新型コロナウイルスの猛威に右往左往することになった2020年。思い描いていた未来とは違った現実となりましたが、2020年下半期も不安と背中合わせに過ごす日々になってしまうのでしょうか? 経済情勢も大きく変わり、“お金”について考える機会が増えた、先の見えない不安に貯蓄したいと考える人が増えた、というニュースも聞こえてきます。
これまで「断捨離」の生みの親である、やましたひでこさんに人生を振り返りながら、断捨離の真意を語っていただいてきましたが、そこから発展して、前回は「人間関係と断捨離」について伺いました。続く今回のテーマは、誰もが気になる「お金」について。人生を豊かにする「お金と断捨離」の関係を紐解きます。
第5回 財布、そして貯蓄の断捨離的考え方
———お金は目的を果たすためのエネルギー———
———今回は「お金」について伺います。まず、一番身近な“財布”について考えてみたいのですが、今までのお話を振り返ってみると、財布もひとつの“空間”として考えていいということでしょうか?
「そうですね、財布はお金のおうちです。お金にとって、居心地が良いと感じられる空間なら、お金も機能してくれます。お金は自発的に動くことはできませんが、その財布に入っているお金は持ち主のお金です。つまり、その財布の住環境を作り出しているのは、持ち主自身ということなんです」
———たしかに、お金は勝手に増えることはないですよね。ついつい「金運アップのために、黄色いお財布にしよう!」などと形から入ってしまいますが、冷静に考えたらそれは、財布を変えただけでは金運はアップしないですよね。
「色や形状は何でもいいんです。せっかく素敵な空間があっても、手入れもせずレシートだらけで、いくらお金が入っているかもわからない、残念な財布を持ち歩いている人が、金運を上げられると思いますか? 以前、『要・適・快』の話をしましたが、これは財布という空間でも同じです。“あなたのお金がきちんと機能できるような空間になっているか”が重要なんです」
※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。
———なるほど。
「それに、財布を長財布にして、小銭入れと分けて、新札も揃えて入れても、もっと大きな空間である自分の家や環境が残念な有り様だったらどうですか? 『要・適・快』を理解していれば、財布の汚れやお札の向きとかも気になるだろうし、ご機嫌なお金の使い方ができるようになるはずです。すべての空間をクリエイトしているのは、自分自身の意識です。クローゼットも、リビングも、キッチンも、財布も、考え方は同じことです」
お金をエネルギーとして考える
———ついつい、財布だけに意識が向いてしまうといいますか、中身のお金は別で考えてしまいがちですが、俯瞰してみればモノで捉えられるということですね。ところで、ふと疑問に思ったのですが、「貯金」とは、断捨離とは逆の発想ですよね。そこに矛盾はないのでしょうか?
「まずここから考えてみましょう。そもそも“貯金”とは何でしょうか?」
———将来のためにとっておくお金……でしょうか?
「では、『ためる』という漢字を思い浮かべてみてください。貯水池の『貯める』と、ため池の『溜める』がありますね。貯水池は、もしくはダムというとわかりやすいでしょうか、入ってくる水と出ていく水の流れがある中で、必要な時に供給できるよう、水を貯めておく場所です。一方、溜め池は、雨など自然から水は入ってきますが、どこかに使われたり流れていくことはないので、よどみが生じます。これはあくまで私個人の考え方ですが、貯金も貯水池と同じように“使うため”にお金を貯めておくことで、そこに留めて“溜めて”おくものではないと思っています」
※灌漑目的で人工的に形成された池を「溜め池」と呼ぶ場合もあります。
———なるほど! 使うためのお金が、貯金ということですか。
「さらに言えば、お金は人間に必要な“エネルギー”だと思っているんです。例えば、クルマを走らせるためのエネルギーはガソリンですよね。ガソリンを入れているだけでクルマは走りますか? ガソリンを消費して、クルマを走らせなければ目的地にはいけません。もちろん、目的地に行く途中でガス欠は避けたいので、辿り着けるだけの潤沢なエネルギーは欲しいですが、ガソリンを入れているだけで走りもしないクルマは、目的地にも近づけません。お金も一緒で“使わないと機能しない”のです」
———思えば、私も節約することを優先して、ただただお金を溜め込もうとしていた気がします……。
「節約にもエネルギーはかかっているんですよ? 節約には“時間”というエネルギー、労力というエネルギーが必要です。一度考え方をフラットにして、節約するためにかかった時間と労力と、節約できたお金を比べてみてください。それぞれどれくらいの差があるでしょうか?」
———たしかに、考え直してしまいますね。
「私がお会いした、節約だけが目的になってしまっている人たちは、『私は節約しなければいけない』という刷り込みを毎日毎日しています。それでは心が疲弊してしまいますよね? 例えば、小さなゴミ袋に満杯までゴミを詰め込んで袋を節約できた! とか、フリーザーバッグを洗って干して何度も使うなど……。エコのためなら素晴らしいのですが、ただ節約のためだとしたら、それでいくらのお金を節約できたのでしょうか? “モノの機能を活かす”暮らしをしないと、いじましい生活になっちゃいますよ!」
———猛省します。もっと視野を広くして、エネルギーを賢く使っていかないといけませんね! もうひとつ貯金について伺いたいのですが、「海外旅行に行きたい!」と将来使うための貯金と、「将来が不安だから……」とさしあたって使う目的がない貯金がありますが、お金がエネルギーとするならば、貯金には目的や動機はあった方がいいのでしょうか?
「動機が希望なのか、不安なのか、同じ行動でも結果はそれぞれ別な形で出てしまいます。これはお金に限らず、さまざまなことで言えますね。『お金は“ある”んです、残念ながら今手元に“ない”だけで』って思いながら、“ある”ということに着目できればいいのだけど、私たち人間は、“ない”に注目するのが得意な生き物です。お金がない・時間がない・自信がない……って無意識&無自覚で、不安なイメトレをしちゃうんですよね。不安にならないためにも、断捨離のトレーニングは必要です。『これは捨てても大丈夫』『これは手放しても生きていける』と」
———以前の緊急提言でも教えていただきましたね! つまりお金もモノだから、今“ある”と実感できれば、「〇〇万円貯金しないと!」と金額にとらわれることもなくなり、“ない”という思考から脱却できると。
「エネルギーは使ってこそですから。先ほどクルマに例えましたが、タンクにガソリンが満タンでも、行動しなければ車は走りません。じゃあ、使ってみよう! と行動することで、結果が返ってきます。お金って『通貨』って言いますよね? まさに通過していくものなんです。どういう通過のさせ方をしているのか、通過される量よりも自分のお金が機能する質の高い使い方をしているかどうか、断捨離もまずは『出す』というのを以前お話しましたが、お金も出していくことがポイントです」
お金の質を高めるために「出す」、とはいったいどういうことでしょうか? 次のページではその真意・極意を引き続き、やましたひでこさんにうかがいます。