提供:宝酒造株式会社
日本を代表するお酒といえば、やはり日本酒。2024年には、焼酎や本みりんなどを含む「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産へ登録されました。
「酒噺」でもこれまで、さまざまな角度から日本酒を深掘りしてきました。今回は、過去の記事を紹介しながら、2回に分けて日本酒の魅力をお届けします。〈前編〉では、日本酒の造り方から味わい、飲み方について解説しました。一方、日本酒は神事で扱われたり、慶事の「鏡開き」で用いられたり、日本の節句や文化とも密接なつながりがあります。〈後編〉では、過去に深掘りした記事を交えながら、日本酒と日本文化の関係について紹介していきます。
【前編はコチラ】

日本最古の神社とお酒の関係
神社での結婚式では、新郎新婦が同じ盃で御神酒(おみき)を酌み交わす「三献の儀(さんこんのぎ)」や、祭祀の後に捧げられた御神酒を参列者がいただく「直会(なおらい)」が行われるなど、日本酒は日本の信仰と深く結びついています。なかでも特に関わりの深い神社が、奈良県桜井市三輪にある「大神(おおみわ)神社」。日本最古の神社といわれる、まさに聖地のなかの聖地です。

同社は、大物主大神(オオモノヌシノオオカミ)が鎮坐する三輪山そのものを神体山として祭祀しています。『日本書紀』によれば、崇神(すじん)天皇の御代に疫病や災害などが日本に蔓延した際、夢の中で大物主大神のお告げがあり、神酒を造る掌酒(さかびと)として高橋邑(むら)の活日命(イクヒノミコト)が任命されました。
この活日命は、わずか一夜にして非常に優れた御神酒を造り、これを振る舞ったところ疫病が治ったと伝えられています。そして、この出来事は国家繁栄のめでたい兆しとして喜ばれ、その後、この地で始まった酒造りが各地へ伝播したといわれています。
こうした経緯から、三輪の大物主大神は酒造守護の神様、活日命は杜氏(とうじ)の祖として信仰されるようになり、大神神社はお酒にまつわる神社として、全国各地から崇敬を集めることとなりました。
新酒の仕込みにあたる毎年11月の「醸造安全祈願祭(酒まつり)」は、大神神社の一大行事。全国の酒蔵や洋酒会社、さらには醤油や酢の関係者、大学教授など多彩な顔ぶれが集まり、醸造の安全を祈願します。
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酒造りの神様
醸造やお酒の神様としては、京都西部の「松尾大社」も有名です。701(大宝元)年に創建された、京都でも最古の神社であり、御本殿のすぐ後ろには切り立った山肌が見え、神奈備山(神が鎮座する山)である松尾山が悠然とそびえています。

この松尾大社の祭神「大山咋神(おおやまくいのかみ)」こそが、お酒の神様。その理由は、その出自にあります。
松尾大社は、古代の渡来系技術者集団「秦(はた)一族」の総氏神として創建されました。秦一族は、伏見稲荷大社の創建や平安京の建設にも関わった、京都の歴史に欠かせない存在です。
平安時代には朝廷で御神酒を造る役職がありましたが、貴族から武士の時代に移ると、寺院や民間の酒屋が酒造りの中心となります。その中で、中国の最先端技術を学んだ僧侶による僧坊酒(そうぼうしゅ)が評判となり、寺院の多い京都は優れた酒の産地となりました。そして、その職人の多くが秦一族だったとされています。
やがて、優れた酒造り集団である秦一族の総氏神にあたる松尾大社、そして松尾山の神様が、「おいしい酒造りの神様」として信仰されるようになりました。さらに江戸時代になると、上方(近畿)の酒を送る輸送ネットワークが発達し、松尾の神様信仰も全国へ広まっていったのです。
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日本酒は最も重要なお供え
日本と米、そして酒の結びつきは、『古事記』や『日本書紀』などの日本神話にも記されています。かつて天上界(高天原)を治めていた天照大御神(アマテラスオオミカミ)は、日本国土(葦原中国)に降りる瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に稲作を託しました。つまり、日本の主食である米は、神様からの贈り物というわけです。
秋になると、全国の神社で、米や野菜の収穫を祝い、神様に感謝する秋祭が斎行されます。その際に必ずお供えするのは、米・酒・塩・水の「神饌(しんせん)」。なかでも酒は、神様をもてなす上で重要な神饌とされています。

それは、直会で御神前にお供えしていた日本酒を頂戴する行為にも表れており、“御神酒”とはお供えによって酒に御神霊が宿ることからそう呼ばれるのです。御神酒をいただくことは、神様と一体となって縁を結ぶこと。つまり、神様からその力を分けていただくことを意味するのです。
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杉玉と日本酒

日本酒の蔵や居酒屋でよく見かける、吊るされた丸いオブジェが「杉玉」です。その名の通り杉の葉で作られ、新酒が完成する2~3月から飾られ始めます。初めは鮮やかな緑色ですが、時間の経過とともに色が変化して初夏には薄緑に。夏は暑さで徐々に枯れ始め、色も薄くなり、秋を迎えるとすっかり枯れた褐色となります。この時季は日本酒が円熟する「秋あがり」が飲みごろを迎えます。
このように、杉玉はその色の変化によって、酒蔵ででき上がる日本酒の味わいの変化も知らせてくれるものです。歴史をたどると、こちらは前述の、奈良の大神神社が発祥だといわれています。
とはいえ、杉玉のルーツや成立の経緯は明らかとはなっていません。しかし、大神神社では酒造りの信仰が5世紀前半には始まっていたとされ、現在でも杉の神木が多く残る聖地です。
杉には殺菌作用があり、かつての酒造工程においては酒母やもろみを攪拌(かくはん)するための櫂(かい)や、貯蔵用の樽などにも杉が使われていました。こうした意味が結びついたことで、杉玉が生まれたのかもしれません。
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酒樽の歴史

お正月や結婚式、映画の完成披露、野球チームの優勝など、おめでたい席に欠かせないイベントといえば「鏡開き」。なぜ酒樽の蓋を割る行為が「鏡開き」と呼ばれるのでしょうか。それは、樽の蓋を「鏡」と呼ぶことに由来します。鏡開きには、“鏡”を開くことにより“運”を開くという意味が込められており、縁起が良く、“よろこび”の場にふさわしい演出といえるでしょう。
慶事に使われる酒樽は、もともとは酒を運ぶための容器でした。関ヶ原の合戦が終わった1610年代から酒の流通が始まり、上方の酒が江戸へ輸送されるようになったことがきっかけです。
酒を輸送するには「樽廻船(たるかいせん)」が使われ、樽同士がぶつかって酒が漏れないよう、藁(わら)などで作った菰(こも)が“緩衝材”として巻かれるようになりました。こうした背景から、酒樽は「菰樽」とも呼ばれます。
なお、伝統的に樽に使われる木材は吉野杉です。理由は、抗菌作用があることに加え、香りがよく扱いやすいからです。ただし、樽廻船などで長時間の輸送をすると酒に木香がつきすぎるので、高級酒には木香がつきにくい「甲付樽(こうつきだる)」が使用されました。現在では、樽の中に酒を長時間入れておくことはありません。
樽酒は、日本酒にこだわる居酒屋などで提供されることもあります。見つけた際はぜひ味わってみてください。
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酒枡と角打ちの関係
木製の器といえば、酒枡も外せません。枡はもともと、ものの体積を計量するための器です。

古代から日本では、年貢米の量などを計るために使われてきましたが、やがて年貢の石高を正確に計るために規格が統一され、現代では一般的に一升(1.8L)、五合(900ml)、一合(180ml)などの枡が使用されています。
なお、近年人気を集めている、酒販店の片隅でお酒を飲む「角打ち」も、一説によれば枡が語源とか。諸説ありますが、酒屋で枡に注がれた酒を持ち帰るのが我慢できず、“枡の角から飲んでしまう“ことが由来ともいわれます。
「益々(ますます)繁盛」「福が増す(ます)」と、語呂合わせの縁起もかつげる枡。祝い酒を嗜む際には、ぜひ枡酒で宴席をより盛り上げたいものです。
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日本酒は、古来より神々の恵みである米を醸し、祭りや儀式を通して信仰と文化を育んできました。大神神社や松尾大社に代表される「お酒の神様」への信仰から、新酒の完成を知らせる「杉玉」、慶事を彩る「鏡開き」に至るまで、その歴史と文化は日本の精神と深く結びついています。この記事で触れたように、日本酒が持つ豊かな物語を知ることで、私たちは日本の文化をさらに深く味わうことができるでしょう。

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