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2021/8/20 18:00

今のランドセルは「ジェンダーレス」がスタンダード! 老舗ランドセルメーカーである土屋鞄製造所に聞いてみた!

多様性や個性を認める動きが強まっている昨今ですが、ランドセル業界にもその動きがあるのだとか。先日発表された土屋鞄製造所のプレスリリースによると、ランドセル選びにおいて「性別による色の固定概念はない方がよいと思う」と回答した人が8割を超える結果に! しかし……黒と赤のランドセルしか知らない36歳の私には「ランドセルで色の固定概念をなくすとは?」と思いました……。そこで土屋鞄製造所の広報を担当する高橋夏生さんにお話を伺い、昨今のランドセルトレンドと“ラン活”について教えてもらいました。

 

ランドセルはたくさんのカラーの中から「選ぶ時代」へ

↑2021年度からの新シリーズ『RECO』は、モダンベーシックな色味とシンプルなデザインが好評。ジェンダーレスなカラー展開も人気で、早速2021年度の販売数上位に入ったそう

 

ーーランドセルは黒か赤しか知らない世代なのですが……、いつ頃からカラー展開されるようになったのでしょうか?

 

高橋夏生(以下、高橋):土屋鞄では少なくとも10年ほど前からブルーのランドセルを発売開始しました。他社さんでは、その当時オーダーメイドランドセルを製作していたそうです。2001年頃から20種類前後のランドセルを展開しており、現在では素材やカラーなどで振り分けると61種類のランドセルを販売しています。

 

ランドセル業界全体で見ると、2000年代の始め頃からカラーバリエーションが豊富になり、ここ15〜20年の間に『好きな色のランドセルを使う』という傾向が強くなってきました。私も仕事で小学校へお邪魔することもあるのですが、最近の教室はとってもカラフルですよ。

 

ーーへぇ〜! それにしても土屋鞄のランドセルだけでも61種類もあるなんて、2色しか知らない私からするとちょっと驚きです(笑)。

 

高橋:毎年少しずつリニューアルやカラー追加を行ってきた結果、現在の種類になりました。今年から販売された『RECO』は、性別の枠に囚われないカラーを展開している新シリーズのランドセルです。今年の3月から2021年度の注文受付を実施したのですが、7月末時点で、売り上げトップ5の中に『RECO』シリーズが4つランクインしています。

 

消防車が好き! 戦隊モノで赤いキャラクターが好き! と、赤を背負いたい男の子のニーズもあったので、男の子でも背負いやすいかっこいい赤をイメージした“ディープレッド”も人気でした。個性に合わせたカラーを選んでもらえたらと思います。土屋鞄では『RECO』以外のシリーズでも色や形など幅広く準備しています。

↑「RECO」ネイビー、7万9000円(税込)

 

お店で「男の子用」「女の子用」と区別していない

ーー『RECO』のモダンベーシックな色味は、大人でも欲しくなっちゃうような素敵なカラーですね!

 

高橋:ありがとうございます! 『RECO』シリーズは、すっきりとしたデザインも特徴的です。ランドセルを開くと一般的には時間割の紙を入れるスペースがありますが、『RECO』では思い切ってそのスペースをなくしました。

↑『RECO』ブラウンを開いた様子。フラットな側面や美しい曲線と立体感あるデザインで、全体的に大人っぽい、シックなランドセルに仕上がっている

 

ーーえ〜! 最近の子は使わないんですか??

 

高橋:先輩パパ・ママに聞いてみると、実はあまり使っていないことがわかったんです。あとはコロナ禍によって、学期ごとに固定した時間割が組みにくくなっている背景もありますね。

 

ーー衝撃です(笑)。カラーだけでなく機能面でもランドセルってどんどん進化しているんですね。でも、これだけ色々な種類から、お子さんがランドセルを選ぶことって可能なのでしょうか? 決められないような気がして。

 

高橋:7割くらいのお子さんは、自分の意思で決められています。土屋鞄のランドセルは、ブルーのランドセルを展開し始めた頃まで遡っても『男の子用』『女の子用』と性別を分けて販売していませんでした。オンラインストアはもちろん、カタログでも性別を分けず選べるような作りにしています。

 

ーーすごい!ジェンダーレスを先取りしていたわけですね! とはいえ、おじいちゃん・おばあちゃんは「女の子なんだから、赤にしなさい」など言ったりしませんか?(笑)

 

高橋:親御さんと一緒にご来店(※1)いただくこともあるのですが、ズラ〜っと並んだランドセルをご覧になって『こんなに素敵なランドセルがいっぱいあるのね』と喜んでいただけることの方が多いです。お孫さんの意見を尊重して、『好きなのを選んでね』と優しい言葉をかけていらっしゃる方がほとんどですよ。

※1:来店は予約制のみ受付で、出張店舗はすでに終了。LINEによるスタッフ相談も対応中なので詳しくは土屋鞄さんのホームページをご覧ください。

 

ーーそうですよね(笑)。意地悪な質問しちゃって失礼しました!  実際にランドセルを購入したお子さんは6年間大事に使ってくれていますか?

 

高橋:弊社では6年間の無料修理保証をつけているのですが、その時に一緒にお手紙を添えていただくことがあるんです。そこには自分が選んだランドセルを大切に使ってくれているのが読み取れて、スタッフやランドセル職人たちは元気をもらっています。またランドセルリメイクも好評で、大事にしてくれたんだなぁ〜と私たちまで感激しちゃいます。

 

年々変化していく“ラン活”……でも、焦り過ぎないで!

↑土屋鞄製造所の広報、高橋夏生さん。インスタグラムのライブの配信では、「オンラインになったことで、お客様の声が直接聞けるようになった」と嬉しそうに話してくれました

 

ーーこうして考えるとランドセルを選び、購入するまでの時間って2色しかなかった時代よりも格段に増えていますよね?

 

高橋:そうですね。弊社でも今年の3月頃からランドセルの展示販売をスタートし、春以降も定期的にインスタグラムのライブを配信したり、ランドセルレンタルを行ったり、ご検討中の親御さんやお子さんがコロナ禍でも大切なひとつを選べるようお手伝いしてきました。特に昨年から今年にかけては新型コロナウイルスの影響もあり、なかなか店舗にお越しいただけない方も多かったので、オンラインでできることを模索していましたね。

 

ーー3月ってことは入学する1年前から始まっているわけですか……! “ラン活”おそるべし。

 

高橋:個人的には“活”という言葉がつくと、「負けられない!」や「急がなきゃ!」という印象がついてしまうので、ちょっと心配ではあるんです。土屋鞄としてはランドセル選びを楽しんでもらいたい、ゆっくり選んでいただきたいです。心苦しくも思いますが、ランドセル選びが時代的にもどんどん早まっているのは否めませんよね。しかし選ぶ時間はたっぷりあるので、その分楽しみながら“ラン活”してもらえたら嬉しいです。

 

ーー私も伝える側の人間として「今、“ラン活”がすごい!」とか言いたくなるので注意しないとですよね(笑)。土屋鞄のランドセルはひとつひとつ手作りなので、なかなか大量生産も難しいですからね。

 

高橋:土屋鞄のランドセルは、120人以上の職人がひとつひとつ手作りで製作しています。150以上のパーツを組み合わせ、300以上の工程を経て作っていくので、職人たちは1年中ランドセルを作り続けています。6年間使うものなので、ひとつひとつ心をこめて製作していますよ。

 

ーー職人さんすごい……! あと先ほど話に出ていたランドセルレンタルはどんな人が使われているのでしょうか?

↑ランドセルレンタルはその名の通り、ご自宅にランドセルをお送りし、2泊3日でレンタルしていただけるサービス

 

高橋:コロナ禍でご来店が難しいお客様や近くに店舗のないお客様に向けてスタートさせました。実際に色味や形をご確認いただくだけでなく、ランドセルを背負って通学路を歩いてみたり、おじいちゃん・おばあちゃんにランドセル姿をお披露目したり、お好きなように使ってもらっています。貸し出しできるランドセルについては在庫状況も異なるので、こちらのサイトでご確認いただければと思います。

 

ランドセル選びを思い出のひとつに

ーー最後になりますが、高橋さんからランドセル選びのポイントを教えていただけますか?

 

高橋:小学校は、年々荷物が多くなっています。お子さんの体型や通学時間を考慮しながら、背負い心地をチェックしてもらって、どの素材がいいのか、負担が少ないものはどれかなど機能面からもしっかり選んでいただければと思います。ご近所にいる先輩パパ・ママさんから、通学路の情報や小学校の情報を教えてもらえるといいかもしれませんね。

 

あとお子さんが選んだランドセルを否定することなく、『いい色を選んだね』とか『素敵なランドセルだね』と認めてあげてほしいです。それがお子さんの自信にもなるし、ランドセル選びが一生の思い出のひとつになると思うから。ラン活というと焦ってしまうかもしれませんが、お子さんの個性に合わせたランドセル選びができるよう、土屋鞄製造所でも心を込めてお手伝いさせていただきます。

 

ーー素敵です! 本日はありがとうございました。

 

ランドセルを通じて『男の子は黒、女の子は赤』という固定概念がなくなり、『好きな色を選ぶ』のが当たり前の時代になったのだと実感しました。たくさんの選択肢の中からたったひとつを選び抜ける子どもたち感激するとともに、彼らが大人になった時「男だから」「女だから」という論争はきっとなくなるな! なんて明るい未来を想像しました。

 

「個性を大事にする」「ジェンダーレスな社会を実現する」と口で言うのは簡単ですが、自分自身が行動していくのはまだまだハードルが高いもの。ランドセル選びを通じて、楽しく個性を尊重することができる社会になれば、今よりちょっと他人に優しくなれるような気持ちにもなりました。一生に一度のランドセル選び、お子さんがちょっぴり大人になる瞬間を素敵な色で彩ってあげたいですね!

 

 

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