Vol.152-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。
今月の注目検査施設
Apple
堅牢性ラボ

痛々しいほどの試験が高い信頼性を生む
先日筆者は、米・カリフォルニア州クパティーノのApple本社の近くにある、同社の「堅牢性ラボ」を取材してきた。
堅牢性(デュラビリティ)ラボとは、iPhoneやMacなどのApple製品の堅牢性を検査し、故障発生の可能性をできるだけ減らしていくことを目的とした設備である。Apple社内でのテストは多岐に渡るが、今回は主に「落下試験」「耐水性試験」「対環境試験」「振動試験」「バッテリー試験」の5つを取材することができた。
どれも名前から、どんなテストかはなんとなくわかるだろう。
落下試験は1mの高さから製品を落としてその結果を見るもの。耐水性試験では大量かつ高圧の水をかける。振動試験では、様々な周波数での振動を再現できる機械に製品をくくりつけ、振動の結果で故障しないかをチェックする。対環境試験では、高い気温・湿度の中や強い紫外線のもとで何日・何週間と動かし続ける。
その様はまるで機械に対する拷問のようで、痛々しいほどだ。だが今回取材中に見たテストでは、故障・破損は起きなかった。製品によってテスト内容や基準は異なるものの、AppleはiPhoneやiPad、Apple Watchなど、販売するあらゆる同社製品で堅牢性テストを行っている。
もちろん、堅牢性ラボでの検証中には壊れることもある。一方で、ユーザーから寄せられた故障情報を元に検証のための条件が設定され、「どのような状況になると壊れるのか」、ギリギリの条件を検証するために使われることも多い。堅牢性ラボは「設計で定めた条件の中で壊れないことの証明」だけでなく、「どのような条件が重なると壊れるのか」を把握することにも使われているわけだ。
それらの情報は、ユーザーへの警告やサポート情報に使われることもある一方で、今後の製品の堅牢性を高めていくための情報としても使われる一面も持ち合わせている。
メーカーにとってラボは「必然」であり「必須」
この施設を取材できたのは大きなプラスだった。Apple が製品開発の裏で行っている努力の一端がよく理解できた。Appleは堅牢性ラボを世界中に設置しており、様々な地域でのトラブルに素早く対処する体制を整えている。
もちろん、それでも「絶対に壊れないスマホ」が作れることはない。しかし、日常的なトラブルを幅広く想定し「故障に結びつくリスク」をできる限り排除することで、長く使い続けられる製品を開発することが可能になるのである。
一方で誤解してほしくないこともある。こうした検査施設は多くのメーカーが持っており、Appleだけのものではない。各社が行っている検査の内容自体も似ている。トップメーカーにとって、堅牢性対策のラボを持つことは「必然」であり「必須」のことなのだ。
では、スマホメーカーはどこで苦労しており、検査を続けつつ製品作りをしているのだろうか? そして、Appleを含め、各社の特徴はどのように生まれるのだろうか? それらの点は次回以降で解説しよう。
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