2019年6月に発売された「ヘルシオ AX-XW600」(実勢価格14万7530円)は、シャープのヘルシオシリーズの最上位モデルです。ヘルシオシリーズは2004年に発売された初代モデルのAX-HC1から「過熱水蒸気調理」にこだわったシリーズ。“水で焼く”ことによる「脱塩・脱油効果」や、オーブン加熱や電子レンジ加熱にはないお手軽調理が可能な「まかせて調理」など、過熱水蒸気調理を徹底的に追求した独自の調理が可能になっています。
ヘルシオ AX-XW600の注目ポイントは以下の通りです。
●「あぶり」と「低温調理」を組み合わせた「あぶり豊潤焼き」
●野菜の食感を残して調理できる「低温蒸し青野菜」機能
●温度帯の異なる食材でも並べて一気に調理できる「まかせて調理」
ひとつひとつ見ていくことにしましょう。
絶妙な温度で肉を過熱する、あまりにも魅力的な機能「あぶり豊潤焼き」
筆者がイチオシしたいのは、なんといっても「あぶり」と「低温調理」を組み合わせた「あぶり豊潤焼き」機能です。これは2018年モデルの「AX-XW500」から実現したもので、2017年発売の「AX-XW400」に搭載した「あぶり調理」機能をさらに充実させたものです。あまりにも魅力的な機能なので、真っ先に紹介していきましょう。
最近、米Anovaの「Anova(アノーバ)」をはじめとする調理器具を使った「低温調理」が流行しているのをご存じでしょうか。味付けした肉などを袋に入れてお湯で調理することで、しっかりと中まで火を通して殺菌しつつ、肉のタンパク質が変成する温度を超えないように調理するというもの。
本機では、肉などの表面をあぶってしっかりと焼き色を付ける「あぶり調理」と、この低温調理を組み合わせることで、ローストビーフやローストポークなどを手軽に作れるのですから驚きです。
まずはローストビーフを作ってみましたが、周りにはしっかりと焼き色が付きつつ中心部はレアと、なかなかの味に仕上がりました。まあ、ローストビーフはどのオーブンレンジでもほぼ失敗なく作れますし、新鮮な牛肉であれば多少火の通りが甘くても特に問題はありません。問題はローストポークです。
しっかり中心まで火を通しつつ、生に近い食感に仕上げる
豚肉は牛肉と違って中心部までしっかりと火を通さなければならないのは誰もがご存じのことでしょう。なお、厚生労働省の「食品別の規格基準について」にある「食肉製品の製造基準」によると、食肉を殺菌するためには中心温度が60℃なら12分、61℃なら9分、62℃なら6分の加熱が必要で、63℃に達していれば瞬時で殺菌ができるとのこと。
ローストポークの調理が完了してすぐに温度計を刺してみたところ、中心温度が64.7℃となっていました。かなり絶妙な温度でしっかりと中まで火が通っているのを確認できました。
ローストポークをスライスしてみると、外には焼き目が付いているものの、中はピンク色。低温調理をご存じない方からすると「この豚肉、大丈夫?」と思われるかもしれませんが、生に近いような食感でありつつ、しっかりと火が通っているのが低温調理の魅力なのです。これまでの低温調理器は下準備が必要でしたが、ヘルシオの場合は味付けした肉を網にセットしてボタンを押すだけで作れるので、かなり重宝しそうです。
「低温蒸し青野菜」機能は「カット冷凍野菜」作りに便利
続いて日常的に料理をする人にぜひとも活用していただきたいのが、新搭載の「低温蒸し青野菜」機能です。
ヘルシオシリーズは上位モデル数機種に、低温スチームで蒸す「ソフト蒸し」機能を搭載しています。これは65℃から95℃まで5℃刻みで温度を設定し、65~70℃であれば最長2時間30分、75℃以上であれば最長45分まで食材を蒸せるというもの。以前からこの機能を利用して野菜を低温で蒸し、野菜の栄養素やシャキシャキ感を残したまま調理するというのが一部のユーザーで用いられていました。これをヘルシオが自動的に行ってくれるようになったというわけです。
ほうれん草や小松菜、水菜、キノコ類などを網に載せてセットし、低温蒸し青野菜機能を使うだけでシャキシャキ感を残したまま蒸すことができます。
筆者は従来モデルのヘルシオでソフト蒸し機能を使ってシャキシャキの蒸し野菜を作り、カットしてから冷凍することで「カット冷凍野菜」を自作しています。ソフト蒸しのいいところは野菜に火が通り過ぎないので、解凍してから野菜炒めに入れたり、ほうれん草のバター炒めなどを作ったりしてもグズグズにならないところです。野菜をおいしく調理したいという人はもちろん、筆者のように野菜を冷凍して効率的に使いたいという人にもおすすめの機能です。
「まかせて調理」の手軽さをマカロニサラダで実感
過熱水蒸気調理機能を搭載しているのはヘルシオシリーズだけではありませんが、過熱水蒸気のすごさや便利さを最も実感できるのがヘルシオの「まかせて調理」かもしれません。
まかせて調理は2015年モデルから搭載している機能で、食材の量が多くても少なくても、冷凍・冷蔵・常温の食材が一緒になっていても、角皿に並べて調理方法を選ぶだけで一度に調理できるというもの。「網焼き・揚げる」、「焼く」、「炒める」、「蒸す・ゆでる」の4種類の調理方法を選んでボタンを押せば、自動的に調理してくれます。
オーブン調理や電子レンジ調理の場合、凍った食材と常温の食材を混ぜると常温の食材は火が通り過ぎ、凍った食材は冷たいまま……といった状態になりがちです。一方、本機が採用する過熱水蒸気は温度の低いものに熱を奪われやすいため、最終的に均等に火が通るようになるのだそうです。
今回は、試しにマカロニサラダを作ってみました。マカロニを水に浸したバットと、軽くした味を付けたお肉と野菜を入れたバットを並べ、その外には生卵を2個置いて「蒸す・ゆでる」を選びました(下写真)。バットに残った水を切ってからボウルで混ぜ合わせ、塩コショウやマヨネーズで味付けすればサラダのできあがりです。最後に味付けするだけというのはかなり手軽に感じました。
「まかせて調理」は料理に慣れた人のサポートにも使える
オーブンレンジに用意されているレシピはすべて調味料の分量がしっかりと明記されていて、同じように計量したら同じように作れるようになっています。しかし、長年料理をしてきてフライパン調理や鍋調理に慣れた人は、少しずつ味見をしたりしながら最終的に味を調えて料理を完成させる人が多いと思います。そういう人にとっては、用意されたレシピは少し窮屈に感じることでしょう。
その点、まかせて調理の場合、4種類の方法で食材を加熱するところだけを自動化でき、あとで自分好みの味付けによって完成させることができます。たとえば、下味を付けた肉や魚と野菜をまかせて調理で調理しつつ、それにかける本格ソースをフライパンで作って完成させる、といった使い方をすれば、料理に慣れた人が料理をレベルアップさせるのに使えるでしょう。
スマートフォンアプリはまだまだ進化の余地あり
ヘルシオシリーズは比較的早くからスマートフォンアプリを提供しており、本体にWi-Fiを搭載して音声によるレシピ検索ができるなど、「AIoT(AI+IoT)」に力を入れています。とはいえ、レシピ検索は肉や魚の種類や部位、野菜の種類などからドロップダウンして選べるようなツリー構造ではなく、キーワード検索しかできないなど、使い勝手はいまひとつ。
キーワード検索して見つけたレシピを見ながら食材を買いに行くといった使い方はできるものの、調理が終了すると知らせてくれる日立ヘルシーシェフのアプリなどと比べると、まだこなれていない感はありました。また、筆者がスマホのヘビーユーザーだからかもしれませんが、音声でレシピを検索できる機能や、食材と手段に応じたおすすめの調理方法を音声でアドバイスしてくれる新機能などは、いまひとつ使い勝手の良さが感じられませんでした。
おそらくどのメーカーも、オーブンレンジでは「レシピがあまり活用されない」という課題があると思います。たしかにユーザー側からすると、レシピブックを汚れが付きやすいキッチンには置きたくないですし、レシピアプリやレシピサイトの使い勝手が今ひとつで使いづらいという問題もあるでしょう。これに対応したのが日立のヘルシーシェフで、「どうせスマホを使ってレシピ検索をするから、本体にカラー液晶は付けない」と、割り切った仕様にしています。一方、ヘルシオはカラー液晶は見やすくていいですが、せっかく用意したアプリは使い勝手がいま一歩。「あぶり豊潤焼き」「低温蒸し青野菜」「まかせて調理」と、調理機能は極めて充実しているだけに、今後はそれらをより活用できるよう、進化に期待したいところです。
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