧着されていることもある。日本では受け板とも呼ばれる。
【輪列】
香箱車(一番車)から脱進機まで、互いに噛み合って動く一連の歯車の連なりを表す専門用語。
【ローター(回転錘)】
自動巻き時計に必須のパーツ。回転するように可動域が設けられた錘で、このパーツの動きがエネルギーに変換されてゼンマイを巻き上げる。材質には比重の重い合金素材(スチール類)が一般的だが、高級時計には22Kゴールドやプラチナなどが採用されることもある。