ヨシムラヒロムの一階通信 第五階 ぴあ株式会社
連載「一階通信」ではエントランス部分から見える企業の顔を取り上げる。1階にエントランスがない企業も多々あるが、それはご愛嬌。受付や入口があるフロアを総じて『1階』と呼び、エントランスから企業を紐解く。今回は、エンタメ好きなら誰しもが利用した経験があるぴあ株式会社を一階通信。
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「雑誌ぴあ」を知っているだろうか？
１９７２年に創刊された映画、ライブ、美術館などのエンタメ情報を扱った情報誌である。インターネット登場以前、旬のエンタメ情報を得る手段は雑誌しかなかった。その中心には間違いなく「雑誌ぴあ」があった。最盛期売り上げは５０万部超え。ある世代の人間は「雑誌ぴあ」片手に映画館など巡った。「私たちの世代のバイブルと云っても過言ではないわね」と僕のお袋も語っている。
２０１１年に休刊する。しかし、日本のエンタメを盛り上げた功績は消えない。
さて、知人が「ぴあ」で働いてることを思い出し、取材依頼を出した。彼女の尽力もあって取材許可が下りる。余談なるが書く。取材依頼を様々な企業に出しているが、OKの場合は恐ろしいほどスムーズに。NGの時は意外なほどアッサリと断れる。「ぴあ」は前者だったワケだ。
住友不動産渋谷ファーストタワーの３階に、ぴあ株式会社のエントランスがある。受付があり受付嬢もいるエントランスらしいエントランスと云える。
まず目につくのは、イラストの数々。これは１９７５年から２０１１年の休刊まで雑誌「ぴあ」の表紙のイラストを手がけた及川正通氏の作品だ。歴代イラスト１３００点からマドンナ、松本人志、岡村隆史、ゴッホ、レディー・ガガ、大島優子などがコラージュされる。
タレントにとって「ぴあ」の表紙に描かれることは誉れ。同時に「世間に認知された」という証という時代が確かにあった。（笑っていいとものテレフォンショッキングに出る感覚に近い）
秘書の朝田さんも「自分の好きなタレントが表紙だと嬉しかった」と話す。それほど人の心を動かす特別なイラストなんだ。ちなみに、登場回数が多いのは広末涼子の１６回が圧倒的。
会議室にも及川氏のイラストが飾られる。ここで「はじめに遊びがあった」というぴあのスピリッツが炸裂。なんと！ 会議室の名前がイラストに描かれた人名で呼ばれるそう。
例：「今から広末で、打ち合わせ」
みたいなこともザラに発生する。広末以外にも、ドリカム、ジョニー・デップ、キャッツ、ジャネット・ジャクソンといった会議室があるそーで。外部者にとっては驚きの嘘のような本当の話。
イラストが「雑誌ぴあ」の伝統を表するならば、置かれた椅子は現在を体現する。この椅子、只者ではない。ナント、２０１４年に閉場した国立競技場のシートを使い作られた代物だ。カリモク家具とコラボをして行うMEMORIAL GOODS PROJECTの一環。チケットぴあのサービスを利用した受注販売なので、買ってから商品が家に届くまで三～四か月もかかる人も。
僕が「結構、待ちますね」と言うと、広報の大木さんは「ぴあのお客様は、届くまでのワクワクも楽しんでくれる人が多い」と話す。
流石エンタメ好き、楽しめるところは逃さない。魚を食べるのが上手な人のように、骨まで全部を堪能するのだ。上記の椅子は販売期間が終了してしまったが、まだまだPROJECTは動いているよーで。続いては、２０１６年４月から改修工事に入った武蔵野市民文化会館の遺産が、別のカタチとなって販売予定だ。期待大。
エントランスでいちばん目立つのがカエルとクマのゆるキャラだろう。「ぴあの森のぴっけろ＆くまっぴー」である。サッカーの試合会場や子どもたちの集まるイベントなどに出張して日夜活躍中。「何か面白いイベントなどあったら呼んでほしい」と云う。「ホームパーティーはNGですよね？」と聞くと「それは流石に難しいかもですね…」とのこと。常識の範囲内で呼んでみよう。
イラスト、椅子、ゆるキャラ、ぴあのエントランスは仕事の広がりを写す鏡だった。一見掴めないが、すべては中心にエンターテイメントがある。
音楽ライブなどの仕入れ営業担当の新井さんは「ぴあは映画、音楽、美術、スポーツ観戦と楽しいことが大好きな人が多い」と話す。それを聞いて「欲張りだなぁ」と思った。
欲張りな人は、自分の欲に素直。だから、他人の欲も受け入れる土壌がすでにある。そういった人達が集まるから「ぴあ株式会社」は、いまでも”遊び”という純粋さを保ちつつ、社会に存在するんだなぁと、思った。
ちなみに、ぴあの社長は創業者社長なので勇退後、ぜひ銅像になって欲しい。
ぴあ株式会社の一階通信見どころまとめ
①及川正通氏のイラスト
②国立競技場のシートを使った椅子
③ぴっけろ&くまっぴー
