Vol.156-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。
今月の注目アイテム
ASUS・マイクロソフト
ROG Xbox Ally
8万9800円(税込)

マイクロソフトがASUSと共同開発した「ROG Xbox Ally」は、あくまでWindows 11搭載PCである。ゲームをすることを中心に作られた製品ではあるが、ゲーム専用機ではない。家庭用ゲーム機であるXbox向けのタイトルは動作せず、あくまでPC向けのゲームを動かすための製品だ。
マイクロソフトは家庭用ゲーム機であるXboxを提供してきたが、近年はPC上でのゲームでも「Xbox」ブランドをアピールし、さらにはXboxの名を冠したPCを売るようになっている。
では、マイクロソフトはゲーム専用機ビジネスをやめ、PC上のビジネスだけをする存在になるのだろうか?
どうやらそういうわけではないらしい。
この点は、PCと家庭用ゲーム機の競合状況が単純ではないことを理解する必要がある。
現状、ほとんどすべてのゲームはまずPCで開発される。それが最終的に、販売対象である家庭用ゲーム機やスマートフォンで動くように調整され、世の中に出ていく。ということは、PC用ゲームを作るのは難しくない、ということだ。
ただ問題なのは、世の中には多様なスペックのPCがあり、そのすべてで動かすのは大変という点である。開発用のPCで動いているからといって、ゲーミングPCでもノートPCでも確実に動くかというと、そういうわけではない。大量の組み合わせがあり、スマホ以上に動作検証が大変だ。
家庭用ゲーム機の存在価値は、極論すれば“スペックが決まっていて動作検証しやすい”ことにある。最近は複数の機種へと同時対応する必要が出てきて複雑化しているが、それでもPCやスマホより桁違いにシンプルだ。
使う側も性能の違いや設定をあまり考える必要がない。昔のように“カセットを入れて電源を入れればスタート”というほどシンプルではなくなったが、それでも、多くの人にとって家庭用ゲーム機は“ゲームだけを遊べるシンプルな存在”であり、開発する側にとっても“市場が固まっていてソフトを出しやすい”場所でもある。
一方で、PCの市場は次第に大きくなってきた。ゲームファンの中でも毎日ゲームをするような熱心な層の場合、ゲームのためのPCへの投資も厭わない。規模の小さなインディーゲームはPCで開発され、まずそのままPCで発売される。それが最もリスクの低い形だからだ。それらの市場が広がったいま、家庭用ゲーム機を持っていてもPCでもゲームをする人は増えた。
ゲームメーカー側も、PC市場が一定以上の規模になったので、検証負荷が大きいとはいえ、PCでも同じゲームを同時に出したほうが“購入してくれる可能性がある人々の母数”が増え、ビジネスが拡大できる。
というわけで、家庭用ゲーム機とPCの市場は拡大している。その上ではValveが運営するプラットフォーム「Steam」が圧倒的シェアを持つが、マイクロソフトとしては「Xbox」をプラットフォームとして推したい。
それは販売をどこで行うかという話だけでなく、“ネット上でゲームをともに遊ぶ友人がどこにいるか”という話にもつながる。“友人がやっているゲーム”の存在はゲームの認知に高く影響しており、ゲームプラットフォームの本質の1つである。
家庭用ゲーム機に存在するプレイヤー同士のエコシステムをPCにも持ち込み、“エコシステムこそXbox”という形にビジネスシフトしたい……というのがマイクロソフトの狙いなのだ。
では、それに対して他社はどう対処するのか? その辺は次回解説する。
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