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2020/2/18 22:00

40歳以上なら検討しても遅くない! 老眼に効く「4つの選択肢」

ここ数年、コンタクトを入れると手元の文字がよく見えない。もともと近眼なのでコンタクトやメガネで視力を矯正していたのだが、最近は近視を矯正すると遠くは見えるけれど、今度は手元が見えにくいという不便な状態なのだ。遠くを見たいか近くを見たいか、どちらかを選ばされている感じ。

 

ストレスなのは、荷物が多いこと。旅行に行くときなど、サングラス、近視用メガネ、老眼鏡、コンタクトと視覚もののグッズだけでてんこ盛りである。状況に応じてメガネだのコンタクトだの持ち物が多くて、不便で仕方がない。これはどうにか解決できないのだろうか。

 

遠近両用コンタクトというのがあるらしいが「たいしてよく見えない」みたいなことも耳にする。遠くも近くもボンヤリしてたらイライラしそうだ。それに遠近両用のメガネといえば、レンズの下の部分が削れていて、そこだけ文字が見やすい、みたいなやつでしょう? これのコンタクト版となると、どんな作りになっているのだろう? もしや下を見ないと文字が読めないのだろうか……?

 

メガネセットを持ち歩くのもイヤだし、スマホが読めないのも不便だ。コンタクトは効果がよく分からない。いっそ手術をすればいいのだろうか? ということで、老眼治療に詳しく、眼科手術を専門としているクイーンズ・アイ・クリニックの荒井宏幸先生に老眼治療について取材し、まとめた。

 

↑クイーンズ・アイ・クリニック院長。防衛医科大学校に進学後、自衛隊にて離島勤務の経験もある。海外の学会や講演などで活躍する一方、子どもや高齢の患者に対して真摯な診療を続けている

 

「年を取ったら不便なのは仕方がない」と諦めるのはもうやめだ!

 

老眼とは

目の表面にあるのが角膜、その奥にあるグミのような組織が水晶体。ものを見るときに、目の奥にある網膜に焦点が合うと、ものがぼやけずに見える。近視は眼球に奥行きがあり、網膜よりも手前でピントが合ってしまうため、遠くがよく見えない。遠視は逆に網膜より後ろで焦点を結ぶため、近くが見えにくい。

 

 

目は、水晶体が伸びたり縮んだりして見たもののピントを合わせている。歳を取ると水晶体が少しずつ固くなり、調節機能を失っていくことで老眼になる。
「近視の人は老眼にならない」というが、裸眼だと手先が見えるのは、もともと近くにピントが合っているため。コンタクトやメガネで矯正すると近くが見えなくなる。

 

荒井先生によると老眼を「治す」技術はまだなく、さまざまな方法で視力を矯正する必要があるという。一般的なのはメガネだ。それから最近技術の向上目覚ましい遠近両用コンタクト。手術には、角膜に施す対症療法「レーシック」、水晶体を取り替える「多焦点眼内レンズ」がある。

 

では最も手軽な順から、老眼の矯正法をあげてみよう。

 

メガネ

度数を表す+1は1m先にピントが合っている状態を指す。40代〜50代前半がだいたいこれに相当。+2は50cmで、55〜60歳くらい。+3は33cm。自分の視力に合わないと逆に見えにくいため、眼科での検査を推奨している。なお、筆者の経験からいうと、1000円程度の安いメガネは歪みがあって見えづらいため、結局使わなくなってしまった。買うなら3000円以上は出したいところだ。

 

コンタクトレンズ

遠近両用コンタクトレンズは現在、いろんな種類が発売されている。構造としては異なる度数のレンズが同心円状に配置されていて、中心部が近くなら、円周部が遠く、中心部が遠くなら円周部が近くなっている。どちらが合うかは人の好みによるので、使い捨てタイプを無料で試してみるとよい。遠近両用の場合、装着しているうちに慣れてピントが合いやすくなることがある。数週間試してみてから判断しよう。

 

レーシック

近視矯正でおなじみ、レーザーを角膜に当て、屈折率を変える手術。その技術をそのまま老眼に応用したのが「モノビジョン」治療。片眼は近くを、もう片眼は遠くが見えるようにピントを合わせる。白内障の症状がなく、遠くはメガネやコンタクトレンズ着用で視力1.0以上ある人にお勧め。治療の効果は5~7、8年間。昔レーシックをやった人は、再手術で片方だけ遠くに合わせればよい場合もある。両目の視力の差が大きいと違和感を感じるが、プラスマイナス2D(ディオプトリ:レンズ度数の単位を表す。プラスは遠視、マイナスは近視を指し2はどちらも軽度)以内なら問題なく見える。

 

老眼に用いられる「マルチゾーンレーシック」は、目が慣れるまでに数か月かかり、瞳孔の小さい人には遠近の機能が充分に発揮されないなど術後の見え方に個人差が大きいので、最近では「モノビジョン」法が主流との事。

 

多焦点眼内レンズ

老眼は水晶体の劣化によって起こる。その水晶体の代わりに使われる人工水晶体が眼内レンズだ。多焦点眼内レンズはもっとも一般的な老眼手術で、世界では30種類以上のレンズが発売されている。白内障手術を応用したもので、白内障と一緒に治療することができ、施術した人は白内障になる心配もなくなる。効果は半永久的に続く。眼内レンズには「単焦点」と「多焦点」がある。

 

「単焦点眼内レンズ」は、ピントを遠中近のどこかに合わせるため、生活スタイルによってどこにピントを合わせるかを決める。先生のクリニックでは、多くの人はピントを遠くに合わせ、手元(30~50cm)を見るときに老眼鏡を使うスタイルになるという。希望があれば、遠く(1m以上)はメガネを使い、手元は裸眼でみえるようにすることも可能だ。

 

老眼治療に使われるのは多焦点眼内レンズで、近くも遠くも見られるもの。遠くと中間の2点が見える多焦点のレンズが保険適用になった。術後、遠くからパソコンの距離程度までは、メガネなしで良く見える。スマホや本などの手元までが見える場合は、0.3~0.5位の視力なので、老眼鏡が必要となる場合が多い。それでも、今までの単焦点と比べるとメガネが必要となる場面は、かなり少なくなるとのことだ。

 

最近は、遠中近の3焦点に合わせられる多焦点レンズもある。こちらは自費診療となり、50~80万円(片目)の費用がかかる。

 

多焦点レンズは、レンズに光が通る際の屈折率をいくつも作ることで、近いところでピントが合う光、遠くでピントが合う光と、複数の波長を生み出す。例えば手元の文字を見たとき、ピントの合っている光と、合っていない光の両方が脳に伝えられるが、そのうち脳がピントの合う光を選択して捉えるようになるのだとか。スマホのAIカメラも顔負けの気遣いを我々の目や脳は行っているのだ。

 

じゃあ実際、自分の目には何が合うのか

荒井先生によると、手術をするなら、早いうちがいいという。「70歳で眼内レンズを入れるよりも、60歳で入れるほうが脳も若いので、能力を引き出しやすいのです」

 

とはいえ現在、「視力を矯正するとスマホの字が読みづらい」程度では手術はおすすめしないらしい。

 

「手術をせずに快適に見えているなら、それが一番です。味と一緒で、見え方にも好みがあり、手術後に視力が1.5になっても『この見え方はイヤ』と言われても、好みの通りに治すことはできません。主治医と良く相談して、治療方針を決めるといいでしょう」

 

筆者の場合、近視を矯正すると近くが見えなくなり、アイテムがかさむことが不便だと感じている。メガネでの矯正が視力の問題ではなく荷物が増えるのがイヤなのだ。近視がなければレーシックもよさそうだが、コンタクトを毎日つけるのは面倒でもないし、白内障の症状はないので、遠近両用コンタクトを試してみることにした。

 

遠近両用のコンタクトを作ってみた第一の感想は「劇的に手元が見えるようにはならないな」ということである。目の前の文字は相変わらずぼやけている。でも、それまで見にくかったスマホの文字は少しはマシに見える。

 

荒井先生によると「遠近両用コンタクトにはいくつか種類があるため、1つ試して合わなくても、別のものがフィットする場合もある」という。購入店のスタッフは「多焦点のコンタクトは、使っているうちに慣れて見やすくなることがある」とのことだ。つまり遠近両用コンタクトは「地道に使って試せ」ということなのだろう。

 

記事執筆時点で3週間ほど遠近両用コンタクトを使ってみているが、劇的に手元が見やすくなったという実感はない。しかし中間や遠くが見づらいということはないし、文字は明らかに近視用コンタクトより見やすいと思う。

 

結論としては「予想ほど『すっごく見える!』というわけじゃないけれど、見え方には満足できる」という感じだ。折角買った老眼鏡だが、今や押し入れの中だ。このまま、白内障になるまではコンタクトで過ごし、不便になったら多焦点眼内レンズでいいか、という気になっている。個人的には、コンタクトで一時的には老眼問題は解決したと言えそう。

 

加齢により、衰えてくるのは視力だけではない。白内障のほか、視神経が痛んで失明に至る緑内障などの病気が出ることがある。40歳を過ぎたら、年に1回は眼科に行って、目の状態をチェックしておこう。