Vol.156-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。
今月の注目アイテム
ASUS・マイクロソフト
ROG Xbox Ally
8万9800円(税込)

前回の連載で解説したように、マイクロソフトは“プラットフォーム上でのゲーマー同士の連携”を重視している。要は“プレーしている人々の友人関係”と“それをベースとしたゲーム提供基盤”をプラットフォームと定義し、PCでも家庭用ゲーム機の上でも同じ「Xbox」というプラットフォームを展開する……という考え方だ。
その背景にあるのは、家庭用ゲーム機とPCで同じゲームが出るようになってきたことにある。
マイクロソフトはその考え方をさらに広げ、ゲームをライバルであるPlayStation 5にも提供するようになってきた。ゲーム販売機会を拡大するためだ。
この辺はソニーも似ている。PlayStation 5というプラットフォームはそのままに、いくつかのタイトルはPCにも出すようになった。ネットワークゲームではPCも大きな市場であること、コストをかけて作った大型作品を“PS5での発売から1〜2年後”にPCで展開することで販売量を確保する戦略を採っている。
マイクロソフトのように“PCも主体”とするほど軸足を変えているわけではない、というのが両社の違いだろうか。
任天堂はPC展開を行わない。任天堂はNintendo Switch 2のような独自性の高いハードウェアでのゲーム提供を軸にしており、中でも自社提供ゲームによる差別化がポイントだ。だからPC市場を取り込む必然性が薄く、“自分たちとは別の市場”という形で共存を狙う。利用年齢層が低めであること、ファミリー層が多いことなども、他社に比べPC市場を意識する必然性の薄さにつながっていると考えられる。
ではPC市場は?
最も大きな動きは、PC向け配信の最大手Valveが、テレビなどの大画面に接続して使う専用機「Steam Machine」を2026年初頭に発売することだろう。これはWindowsを搭載しない「Steam Deck」と同じような構造の製品である。独自の「SteamOS」を搭載した機器で、Steamで購入したPC用ゲームがそのまま動く。
形状・サイズ的にも家庭用ゲーム機に近く、テレビなどで気楽にPC用ゲームを遊ぶことを想定している。
では、これが家庭用ゲーム機そのものであり、XboxやPS5とシンプルに競合する製品かというと、そうでもない。
Valveは家庭用ゲーム機のように大々的にマーケティングをし、大量に販売することを想定していない。本記事を執筆している2025年11月の段階ではSteam Machineの価格は公表されていないが、家庭用ゲーム機より高くなると想定されている。理由は生産数が少ないこと、ソフトやサービスの利益でハードウェアの販売価格を引き下げるビジネスモデルを採らないことなどだ。
Valveの狙いは“Steamでゲームを買っている人が家庭用ゲーム機に移らない”ことであり、無理をして家庭用ゲーム機から市場を奪う必要はない、ということなのだろう。
どちらにしろ、コアなゲーマー向けの市場では“PCとの共存”がテーマであり、その中でゲームプラットフォームをどう位置付けるのか、という各社各様の戦略が重要になってきているということなのである。
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