リモートワークによるストレスが多く叫ばれるなか、注目されているのが、「仕事をしながら旅をする」スタイル・ワーケーション。いつもと違う場所で仕事をすることで、日常を離れてリフレッシュしつつ新しい発見も得られるメリットがあり、これからの「働き方」の一つとして視野に入れる方は多いと思います。
しかし、浸透はまだまだ。新型コロナウイルスの影響はもちろんですが、勤務先・取引先が理解を示してくれない、家族が認めてくれない、相応のお金もかかる、そして肝心の「本当に旅先で働けるのか」といった疑問など、ワーケーションのハードルは低くないようです。言い換えると、この憧れの新しい働き方は多くの人にとってまだ未知数のところもあります。
そんな中、いち早く北海道、能登七尾、九州、沖縄でのワーケーションのツアープランを打ち出し、「旅×仕事」を提案しているのがANA。今回は同社の桜井識子さんに多くの人が未体験のワーケーションを行うにあたって「忘れちゃいけないこと」として、主に「事前に必ず調べておくこと」「持っていくべきもの」の2点をご紹介いただき、将来のワーケーションのあり方についても聞きました。
【その①】事前に調べておく・計画しておくべきこと
ーーANAでは初心者にも入りやすいワーケーションのツアープランを販売されています。ただ、個人個人働き方が違うので、ツアー参加前に、自分で事前に調べる、準備することも当然不可欠だと思います。その点についてまずお聞かせください。
桜井識子さん(以下、桜井) おっしゃる通りです。参加される方それぞれのワーケーションでの「働き方」はもちろんですが、さらに個人の嗜好や、ご家族で行かれるのか一人旅で行かれるのかなどによって、行く場所や環境の条件が変わってくると思います。
その上でのお話になりますが、やはり最優先すべきは「最低限のお仕事環境のインフラが整っているかどうか」。弊社で販売しているワーケーションプランでは快適なお仕事環境をサポートできるよう十分配慮していますが、ネット環境などインフラが整っていない地域では、ワーケーションと言っても不便さへの対応のほうが勝り、おそらく仕事どころではなくなります。
ですので、最低限のインフラがあることを前提に言うと、以下のようなことは事前によく調べ、計画をしておくほうが良いと思います。
[事前に調べておく・計画しておくべきこと]
○Wi-Fiがどれくらい届く地域なのか
○宿泊先はどんなところか(ホテルなのか、ガスコンロなどもあるようなアパートメント式の施設なのか)
○宿泊先や近隣には どんなワークスペースがあるのか
○地域での移動手段はどんなものがあるか
○病院はあるか
○コンビニはあるか
○滞在中の気候
○地域ごとに異なる必要なものは何か(ex.寒冷地:ホッカイロ、湯たんぽ、折り畳めるダウン、積雪地域での長靴など/温暖地:ポータブル扇風機、日焼け止め、折りたたみ日傘、サングラス、帽子など)
○ワーキングのプラン(滞在中の『仕事』『オフ』の計画)
○その他
ーー一般的な旅行でも、上記のようなことは必ずチェックしますが、やはり「仕事」として考えると、Wi-Fiの環境の有無はよく調べておいたほうが良いですね。宿泊先によっては「Wi-Fi有」という記載があっても電波が弱い、ロビーにしか届いていないなど、日常とは異なることが結構ありますので。
桜井 その通りですね。Wi-Fi環境は最も重要な条件の1つだと思います。また、例えば都市部から離れたエリアでも、通信面など安心して働ける環境をご提供できるよう、自治体様と連携するなど、工夫もさせていただいております。
ーーまたワーケーション先の地域や、宿泊先も気になりますが、やはり「働く」という面で大事なのは現場でのワークスペースがどんなところかです。
桜井 ワークスペースに求めるものも、お仕事内容によって異なるかと思うので、事前に設備などチェックされることをおすすめします。地域によっては、割とオープンな環境で、隣で仕事をされている方の声が響くところもありました。オンライン会議などの必要が生じた際は、遮音性のある別の場所で行わなければいけません。オンライン会議で話されることには機密性を伴うことも多くありますし。ですので、こういった点は事前によく調べておくと安心です。
さらに、旅先でお仕事に集中ができるかご不安な方は、ワーケーションを行う前に、滞在中の時間配分などはある程度決めておくのもメリハリを保って楽しむコツですね。真新しい環境だとつい気が緩んでしまいがちで、目先の興味の対象に気持ちを持っていかれてしまうこともあります。そこを我慢しながら「仕事の時間は、仕事だけに集中する」ようにしないと、ついダラダラ時間を過ごして「仕事ができなかった」なんてことになりかねません。
【その②】ワーケーションに必要不可欠の物
ーーさらにお聞きしたのが、ワーケーションに必要不可欠の物です。どういった物がマストアイテムでしょうか。
桜井 やはり「仕事」「旅」の両方に関わるものになりますが、主に下記になると思います。
[持っていくべきもの]
○仕事に関わるもの(パソコン、バッテリー、スマートフォン、会社支給の携帯など)
○場合によっては現地で手に入れにくそうなもの(マスク、消毒液、指定の薬、衛生用品、化粧品)
○現地で手に入れられるが、買うまでもないもの(爪切り、洗剤など)
○健康保険証
○レジャーシート
○現地の環境に合わせたもの(長靴、水着など)
○自分の習慣に合わせたもの(マラソン用ウェアなど)
○その他
桜井 おおむね想像されるものばかりだと思いますが、ワーケーションは、仕事の道具がありますので、普通の旅行よりは荷物が嵩張るんです。なので、できるだけコンパクトにしたほうが良いですね。
個人的な話になりますが、私は二週間くらいの旅行をすることが以前はよくあって。Tシャツなどベーシックなアイテムはできるだけ少なくして、携帯用洗剤で現地で洗濯するなどして着回すようにしていました。その分、洗剤がマストになってくるのですが、このように持っていくべきものも、人それぞれの計画によって変わってくると思います。
ーーこの中で特に気になったのがレジャーシートです。これはなぜですか?
桜井 特にワーケーションで行く場所は、自然環境が豊かなところが多いですよね。場合によっては、公園でランチをしたり、自然を眺めながら休憩をしたり、非日常の中でリフレッシュできますが、そういった際にレジャーシートがあるとすごく便利です。現地のコンビニでも買えることが多いですが、ワーケーションならではの荷物ということだとレジャーシートは意外な物かもしれません。
仕事だけでなく、自分のルーティンを滞在先で楽しむことの魅力
ーー実際にANAのワーケーションツアーに参加された方の様子をお聞かせください。
桜井 参加されている方の働き方にまつわる全てを把握しているわけではありませんが、参加されている方の中で、すごく良いなと思ったのは、自分の中でのルーティンを環境を変えてやっている方がいることでした。
一緒に函館でワーケーションをした方がいました。普段は都内で仕事をされている方なのですが、毎朝、函館の町中をランされていました。おそらく日常的なルーティンとしてランニングをされているのだと思いますが、そういったことが違う環境でもでき、さらに仕事もできるというのは、ワーケーションの魅力の最たる部分ではないかと思いました。
ーーまた、ANAのワーケーションツアーでは、各地域での仕事場の用意だけでなく地域ならではの企画も数多くありますね。
桜井 はい。そこは弊社ならではと思っています。ワーケーションは、ご自身でプランを立てて各地に行くこともできますが、特に各地域の奥深い魅力を得る、体験するとなると相応のハードルが上がります。その点、前述のように弊社では各自治体様と連携してプランを組んでいます。各地で働きながら、各地域の魅力を存分に体験していただけるような商品開発に取り組んでいます。
ワーケーション浸透への今後の課題とは?
ーーワーケーションは現在、どれほど浸透しているのでしょうか。
桜井 まだ過渡期ではあるかもしれませんが、様々な取り組みが計画されています。密を避けながらも、ワーケーションを生かしたチームビルディングの企業研修という形もあるかもしれませんし、あるいは各地の教育機関などと連携したエデュケーション・プログラムを取り入れたワーケーションなども出てくるかもしれません。また、各自治体様の地域課題を解決するための、参加型ワーケーションなども面白いですね。
いずれにしても「リモート環境を活用し、旅先から仕事をする」というのがワーケーションのコンセプトかと思うので、いろいろなスタイルのものが今後出てくると思います。
ーーワーケーションは楽しく有意義ですが、それでもまだ自分が勤めている会社側、取引先などからの理解を得るには十分ではなさそうです。どんなことをすれば、今後ワーケーションが一般に理解されていくと思われますか?
桜井 たしかに「楽しそう」ということが先行して、「働いてもいる」ことを認めてくれない企業もあるかもしれません。労務管理の方法や労災など、導入企業側も検討すべき課題は多いですが、ワーケーションが一時のバスワードではなく、「価値ある新たな働き方」として定着するよう、ワーケーションを広めていければと思います。
また、新しい時代の価値観に合った「柔軟な働き方」を提案できる企業には、優秀な人材が集まる、とも言われています。こういった点からも、ワーケーションを含む「新しい働き方」の提案は企業が取り組むべきだと思います。
そういった点でも、弊社のワーケーションプランは今後も様々なものを商品化し、多くの方に提案していきたいと考えています。地域・条件なども広めていきながら、地域や体験コンテンツをさらに拡大して多様なワーケーションのあり方を盛り込んでいきたいですね。
リモートワークの弊害が多く叫ばれている今、メンタルマネジメントとしてもワーケーションは大きな意味を持っています。新型コロナウイルス感染拡大に対する対策は大前提として、ワーケーションという取り組みが今後、本格的に浸透すると良いなと思いました。
撮影/我妻慶一
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