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2020/8/30 18:00

18年目の挙式は混沌、骨折娘は不機嫌MAX−−酷暑の夏に平穏が欲しい映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第6回

 

結婚18年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』(9/11から新宿ピカデリー他全国公開予定)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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8月2日

朗読劇の脚本直しに苦戦。直しというかポイントとなるセリフがなかなか書けない。

 

売れないシナリオライターの夫と売れない女優の妻の話で、最後に二人は離婚するのだが、激しいケンカをした後、数日たって少し冷静になった妻は離婚という決意は変えないが夫に優しい言葉をかける。「あなたの書くシナリオに励まされていた」と。励まされていたからには、夫がどんなシナリオを書いていて妻がどう励まされていたのかを妻のセリフとして書かねばならない。夫である売れないシナリオライターのモデルは私だ。つまり私は、自分のシナリオの良さを自分の作品の中で書いて褒めるという、すごく恥ずかしいことをせねばならない。

 

そのセリフだけ妻に書いてもらおうと思い丸投げしたところ、「あんたへの誉め言葉は虫唾が走るから書きたくない。実感のこもっていないウソになる」と言われ、結果私は自分で自分の良さを書いた。「へぇ~、こういう自己評価なんだ。相変わらず自己愛だけは深いな」と妻に言われて腹が立った。

 

だが書いてみて気づいたがこれは自己評価ではなく、こういう書き手になりたいという願望だ。どんなセリフかというと「あなたのシナリオは目線が低くて、弱者の味方で、実人生では嘘ばかりついているくせに、シナリオには嘘がない」と、だいたいこんな感じのものだ。そういう書き手になれるようにこれから精進していこうと3分ほど思った。

 

夜、店主が一人で切り盛りしている江古田の定食屋に妻と息子と行く。(娘も誘ったが絶賛反抗期のため「行かない」と一言)。この店は初めて入ったのだが、セルフサービスのため価格が安い。そして料理はどれも手作りで大変美味かった。息子が最近よく食べるようになったのでご飯の大盛を2つ頼んだら漫画みたいなザ・山盛りが出てきた。スペアリブと鶏の唐揚げと、鶏南蛮揚、野菜炒めを食べる。空腹だったので絶対に食べきれると思っていたのだが食べきれなかった。ここ数年、この手の失敗が多い。でも食い意地が張っているからついつい大目に注文してしまう。

 

かなり余らせて「もう限界」と言うと、玉ねぎサラダをつまにワインを飲んでいた妻が「何度同じ失敗してんのよ、食い意地だけはった豚野郎が。もったいねえだろ」と言って、残り物を全て食べた。太るんだから食べなければいいのに、と思うが言えない。

 

帰り路の商店街のおもちゃ屋で息子がドはまりしている怪獣・ツインテールの人形を見つけ購入。

 

8月3日

朗読劇とともに並行している映画脚本と連ドラの脚本がまったく進んでおらず(忙しい自慢はバンバンします)、慌てふためいて軽く更年期パニックになっているのに、今日は結婚式だ。

 

以前の日記でも書いたが、特に意味もない結婚18年目で、特に強い意志があったわけでもないのに、この日記を始めるからそのネタのためだけに「結婚式でもあげとく?」と私が提案したのだが(結婚10年目と15年目にもやろうとしていたが両方とも人生のどん底期のため行わなかった)、式場探しや契約などの面倒な作業はすべて妻に丸投げしていた。

 

当初4月開催だった予定がコロナの影響で夏休み中の7月に延期していたのだが、急遽7月末まで夏休み返上になってしまい、再度本日に延期となったのだ。仕事がまったく捗っておらず、結婚式など挙げている余裕はいっさいないので再度延期したいと妻に言ったが、これ以上延期するとキャンセル料も高くなるし、「もとはと言えばお前がネタだけのために式をあげようと言い出したのだろうが!」とガミガミ始まったので強行突破で行うこととなった。

 

まあ、結婚式と言っても家族4人だけでサクッとやるやつだ。だが、中一のクソ反抗期娘はこういう行事やら写真撮影を舌打ち一発「なんで私も行かなきゃなんないの」と、家を出る前から不機嫌モード全開。貸衣裳のドレスを着るのは絶対嫌だと言い張り、妻が今日のために夏用ワンピースを用意していた。一度はそのワンピースに着替えるも、家を出た後「マスク忘れた」と言って一旦家に帰宅し、何の嫌がらせか普段のTシャツ&短パンに着替えて出て来た。

 

「写真撮るんだよ!あんたの親父が面倒くさいこと言い出したせいで!」と妻が怒鳴ると、「知ってるよ。これでいいもん」と一言。私は紋付き袴、妻は着物、息子はタキシードになるというのに先が思いやられる。

 

11時、会場に到着。タキシードに着替える予定の息子が案の定「絶対着ない!」の百連発が始まる。私も妻も半グレ……じゃなかった半ギレで説得を試みるが首を縦に振らない。テコでもラリアットでも振らない。「仕方ない、息子もTシャツ&短パンだな……」と諦めていたら、結婚式場のノリのよいおねえさんに「カッコEーから着ちゃいなYO!」みたいなテンションで言われ、あっさり「じゃ、着替える」と言いやがった。しかし妻が靴を忘れてきて、タキシードに汚いスニーカーというスタイルに。なかなか完璧にはいかない。

 

式では半分スネた娘とタキシード姿になって恥ずかしくてジタバタしている息子の二人が参列しているバージンロードを紋付き袴姿の私と着物姿の妻が歩いた。

 

「あの人たちすぐ怒るんだよ。人殺しなんだよ」ともう訳の分からなくなっている息子が式場のおねえさんや牧師さんに一生懸命しゃべり、姉から「うるさいよ!」と怒られていた。

 

妻と誓いの言葉を交わし(妻が書いた)、その後は娘と息子も子どもたちとしての誓いの言葉(これも妻が書いた)を言うオプションをつけたことを最高に後悔せざるを得ない状況となり(息子「言いたくない言いたくない言いたくない言いたくない」の連呼。娘、人前にも関わらずチョーぶすむくれ)、破れかぶれのうちに式は終了。

 

↑結婚式にて。ずーっと不機嫌だった娘が急にハイテンションに。息子は最初から最後まで走り回っていた(妻)

 

その後の写真撮影で息子は異様にテンションがあがってカメラマンの方の言うことも聞かず走り回り、なぜか意味不明に機嫌の良くなった娘が我々の写真をパシャパシャと撮った。とにかく疲れた。やはり結婚式というものはネタのためにやるものではない。ネタにはしたが。

↑もはや収集つかず。ヤケクソに(妻)

 

8月4日

朗読劇の稽古。といっても今回は稽古が一日しかない。それをも楽しむというのか、やはりこういう状況でもあるし、その上でできるエンターテインメントをやることに意義があるのだと思う。

 

今日はYOUさん、マキタスポーツさんコンビと、りょうさん、三宅弘城さんコンビの二組と稽古した。先日稽古した平岩紙さん、中尾明慶さんコンビも含めて私は3組の方々とやらせていただくが、同じ台本で皆さんそれぞれに違った夫婦の形は見ていて非常に面白かった。

 

稽古後、妻から「今日、少し疲れているから夜に少し一人時間ほしす」とラインが入っていたが私も疲れており、どうしてもサウナで一汗流したかったので、「ごめん、稽古が少し長引きそう」と返信してサウナで3時間ばかりメンテナンスして帰宅したのだが、マッサージの方から頂いた「次回10分延長無料券」を妻に見つかってしまいえらい逆ギレというのか逆じゃないけどキレられた。だが多分、私のほうが疲れている自信はある。

 

8月7日

朝から「喜劇 愛妻物語」(9月11日公開)の取材をたくさんしていただく。私は話すのが苦手で、面白い話をしようと思ってもいつも何を話すのか忘れてしまい、記者さんから質問されても、支離滅裂な話になってしまうことが多い。だから映像とか文章というものを生業にしているというか、それらのほうが少しでも自分の考えや思いを伝えられるのだ。

 

一つ目の取材が終わると、妻から娘が陸上の練習中に足を負傷したようだから迎えに行くとラインがきていた。その2時間後、ギプスで固められ、松葉づえ姿の娘の写真が来た。え、骨折!? 負傷どころじゃねえじゃん! と一気に気が気でなくなる。

 

「なんなの!?」「どういうこと!?」と妻にLINEするが、返事はパタリとなくなり、既読にすらならない。やきもきしていると、取材終了間際、妻からLINE。「疲れて昼寝してた。骨折判明、絶対安静必須。娘大泣き」。

 

8月1日から夏休みに入ったばかりで、これから合宿やサマーキャンプ、友達と今年最後になる「としまえん」のプールに行く約束など、このコロナ禍の中でも充実した夏休みを送る予定であったのに、それらが全てなくなると思うとそりゃ大泣きもするだろう。なのに昼寝できる妻に激しい怒りを覚えながら帰宅すると、大泣きして落ち着いたのか娘はいつも通り、iPadでゲームしていて「やっちまったよ」と一言。

 

「やっちまったなあ、かわいそうに」と労わると、「別にかわいそうじゃないから」とムカッとくる言い方。「こいつ、もういつも通りムカつくよ」と妻が言った。「なに、こいつって。いつも通りじゃないから!」と娘が返すと「その態度だよ!」と妻が返す。

 

空気を全く読まない息子は私にiPadを見せつけ、マイクラの何とかが何とかと大声でわめいている。明日から朗読劇に備えて部屋を出た。

↑真夏のギブス……(妻)

 

8月8日

朗読劇「大山夫妻のこと」本番1日目。緊張して馬鹿デカイ国際フォーラムに向かう。

↑国際フォーラムの会場。余りのデカさにびびりまくり、チキン丸出しの夫(妻)

 

りょうさんと三宅弘城さんのコンビがこの朗読劇の先鋒となる。簡単な場当たりだけして、あとはお客様と一緒に私は客席から見ていたが、映画とはまるっきり違う緊張感があり、ドキドキした。りょうさんの母性的で落ち着いた雰囲気に包まれた妻と、動作や表情が妙におかしい三宅さん夫妻の、噛み合っているようで噛み合っていない夫婦像が面白く、お客さんから笑いが一つ起こるとあとは落ち着いて見られた。

 

夜は、三島有紀子監督、稲垣吾郎さん、門脇麦さんによる「カラマツのように君を愛す」から始まったが、その世界観を構築する演出家の凄みに圧倒される舞台で、この後に俺のってヤバくね?と委縮した。

 

が、それは杞憂でYOUさんとマキタスポーツさんは稽古中からハマっているように見受けていたのだが、切実なおかしみが滲み出るマキタさんと、言い回しが恐ろしく自然で怖くなるYOUさんのお2人はやはり相性バッチリで、お客さんもかなり受けていた。三島監督の作品とまるきり毛色も違っていてそれはそれで良かったのかもしれない。そして客席に身を沈めていると、「やっぱり劇場はいいよなぁ」としみじみ思った。

 

その後、観に来てくれた若い俳優さんお2人といっぱいだけ飲んで、近ごろ現実逃避をしによく行く池袋のカルマルというサウナでメンテナンスをして帰宅。

 

8月10日

朗読劇の楽日。少し心に余裕が持てる。3回目は平岩紙さんと中尾明慶さん。平岩さんの雰囲気のせいか、妻が柔和でかわいらしい雰囲気に。そして中尾明慶さんは天真爛漫な雰囲気で、夫が可愛く見えた。激しい夫婦喧嘩のやり取りもあるが、このお2人がお客さんは一番安心して見られるのではないかと思っていたら、大ゲンカのシーンは思わぬ迫力があり、客席も悪い意味ではなく静まり返り、笑うというよりは身につまされる感じがものすごく出た。好みはあるだろうが、私はそういうのは大好きだ。

 

同じキャラクターを三者三様に演じていただいて面白い試みだったなと思う。怖気づいていたが、この仕事を受けて良かった。

 

8月14日

朗読劇が終わって数日、ひたすらプロットを考え書く。それだけの、忙しいけれど空虚な夏だ。私にとって夏とは高校野球と帰省だ。阿久 悠さんだったか、名前は失念したが女性の作家だったか、夏は部屋に引きこもって甲子園の試合をすべて見るとおっしゃっていた方がいたが、私の場合は気が向いたときと、仕事から逃げる時にうたた寝しながら見るのが高校野球で、たまにとんでもなくグレイトエンターテインメントな試合に遭遇してしまうから高校野球は面白い。2006年夏の智辯和歌山vs.帝京高校の試合を私は岡山空港で見ていたが、あまりの面白さに飛行機に乗るのをやめた。何の後悔もないほどにその試合は面白かった。

 

そしてもう一つ、夏を感じるのが帰省だ。帰省=母の小言だ。毎年夏、3泊ほど鳥取の実家に帰るが、待ってましたとばかりに小言がはじまる。顔に生気がない。身体が弛緩しきっている。心も腐りきっている。それが外見に出ている。毎年そんなことを言われ、毎年ムキになって反論している。ついでに横でその小言を聞いている妻は、自分にも言われていると思っているようで、そのとばちりが私にくることもある。だからもう二度と帰るものかと思うこともあるが、帰っている。なぜなら私には自分の理想とする夏というものがあるのだ。それは私が幼いころに夏を過ごした熊本の風景だ。

 

私の母は鹿児島で生まれ育ったが、私が物心ついたときには母の実家は熊本にあった。私は小学生のころ、夏休みに入るとすぐに母と妹と熊本に行き、ほぼ夏休みいっぱい滞在していた。そこで友達もできたし、気の合う従兄や寅さんのような叔父もいた。子どものころの私の夏のイメージは熊本で彼らと目いっぱい遊ぶことだった。今にして思うと、なぜ母があんなにも長く実家で夏休みを過ごしていたのか、そして私と従兄をどこにでも遊びに連れて行ってくれた叔父さんの事情など、大人になってから見えてきたものもあるが、小学生の私にはまるでホウ・シャオシェンの映画のような世界だった。

 

あんな夏を自分の子どもたちにも過ごさせてやりたいという思いが強いのだ。過ごせているのかどうかは知らないが、娘も息子も、鳥取に帰省すれば私の同級生の子と海に行ったりバーベキューしたりして遊んではいる。夏休みにしか会わない友達との慣れるまでのちょっと気まずい時間とか、静かすぎる田舎の夜とか、おばあちゃんとの退屈な時間とか、そういう夏の断片の記憶が頭の片隅にあるといいなと思うのだ。いずれ子どもたちは帰るのも面倒になるだろうし、私の親だって先はもう長くはないのだからあと何回そんな夏を過ごせるのか分からない。そういう夏が今年はなくなってしまったが、皆様、いろいろと失った夏を過ごしていらっしゃるのだろう。大切な時間や場所を失った方も多くいるだろうし、何も失わず「なんなら今年の夏、サイコー!」という方もいるだろう。とりあえず、私はこんな新しい夏ならいらないから来年は普通の夏に戻ってほしい。

 

8月18日

朝から苦戦中のプロット執筆。思うように書けないと右の肩甲骨がうずき出し、腕が痺れ、頭がクラクラする。よってサウナに逃げる。マッサージなどで金も使う。悪循環だ。

 

13時からzoomでメッセンジャーの黒田有さんと対談。黒田さんには拙著『それでも俺は、妻としたい』をラジオで誉めて頂き、帯まで書いて頂き、その後新潮社で対談させて頂いた。1度しか会った事のない人とリモートで対談するのは大変緊張したが、黒田さんのプロのトーク力のお陰でスムーズに話が進んだ。感謝しかない。

 

黒田さんは小説やエッセイも書かれていて、私は勝手に黒田さんの書かれるものにシンパシーを感じている。少年期や幼いころの小さな出来事を書かれているものあり、その小さな出来事が、本人にとっては心にチクリと残っているような感覚のそれらの作品は、黒田さんの原風景が見えるような気がするのだ。

 

「黒田目線」という本にはドラマにしたら面白いと思うエピソードもたくさんあり、特に女性アイドルにサインをもらいに行く話が私は大好きだ。

 

夜、骨折娘が外に出たいというので家族で散歩に出る。娘は日がな一日テレビの前でNetflix、Amazon プライム・ビデオ、hulu、U-NEXTのアニメと言うアニメを見まくっている。たまには普通の映画も観ろというと心底うざったそうな顔をする。

 

松葉杖で歩くと脇が痛いようで自分から散歩に行きたいと言い出したくせに不機嫌になってくる。おまけに夜でもクソ暑く、上半身裸の息子はうるさくはしゃぎまわって娘のイライラの矛先となり、そんな娘を妻が咎めると親子ゲンカになり、黙っている私にも妻がキレだし、私は腹いせにうるさい息子を怒り、息子が泣き、みんなバラバラで帰宅。

 

8月24日

短い夏休みが終わり、親にとっては待ちに待った新学期だ。骨折娘を自転車の後ろに乗せて中学まで送る。他の生徒も通学するなか、父親と自転車に二人乗りというのが猛烈に恥ずかしいようで後ろから悪態つきまくってきてキレそうになったが、人前なのでグッと堪えた。息子は前夜から学校に行きたくないと渋りまくりだったが、いつも迎えに来てくれるⅯ君を見ると、機嫌を直して登校して行った。

 

娘と息子を見送って帰宅すると、妻が不動明王のような顔で待ち構えておりいきなり怒鳴りだした。

「テメェよぉ! 子どもの前だから我慢したけどいい加減にしろよ!」

「え、なに……」と訳も分からずキョトンとしていると、何でも私が朝食のお皿を片付けていた時、食器を洗っている妻の胸の先をケチャップ容器の先でかすめたというのだ。(かすめたじゃねえよ! 突っついただろうが! by妻)それで妻は頭から湯気を本当に出して怒っている。

 

「普通に家事してるときに突然オッパイ突っつかれると、痛ぇしキモいしメチャクチャ腹立つんだよ!」

 

確かにケチャップで胸をかすめたのはわざとではあるし、確かにその時、妻が凄い目で睨んでいたのも覚えている。だがこのように妻が怒り狂っているとき、私は余計な一言で誤魔化そうとしてしまう習性がある。

 

「いや、オッパイじゃなくて乳首だよ」と私は言ってしまった。

 

「はぁ!? そんなのどっちでもいいんだよバカ野郎が! 痴漢ジジイみたいに相手の尊厳踏みにじってるのが分かんねえのかよ、このクソハゲ! テメェもすれ違いざまに金玉握り潰すぞ!」と地獄の底から響き渡るような声でさらに怒鳴るので、そこでようやく謝ったが、「もう今日、取材行かねえ。オメェ一人で行きやがれ」と言って出て行ってしまった。そういえば今日は夕方に妻と一緒に「喜劇 愛妻物語」について取材を受ける予定だったのだ。まあどんなに怒り狂っても取材をすっぽかすようなことをするタイプではないからいいのだが、しかしすれ違いざまにオッパイをさらっと触るくらい若いころは「ヤダ、バカ」と笑って許してくれていたのに、どうしてこうも変わってしまうのだろうか。

 

夕方の取材に案の定、妻は来た。先方の計らいで酒でも飲みながらということになり(妻が酒好きなことをご存じなのだ)、アルコールを前に妻はすっかり上機嫌になって私の悪口を話した。その模様は、このサイトに近日アップ予定ですので是非ご一読ください。

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が2020年9月11日から東京・新宿ピカデリーほか全国で公開予定。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『それでも俺は、妻としたい』。

【喜劇 愛妻物語公式サイトはコチラ】