ヨシムラヒロムの一階通信 第四階 杉並区役所
企業のエントランスは、その企業を表す顔だ。
連載「一階通信」ではエントランス部分から見える企業の顔を取り上げる。1階にエントランスがない企業も多々あるが、それはご愛嬌。受付や入口があるフロアを総じて「1階」と呼び、エントランスから企業を紐解く。今回は、趣向を変えて民間から行政へ。東京・杉並区役所を一階通信した。
一階通信００４ 杉並区役所 エントランス
一応、僕は４年前から中野区観光大使をやっている。もちろん観光大使って言うからには中野区在住で、それなりに愛着もある。しかし、それ以上に交流を重ねている区が実は存在する。杉並区だ。
仕事で杉並にある店を100件ほど取材し、多くの人と交流を重ねた。結果、馴染んだ。阿佐ヶ谷には世話になっているプロダクションがあり、高円寺は行きつけの飲み屋「コクテイル」、荻窪の「チャーハン専門店 炒飯の万博」は美味い、西荻窪は先輩がやっているギャラリー「蚕室」もある。遂には、区役所の方とも親しくなり、今回の取材に至った。
JR阿佐ケ谷駅から中杉通りを南へ10分。上半身裸にジーンズを履いた銅像が見えてきただろうか。そこが杉並区役所である。しれっと「上半身裸にジーンズを履いた銅像」と書いたが、本当にあるので仕方ない。
昭和３８年に建てられた庁舎は、それなりに貫禄もあり立派。増設を繰り返した結果だろうか、若干カタチがいびつなのが魅力的だ。なかでは、約1200人の公務員が働いてるそーで、規模は大企業クラスと云える。
一階部分を覗いてみる。当然、エントランスは広い。言わずもがな、区役所は住民票、戸籍の管理、相談窓口など、区民が必ず関わる事柄を管理する場所。正に人間交差点。取材日も手続きの待ち時間４０分だった。担当のＴさん曰く、春の引越しシーズンは3時間待ち！ ってこともあるそーだ。ディズニーランド並みだ、ホントに。
一階はレストラン、コミュニティショップ、区民の作品を販売するコーナーもあり充実。ショップには杉並区公式キャラクター「なみすけ」のグッズが多く販売される。杉並区民にとって「なみすけ」知名度は抜群。区役所の至る所にも「なみすけ」のイラストが描かれている。街にもイラストが沢山描いてある。暇人は隠れミッキー的に探すと良いだろう。
エントランスの中心にあるのが、著名な彫刻家・多田美波の作品「ときわ」だ。円形状の大理石の上に、らせん状の巨大なアルミ彫刻が鎮座する。ともかくブツがデカく、たぶん高さ６mほどある。大きさのわりに、大理石とアルミの接合部分が人の掌ほどしかない。「倒れてこないか心配よ〜」と言う方もいるそう。個人的には、その危ういバランスこそ彫刻作品の芸術性だと思う。当然、倒れないように作られているので心配無用だ！
閑話休題。
つまり、庁舎内には大小合わせて19のパブリックアートがあると伝えたかった。
Q.なぜ、そんなにあるのか？
A.庁舎の増改築をする際、文化の香り高い庁舎とすることをコンセプトとして、杉並区にゆかりのある芸術家の方々に制作してもらった。
一度、小学校に裸婦像を置こうとして大問題になったこともあるとか、ないとか。「布被せるぞ」と怒った保護者もいたと聞く。裸婦像に布を被せる、より過激になっちゃう。子どもは絶対めくってはニヤニヤするよね。よもやま話の良い話。
内訳は、彫刻７、洋画４、書２、日本画２、レリーフ２、木彫１、陶板１。著名な作家の作品も多く、しょぼい美術館よりも、よっぽど見ごたえの芸術作品が堪能できる。
Fカップとタイトなジーンズにねじ込む私という戦うボディが印象的な銅像「ジーンズ」も日本でもトップクラスの芸術家・佐藤忠良の作品。そうＴさんに教えてもらったあとは「なんだか良いなぁ！」と思った。そういうものだ。多くの芸術を内包する点は、杉並区役所の自慢としてもっと押し出すべき。
取材も終わりＴさんと別れた後、取りこぼしの情報がないかと一階部分をウロウロした。すると、多くの係員から「お困りのことはないですか？」と話しかけられた。物腰の柔らかさ、丁寧さに驚く。「デパートより人の感じがいいぞ！」と。
杉並区役所の上階で働く人の仕事も尊いが、多くの区民が顔を合わせるのは一階の係員だ。区役所に訪れた際に係員が無愛想だと、こっちもナーバスに。少し親切なだけで「なんだか良いなぁ！」と思う。そういうものだ。
親切心は伝播する。区役所の係員から発信された親切心は、区民を通し、区の細部まで届くかも知れない。杉並区役所は、そんな街のほっとステーションあり続けて欲しい。
杉並区区役所の一階通信見どころまとめ。
①パブリックアート
②なみすけ
③係員の人の良さ
