家電
2021/3/5 18:15

なぜ異例のヒットとなったのか? 「子育てにちょうどいいミシン」生みの親とその反響を振り返る

外出自粛で自宅で過ごす時間が増えるなか、家庭用ミシンの販売が好調です。なかでも、シンプルで初心者にも使いやすいと話題を呼んでいるのが、2020年の3月に発売されたアックスヤマザキの「子育てにちょうどいいミシン」(実売価格1万1000円)。本機は予想の3倍以上の売れ行きを記録し、一時は最大3か月待ちとなるなど、ミシンとしては異例のヒットとなりました。なぜこれだけのヒットとなったのか、製品のポイントをアックスヤマザキ社長・山﨑一史さんのコメントとともに見ていきましょう。

↑「子育てにちょうどいいミシン」のサイズは幅29.4×奥行11.5×高26.5cm。重さは約2.1kg(本体のみ)。写真右は針ガードにもなるスマホスタンド

 

初心者でも「やってみよう」と思わせる製品を目指す

アックスヤマザキは、1946年(昭和21年)創業の家庭用ミシン専門メーカー。戦後はミシンの需要が増えたものの、昭和が終わる頃から家庭で裁縫をする人が少なくなり、ミシンの需要は右肩下がり。そんななか、同社社長に就任した山﨑さんが「自社のみならず、ミシン業界自体をなんとかしたい」との思いを抱き、ユーザーの需要を徹底的に考えて考案したのが、子育てママをターゲットとした「子育てにちょうどいいミシン」です。

製品のコンセプトは、「置き場所がない」「難しそう」といったミシンへの抵抗感を徹底的に排除すること。同社の山﨑社長によると、「プロの方が本格的に縫うものではなく、初心者の方が『これぐらいならちょっとやってみよう』と思えるようなミシンを目指しました。そのため、デニム生地の重ね縫いができるパワーは維持しながら、初心者でもすぐ使いこなせるよう、機能を絞って手軽さを追求し、コンパクト化しています。ただし、コンパクト化しつつも、補強用の金属部品を従来通り採用するなど、必要な部分は残すようにしています」と語ってくれました。

 

使い方動画はわかりやすさにこだわった

では、続いて製品の特徴について具体的に見ていきましょう。機能のシンプル化の部分では、操作用スイッチなどは必要最小限とし、上級者向けの機能は思い切ってカット。ステッチの種類は5種類12パターンからダイヤルで選ぶだけでOKとし、縫う速さは2段階のみとしました。

 

さらに、本体に貼って使えるシール型QRコードをスマホで読み取れば、使い方の動画と簡単レシピ動画にアクセスできるのも特徴。動画で手順を確認しながら作業を進められるため、誰でもラクラク操作することができます。

 

「動画を作るにあたっては、料理の動画サイトを研究。3分クッキングのように短時間で完結することを目標とし、初心者が見る気になる動画にこだわりました。例えば、今自分が全体のどの部分を作業しているのかがわかるよう、イラストを上部に表示。専門用語もできるだけ避けてわかりやすくしています。これによって、『自分のペースでできて安心』『わかりやすいから初めてでもできた』などの反響を頂いております」(山﨑社長)

↑本体に貼れるシール型QRコードを読み取れば、使い方動画と簡単レシピに簡単にアクセスできます

 

↑スタイや上履き入れ、ランチョンマット、バッグやマスクなど多彩なレシピ動画を用意。レッスンバッグの動画(写真)では右上に作業箇所をイラストで表示しています

 

マットブラックの質感にこだわったコンパクトなボディ

もうひとつ、ミシンは置き場所や収納が大きなハードルとなりますが、本製品の左右幅はわずか29.4cm。女性ファッション誌の表紙と同じくらいの超コンパクトサイズです。重さは一般的なミシンが4kg以上のところ、わずか2.1kgとなっているので本棚などに収納して女性でも気軽に出し入れすることができます。このほか、著名なプロダクトデザイナーを起用し、インテリアに馴染みやすいマットブラックのデザインを採用したのもこだわりのポイント。そのデザインは高く評価され、2020年度のグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)に輝きました。

 

「『ミシンはしまうもの』という概念を捨てて『しまわないミシン』を目指し、置いておいて見せたくなるデザインを目標としました。特に、子育てママから『マットブラックなら部屋に置いてママ友にも見せたい』との声を頂いたことから、マットブラックの質感にこだわっています。おかげさまで『コーヒーメーカーのようでオシャレ』『部屋に堂々と置いておける』という声を頂いています」(山﨑社長)

↑コンパクトでインテリアに馴染むマットブラックのデザインを採用

 

このミシンをきっかけに手作りを見直すユーザーも

このように、子育て世代に向け、ハードルを下げたミシンとして開発した「子育てにちょうどいいミシン」でしたが、コロナ禍での問題解決にも大いに役立ったようです。

 

「マスク不足でお困りの方が急増し、『ミシンメーカーとして何とかできないか』と考え、本製品を使ったマスクの作り方の動画をアップしました。すると『これなら私にもできそう』『こんなミシンならやってみたい』など、普段はミシンを使わない方から大きな反響を頂いたんです。その後もおうち時間が増えて手作りが見直され、マスクだけでなくエコバッグなど身近なものを手作りされる方が増えています。『苦手なイメージがあったけど、このミシンをきっかけに手作りにはまってしまいました』『子どものために手づくりして温かい気持ちになりました』など、大変うれしいお言葉をたくさん頂きました。これからも、製品を通じて多くの方にミシンの素晴らしさを伝えていけたらと考えています」(山﨑社長)

 

親が子に手作りの品を贈る体験は、贈るほうにとっても贈られるほうにとっても、温かな記憶となって長く心に残るはず。ミシンを使ったことがない人こそ、本機を使って手作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。