2025年1月27日から「大阪市全域」で路上喫煙が禁止になったことをご存知でしょうか? 条例の施行から4か月が経過し、実際にどのような影響が出ているのか、GetNavi web編集部が現地取材を実施。万博会場(夢洲・ゆめしま)と天王寺エリアを歩き、喫煙所の数、条例の認知度、民間企業の取り組みを調査しました。現場の声から見えてきた、大阪市の喫煙事情の「今」と「課題」をレポートします。
【条例概要】大阪市の路上喫煙禁止ルールとは? 対象エリア・罰則まとめ

2025年1月27日、大阪市は「市民等の安心、安全及び快適な生活環境を確保するとともに、国際観光都市にふさわしい環境整備やまちの美化に積極的に取り組んでいくため」(大阪市ホームページ原文ママ)大阪市内全域において路上喫煙を禁止としました。
これは、同じく今年4月13日に開幕した2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)を前に、国内外から多数の観光客が訪れることを見越して、大阪市全体の景観美化のために施行されたと言われています。
特筆すべきは、この2点です。
・大阪市が管理する「道路・広場・公園その他公共の場所」が対象となり、該当区域で路上喫煙を行った場合は1000円の過料徴収の対象となること
・従来の「火のついたたばこ(紙巻たばこ)」に加えて、「加熱式たばこ」も対象となったこと
大阪市は、補助金を活用した民間事業者による喫煙所の設置を進めているとのことですが、はたして喫煙者の反応や実際の街中ではどのような状況になっているのでしょうか?
【万博会場の喫煙所】場所・混雑状況・条例認知度を現地調査

まずは、今回の条例改正のきっかけとなった大阪・関西万博の会場に向かいました。喫煙所は、現状、地下鉄夢洲駅を降りてすぐの東ゲート両脇2か所に設置されています。(5月26日に万博協会より、会場内にも3か所の喫煙所を整備すると発表あり。利用開始は6月上旬の予定)
入場口(東ゲート)を挟んで北側の喫煙所は万博スタッフと思われる人も使用しており、ほぼ満員状態。

一方、南側は駅から遠い側の喫煙所だからか、比較的空いている印象でした。

こちらで一服していた数人に話を聞いたところ、大阪市内全域が喫煙禁止になったことを知っていたのは約6割でした。
特に関東や四国など遠方から大阪を訪れた方の中には、条例を知らない人も。しかし、東京から観光で来たという男性いわく「知らなかったが、今のご時世、どこも吸えないものだと思っているので」と、あまり驚きはなかった様子。
大阪市内在住で、万博には複数回来ているという女性は「(条例は)報道で見て知っていました。吸える場所が少ないから、市内全域で禁止は困ります」とこぼしつつも、「おかげで、自然と吸う本数が減ったのは良かったかもしれません」と笑顔で語ってくれました。
やはり、市内在住の喫煙者は、路上喫煙禁止に関するトピックに敏感なよう。なお、喫煙所内に条例に関するポスターは貼られていませんでした。
【天王寺の喫煙所問題】歩きたばこが減らない理由とは? 現場の声
続いて、天王寺駅周辺へ向かいました。以前から設置されていたJR天王寺駅前の喫煙所に加えて、今回の条例改正にともない、新たに阿倍野歩道橋下、てんしば、天王寺動物園入口付近の合計3か所の喫煙所が設置されました。

「とは言え、まだまだ足りませんね」そう語るのは、天王寺駅前商店街振興組合の理事長であり、大阪市路上喫煙対策委員会の委員でもある佐野嘉昭さんです。

「条例で路上喫煙禁止が決まったからと言っても、それだけやったら路上喫煙は減りませんよ。コンビニとか弁当屋の前に置かれていた灰皿とゴミ箱は撤去されてしまって、吸える場所がほんまに少ないんです。だから、正直、裏通りで歩きたばこをしている人は結構います。喫煙所がないから道端のポイ捨ても減らへん。地域住民の方や商店街の仲間からも、吸い殻が散乱して困っているという苦情を聞きます。
私はよく孫と天王寺動物園に行くんですが、喫煙所がないから、吸おうと思ったら一回外に出なあかん。昔は園内にもあったんやけどね」
2022年11月に大阪市商店総連盟からの依頼でプランワークストレンドラボが作成したレポート「大阪市内に必要な喫煙所数と設置不足が商店街におよぼす影響」によると、大阪市内において必要な喫煙所数は367か所。当時、市が整備している喫煙所は120か所でしたが、現在では350か所以上にまで整備が進みました。しかし、依然として空白地帯が目立っています。
「やはり、喫煙所の数を増やすことが先決ですよね。喫煙所は作って終わりやなくて、定期的な吸い殻の撤去や清掃も必要。手間も費用もかかります。だからこそ、そもそものたばこ税の使い道を再検討せなあかんと思いますし、補助金を増やしたり、申請条件を見直したりすることも検討していただきたいですね」

「そんなものすごい喫煙所じゃなくてもいいんです。空調を完備した密閉型の立派なものだと、管理も大変やし、夜間は使えないでしょう? JR駅前や歩道橋下の喫煙所みたいな、柵で囲っただけ、つい立を立てただけのものでも十分やと思います。広い公園の中の人通りが少ない場所に広めの喫煙スペースを作るとか……それやったら、もう少し喫煙所を増やすことができるんと違うかな」
【THE TABACCOの挑戦】大阪の喫煙所が増えないワケと民間企業の役割
次に、自治体の助成金を活用しながら喫煙所の設立・運営をしている民間企業、株式会社コソドの代表取締役CEO 山下悟郎さんに話を聞きました。

「私たちが運営する喫煙所『THE TABACCO(ザ タバコ)』は、2020年4月に第一号を出店してから今日現在(2025年5月23日)までの約5年間で全国163か所、月間の利用者総数は約184万人となりました。
喫煙者が肩身の狭い思いをしないよう、快適に利用できるようにと、内装から運営までかなり細かく工夫しています。たとえば、各喫煙所にはAIカメラを搭載しており、どの時間帯にどのくらいの人流があるかがデータで可視化されます。このエリアは何曜日に利用者が多いから清掃頻度を高めよう、雨の日はこう対策をしよう、などというケアが即座にできるんです」

「多い場所では一日3回灰皿を交換したり、定期的にヤニ落としやダクトの大掃除を行ったりと、柔軟に対応できる。これらは、行政にはなかなか難しいことだと思います。
その甲斐あってか、おかげさまで利用者の方からは『喫煙所が少なくなってきているなかで、こんなに快適な喫煙所があるのは本当に助かる』といったポジティブな感想が多数寄せられています。
また、非喫煙者の方からも、『路上喫煙が減ることで、マナーの悪い喫煙者が減って自分たちの居場所が確保された』という声をいただいています。喫煙者と非喫煙者の双方が過ごしやすい場所作りに少しでも貢献できているのならば、非常にうれしいですね」
全国的に好評な「THE TABACCO」ですが、大阪市に注目してみると、「THE TABACCO UMEDA」(2025年1月5日オープン)では、1日の利用者数が1月は500名~900名であったのに対して、条例後の2月以降は800~1100名。「THE TABACCO SHINSAIBASHI」は1月が200~300名、2月以降は400~500名と、条例の施行前と後では利用者が約2倍にまで増加しているとのこと。いかに、喫煙所が必要とされているかがわかります。

「大阪市は、全国的に見ても喫煙所が少ないと感じています。駅前などの繁華街の喫煙所がものすごく少ないですし、人流あたりの喫煙所の数が圧倒的に足りていない。じゃあ、もっと『THE TABACCO』を増やせばいい、という話になるのですが、これもまた容易ではありません。
喫煙所の設置には、周囲に保育園や小中学校がないかといった条件や、近隣住民の方々への許可取りが難しく、そうなるとお借りできる場所の候補も少なくなってしまう。そして、一番はコスト面です。不動産価格も上がっていますし、自治体からの助成金を活用してもなお、運営が厳しい場所もあります。もちろん、喫煙所内にサイネージを設置して広告スペースを設けるなど、収益化も工夫してはいるのですが、改正健康増進法などの縛りがあり、選択肢がかなり少ない点が最大の課題でしょう。
助成金を増やしてほしいという思いはもちろんありますが、それ以上に、現実的な運用がしやすいルールにしてもらえると出店しやすい、というのが本音です」
【まとめ】喫煙所は増えるべき? 共存するための課題と今後の展望
今回の取材で、大阪市の喫煙事情と課題が見えてきました。そのなかでも、それぞれの立場でできることを、積極的に進めている人たちがいます。
「これまでも、大阪市議会長に向けて大阪市内全域路上喫煙禁止方針に関する陳情書を提出してきましたが、今後も(1)喫煙所整備の積極的な推進と、(2)私たち民間事業者の喫煙所整備への積極的ば参画に対して、潤沢な助成制度の設立と予算拡大を訴えていきます。また、大阪市路上喫煙対策委員会でも、積極的に意見を述べていこうと思っています」(佐野さん)
「喫煙所の数を増やすには助成金制度が必要で、制度を有効活用してもらうためには、助成金制度の設計が大切。私たちがどのように店舗を運営していて、どうキャッシュアウトしているかは、すべてデータで蓄積しています。この情報を行政の方々にシェアすることで、助成金制度のお手伝いができると考えています。各自治体と密に連携して動いていくことが、出店以外で今一番やりたいことです」(山下さん)
喫煙者と非喫煙者がどちらも暮らしやすい街にするために、大阪市をはじめ各自治体がどのような対策を講じるのか、今後も注目していきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 大阪市ではどこで喫煙できますか?
A. 市内全域で路上喫煙は禁止されていますが、一部の公共施設や駅前に指定喫煙所が設置されています。JTによる喫煙所検索サービスもあります。
Q. 大阪・関西万博会場内に喫煙所はありますか?
はい。会場東ゲート付近に2か所に設置されています。加えて、会場内にも3か所の喫煙所設置(2025年6月上旬利用開始)を予定しています。
Q. 喫煙所が少ないことによる影響は?
歩きたばこやポイ捨ての増加、観光客の不満、喫煙者の利用環境の悪化などが指摘されています。
取材・文/水谷花楓