腕時計を購入する際、流行やブランドの歴史、スペック、決め手は人それぞれですが、パワーリザーブを重要視するという方も多いかと思います。(ちなみにパワーリザーブとは、機械式時計のゼンマイをいっぱいに巻き上げてから緩みきるまで、何時間駆動するかを示すスペックのこと)
しかし、メーカーを比較してもたいていが同じ程度のパワーリザーブを保有します。その理由はなぜなのか、共栄産業の技術者にズバリ、解説していただきました。
腕時計のパワーリザーブを決める、ゼンマイの2大要素
腕時計のパワーリザーブは、ゼンマイの厚みや長さ、香箱の大きさや回転数、動かす部品の数や重さなどを加味した複雑な条件下で決定されます。しかし、直径30㎜前後のムーブの中では香箱の直径は10mm前後に設定するのが一般的。その直径内で最適値を求めると、おおむね40~45時間という数値に落ち着くので、どのメーカーもパワーリザーブはこの範囲内となっています。
【香箱の大きさ】
写真にあるタイプが腕時計の一般的な香箱。ゼンマイは中心軸と外縁部の2か所で固定され、直径10㎜前後の限られた空間内に収納されています。収納体積が限られるので、ゼンマイを厚くすると長さはその分短くなり、薄くすれば長くすることができます。
【ゼンマイの長さ・厚さ】
ゼンマイのトルク(力強さ)や各種部品を回す回転数の多さ(香箱の回転数)も、本来は複雑な方程式によって決定されますが、ザックリ言うと「ゼンマイが長いほど回転数は多く」「厚みや幅が大きいほど力強さは増大」するのです。
同じゼンマイでも細かく見るとさまざまな個性が存在
【多重香箱タイプ】
プロが解説! パワーリザーブを増大させるには、香箱を2つ以上に増やすのが有効な手段。でも、そのためには「2つの香箱から供給されるパワーを巧みにシンクロさせ、効率よく輪列機構に伝える」技術が必須。これを実現できるのは、ムーブ全体をイチから設計できる高度なテクノロジーを有する、一部のマニュファクチュールブランドのみとなっています。
【多機能や大型・薄型や小型タイプ】
プロが解説! ゼンマイはどれも大差ないと考えるユーザーの方は多いと思いますが、実はその種類はさまざま。一般的には、クロノなど部品が大きく点数も多いモデルには、強力なトルクが必要なので幅広で厚いゼンマイ。薄型の中3針など、部品が少なく軽量なモデルには細くて長いタイプが採用される傾向にあります。
ゼンマイの形状はモデルの個性や用途によっても違うそう。また多重香箱の解説にもあったように、パワーリザーブの増大には高度な技術が必要になります。一部のマニュファクチュールブランドでしか実現できない技術であるからこそ、腕時計の価値も高いものになるといえるでしょう。