ライフスタイル
2022/1/9 17:00

インテリアスタイリストが教える「北欧インテリア」の基本と部屋に取り入れる方法

フィンランドのテキスタイルブランド「マリメッコ」は、2021年で創業から70周年を迎えました。また、同じくフィンランドのガラスメーカー「イッタラ」は、140周年。しかし、そんなメモリアルトピックスを取り上げるまでもなく、北欧のインテリアはいまや私たちにとって身近な存在となっています。

 

近年では、IKEAやFlying tigerといった北欧発の量販店もすっかり定着。たくさんの北欧家具や雑貨が手軽に手に入るようになったからこそ、どのようなアイテムを選び、どのようにしてインテリアに取り入れたらいいのかわからない、なんてことも多いのでは? そこで、インテリアスタイリストの岩佐知布由さんに、ひと手間で手軽にできる“北欧スタイル”の部屋作りのコツを教えていただきました。

 

↑インテリアスタイリストの岩佐知布由さん。自然光が差し込む自宅にお邪魔し、「北欧インテリア」についてお話をうかがいました

 

マリメッコの歴史と重なる“北欧スタイル”のムーブメント

↑マリメッコは1960年代に大きく飛躍。海外の雑誌から着想を得たパターンや、日本人デザイナーの感性によっても、国際色がもたらされた

 

北欧のインテリアデザインが世界的に広がったのは、1950〜1960年代。“スカンジナビア”のデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、そしてフィンランドのデザイナーによって生み出された家具、食器、ファブリックなどの日用品が、アメリカを先駆けにブームとなったことがきっかけと言われています。マリメッコの創業も1951年。ちょうど同じ時代です。それから半世紀以上を経て、今ではすっかり定番のスタイルになりました。

 

では、そもそも“北欧スタイル”のインテリアとはどのような部屋のことを指すのでしょうか? 岩佐さんにその答えから聞いてみました。

 

“北欧スタイル”の基本は、家で過ごす時間を心地よくすること

「“北欧らしさ”って、究極的には『家で過ごす時間を心地よく、快適にする』ということではないでしょうか」と岩佐さん。「だから、こうすれば“北欧らしくなる”という、明確な答えはないと思います」とご自身の考えを語りながらも、“北欧スタイル”を理解するためのヒントとなる3つのキーワードを挙げてくれました。

 

1. 人やモノへの愛情から生まれる「心の豊かさ・心地よさ」

↑あたたかみにあふれた北欧の部屋。北欧を代表する近代建築家、アルヴァ・アアルトの自邸(資料写真)

 

「私は心地よさや心の豊かさというのは、人を思う優しい気持ちから生まれるものだと考えています。例えば、外国人の友人を家に招いたときに、その国のものを部屋のインテリアにさりげなく飾ってみるといった“おもてなしの心”のようなもの。また、代々受け継いできた古い家具をずっと使い続けるような“モノを大切にして、長く使う”ということも、心の豊かさの一つかもしれないですね」(岩佐知布由さん、以下同)

 

“モノを大切にして、長く使う”という思想はデザインにも表れています。北欧デザインの特徴である「シンプルで機能性が高いデザイン」は、飽きずに長く使うための必然であると言えるでしょう。

 

2.「自然へのリスペクト」を感じられるデザイン

北極圏に近いスカンジナビア半島の北部では、夏は一日中太陽が降り注ぐ時期がある一方で、日照時間が短い冬が長く続きます。厳しい自然に囲まれた環境で生活しているからこそ「自然への愛情やリスペクトがある」と岩佐さんは言います。

 

「北欧のデザインは、木材やウールなど、その土地に根づいたものが使われていて、自然とつながっている。北欧の家具や日用雑貨は、素材や色使い、柄の中に自然への愛情が込められていますよね。『これは湖畔の森林をイメージして作られた柄かな』と想像したり、『春の花が咲き誇ったイメージで作られたテキスタイルを部屋に取り入れたら暗い冬の時期も明るくなるかな』と考えたりするのは楽しいです。自然とともに暮らしているからこそ、そこからインスピレーションを受けたデザインが多いんでしょうね」

 

「また、冬の間は、太陽の光がとても貴重だということもインテリアに大きく影響しています。明るい色の壁で、太陽の光が反射によって部屋中に広がるように工夫をしていたり、窓が大きく取られていたり。照明も、光にこだわった素敵なデザインのものが多いですよ。光を上手に使ったインテリアも北欧デザインの特徴です」

 

3. 「自分らしさ」を表現できる多様性

「 “北欧デザイン”は、色使いだけでもポップものからグレイッシュなものまで多彩です。だから、ナチュラルな雰囲気のインテリアもあれば、例えばカール・ハンセンの家具のようにモダンな雰囲気のインテリアにもなる。一言では表せない奥深さを感じます。柄のパターンもたくさんありますよね。特にファブリックは、いろいろなモチーフがあってかわいい。すごく個性的で多様なんです」

 

↑手前がカール・ハンセン&サン社の「シェルチェア」。デンマークのデザイナー、ハンス J. ウェグナーの作(資料写真)

 

個性的で多様なデザインの中から、自分の“好き”や“心地よさ”を見つけて、空間に取り入れていく。それが“北欧スタイル”のインテリアだと思います。人が言う“心地よさ”じゃない。ポップな雰囲気が落ち着くっていう人もいれば、スモーキーでグレイッシュな雰囲気が落ち着くっていう人もいる。それぞれの部屋に自分らしさが表れるもの、北欧スタイルの面白さですね」

 

自分らしい“北欧スタイル”を見つける3つのポイント

“北欧スタイル”のお部屋作りにhow toや型があるのではなく、「自分らしい“北欧スタイル”を見つけていくこと」が大切だと話す岩佐さん。では、実際にどうすれば自分らしい“北欧スタイル”を見つけることができるのか、より実践的な方法を聞いてみましょう。

 

「『自分の家を心地よく過ごすためにインテリアがある』という北欧の考え方を尊重するならば、『まず自分が家の中でどう過ごしたいか』を考えて家具を配置し、その上でアイテムをどう取り入れるかを考えるとコーディネートしやすいです。例えば、『ダイニングで仕事をするなら、そのスペースを広く取る』、『ソファーでゆっくり本を読みながら過ごしたいから、リビングを広く』といった具合に、 心地よいインテリアは人それぞれです。

“北欧らしさ”を出すには、アイテムを取り入れることが一番簡単な方法。でも、モノの背景にある考え方や世界観にも目を向けてみると、さらに楽しみ方が増えると思います」

 

1. 「色使い」はベース+アクセントカラーを基本に

「ベースになるのは、やはり太陽の光を取り入れやすい白や薄いグレー、ベージュなど明るい色が基本です。そこにアクセントカラーを加えていきます。例えばカーテンやテーブルクロス、クッションなどが取り入れやすいでしょう」と岩佐さん。さらに、色を重ねていくと不思議と北欧らしさが出てきます。

 

「“北欧スタイル”のカラーは、大きく2種類の系統に分けられます。一つは鮮やかでポップな色使い。マリメッコのようにビビッドな色使いをしている北欧ブランドはたくさんありますよね。もう一つはグレイッシュで落ち着いた印象のスモーキーな色使い。北欧のどんよりした曇りがちな空や、夜に雪が積もった後の夜明けのようなイメージです。まず、自分はどちらが好きなのかを考えてみると、取り入れやすいかもしれません

 

↑マリメッコのテキスタイルの一部。鮮やかなカラーに大ぶりの柄で華やか(資料写真)

 

色を取り入れる際のポイントとして、「鮮やかな色なのか、くすんだ色なのかという色のトーン(彩度)を合わせると、まとまりやすい」と岩佐さん。さらにアクセントとして、黒を一部に使うと空間が引き締まっておしゃれな印象に仕上がると言います。

 

最初に方向性を決めて好きな色を取り入れたら、あとはトーンで統一してみたり、黒を使って引き締めてみたり。自分が選んだ色に、どんな色を加えるのかを考えるのがコツです。

 

2. 「素材」は、自然の温もりを感じる木材を

↑アルヴァ・アアルトの自邸(資料写真)

 

「お部屋のインテリアを構成する要素の中で、壁や床、天井などを除くと家具の存在感は、大きいですよね。だからこそ、どのような素材の家具を取り入れるのかで、印象がガラッと変わります。北欧らしさを感じる世界観を目指すなら、やはり家具は温かみのある木製のものをおすすめします。

木材にもさまざまな種類があって、色や質感が異なります。バーチ材やブナ材のような明るい色の木材もありますし、デンマークのビンテージ家具でよくみかけるチーク材は落ち着いた色合でシックな印象を演出できます。どちらを取り入れるかで、雰囲気はまったく違ったものになります」

 

↑1960年代デンマーク製のチェア。赤みの強いローズウッドを使用している(資料写真)

 

「同じ素材でまとめると統一感が出ますが、それはなかなか難しい。我が家も同じ木材で統一しているわけではありません」と岩佐さん。しかし、岩佐さんのお部屋はナチュラルな統一感があります。その理由を伺うと「椅子とシェルフは同じバーチ材のものを選んでいます。一部だけでも揃えるとまとまりやすいですよ」とアドバイスをくれました。

 

温かさのある素材が“北欧スタイル”のポイント。ですが、アイテムのなかには、照明をはじめスチールやアルミなどの金属製のものも多く見受けられます。

 

「金属系の素材も一部に取り入れることでアクセントになります。ナチュラルな空間に、ポイントでモダンな照明があるのもすごく素敵ですよ。もちろん北欧デザインの照明には金属製だけじゃなく、木や紙、ファブリックでできたものもたくさんあります。例えばデンマークのレ・クリントというブランドの照明は、日本の折り紙に影響を受けて、紙製のシェードランプを生み出しました。現在は特殊プラスティックペーパーで作られていますが、美しいフォルムとあたたかな光は、世界中を魅了し続けています」

 

木造の家が多く、昔から障子や襖などで「温かみのある素材」を内装に取り入れてきた日本は、北欧との共通点が多いと岩佐さんは話します。

 

「日本も四季を大切にしたり、自然を大切にしたり。それに木の文化もある。だからシンパシーを感じる部分があります。似ているところが多いから日本人は“北欧スタイル”が好きなのかもしれませんね」

 

3.手頃な「アイテム」を使って、空間を演出

クッションカバーやブランケット、テーブルクロスなどのファブリックは、色や柄などのバリエーションがあるので「お気に入りの北欧デザインをひとつ取り入れるだけで、楽しさが広がる」と岩佐さん。

 

「自然素材のかごも、北欧らしさが出せるアイテムです。ブランケットを収納できるし、リビングにあると便利ですよ。カゴもいろんな種類があるので、自分の生活スタイルと用途に合わせて選ぶといいかもしれませんね」

 

「北欧では、出窓にお花や小物を飾ることが多いのだそうです。我が家は窓に奥行きがないので、フレームで窓辺を演出してみました。フラワーベースもおすすめのアイテムです。お花を飾ることも自然を大切にする“北欧らしさ”の要素ですから。フラワーベースでなくても、北欧デザインのピッチャーやグラスでもいいと思います。

また、リーズナブルに“北欧スタイル”を味わいたいなら、ポストカード1枚でも印象が変わります。このフレームは100円ショップで買ってきたもの。好きな色の台紙を入れてカードを飾るだけで、北欧を旅しているような気分になれます。お金をかけなくてもいいんです」

 

さらに、「コーナーを作ってテーブルライトを置いたり、キャンドルを使って小さい光をたくさん灯したり。さまざまな光を組み合わせると陰影によって室内に立体感が生まれ、ドラマチックな空間が作れますよ」と岩佐さん。

 

「ふと目に入るところに自分のお気に入りを飾ってみる」それだけで気分も変わります。今の生活にちょっとプラスできるのも“北欧スタイル”の魅力ですね。

 

「マリメッコ」のアイテムも、自分らしく取り入れる!

1951年に創業したフィンランドの「マリメッコ」は、“北欧スタイル”の代名詞的ともいえるテキスタイルブランド。定番シリーズの「Unikko(ウニッコ)」と呼ばれるフローラルパターンは、ポップで大胆な柄とビビットな色合いが印象的です。

 

「マリメッコは、北欧らしさがあふれていて、大胆で自由。お花のモチーフをデフォルメして幾何学模様に展開するなど自然を再解釈したデザインに個性を感じます。1つ取り入れるだけで華やかになりますね」

 


marimekko「Alku プレイスマット」4400円(税込)/「Kuusikossa ランチナプキン33X33」990円(税込)

 

今回は、気軽に取り入れられるランチョンマットとペーパーナプキンを使ったテーブルコーディネートを紹介していただきました。「みんなで集まったときにマリメッコの柄をプラスしていくと、それだけで一気に楽しい雰囲気になりますよ」。

 

マリメッコは、ブランドミッションとして「他の誰かの視線を気にして振る舞うのではなく、自分の人生を自分らしく生きてほしい」というメッセージを発信しています。岩佐さんのコーディネートも、マリメッコを使っていながら、シックで大人っぽい仕上がりに。岩佐さんらしさがにじみ出ています。

 

“北欧スタイル”の魅力は自分らしさを追求できること。自分が「素敵だな」と感じるものを取り入れて、自分だけの心地よさを見つけてくださいね。

 

【プロフィール】

インテリアスタイリスト/岩佐 知布由

インテリアスタイリスト。雑誌、広告、カタログなどのスチール撮影やCMなどのムービー撮影の現場でインテリアや雑貨、暮らしに関わること全般のスタイリングを担当。ショップのディスプレイや住宅の空間コーディネートなども手がけている。
https://www.chifuyuiwasa-interior-stylist.com