2025年7月18日、大阪・関西万博にて、スマホ世界トップシェアを誇るサムスンと、Snapdragonで知られるモバイル向けチップ開発企業クアルコムのキーパーソンが、スマホとAIの未来について語りました。会場で上映されたAI機能のデモ映像は、8月1日に発売予定のGalaxy Z Fold 7/Z Flip 7に実装される予定のもので、実際に利用可能になる機能です。最新のGalaxyスマホでAIはどんな進化を遂げ、サムスンはこの先どのようなAI戦略を描いているのでしょうか。スマホとチップセット、両分野で世界トップシェアを誇るサムスンとクアルコム。戦略的パートナーでもある両社のキーパーソンが語ったAI戦略の中身を詳しくレポートします。
GalaxyのAI戦略を支える2つの軸──「マルチモーダルAI」と「オンデバイスAI」

大阪・関西万博の「テーマウィークスタジオ」にて、サムスン電子のケン(インガン)・ソン常務と、クアルコム・コリアのスペンサー(サンピョ)・キム副社長が、AIをテーマとしたパネルディスカッション「真のAIパートナーになるための人間中心AI:壁を乗り越え、次に目指すもの」が開催されました。
ソン氏は、Galaxyシリーズを統括するモバイルエクスペリエンス事業部のテクノロジー戦略チーム長を兼務しており、GalaxyのAI戦略をリードするキーパーソンです。一方、クアルコムはSnapdragonをはじめとする高性能モバイル向けSoC(システム・オン・チップ)で知られ、スマートフォンの頭脳ともいえるチップセットを提供するグローバルリーダー企業です。
両氏が講演で強調したキーワードは「マルチモーダルAI」と「オンデバイスAI」の2つです。
- マルチモーダルAI:人間が「見る」「聞く」「触る」など、複数の感覚を組み合わせて理解するように、AIも画像・音声・テキスト・センサー情報などを統合的に処理する技術です。
- オンデバイスAI:インターネットを介さず、スマートフォン内のチップセットやAIエンジンでAI処理を完結させる技術です。ChatGPTやGeminiのようにクラウドで処理されるAIとは異なり、ローカル処理でより高速かつプライバシー保護に優れています。
GalaxyのAIは、ユーザーが入力する文字情報だけでなく、カメラ映像、マイク音声、画面タッチといった多様な情報を組み合わせて処理し、よりパーソナライズされた体験を提供しています。特に、最新の折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold 7」「Galaxy Z Flip 7」に搭載されると言われている「One UI 8」では、このマルチモーダルAIがさらに進化しています。
スマホにおけるAI利用の現状と課題

Galaxy S25シリーズのユーザーのうち、実に70%以上がAI機能を日常的に活用しているという調査結果が出ています。AIの利便性は広がっていますが、まだ一部のユーザーには抵抗感があるのも事実です。
サムスンの調査によると、AI利用に対して不安を感じる理由は次の3点です。
- AIが暮らしに本当に役立つのか実感できない
- 操作や設定が難しそうで使いこなせない
- 個人情報が漏洩するのではという不安
このような課題を乗り越えるためには、単なる機能向上ではなく、「実生活に役立ち、誰もが安心して使えるAI」であることが重要です。その解決のカギとなるのが、前述の「マルチモーダルAI」と「オンデバイスAI」なのです。
進化した「One UI 8」──GalaxyスマホのAI体験はここまで進化
2025年8月に発売予定のGalaxy Z Fold 7を皮切りに、Galaxyシリーズには新たに「One UI 8」が搭載される予定です。より直感的で自然なAI体験を実現する機能が多数搭載されており、会場で上映されたデモ映像からは以下のようなシーンが紹介されました。

- 海外旅行先で看板の文字を読めないとき、カメラでかざして指で囲むだけで翻訳可能(写真左上)
- ペット連れで行けるレストランを、会話形式でスマホが提案してくれる(写真右上)
- 初めての料理でも、カメラをかざしながら質問すると食べ方を教えてくれる(写真左下)
- クローゼットの服をスマホで撮影すれば、気温や天気に応じたコーディネートを提案(写真右下)
- 会議中はAIが自動で議事録を作成し、終了後には要約や翻訳までも提供
これらの機能は、AIがまるで通訳や秘書、コンシェルジュのように「人に寄り添う体験」を生み出しており、マルチモーダルAIがスマホに非常に適していることを示しています。
個人情報保護と快適さを両立する「オンデバイスAI」

AIにとって、ユーザーの個人情報は高度なパーソナライズを実現するための重要な要素です。しかし、多くの人が個人情報漏洩に不安を抱えているのも事実です。
オンデバイスAIは、そうした懸念に応えるひとつの解決策です。個人情報をクラウドに送信せず、スマホ内部で安全に処理することで、プライバシーを守りながらも快適なAI体験を実現します。
スマホが中心となる“人間中心AI”の未来

この「オンデバイスAI」を支えているのが、クアルコムが開発する高性能なモバイル向けSoCです。代表的な製品であるSnapdragonシリーズは、現在多くのスマートフォンやタブレットに搭載されており、2025年第1四半期時点で世界シェア第2位(Counterpoint Research調べ)を誇っています。
サムスンにとって、セキュリティと快適性を両立するAI体験を実現するうえで、クアルコムとの技術連携は不可欠となっています。
現在、世界人口の約71%がスマートフォンを所有し、1日あたり平均4.5時間をスマホに費やしています。今後は、スマートグラス、リング型デバイス、スマートウォッチなど、より多くのウェアラブルデバイスにもAIが組み込まれていくと予想されています。
しかし、両氏は「AIの中心的なプラットフォームは、今後もスマートフォンであり続ける」と語りました。スマホは音声・映像・位置情報・操作ログなど、最も多様な情報を集約できるデバイスであり、マルチモーダルAIとの相性も抜群です。
サムスンとクアルコムは、「人に寄り添い、状況を理解し、適切に反応するAI」を実現するために、「人間中心AI」という共通ビジョンを掲げています。スマートフォンを中核に据え、マルチモーダルAIとオンデバイスAIの両軸で、その実現に向けた技術革新を進めています。
よくある質問(FAQ)
Q. マルチモーダルAIとは何ですか?
「見る」「聞く」「触る」といった複数の感覚(モダリティ)をAIが組み合わせて理解・応答する技術です。Galaxyではカメラ、音声、タッチ操作などを統合し、より人間らしい体験を実現しています。
Q. オンデバイスAIとは何ですか?
クラウドに頼らず、スマートフォンの内部(デバイス)だけでAI処理を行う技術です。個人情報を外部に送らず処理できるため、プライバシー保護にも優れています。
Q. Galaxy Z Fold 7/Z Flip 7の発売日はいつですか?
2025年8月1日に発売が予定されています(一部地域では異なる場合があります)。
Q. Snapdragonとは何ですか?
クアルコムが開発するモバイル向けの高性能SoC(システム・オン・チップ)です。Galaxy Sシリーズなど多くのハイエンドスマートフォンに搭載されています。