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2021/5/29 17:00

1000万円オーバーの商品も!? ビンテージ玩具の深い沼について「まんだらけ」社長に訊いてみた

モノによっては数十万、数百万の値がつくビンテージキャラクター玩具の世界。中には稀に1000万円を超えるモノもある。はたして、それらの価値=値段はどのように決まっていくのか? ビンテージ玩具を扱う業者の最大手「まんだらけ」の代表取締役社長・辻中雄二郎(つじなか・ゆうじろう)氏と、まんだらけ中野店のビンテージTOY担当・辻聖(つじ・さとし)氏にそのあたりの事情をうかがってみた。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:宮地菊夫)

 

代表取締役社長・辻中雄二郎(つじなか・ゆうじろう)氏(右)と、まんだらけ中野店のビンテージTOY担当・辻 聖(左)

 

激レアキャラクター玩具の驚愕プライス

今年の3月末、ヤフーオークションで落札されたあるオモチャの値段が、世間を軽くざわつかせた。モノはビンテージキャラクター玩具きってのレア物件「ジャンボマシンダー 恐怖の悪魔軍団 ガラダK7」で、その落札価格は1000万円!

 

↑落札価格1000万円で終了したヤフオク出品の「恐怖の悪魔軍団 ガラダK7」

 

ジャンボマシンダーは、1973年から1982年までの約10年、ポピー(※1983年にバンダイと統合)から発売されたポリエチレン製玩具の人気シリーズだ。商品化第1号は「超合金」の元祖としておなじみ、巨大ロボットの金字塔・マジンガーZ。ダイキャスト(亜鉛合金)を用いて「重さ」と「質感」にロボットらしさを表現した超合金に対し、ジャンボマシンダーは軽量な素材で、名は体を表す全高約60cmのビッグサイズを実現。異なる魅力でともに当時の子どもたちのハートを鷲掴みにしたのである。

 

そんなジャンボマシンダーの対戦相手として登場したのが、敵キャラクターを商品化した「恐怖の悪魔軍団」だった。ラインナップは、マジンガーZの敵=機械獣6体(ガラダK7、ダブラスM2、キングダンX10、スパルタンK5、グレンゴーストC3、ロクロンQ9)と、シリーズ第2弾として発売された仮面ライダーV3の敵=デストロン怪人4体(ハサミジャガー、カメバズーカ、レンズアリ、タイホウバッファロー)。いずれも現存数は極端に少ない。キャラクターによって振り幅はあるし、もちろんコンディションにも左右されるが、現在はザックリ数十万〜数百万円で取引されるビンテージキャラクタートイ界のドル箱軍団だ。

 

なかでもガラダK7はほとんど中古市場に出回らず、一部ではその存在自体が疑われていたこともある幻の1体。そんなものが箱付きのパーツ欠品なしでオークションに出品されたら価格が高騰するのも必然だ。とはいえ、まさかの4桁万円。興味のない向きからすれれば、もはや意味不明の驚愕プライスだろう。というか、玩具コレクターでもこの金額は普通にたじろぐ。

 

「今回、業者間やお客様との間でも話題にはなりました。『あれ、どうなの?』『ピッタリ(1000万円)だったね』って。で、そのあとキャンセルになったという話も同じくらいのタイミングで回ったんですけど」(辻中)

 

実はこのガラダK7、落札後にキャンセルされたため取引は成立してない。そのため、さてはイタズラ入札か? はたまたヤフオクの手数料逃れの直接取引か? ……などなど、様々な憶測を呼ぶこととなった。ただし、それだけの値がついてもおかしくないとマニアに思わせるほど、極めてレアな物件であることは疑う余地もない。

 

「あのガラダK7は当社にも1回しか入ってきたことがなくて、それまではバンダイミュージアムにある個体だけが唯一、実際に存在している証明になっていました。大々的に市場に出たのはウチのオークションがおそらく初めてで、以降はたぶん市場に5体くらいしか出てないですね。箱付きは私が知る限り今回が2回目で、5年くらい前の横浜のイベントで1回出てきただけです。」(辻)

 

ちなみに現在、まんだらけのウェブサイトでは買取情報のページに買取価格1000万円でこのガラダK7を掲載中。その事実からも、いかに希少な物件か明白だ。国産キャラクター玩具のビンテージ価格においては現状、間違いなく最高峰だろう。

 

ガラダK7を凌ぐ、正真正銘“幻の1体”の衝撃

だが、その少し前、そんなガラダK7を遥かに凌ぐ高額アイテムが、まんだらけ大オークション(※2021年2月15日〜3月7日開催で現在は終了)で落札されていた。モノは、野村トーイ製のバットマン歩行ブリキ人形。同商品の出品が告知されたカタログ誌「まんだらけZENBU 102号」の表紙には、原寸サイズの商品写真とともに「現存確認1体」というキャッチが踊る。希少価値という点において、これ以上のインパクトはあるまい。では、なぜそこまで希少なのかといえば、これが正式にリリースされた商品ではなく試作版だからだ。

 

↑1966年に製作された野村トーイのバットマン歩行ブリキ試作版。現状、この世に1体しか存在しない究極のビンテージ玩具だ(※詳細は本文参照)

 

1966年にスタートしたアメリカのTVドラマ『バットマン』をフジテレビが日本国内で放送し、それに合わせて玩具メーカーの野村トーイが商品化を検討。ボディに同社が当時発売していた鉄人28号(No.1)の型を流用して試作が行われた。ところが、当時の社長から「インパクトが薄い」とダメ出しを食らい、新たに別の商品(※全高210mmの試作版に対し、完全に新規の型で作られた全高305mmの電動歩行バットマン)を開発。その結果、お蔵入りすることになった正真正銘“幻の1体”なのだ。

 

「カタログを見た一部のマニアの方から『1体だけじゃない』という声も聞かれて、だったら写真を見せてほしいという話になったんですが、現実的にはどなたも写真を出せず、結局1体しかないのかという流れのなかでオークションに突入したので、その喧々諤々もウチとしてはいいコマーシャルになったかなと」(辻中)

 

キャラクター自体はアメコミの代表選手で、カテゴリはティントイ。しかも商品ではなく試作品ということで、前述のガラダK7と単純な比較はできないが、国産玩具としては問答無用の激レア物件。出品価格900万円でスタートしたオークションは、落札価格1530万円(!)で幕を閉じた。

 

「500万くらいじゃないかという声もマニアの方の間であったんですが、このバットマンだったら1000万円くらいのポテンシャルは絶対にある。まんだらけとしてはそう思っていたので、900万円スタートで出したんです。それが結果的には元(500万)の3倍ですからね。やっぱり1500万という値段はそれなりのパワーがありました」(辻中)

 

確かにパワフルなお値段だが、それは額のことだけにあらず。この結果を受けて市場自体が活性化する、新たなお宝の出土につながる、そういう効果を含めてのことだ。

 

「実際、あれが1500万という話になって、同じように1体しかないものだったり、野村トーイで試作が作られたと言われる別のモノを持っている、という話がそのあとに来たりしましたからね。ブリキというのは90年代までが究極に相場が上がった時期で、それから先はもう上がらないんじゃないかと言われていたこともありましたが、まだまだポテンシャルはあるのかなと。」(辻中)

 

その点、今回のブリキ歩行バットマンは極めて特殊な例だが、普通に一般流通した商品でも古いオモチャの中には詳しい資料や記録が残されてないケースが多々ある。そういったモノの素性は、どのように特定されていくのか?

 

「やっぱりお客さんとのコネクションが一番ですね。たとえば、あの試作版バットマンでいうと、最初にモノが出てきた時点で調べようとしても、ネットに情報が出てくるかといえば1件も出てこないんですよ。ただ、ウチで働く人間にも詳しい者がいますし、詳しい人間は他に詳しい人を知っています。その伝手である方に話を訊いたら、『北原(照久)さんのあのムックに出てたよ』とスパッとひと言で返してくれて。そういうお客さんと話していくなかで、どういったモノなのかが明らかになっていくんです。それで、『でも1点しか存在しないモノが北原さんのとこにもあったらおかしくないか?』という話になって、そのムックを確認してみたら、『あ、傷の位置が一緒だ』『同じモノだ』と」(辻中)

 

「まんだらけZENBU 102号」の解説によると、もともとこのバットマンはあるコレクター(野村トーイ関係者)が所有。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」出演などでおなじみの玩具コレクター・北原照久氏(株式会社トーイズ代表/横浜市・北原照久のおもちゃ博物館 館長)に長らく貸し出されていたが、返却されたのちに所有者が変わり、今回のオークション出品に至ったという。

 

わずかな手掛かりから歴史の真実にたどり着く、マニアの見識&ネットワークの底力。売る側がプロなのは言わずもがな、買う側もある意味プロだ。

 

「我々がポイントにしているのが、マニアの方たちとつながる場所をどう作るかということです。当社では毎年5月のゴールデンウィークに『大まん祭』というイベントを開催し、商品の即売やオークションのほかに、ソフビ(創作ソフビ決起集会)、同人誌(資料性博覧会)、シール(さん家祭り)のイベントを3本立てで行っています。そこに来てくださる方はディーラーもお客さんもオタクの上流の人なんですよ。もうヤバい人たちしか来ない(笑)。参加サークルがそれぞれ50~100で、お客さんが各1000人くらいなので、数字だけだとそれくらいかよと思われるかもしれません。ただ、そのほとんどがマニアの中の特に濃い人たちなので、上流というとその他の方に失礼かもしれないけど、オタクの中のトップたちとそこで関係が持てる。ほとんどそのためだけにやってますね。会場に中野サンプラザを借りて、出店するのに1ブース3000円くらいでお貸ししても、金銭的には全然割りに合わないんです、本当のところを言うと(笑)。でも、そこで情報が常に更新されるし、新しく若い層が入ってくるという流れもあるので、まんだらけの戦略というか遊びの一環としてやっている側面はあります」(辻中)

 

ビンテージキャラクター玩具の王者・ガラモン第1期の実力

いまだに謎が多いビンテージキャラクター玩具の最古参に、初めて怪獣ソフビ(ソフトビニール人形)を世に送り出した玩具メーカー・マルサン製のガラモンが挙げられる。

 

ガラモンは、1966年放送の特撮番組『ウルトラQ』に登場した人気怪獣。その後、シリーズは『ウルトラマン』へと続き、ほぼ同時期に放送された『マグマ大使』とともに第一次怪獣ブームを巻き起こした。マルサンの怪獣ソフビは大ヒット商品となり、成型色や塗装を変えて複数のバリエーションが登場。これが数十年の時を経て、コレクターや業者をビンテージの沼にズブズブ引きずり込むことになる。

 

↑怪獣ソフビの元祖メーカー・マルサンが発売したなかで最高にレアな物件が、このガラモン第1期(※詳細は本文参照)。もし現物をナマで拝めたら、それだけで贅沢すぎる目の保養

 

「マルサンのガラモンは今までにウチを通過したのが6体か7体あるんですが、グラム数(重さ)がけっこう違ってブレブレなんです。初期は重たいとかシンプルに言う方もいますが、期によってかなりの違いがあって。それこそ第3期の赤いヤツのほうが第1期より重かったりしますし、モノによってはソフビの厚みが極薄だったりもして、当時のソフビは個体で全然違いますね。特にガラモンに関しては」(辻)

 

「赤いヤツにも重くないのがあったり、けっこうブレが激しくて。我々としては期ごとの違いがグラムで分かれば最高だという話になったんですけど、あれは分からないです」(辻中)

 

マルサンのガラモンのなかでも圧倒的にレアなのが、最初に発売された第1期だ。第2期以降はボディと一体成形になった尻尾が別パーツで、グリグリ可動するのが最大の特徴。ただでさえ現存数が少ない上に、この尻尾が破損・紛失しているケースが多く、完品でお目にかかれることは滅多にない。まんだらけでは2002年の大オークションで初めて完品が出品され、落札価格は500万円を数えた。

 

「その前に尻尾のないヤツは入ってきていましたが、完品が初めてウチに持ち込まれたのは2000年代初頭でした。ちなみに、持ってきたのは小学3年生。父親の実家に帰ったときに見つけたらしく、夏休み明けにウチに持ち込んできたんです。それで、(古川益三)会長と話して、当時の価格で『300万買取だ』と。その子もビックリしますよね(笑)。当時はまだ条例(※青少年保護育成条例における未成年からの古物買取に対する制限)がなくて、その子に払うことはできました。でも、さすがにそれは払えないから、お母さんに電話をしたらお母さんも慌ててしまって。お父さんにも話さなきゃいけないし、『とにかく一度持って帰ってこい』と。ただ、会長はそれまでの経験則から1回持って帰られちゃダメだということがあったので、今度は電話をお父さんにつないでいただいて『オープンスペースで買取をしているので、持ち帰らせるのは持ち帰らせるなりに危険ですよ。お預かりしておくので、お父さんが休みの日に来られたとき、買取価格が希望に沿わなければお持ち帰りいただいて大丈夫です』とお伝えして。そしたら、『希望に沿う沿わないじゃなく、親戚にも話さないといけないし』みたいな話になりつつも、『とはいえ、お持ち帰りいただくのは息子さん的にも気が気じゃないかと』『そうですよね、分かりました』ということで、結局それがウチに最初に入ってきたガラモン第1期になりました。当時で300万は適正な買取価格だったと思います」(辻中)

 

ビンテージキャラクター玩具の王者にふさわしく、値段も破格なら入荷エピソードも超破格。ちなみにこのガラモン第1期、約10年ほど前だと完品で700〜800万円の値がついていたが、現在もそのポテンシャルに衰えはないのか?

 

「そうですね。今でもそれくらいの値段は狙えるかなと。2018年のまんだらけ大オークション大会では、890万円で落札されました」(辻)

 

「3、4年くらい前に『いや、300~400万だろう』とか『もうそんな時代じゃない』という声も出ましたが、実際はいまだに変わらないという(笑)」(辻中)

 

その人気と実力に微塵も衰えなく、王者の貫禄今も健在なり。

 

独自に開発したPOSシステムによる、商品の動向と価格の管理

以上、群を抜いてレアな物件ばかり紹介してきたが、ビンテージキャラクター玩具にはその他にも数え切れないほどのアイテムが存在する。そして、古ければ何でも価値があるわけではなく、逆に新しくても高値がつく場合も多々。その価値はピンからキリまで千差万別だ。骨董の類いと同じく、値段はあってないようなものだが相場はもちろんある。あまり興味のない向きからすると、海千山千の目利きが相場感覚でザックリいくらみたいな言い値の世界をイメージしがちかもしれないが(実際そういう側面もゼロではないだろうが)、モノの値段はそんなにアバウトには決まらない。

 

骨董に限らず何においても、価格を決めるのは需要と供給のバランスだ。ほしがる人が多く、数が少ないモノほど値が上がる、至極当然の市場原理。そこで値段をつけ間違えるとモノは売れないし、仕入れ値を間違えると上手く儲からない。商売である以上、これまでの流通データをもとに市場の傾向を鑑みて、できるだけ適正な仕入と売買を行う必要がある。

 

「当社における商品のお値段に関しては、内部でのこれまでの蓄積が絶対的な基準としてあります。たとえば、漫画・イラストなどの原画やアニメのセル画に関しては原則として1個しか存在しない商材ですが、ウチに入ってきたものは全部データを蓄積しています。原画だけでも30万くらいのデータを溜めているので、それとの照合で買取価格と販売価格が決まっていきます。数が多いオモチャにおいても同じで、まんだらけでは独自に作ったPOSシステムで仕入れ状況や販売実績のデータを管理しています。通常の業者さんはほとんどPOSデータを販売する企業から提供されたデータをベースに、自分たちなりに数量を見ながら値段をコントロールしていると思いますが、まんだらけは2000年から自分たちでデータを持とう、POSのシステムを自分たちで作ろう、という流れになったので」(辻中)

 

果たして、その具体的なメリットは?

 

「中古商材店が2010年ごろまではあまりなかったじゃないですか。要するに、2000年から2010年までに扱われたモノのデータ数って基本的に少ないんです。もちろんヤフオクを見れば、その辺りの数字も分かるには分かります。ただ、ヤフオクって売れるものはたくさん出品されるけど、売れないものはマニアの方が出さなくなるので、データの傾向が偏っていて。その点、ウチはそういうものもずっと買い続けているので、一番正しいデータを持っているのはまんだらけだという自負はあります。その10年間で入ってきた数は明確に分かるし、そのデータは世の中に出していませんから、外には出てないまんだらけの分を無視した数量でコントロールをしても正確なところは分からないんじゃないかなと。それくらい業界内でのシェアはあると思っていますし、POSシステムを作るのはすごく大変でしたが、そこはやった意味があったんじゃないかなと思います」(辻中)

 

まんだらけの買取窓口にモノを持ち込むと分かるが、大量の客を相手に大量の商材を扱いながら基本的に査定が早い。前述のPOSシステムによって商品のデータを入力すれば買取価格が即座に出てくるし、売る側も商品ごとの買取価格を一目で確認できる。また、データが不足している珍しいモノがあれば、該当ジャンルに詳しい担当者が確認して査定。なので、買取窓口の担当者がそこまで対象に精通していなくとも、概ね間違いのない価格で買い取ってもらえ、それが売る側の安心感にもつながるのである。

 

「それは、まさにデータがあればこそですね。で、これは声を大にして言いたいですけど(笑)、そのデータがオリジナルであることが大きいと思います。今の時代を考えると、いずれAIが査定するということあるかもしれません。でも、AIではデータがなくて判断ができないものは必ずあります。今回お話ししたような市場にほとんど出回らないものは間違いなく。そういう意味で大切なのが先ほど申し上げた通りお客様とのつながりなので、トップ(コレクター)の方が無視できないお店でありたいとは常に思っています」(辻中)

 

コロナ禍が市場に与えた影響、コロナ以降のコレクターライフの在り方

話は変わるが、昨今の情勢ということで気になるのがコロナ禍以降の動向だ。言ってしまえば、玩具のコレクションは道楽の極み。生活維持を優先せざるを得ない世の中の状況は、この業界にも少なからず影響を及ぼしたに違いあるまい。

 

「確かにコロナの影響で、去年の4月、5月なんてお客さんの数がそれまでの20分の1、30分の1くらいになりました。ただ、実は仕入れは8割あったんです。東京は特にフリーランスで働いてる方が多いので、そういう方々が仕事の減少などで本当に困ってコレクションを売りに来てくださるんですが、10年20年とこだわって集めてこられた方たちなので、本当にいいモノを持ってこられるんですよ。だから、仕入れの点数的にはそれまでの10分の1程度だけど金額は8割くらいあるということに。そこでみなさんが口々におっしゃるのが『モノに助けられる』と。『遊びで10年集めてたけど、これに救われるとは思わなかった』ということでパッと200万、300万ほどの資金ができて、ちょっと頑張れるという方が本当に多かったですね」(辻中)

 

最初から手放すことを想定してモノを買うコレクターは基本的にいない。彼らが大切に集めてきたモノを手放さざるを得ない状況が、仕入れにおいて量より質の充実につながったのはちょっと切ない話だ。ただ、コツコツ集めてきたモノが自身の苦境を救う。ある意味、それもコレクターならではの甲斐性だろう。その一方、派手に客足が落ち込んだ影響で、売り上げの減少は免れなかったのでは?

 

「もちろん100%一昨年の規模に戻ってるかといえば戻っていません。特に近年は大きな売り上げを占める外国のお客さんが日本に来られない状況なので、その影響は大きかったですね。そのなかで実は通販の売り上げは2倍くらいになっていまして、トータルで考えるとコロナ以前の9割くらいで足踏みしている感じです。みなさんの生活スタイルが変わったんだなというのはすごく感じます」(辻中)

 

「電話での問い合わせが本当に増えましたからね。通販サイトを見ていただいて、新規のお客さんは本当に増えた印象です」(辻)

 

もう1点、気になるのが価格への影響。単純に考えて、先行きが不透明ななか、コレクターの売りが買いに先行すれば売れ行きは下がり、自ずと相場も下落傾向になるような気がするのだが……。

 

「基本的に下がってはいませんね。ただ、やっぱりマスなもの……特に2005年以降の海外の方が好まれるようなアニメ作品系のアイテムはちょっとダブつく感がありました。なので、そこをどういうふうにアプローチしようかという話にはなったんですが、結局それも通販でまかなえたんです。その結果、そういった商材のなかでレアなものがけっこうあぶり出され、特にこの1年でプライズ(クレーンゲームの景品)のレアアイテムが値上がりしました。傾向的に、今あるモノより完成度の高い商品が出てきたらそっちに乗り換えるという考え方のコレクターと、商品の良し悪しを問わずどのバージョンもきっちり全部ほしいというファンと、二分するようなところがありました。前者には『プライズはちょっと商材として落ちるんじゃないか』と言われていたところがあったんです。でも、『このサイズはプライズしかないよね』みたいなノリで集める方が増えて、プライズの評価も徐々に上がる。この10年くらいでそういうふうに状況が変わってきたなか、この1年でそれがさらに進んだかなと」(辻中)

 

「あと、コロナ前とコロナ後でお客さんが話される内容が変わりました。今まではみなさん忙しくて、買うだけ買って愛でる時間はあまりないのかなという印象だったんですが、仕事の状況が変わったり在宅の時間が長くなったことで、買ったあとに飾ったりメンテナンスする時間ができたようですね。前は『アレを買いましたよ』だったのが、『こないだ買わせてもらったアレのここがすごく良くて』とか他に話が移ることが多くて、自分のコレクションを楽しむ幅が広がってきているというか。その結果、また買う量も増えてきたんじゃないかなと。だから値段は全然下がってないですし、楽しみ方の質が変わったような気がしています」(辻)

 

「去年の4~6月くらいまでは確かに先が見えない状況でしたが、夏くらいになると給付金が一律10万円支給されたり、仕事の状況もそれなりに戻ってきたという方が多くて、日本国内に関していうと買いの状況はそんなに大きく変わってないのかなと思います。当座の資金繰りで手放されたモノをもう一度買い戻されてる方もけっこういますね。『なんだ、ちょっと焦りすぎたな』とか言いながら。あと、こないだお客さんがおっしゃっていたのは、『どうしようもできないものは手放さず、状態の悪いものから手放したから、かえってコレクションが整理できた』と。その上、改めてコンディションのいいものを買い直して『よりコレクションが強化された』みたいな、そんなお客さんもいらっしゃいました(笑)」(辻中)

 

さすがオモチャに人生をほぼ全振りしているコレクターはお強い。タダでは転ばない。というか、そもそもオモチャに何万、何十万、何百万、何千万とつぎ込み続ける、汲めども尽きぬ物欲の持ち主たちだ。その業の深さを侮ってはいけない。

 

ビンテージ玩具の売買を通じて、残るべきモノをちゃんと残すこと

ちなみに、ここまでまだ言及していない玩具のカテゴリで、近年の主流となっているのが「超合金」に代表される合金トイだ。そのメカニカルな性質から、商品化の大半がアニメや特撮に登場するロボットたち。ビンテージ玩具に限らず現行品も数多のメーカーからリリースされ続ける、マニア向け玩具市場の最大勢力である。

 

↑合金トイの代表選手といえばポピーの超合金だが、主にヒーローが搭乗するビークルを商品化した「ポピニカ」(※ポピーのミニカーが語源)も負けず劣らずの大人気シリーズ。そのなかでも群を抜いて高額なイアテムが『科学忍者隊ガッチャマンⅡ』の「DX NEWゴッドフェニックス 火の鳥ver.」で、まんだらけにおける過去の販売価格は250万円!

 

「コロナ禍の状況下でウチの売り上げをずっと支えてくれたのが超合金です。ソフビやブリキはちょっと落ちてしまったんですが、超合金は安定してましたね。国内に限らず海外の方も親子2世代、3世代で観ている日本のロボットアニメが各国にあり、代わる代わる探求があるので、ロボットはやっぱり強いです。プレミアムバンダイを筆頭にいろんなメーカーさんから新製品がどんどんリリースされているのはもちろん、今はインターネットで情報が見られるので、海外の新興メーカーさんが日本の大手メーカーではなかなか商品化されそうにないモノを出されたりしています。コロナ禍があったので今はそういう動きもちょっと落ち着いていますが、特に香港や台湾などアジア系の方が80年代や90年代の『これ、バカだなー』みたいなマイナーなタイトルの商品をけっこう作っていて、そこを突くのかーみたいな(笑)。しかも『それをそのクオリティで作るのか』というレベルの商品も多くて、その辺は動きとして面白いかなと思います」(辻)

 

一例を挙げると、香港のメーカー・AWAKEN STUDIOは、『銀河烈風バクシンガー』『戦国魔神ゴーショーグン』など、バンダイの超合金魂シリーズで商品化されてないマイナーなアニメロボットを超ハイクオリティで合金トイ化。バクシンガーに至っては、鳥型メカが基地形態に変形する移動基地バクシンバードもリリースする徹底ぶりだ。

 

「あとは、雑貨系とか文房具のような単価の低いものはヤフオクとかだとあまり出ないんですが、まんだらけはそういう小物系もいいものであればきっちり買い取ります。それを専門で出している店舗もあるので、今までは高いものを買っていた海外の方が逆に雑多な小物系とかを買ってくださったり、昨今の情勢を受けてコレクションの集め方が変わってきているというのもありました」(辻)

 

時代が変わればモノの価値も変わる。ブリキや古いソフビがビンテージ玩具の主流だった80年代〜90年代初頭、現在のメインストリームを走る超合金や、軒並み高額アイテムが並ぶジャンボマシンダーも今ほどには評価を得てなかった。コレクター人気が高いタカラのオリジナルSF玩具も「変身サイボーグ」こそ一定の評価はされていたが、後継シリーズの「ミクロマン」は完全にキワモノ扱いだった。

 

↑高額アイテムが並ぶプラトイにあって、かつて販売価格80万円の値がついたレアアイテムのひとつが、このポピーの「スタージンガー 透明基地クイーンコスモス」。原作:松本零士によるTVアニメ『SF西遊記 スタージンガー』に登場する基地という、かなりマニアックな商品だ

 

「90年代の前半まではプラトイ(プラスチック製の玩具)がそうでしたね。そんなもの集めるのか、みたいな。でも、そのなかでコツコツ集めていた方は『これは(数が)ないな』って分かるわけじゃないですか。基本的にビンテージトイはレアであるかどうかというところでの値段のつき方なので、2000年の時点で同じ50万円同士だったモノも、そこから出てきたのが片や5個で片や1個しかなかったら、どうしても1個のほうにオーラが見えてくるんですよ。あれって、どうしてですかね?(笑)モノの形とかを乗り越えた希少性、時代が生み出す説得力的にオーラが見えてくるというか。この仕事はそういうことの連続ですね」(辻中)

 

かつてはキワモノでしかなかったプラトイも今や価格急上昇の筆頭株。ロボットアニメや特撮ヒーローの基地、ビークル系のプラトイは細かいパーツが多く、欠品なしの箱付きでお目にかかることは稀だ。ゆえに、現在は販売価格数十万レベルのものがザラだし、なんなら100万超えのアイテムも少なくない。かつてを思い返すとそんな現状に少なからず驚きを覚えるが、裏を返せばどんな商品にも可能性は残されているということだろう。

 

いずれにせよ、話はモノがあってこそ。今後、ビンテージキャラクター玩具の出物が新たに掘り起こされる余地は果たしてどれくらい残されているのか?

 

「超合金がギリギリで、初期のソフビだともう新しいモノはさすがに発見されないんじゃないかなと思いますが、1975年くらい以降のモノはまだ可能性があるんじゃないでしょうか。プラトイなんかはまだ掘られてないモノが田舎の実家から出てきた、みたいな話がいまだにあるので。あと、昔は箱がないんじゃなくて痛みがひどいから箱は捨てて持ってきたということで、箱アリはなかなか出回らなかったけど、今はどんな状態でも箱があれば箱付きで持ち込まれる流れになっているので、そういうものが出てくることはありますよ。ただ、本来残るべきモノが捨てられていくことはまだまだありますから、そこは本当に気になりますね(笑)」(辻中)

 

思えばコロナ禍の自粛ムードのなか、断捨離が流行り、捨てることを是とする方向に世の中がいっそう傾いた気もするが、そんな風潮は言わずもがな言語道断。玩具に限らずビンテージアイテムはすべて限られた資源だ。今、地上に残されている現物がすべての世界だ。

 

そして、それらに値段がつくことでモノの価値が目に見えて分かり、その価値が認識されることで、まだどこかで眠っている希少なオモチャがサルベージされ、消滅を免れる。その結果、モノが人の手を渡り続け、残されていく。

 

今回、話題がモノの価値/値段のことに終始して、記事の主旨が些か下世話に思われるかもしれないが、そこはビンテージ玩具を語る上で外せない大事なポイントだ。高いモノには高いだけの理由があるし、高いからこその意味も確実にある。

 

「我々も市場の傾向に影響されますが、まんだらけとしては『ないモノはないよね』という位置をキープしたいとは思っています。そこがヤフオクとはちょっと違うところで、オークションサイトの需要は最大瞬間だけなので、人気がなくなってきたジャンルに対してはそっぽを向く傾向があるというか。一番分かりやすい例が『がんばれ!ロボコン』ですよね。90年代にロボコンの超合金が復刻されたとき、それまで高かった相場が一気に下落したじゃないですか。でも、そういう時期に賢いマニアの方たちは、当時のモノをきっちり美品で揃えるんですよ。それで、今はまた値上がりしてますからね。だから、価値が上がるという話だけではなく、下がるタイミングにどういう目配せでモノを集めるか、買うか、というのは、モノの集め方としてすごく問われていて。なので、まんだらけの姿勢としても目先の傾向のみにとらわれず、『いいモノはいい、レアなモノはレア』ということで適正な評価を行い、できるだけモノを残す方向でやっています。だって、残すほうがカッコいいですから」(辻中)