Vol.156-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。
今月の注目アイテム
ASUS・マイクロソフト
ROG Xbox Ally
8万9800円(税込)

小型PCメーカーと手を組んだ理由とは
10月にASUSとマイクロソフトは共同で「ROG Xbox Ally」シリーズを発売した。
Xboxというと家庭用ゲーム機というイメージがあるが、ROG Xbox AllyはあくまでPCだ。OSはWindows 11であり、マウスやキーボードをつなぎ、普通にPCとしても利用できる。
こうした「ポータブルゲーミングPC」は数年前から広がり始めた。ASUSは2023年に「ROG Ally」シリーズを発売してこの市場に参入。PCメーカーとしては最後発での参入と言ってもよい。だが同社はPC自体では大きなシェアを持っていて、小型機器の開発ノウハウもある。そのため製品の完成度に対する評価も高い。
そんななか、今回はマイクロソフトと組んで、Xboxという大きなブランドを冠した製品を作ることになった。
ここにはもちろん、マイクロソフトの思惑も関わっている。
マイクロソフトはXboxを「プラットフォームのブランド」にしている。ゲーム専用機自体を指すのではなく、PC上で動くゲームプラットフォームも「Xbox」だ。両者で完全に同じゲームが動くわけではないが、ゲーム機もPC上のXboxプラットフォームも、同じ“Xboxというアカウントで楽しむゲーム”として扱われている。
そこで“携帯型のデバイスを使ってどこでもゲームを楽しむ”と考えた場合、ゲーム機として携帯型の専用機を作るよりも、すでに広がっている“PCとしてのポータブルゲーム機”を用意したほうが開発しやすいと考えたことが予想できる。
Windowsをゲーム向けに最適化する
さらにそこで重要になるのは、PCゲームの世界ではXboxプラットフォームだけが使われているわけではないという点だ。もっともシェアが高いのはValveの「Steam」であり、ほかにもEPIC GAMESのストアなど、複数のゲームストアが併用されている。
マイクロソフトはPCとしてのポータブルゲーム機を選んだ段階で、自社のゲームストアだけでなく、PCゲーマーが使うこれらのストアの併用が必然のものになる。ただすでにポータブルゲーミングPCは多数あり、Xboxブランドだけでは競争力があるとは言えない。
そこでマイクロソフトは、“ゲーム向けにWindowsを最適化する”ことで差別化を図った。
ROG Xbox AllyのWindows 11には、「全画面表示エクスペリエンス」という、ゲームに特化したモードが先行搭載されている。ゲームに必要ないモジュールを読み込まないことで、起動時間とメモリー容量、動作負荷を若干減らす。結果として、ほんの少しだがゲームの動作が軽くなる。
また、Xboxアプリも改良し、Steamなどのゲームも同時管理可能になっている。
Windowsのデスクトップを使う必然性を減らし、PCだがゲーム機っぽく使えるように工夫することで商品性を高めているのである。
では性能はどうなのか? マイクロソフトが“自社ゲーム機だけ”にこだわらなくなったのはなぜか? それらの疑問には次回以降で答えていこう。
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