家電
2018/3/19 21:37

今度の狙いはカビだって? シャープ「プラズマクラスター」新たな効果を示した3つの実験

「プラズマクラスター」は、シャープ独自の空気浄化技術です。水分子に囲まれたクラスター状(ぶどうのふさ状)のイオンを発生させることで、除菌・消臭などに効果があることが知られていました。さらに2017年の11月、シャープはイオン濃度を高めた「プラズマクラスターNEXT」を発表。「ストレスがたまりにくい環境をつくる」「集中を維持しやすい環境をつくる」という新たな効果を実証し、その名の通り、我々に「向こうの世界に行った」印象を与えました。いままで応援していたバンドがメジャーデビューしたような……一抹の寂しさを感じた人も少なくないのではないでしょうか。

↑プラズマクラスターNEXTを搭載する空気清浄機、KI-HP100。中央にはプラズマクラスターのマークが

 

除菌・消臭効果に加え、カビの生長を抑えることを実証

↑プラズマクラスターの主な機能。除菌・消臭効果と静電気除去効果、肌保湿効果などが実証されています

 

そして今回、そんなプラズマクラスターに、新たにカビの生育を抑える効果があることがわかりました。こちらを確かめた実証実験は、カビ研究の専門家である県立広島大学・森永特任教授が監修したとのこと。その実験方法を簡単にいうと、密閉された筒の中にプラズマクラスター発生装置を入れ、このなかにエサが入ったシャーレを入れて、カビを生育させるというもの。

↑実物の実験装置

 

5種類のカビを使い、3つの生育期間に焦点を当てた

実験に使われたのは、一般的なカビとされるアスペルギルス (黒コウジカビ)、ペニシリウム (青カビ)、クラドスポリウム (黒カビ)、リゾプス (クモノスカビ)、ケトミウム (ケタマカビ)の5種類です。なお、アスペルギルスは、アスペルギルス症という病気の原因になり、アレルギーの原因になることもあるとのこと。ペニシリウムは食品に生育してカビ毒を生産。クラドスポリウムは風呂場の黒カビの原因となり、リゾプスはムコール症という病気の原因に、ケトミウムは穀物などの汚染や衣類・本の腐食の原因になるそうです。

 

ただし、これらのカビは一概に害があるだけとはいえません。特にコウジカビと呼ばれるアスペルギルスの一種は、デンプン質を糖分(甘み)に、タンパク質をアミノ酸(うまみ)に分解するはたらきを持ち、日本酒や焼酎、味噌などの発酵に使われます。

↑カビが与える弊害

 

上記の5種類のカビを使って行われた実験は以下の3つ。プラズマクラスターイオンを3日間照射すると、①胞子(※1)が発芽して生長するのか?②(生長の途上にある)菌糸(※2)が生長して胞子を作るのか?③形成された胞子(十分に生長したカビが持つ胞子)を死滅させることができるか? この①~③を調べたのがこちらの実験なります。

※1:胞子……生殖細胞のこと ※2:菌糸……菌類の体を作る糸状のもの

↑カビのライフサイクル

 

↑先述の①にあたる実験。カビのエサが入った寒天培地に胞子をまき、胞子が発芽して成長するかを調べます

 

一部の胞子を除き、高い確率でカビの生長を抑えることが判明

①「胞子が発芽して生長するのか?」に対しての実験結果は、5種類すべてのカビの発芽、および生長を99.9%抑制するという結果に。②「(生長の途上にある)菌糸が生長して胞子を作るのか?」では、一部のカビでイオンが届かない培地内部では若干菌糸の生長が見られるものの、培地表面での生長は抑えられ、コロニー(菌集落)が大きくなることもなし。胞子の形成も抑制されていることがわかりました。③「形成された胞子(十分に生長したカビが持つ胞子)を死滅させることができるか?」という実験では、下記のグラフの通り、クラドスポリウム(59.7%が発芽)とリゾプス(94.9%が発芽)が高確率で発芽したものの、その他3種類のカビは発芽率が大幅に抑えられ、すでにできている胞子にも効果があることが判明しました。

↑③「形成された胞子(十分に生長したカビが持つ胞子)を死滅させることができるか?」という実験。十分に生長したカビにプラズマクラスターを照射し、その胞子を採取して培養した結果です

 

ちなみに、クラドスポリウム(59.7%が発芽)とリゾプス(94.9%が発芽)に効果が少なかったのは、クラドスポリウムは胞子がぶ厚いカラで守られ、リゾプスは胞子が胞子のうで守られているため。イオンが十分に届かなかったと推測されています。

↑5種類のカビの形状

 

つまり、③の一部(守られた状態の胞子)を除くほとんどのライフサイクルにおいて、プラズマクラスターは高い確率でカビの生長を抑えるというわけです。しかも、③で一部効果が薄かったカビがあった点についても、胞子が本体を離れて単体になってしまえば、結局は①「胞子が発芽して生長するのか?」の実験結果の通り、99.9%生長が抑制され、育たないことになります。

 

ちなみに、本実験におけるイオンの濃度は1c㎥あたり200万個で、実用化されている「プラズマクラスターNEXT」のイオン濃度目安は1c㎥あたり5万個以上。実験は実用化された機種の40倍以上のイオン濃度で行ったわけで、実際の生活空間に影響を与えるか否かはまだわかりません。ただ、もしプラズマクラスター機器を使っているだけで、少しでもカビの生育が抑えられるのならありがたいですね。また、この技術を応用すれば、お風呂の黒カビ予防や、パンやおもちなどの保管に役立つかも。大吟醸などのデリケートな日本酒を醸す際、発酵をコントロールするために利用できるかもしれません。そんな夢が広がる、興味深い結果でした。

↑今回の結果で医療機関や農業・野菜・食品工場など、新たな用途が期待できます

 

発表会の最後には、まさかのチーズセミナーが

と、カビの実験結果だけでも十分満足だったのですが、発表会の最後に、もうひとつの山が待っていました。それは、なんとチーズセミナー&チーズの試食。著名なチーズプロフェッショナル野田幹子さんが登場して、チーズのお話をするという不思議な時間が……。広報の方も「いや~カビを抑える話をしているのに、カビを使ったチーズの話、というのもどうかと思ったんですが」とおっしゃっていましたが、私もまったく同じ意見です。とはいえ、このサービス精神、嫌いじゃない。ちょっと観客がざわざわするくらいでなければ、面白くありません。こういった自由な発想の発表会を許す点は、さすがシャープ。このあたりがユニークな製品を次々と出し、いまノリにノっている原動力となっているのでしょう。今後の製品と発表会にも、大いに期待したいところです。

↑右の女性がチーズプロフェッショナル野田幹子さん。印象に残ったお話が、ロックフォールという青カビチーズの起源です。とある羊飼いの青年が、洞窟にチーズを置いて美女を追いかけ、戻ってきてカビだらけのチーズを食べたら美味しかった、という……。羊飼いの人間性には疑問しか残りませんが、常識に囚われていては新しいものは生まれない、というのもまた真実なのですね…

 

↑ふっわふわの白カビが生えた「バラカ」というチーズが試食用として提供されました。フランス産で、馬のひづめの形をしています。やや強めの塩味と極めてまろやかな舌触り。筆者はカビチーズが苦手ですが、好きな人にはたまらないだろうな、という味でした。赤ワインにはドンピシャでしょう