家電
2019/10/2 19:30

「上のほうにあるハコ」の見る目が変わった! マニアックな分電盤の工場で知る、極めて重要な「防災ミッション」

どんな家庭にも必ず1台ある分電盤。これがないと現代の生活はまったく機能しないといっても過言ではありません。でも、分電盤に目が行くのは停電などブレーカーが落ちた時くらいで、普段はまったく意識することはないでしょう。でも、実は人知れず分電盤も進化していたのです。パナソニックの瀬戸工場(愛知県)を訪問し、最新機能と驚きの製造現場を目の当たりにしてきました!

 

分電盤製造の重要拠点・瀬戸工場では「感震ブレーカー」に力を入れている

分電盤は、家庭に送られてきた電気を各部屋に分けるとともに、漏電や電気の使いすぎ、ショートしたときの過電流から家を守る役目もあります。実はとっても重要な機器である分電盤、その国内シェアのNo.1がパナソニック スイッチギアシステムズです。今回訪れた同社の瀬戸工場は国内需要を担うだけでなく、海外8拠点のグローバルマザー工場として、海外向けに部品の生産も行っています。

 

そんな瀬戸工場がいま、力を入れているのが「感震ブレーカー」の普及です。感震ブレーカーとは、震度5強以上の地震を加速度センサーで感知し、分電盤の主幹漏電ブレーカーを強制遮断する機能を搭載したブレーカーです。これにより、通電火災を防ぐことができるのです。

↑震度5強以上で主幹ブレーカーを自動でオフする感震ブレーカー搭載分電盤。後付け用に「感震リニューアルBOX」も用意しています

 

地震後の通電火災を防ぐ「感震ブレーカー」の普及率はまだ低い

地震が発生したときに怖いのがこの通電火災。地震で停電し、住民が避難して不在の中で電気が復旧したとき、断線した配線や雨ざらしになった配線・家電がショートしたり、スイッチが入ったままだった暖房器具に衣類やカーテン等がかぶさって火がついたりして、火災を起こすものです。実は、1995年1月の阪神・淡路大震災の際に起きた火災で原因が特定できた建物火災55件のうち6割にあたる33件が通電火災でした。

 

地震大国の日本では感震ブレーカーは必要不可欠に思えますが、実際は普及率がかなり低いのが現状です。パナソニックでは2019年度は3.3万台の出荷を見込んでいますが、それでも2006年の発売以来ようやく累計8万台に達した程度。木造一戸建て住宅における設置率を見るとわずか1%にも満たない状況なのです。

↑大震災時の火災原因は通電火災が多いが、感震ブレーカーの普及率は低いです

 

パナソニックの感震ブレーカー搭載分電盤は5万2200円~9万1000円と意外に低価格。また、既設住宅用には他社製分電盤にも後付けできる感震リニューアルボックスも用意しており、導入のハードルはそれほど高くありません。それなのに普及率が高まらないのは、単純に認知度が低いため。今回、瀬戸工場をメディア関係者に公開したのは、感震ブレーカーの認知拡大と、住宅分電盤の製造工程における品質の高さをアピールすることが目的です。

↑手を添えている部分が感震ブレーカー

 

↑感震ブレーカーを内蔵した分電盤。他のブレーカーと同じサイズなので、内蔵してしまうと目立ちません

 

ブレーカーはほぼ自動で生産され、不良品率は極めて低い

瀬戸工場は敷地面積3万平方メートル、建物延床面積4万1500平方メートル、従業員数は480名。24時間フル稼働で住宅盤・電設盤・ブレーカーのプラスチック成形から金属加工、組み立てを行い、一貫体制で製造しています。

 

ブレーカー製造フロアには80台の自動製造装置を設置。1日2交代で延べ14名のオペレーターによりほぼ自動で生産されています。ブレーカーの生産能力は月70万個。ブレーカーは30個ほどの部品から構成されていますが、シールとバネ以外はすべて内製化されているのも同工場の特徴です。

↑完全自動化されたブレーカー生産ライン。1.1秒に1個と、ものすごいスピードで生産されていきます

 

↑こんな複雑な部品も自動で組み立てられます。構成する部品はほぼこの工場内で作られています

 

出来上がったブレーカーは全数自動検品されますが、この時点での歩留まり(使用原料に対する製品の出来高の割合)は99.7%と高いのが特徴。不良品として弾かれた0.3%に関しても構成部品の位置調整など容易に修正可能なため、最終的には100%近い歩留まりとなります。

 

人手に頼る組立工程では、IT化して効率アップ

完成したブレーカーは組み立てセクションに回されます。同工場で生産される住宅用分電盤は実に3万6000種類にものぼり、それを構成するブレーカーなどの部品点数は2000種類にものぼります。この2000点の部品は常時ストックされており、受注からわずか2時間で組み立てを終えて出荷されるのですが、この多品種少量短納期を実現するため、組立工程ではIT化が進められています。この組立工程は人手に頼っていて、数年前までは紙の図面と指示書に沿って作業していましたが、2017年からIT化を進めることでスピードアップとミスの撲滅に成功したものです。

 

実際に現場を見てみると、作業台のモニターに全体の図面が表示され、作業者は手元のタブレットに表示されるリストにそってこれを組み立てていました。このIT化により、複雑な品番管理も容易に行うことができ、月間1万2000台もの分電盤を組み立てることができるようになりました。

 

最終確認も自動化されています。カメラで撮影した完成品と図面を画像認識技術により比較し、間違った部品が組み込まれていたら自動的にエラーが出る仕組みです。このような効率化による短納期と高い品質により、パナソニックの住宅用分電盤は大手住宅メーカー9社すべてに採用され、市場シェア50%以上を占めるダントツのトップとなっています。

↑最終組立は人の手によって行われます。2000の部品から3万6000品番の分電盤を間違わずに組み立てられるよう、ダブレットを導入してペーパレス化が図られています

 

↑完成品はカメラで撮影し図面と比較してエラーを発見するとともに、出荷状態を画像保存してエビデンスとして記録

 

自然災害に備えて分電盤を見直してみては?

近年、日本各地ではゲリラ豪雨が頻発し、それに伴い落雷被害も増えています。住宅直撃だけでなく家の近くの電柱に落雷したことにより、家の中の家電製品が過電流により故障するケースも増えているのです。パナソニックの分電盤は、こうした落雷から家電を守る避雷器を搭載したモデルも用意していますが、こちらは感震ブレーカーよりさらに普及率が低いのが現状です。

↑下段ブレーカーの最右端が感震ブレーカー。その左隣の緑色のアース線が出ているのが避雷器

 

パナソニックでは、既設住宅用に感震ブレーカーと避雷器が後付けできるマルチボックスを用意しているほか、分電盤本体をまるごと交換できる場合もあるので、気になる人は近くの工務店や電気店に問い合わせてみましょう。筆者は雷銀座である埼玉県に住んでおり、落雷によって家電製品が壊れた知人が複数いるので、この取材を機に真剣に検討を始めました。

 

ちなみに、このほど千葉で起きた台風による大規模停電においても通電火災は報告されています。送電自体がストップしたため、住宅の分電のブレーカーは上がったまま。台風被害で家の中の配線が切れていたり、雨に濡れたままの家電製品があったりする状況で、突然の電力復旧で配線がショートし、火事が起こったものです。今回のようなケースは地震によるものではないので感震ブレーカーで通電火災は防げませんが、逆に言えば地震の場合であれば、感震ブレーカーで通電火災を防げる可能性が高いわけです。大切な家と家族を守るため、みなさんも分電盤を見直してみてはいかがでしょうか。