いくら暖冬だといえど、やっぱり寒いこの季節。日本人なら誰しもこたつでヌクヌク暖まりたくなるはずです。ところでこのこたつ文化、いつ頃から始まり、どのような変遷で現代に受け継がれてきたのでしょうか。そして、どうしても生活感があるこたつのイメージですが、最新商品にはどんなものがあるのでしょうか。
今回は、やや保守的にも映るこたつ市場の中で、独自路線の「モダンこたつ」をリリースする国産家具メーカー・日美の岩切明日香さんにお話を聞き、こたつの変遷と最新商品までを聞いてみました。
室町時代に誕生したこたつが、近年モダン化されるまでの変遷!
ーーまず、こたつの発祥から知りたいのですが、いつ頃から始まったものなのでしょうか。
岩切明日香さん(以下、岩切) 諸説ありますが、一般的には室町時代(1336~1573年)にすでにあったと言われています。
当初のこたつは囲炉裏(いろり)の上に台を置き、布団を被せて使われていたようですが、そこから囲炉裏の周囲を掘って、掘りごたつにしたものなどが生まれ、親しまれていたようです。現代のような電気式ヒーターのこたつの登場は、大正時代だったようですが、実際に一般家庭にまで普及したのは戦後に入ってからです。
ところで、弊社がある香川県の高松周辺は、もともとが漆器の産地で、漆塗りの座卓を作る業者さんが数多くありました。高度成長期にはこたつが一家に一台あるほど普及。電気式こたつを製作していた家電メーカーが、高松の座卓工場に家具調こたつの制作を依頼したことからこたつも生産するようになり、高松はこたつの産地となりました。現在は海外の工場で作るケースも増えて、こういった座卓やこたつの専門メーカーが減ってしまったのですが、自社工場で今もこたつテーブルを作り続けているメーカーのひとつが、弊社・日美です。
ーー日美がこたつを最初に手掛けたのはいつ頃のことなのでしょうか?
岩切 実は後発で、テーブルを作り始めたのが昭和49年、こたつを始めたのが平成元年のことです。弊社そのものの創業は大正12年なのですが、当初は船舶の焼玉エンジンを製造する鉄工場でした。戦後に金属製装飾時計のメーカーとなり、その後、地場産業の座卓生産に参入するかたちでテーブルを作りはじめ、こたつも手がけるようになりました。余談ですが、その頃の社名「日本美術時計株式会社」が「日美」の由来となっています。
当時は、前述の「家具調こたつ」という言葉にも表れているように、こたつはあくまでも「家具のような」暖房器具・電化製品という位置付けで、生産方法も「安く、大量に」が基本でした。そのため生産拠点を海外に移すメーカーも増え、弊社もまた「海外品への対抗策は品質よりも量産力」という方針のもと、製造スタッフは数に執着することを植え付けられたと言います。
岩切 そのような中、転機となったのは平成13年。当時はまだいち製造スタッフだった弊社代表の白井は何が違うのか分からない似たような製品を量産する日々に嫌気が差して、大量生産品とは異なる独自のこたつを上司に隠れてコソコソ試作し始めたそうです。その時は常務の「なんやこれ、売れんわ」の一言でボツになったものの、翌年の平成14年に「あの時の試作品を仕上げろ」という命令が下りて商品化され、1シーズンに1000台以上売れるヒット商品となりました。
このことをきっかけに、弊社のこたつ作りは少しずつ商品の個性で勝負する方向にシフトしていきました。現在に至るまでには商品のデザインもそれを実現する製造技術もなかなかの変遷がありますが(笑)、今のスタイルのベースができたのは平成25年頃のことです。
それまでのこたつは、どうしても和な感じの商品が多くて、悪く言うとヤボったい。洋式のインテリアにはまず合わないものばかりでしたが、弊社では「インテリアや、本格的な木の家具がお好きな方でも、こたつを望む人がきっといるはずだ」と考え、モダンなテイストのこたつテーブルを始めるに至りました。
こたつに対する「和風」「安っぽい」など既存のイメージは今もあると感じますが、その一方でここ数年はインテリアショップでの販売が増えたり、これまでならこたつを扱うなんて考えられなかったブランドがこたつをスタートするなど提案の幅も広がり、「オシャレなこたつ」が高まりを見せています。カフェやアウトドアなど家以外でこたつが使われていることもありますし、SNSの普及で様々な“こたつスタイル”が見られるようになったことも変化のひとつだと思います。
むしろ「こたつに見えない」こたつ!?
ーー日美のこたつですが、どれも前時代には想像もできなかったモダンな商品ばかりですね。
岩切 弊社にはふたつのこたつラインがあります。ひとつは「Nichibi Woodworks」、もうひとつが私が企画デザインを担当している「FolivorA」です。Nichibi Woodworksは、今の弊社のオシャレなこたつの先駆けとなったラインですが、前述のように、始めた当初は業界から反感を買うことも多かったと聞いています。「こたつのくせに、何変わったことをやろうとしてんだ」のような(苦笑)。こたつの固定観念が業界の中にあり、つまり「変わったことを考えるよりも、こたつなんだから暖まれて、安ければいいんだ」といった意見が多かったようです。
その中で「こたつを単に暖房器具としてではなく、あくまでもテーブル、インテリアの一つでありたい」と考えて作り、むしろヒーターはテーブルの付加価値で、ちゃんとしたインテリアを発売したいという思いから始まったものです。
岩切 その思いやノウハウをさらに受け継いでスタートしたのがFolivorAです。日本人に馴染み深い床に近いくつろぎを改めて提案しながら、より美しさにこだわった上品な床座のラインです。「こたつにしてはいい。ではなく、テーブルとして選んでいただけるものを。」がコンセプトで、こちらもインテリアのバリエーションのひとつとして捉えていただけるように考えて作っています。素材的に、こたつでは敬遠されてきたけれども木の家具が好きな方にはファンが多く、使い込むことで経年変化も楽しめる「無垢材のオイル仕上げ」をメインにしていることも大きな特徴です。
もちろん、いずれの暖房性能も十分です。このふたつのラインのテーブルには、メトロ電気工業のヒーターを採用し、実用性や使い勝手も十分です。また、こたつ布団もインテリアに馴染むシンプルで肌触りの良いものを複数用意し、お客さまにお選びいただけるようにしています。
暖房器具としてだけでなく、インテリアのひとつになったこたつ
ーーこれまでのお話を伺っていると、長い歴史を持つこたつが、ここ20年ほどは「暖房器具」として実用最優先の在り方から、美を追求させたインテリアへ変わっていった転換期のひとつでもあるのではないかと思いました。
岩切 そうですね。弊社だけでなく、最近は某大手メーカーが和室ではなくリビングをターゲットにしたこたつに力を入れており、テレビCMでも見かけるようになりました。だいぶこたつのイメージが変わってきたと思います。
その中で、弊社はインテリアにこだわる方のニーズにさらにお応えできるよう、テーブルとしての質を追求するとともに、「こたつのある暮らし」をコーディネートするアイテムを増やし、空間提案を行っていきたいです。そのことで、単にこたつ文化としてだけでなく、本当に居心地の良いインテリアを提案していければいいなと思っています。
自宅や仕事場の都合上、ここ数年こたつで暖まっていなかった筆者ですが、日美が現代に提案している「インテリアとしてのこたつ」なら、むしろ場所に関わらず、こたつ文化を楽しめると思いました。もちろん、こういったテーブルなら、冬場以外でもオシャレに使い続けることもできそうです。今も足元が寒い方、ぜひ一度日美の最新こたつテーブルをチェックしてみてはいかがでしょうか。
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