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2022/10/18 21:15

息子への癇癪に1億回目の自己嫌悪に陥り、妻の失態を心の底から嘲る映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第30回

 

結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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9月1日(木)

今日から新学期。案の定というのかやはり、息子は朝からグズグズ。「学校に行きたくない」の連呼。

 

その声を聞こえない振りをする。受け答えると、息子の脳調はどんどん悪化していき、「絶対に嫌だ!!!!」となってしまうのだ。とりあえず、息子の大好きな「プレデター」(監督:ジョン・マクティアナン)を見せて気持ちの安定を図る。

 

家を出る間際の時間まで見せて、「じゃ、行くか」とそれとなく言うと(いつも学校近くのコンビニまで送るのだ)「あー、ヤダヤダヤダヤダヤダ……」とゴロゴロと転がり始めたが、なんとか行った。

 

息子が学校に行くか行かないで仕事の捗りがぜんぜん違う、と書くと、私の一番大切なことは何なのかとふと思う。息子を学校に行かせて自分は仕事をすることなのか? どう考えてもそれは違うような気がするが……私はそうしている。とにかく私は視野が狭い。価値観も変えられない。

 

息子は今、YouTuberになりたいのだが、その夢をどう応援していいのか分からない。YouTuberになるための習い事とかもある。しかし、その夢はその場しのぎで言っているようにも思える(ゲームが好きだからゲームを作る人になりたい! と言うので夏休みにゲームプログラミング教室に通ったが、2か月で飽きた)。

 

そもそも何かになりたいときに、すぐにその習い事をさせようという考えがすでにダメなのかもしれない。でも、息子に居心地の良い居場所、同じ趣味(話の合う)友達ができれば、息子も私たち家族もグッと楽になるのは確かだ。

 

価値観と言えば、学生時代の同級生が教えてくれたのだが、「人はみんな無価値」らしい。宗教の考え方だったのか何かは忘れたが、そう考えると非常に楽になる。「人はみんな無価値」。素晴らしい。

 

9月3日(土)

朝7時からファミレスで仕事。

 

息子は保育園時代の友達の家に遊びに行ったので(妻がセッティングしたのだが)、午後から妻と映画を見に行く。「さかなのこ」(監督:沖田修一)鑑賞。息子も連れてくれば良かったと思った。ホラー映画好きだからもしかしたら退屈するかもしれないが……。息子にも「さかな」は見つかるだろうか。そして、さかなくんのお芝居というのか、存在感がとても良かった。

 

保育園時代のママ友が「良かったら泊めるよ」と言ってくれたので、息子は大喜びでお泊り。息子の特性を理解して、子ども同士が何度衝突しても息子を快くサポートしてくれるママ友さんには感謝しかない。そして私にはこういうコミュニティを作る能力はないから、妻にも感謝しかない。

 

時間がぽっかり空いたので、妻と私は飲みに行くことに。どうせならはじめての店に行こうと近所へ繰り出し、食べログ片手に昔から見かけてはいたが入りづらかった店に入店。

 

カウンターで60歳くらいの女性が1人で飲んでいた。途中、妻に電話が入り、妻が店を出ると、その60歳くらいの女性が、「あの人、愛人? 愛人でしょ?」としつこく話しかけてくる。私は初対面の人と話すことが大の苦手な上に、「違う」と何度言ってもなぜか異様にしつこいので、「バレました? 今、旦那と別れろって電話させてるんですよ」とまったく意味のないウソをついたら「悪いねえ」と言われた。妻が戻ってくる前に会計をして店を出たのだが、今度は1人でこの店に来てみようと、なぜか思った。

 

9月4日(日)

朝、友達宅から息子が帰宅。息子はお泊りが楽しかったようで、なかなか「普通の状態」に戻って来られない。9時半からレンタル先生が来るから勉強もイヤなのだろう。グダグダになりながらもなんとかレンタル先生をこなし、また友達の家に戻って行った。

 

夕方、妻が酒を片手に友達宅にお迎えに行く。妻がママ友と飲んで話していたら、長時間友達と一緒にいた息子は甘え&疲れ&ゲームやめなきゃからの癇癪兆候が出たので慌てて友達宅を出たところで、本格的な癇癪勃発。路上で泣き叫びはじめ、にっちもさっちも動かないとの連絡が入る。

 

執筆中ではあったが、迎えに行くと、息子はスーパーの2階の休憩所で、すでにひと暴れしたのか、すっきりとニタニタした顔でいて、その横のベンチに疲れ切った妻の姿があった。

 

「……どうした?」と息子に聞くとヘラッと「どうもしないよ!」と言う。その感じは最高に可愛いのだが、一緒にいた妻は大変だっただろう。とりあえず、妻を先に帰して、私は息子とアイスを食ってから帰った。

 

9月5日(月)

朝7時からファミレスで仕事。その後、池袋の「楊」で昼食。汁なし担々麺と普通の担々麺と水餃子と焼き餃子と炒飯。2人でならいけるかと思ったが、食い過ぎて死ぬかと思った。その後、文芸座に「人斬り」(監督:五社英雄)を見に行く。楽しみにしていた映画だったのに、食い過ぎで撃沈。妻は勝新の魅力にはまっていた。戻って来てまたファミレスで仕事。

 

 

※妻より

あれだけ食べれば映画は寝ると思ったが、案の定。というか、最近は食べなくても寝ているけど……。

「人斬り」のコピーに魅せられた。

 

9月11日(日)

朝7時からファミレスで仕事。

 

昼、入管から仮放免中のSさんが2階に引っ越してくるので立ち会う。2階といっても私のウチは総部屋数6部屋のビンボー学生が住むような小さなアパートで、我が家はその1階部分と2階の2部屋だ。2階の2部屋のうち1つが私と妻の仕事部屋で、もう1つを子どもの遊び部屋兼編集室としていた。Sさんはその編集室に越してきたのだ。なにぶん隣の私と妻の部屋とは薄い壁一枚隔てただけだから、もう大っぴらに夫婦ゲンカはできない。ボランティアの方々がかき集めておられた家具などで部屋はみるみる人が住む空間になった。

 

その後、シネマロサで「LOVE LIFE」(監督:深田晃司)鑑賞。子どもが死んでからの数日に少し違和感があったが、人はいろんなことを抱えながら生きている。悩みも喜びも1つじゃない。気持ちの良くなる映画だった。戻って来て家で仕事。

 

9月13日(火)

Sさんを誘って妻と3人で夕飯を食いに行く。近所の高級マンションのロビーのような空間にある食堂に行ってピザを食べたのだが、正直まずかった。Sさんは私たちに自分のピザをどんどんすすめてきたが、それはまずいからではなく、好意からだろう。

 

Sさんは仕事もできず、特別な事情(病気とか)がない限り東京からも出られないという規則があるから(「マイスモールランド」をご覧の方はお分かりだろう)、我々が少しでも暇つぶし要員になればとは思うが、今は私も妻もけっこう仕事がバタバタしているから暇つぶし要員も無理かもしれない……。

 

そんな状態のSさんと我々だから話すこともすぐに無くなる。日がな一日スマホを見ていらっしゃるらしい。もしや今晩のこの食事の時間は単に気をつかわせているだけかもしれないと思ったりもした……。

 

9月14日(水)

14時半から息子の療育のペアレントトレーニングがあるので、今日も7時からファミレスで仕事。その後にペアレントトレーニングへ。

 

到達点を低く設定して、多くを求めずできたことを肯定してほしいとのこと。そうしてるつもりなんだけどなあ。つもりだけなのか……。

 

褒めポイントを増やし、「朝『行ってきます』が言えた」「21時に布団に入れた」「自分からシャワーを浴びられた」「歯を磨けた」などできたことを褒めて、自己肯定感ポイントをゲットさせて欲しいと言われる。そうしてるつもりなんだけどなあ……。

 

夜、シナリオ講座時代の教え子が2人と若手ライター1人がウチに来る。彼らのなかなか食っていけないという現状を聞きつつ、なぜか羨ましい気持ちにもなる。

 

9月16日(金)

今週末、先日とはまた別の保育園ママ友さんが息子にお泊りどうぞ! と言ってくれたので、息子はまたまた大はしゃぎ。学校も元気よく行けた。柔術の習い事のあと、妻が息子を友人宅まで送る。

 

息子がいなかったので、妻と軽く飲みに行くも会話がまったくかみ合わず全然楽しくない。ただ、息子のママ友さんから夏の残りの花火を楽しんでいる様子や、部屋にテントを作ってキャンプごっこしている様子の写真が届き、目頭が熱くなる。家に戻って珍しく夜も仕事をした。

 

9月17日(土)

早朝から仕事をしていると、息子が10時くらいに早々帰宅。友人と絶交宣言のケンカをしたらしい。昨日あんなに楽しそうな写真だったのに……。

 

理由を聞いてもよく分からない。ひたすら「ケンカしたんだ! もうイヤだ!」と泣きじゃくるのみ。話が全然わからないので妻がママ友に確認すると、お互い言い分はあるだろうが、独自のこだわりがある息子がマイペースな行動を積み重ねた結果、ずっと我慢を重ねて耐えていた相手の子が最終的に爆発してしまった様子との事。だが、息子は友達がなぜ怒ったのかはまったく分かっていない。「ものすごく怒らせてしまった!」と言うことだけは頭に残っていて、結果「だから俺なんか死んだほうがマシだ」のループに陥る。こうなるとどんな声掛けも息子の耳に届かない。戻って来るのを待つしかない。それでも戻って来るまでの時間は以前よりもだいぶ短くなっている。本人が自覚していないので、この類のケンカはきっと繰り返すだろう。

 

ここ数年、息子を慎重に観察しているが、息子は不安感とこだわりが強く、独自のマイルールを頻発させるのだが、これがきっかけで友達から疎まれることが多い。この特性を受け入れてくれる優しい友達もいるのだが、その友達が我慢を重ねた結果、堪忍袋の緒が切れるというパターンも多いように感じる。

 

そして、息子はなぜ友達がキレたのか分かっていないのだが、怒らせたことで落ち込みはする。今日も落ち込んでいる感じだったので、仕事を切り上げて近所の映画館に息子が見たがっていた「ヘルドッグス」(監督:原田眞人)を一緒に見に行く。しかし、なかなかに話が複雑で、息子はおろか私すらあまり理解できず気分転換は難しかった。

 

9月19日(月・敬老の日)

今日も息子を映画に連れて行くので、朝7時からファミレスで仕事。午後から息子がずっと楽しみにしていた「シャーク 覚醒」(監督:チェ・ヨジュン)を見に行く。

 

新宿の映画館は久しぶりだったので、見通しの立たない息子がどうなるか多少心配だったが、無事行けた。鑑賞中、「あ、この人『イカゲーム』出てた!」と大きな声をあげる(→ウィ・ハジュンのこと)。息子は顔の認知能力が高い。映画を見ていると、この人〇〇に出ていた!とすぐ気づく。正直すげぇと思う。この特性を上手く生かせられないだろうか。

 

そう言えば以前、見当たり捜査官のドラマを作ったことがあるが(街中にたってひたすら人の顔を見て指名手配犯を見つける)、ああいうことをやれば、息子はガンガン見つけ出しそうな気がする。帰りにラーメンを食って帰宅。気に入った映画を見られて、息子は終始ご機嫌であった。

 

9月20日(火)

息子、学校を休むという。連休明けはこうなることが多いし、まぁ、いいやと思い休ませることに。こういうとき、息子を置いて私も妻も仕事に出てしまうこともあるが、ファミレスで原稿を書いていても何か気がかりで集中できないから、今日は家で仕事をすることにした。

 

息子はずっとマンガを読んでいる。休んだ日はゲームをさせないようにしていて、一応それは守っている。だが何もしていないのもなんだか時間の無駄のような気がして、一時は休んだ日は私の指定した作品という条件付きで映画を見せていた。指定しないと延々と同じ作品をループするからこちらの気が狂いそうになるのだ。

 

あと、何だかさもしい考えのような気がするのだが、良い映画を見れば、人生の何かのきっかけになるのでは? などとも思ったりした。しかし、やっぱり何かのきっかけにして欲しいとすすめるような映画選びはなんだかなぁという気がしてならない。まあそれはいいとして、休んだ日に映画を見せていると、暇もつぶれてどんどん学校に行かなくなるので見せるのをやめたのだ。すると今度はマンガを読み始めるが、マンガは途中で退屈になるのか、「……やっぱり行こうかなあ」と言い出すこともある。今日もずっとマンガを読んでいたが、結局昼前に学校へ行った。

 

遅れて学校に行くときは、保護者が同伴せねばならないのだが、昼前とか昼過ぎとか、ほとんど人通りのない微妙な時間を息子と一緒に学校に歩いていく時間がどういうわけか私は好きだ。きっと息子がポツポツと素直な気持ちを吐露するからだろう。聞いていて悲しくなるようなこともあるが、息子は普段なかなか自分の気持ちを話さないから聞ける時間がちょっと貴重なのだ。

 

学校に着くと、ちょうど授業と授業の間の休憩時間だった。遅れてきた息子に声をかけてくれる子もいれば、ちょっと冷たいことを言う子もいて、私も少しメンタルをやられるが、息子はその何倍もやられているのだろう。あのような場面を見ると、帰ってきたら思いっきり甘やかしてやろうと思うのに、帰ってくる時間になるとその気持ちも薄れていて、なかなかうまくできない。

 

息子を学校に送ったあとは、昼から営業している近所の銭湯に行き、サウナに入って気分転換した。気分は転換できたが、転換しただけで仕事やら何やらが捗るわけでもなく、あっと言う間に息子が帰ってくる時間になる。息子を習い事に送り、待っている間の1時間、近所の喫茶店で仕事。

 

夜は仕事仲間と「ラーメン会」。数か月に1度くらのペースだが、私とこみずとうたさんの家がわりと近所なので、とうたさんの行きつけのめちゃ美味しい居酒屋で飲んでから、近くのラーメン屋でラーメン食って帰るだけのシンプルな会。皆さん年代が近いので映画の話なんかも弾むし、私としてはものすごくストレス発散になる。

 

9月22日(木)

息子、朝から不調。今日はどうにもこうにも行けないとのこと。というのも明日からの3連休、息子は「こども映画教室」的なものに参加する。娘が中1のときに参加して楽しんでいた。

 

息子はとりあえず映画を見るのは好きだから、「作るのも楽しいよ。みんなで作るの、参加してみる?」と聞いたら、モジモジしているので、とりあえず申し込むだけ申し込んでおいたのだ。楽しめれば嬉しいし、私としては「共同作業」というものに少しでも親しみを覚えて欲しいと思った。

 

その映画教室が明日から始まるということで、息子は緊張して学校を休みたいと言い出したのだ。だからまあ、今日は休ませた。

 

見通しの立てられないはじめての場所に連れて行くのは大変なのだが、私は明日から岡山に行かねばならない。なので明日の午前中は少しでも仕事をしたい。だが、妻からすれば東京駅に行く途中に私が息子を映画教室に連れていってくれてもいいじゃないかと。岡山では仕事もままならないから、その日だけは無理だという私と、「自分のことしか考えられないお前に心底がっかりした」という妻とで数日前から悶着もしている。

 

とりあえず、息子はマンガを読ませていればまた行くと言い出すかと思ったが、今日は言い出さない感じだったので、じゃあもう映画見ていいよと言ったら「スター・ウォーズ」を見始めた。何かのゲームでダース・ベイダーのスキンというのかなんというのかよく知らないが、とにかくダースベイダーにはまっていて、それで「スター・ウォーズ」を見るとのこと。楽しんで見ていたのはいいが、私も思わず「帝国の逆襲」は見てしまい仕事進まず。

 

新作映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」が東京国際映画祭で上映されることが発表された。7人の子どもたちとレッドカーペットを歩く予定だ。彼らにわずかながら恩返しができた。上映は10月26日ですので良かったら見に来てください。10月15日からチケット発売です。

 

※妻より

3日間の映画教室でしたが、夫に頼んだのは『初日の送り』のみでした。それも「東京駅に行くんだから、恵比寿で途中下車して送って」だけの頼みだったのですが(その他の送迎と、全3日間弁当含め全ての家事育児をワンオペでするんだから1回くらい送ってくれてもと思い)、それに対し夫は……。

「仕事をさせて下さい!」ですって……。

は? なんだそりゃ。いつもファミレスで仕事してるんだから、東京駅付近の喫茶店でも新幹線内でも岡山のホテルでもいつでもどこでも仕事はできるはずなのに、決まったファミレスでないとできないとのたまう。朝1回息子を送るだけのこともできないのか? 私が夫に頼むことなんて私がやっていることの1万分の1なのに……。と。久しぶりにがっかりしました。

でも、「雑魚どもよ、大志を抱け!」は是非観に来てください! どうしてこの男からこんなにも爽やかな映画ができるのか!? と思うくらいに爽やかな映画です。

9月23日(金・秋分の日)

今日から映画教室の息子は朝からすこぶる調子が悪い。その息子を連れて行かねばならない妻もすこぶる不機嫌だ。

 

私はそんな2人を見ないように、7時には家を出てファミレスで仕事。妻に大変な状況の息子をワンオペさせるのだから、今日は仕事を捗らせねば罰があたる。

 

新幹線まで短時間ではあるが、異様な集中力を発揮し仕事は捗った。昼過ぎの新幹線に乗る。息子は行きの電車ですでに大暴れとのこと。

 

岡山では「全国映連 第49回映画大学 in 岡山」に参加する。明日の朝からなので今日から岡山入りしたのだ。両親が来ていたので、一緒に夕飯を食べつつ、50歳になっても説教を浴びる。息子は映画教室に行くまでは大変だったが、行けば楽しんでいたようだとのこと。ちょっとホッとした。

 

 

9月24日(土)

朝10時から、イベントでいろいろとお話させていただく。私は話すことが苦手なので、進行はすべて司会の方にお任せした。司会の方とは別に、呼び込みの紹介をしてくださった方が、何度も「今日はお父様とお母さまもお見えになっていますからね。晴れ姿ですね!」とおっしゃるのでかなり恥ずかしかった。

 

トークイベントは2時間ほどしゃべるのだが、けっこうウケていたので良かった。とても話しやすかったのだが、その要因はなんとすごい偶然で、司会の女性の方が、私の小中高の先輩だったのである。面識はなかったのだが、その方もその偶然にかなり驚いていらっしゃった。当たり前か。

 

事前打ち合わせでそのことが発覚したのだが、実家も隣町だったりしたので、地元ネタでたくさん話せてグッと打ち解けることができたのだ。いやー、それにしてもこんなことがあるのだなあ。

 

イベントはとても楽しいものとなったが、私はその日のうちに帰京せねばならない。映画教室の初日を妻に任せたのだから、2日目の迎えは私が行く約束をしていた。だが、台風で新幹線が動いていない。この時点で迎えは間に合わないことが確定したが、数時間後に動き出すとのことで、動き出した最初の新幹線に飛び乗った。

 

夜に息子と合流。妻と娘は祖父母宅に行くため、今晩は私と息子の2人だ。息子は映画教室2日目の今日、映画に出演するしないで揉め事があったらしく(息子は絶対に出演だけはイヤだと参加前から言っていたのだが、なんとかなるだろうと思っていた。結果、出たくないという息子が激しい拒絶(これがこだわり)をして場の空気を壊したのだろうと推察する)、明日は絶対に行かないと息巻いている。

 

こりゃ明日の朝は苦労するだろうなと思いながら、説得するも「ぜーったいに! いーかーない!」と腹立つ言い方の息子に、ああやっちまったバカ父親の癇癪。「いけー!!!!」。

 

息子は泣いて耳をふさいで寝た。そして私は人生1億回目の自己嫌悪の夜。

 

 

9月25日(日)

息子朝から、すこぶる調子が悪い。私は昨日の態度を反省(なのだろうか?)して、いろんなもので釣って説き伏せて(どう考えても反省ではないな……)どうにか映画教室に連れて行った。3日間やり通せば小さな成功体験になるかなと思ったから途中退場だけはさせたくなかった。

 

私は夕方からオンライン会議があったので、お迎えは妻に任せる。息子は今日の最終日、あまり参加できなかったらしい(子どもの引き渡しの時に、妻がスタッフさんから聞いたとのこと)。どうしていたのか想像すると、胸と頭が痛くなるので想像するのをやめた。まあ仕方ない。3日間行けただけで良しだ。きっとほとぼりが冷めれば、映画教室でなくても何かに行くと言ってくるだろうと期待して……。撮影は面白かったようだし。多分だけど(息子は頑なに話さないのでスタッフさんの話を聞き、そう想像した)。Facebookに公開されていた写真を見たら、集合写真で息子だけ帽子で顔を隠していた……。

 

9月28日(水)

昨日から大阪で仕事。熱量の激しい現場に立ち会うこととなり、クタクタに疲れた2日間だった。

 

そして今日は、『それでも俺は、妻としたい』の文庫本が発売された。9月1日の日記に「人はみな無価値」と友人から聞いたことを書いたが、これこそ無価値な人間の最高峰近くに位置する人間を描いた話だろうと自負する。なにしろ主人公は少しばかりの家事育児と多くのオナニーと嫉妬くらいしかしていない。つまり私のことだが、単行本が発売されたときにエゴサーチしながら感想を貪るように読んでいたら「得るものなし!」という意見がとても多かった。何かを得るために読書をするのはとても良いことだとは思うが、だとしたらこのタイトルの小説から何を得ようとしたのか。

 

小説も何冊か書く機会をもらったが、この作品は私の作品では唯一重版がかかった。文庫本も是非重版がかかってほしいと思い、大阪から帰る新幹線の中でSNSを駆使して宣伝活動した。

 

疲れて帰宅すると、娘は入れ替わりに京都・奈良に修学旅行に行っていた。コロナで中1中2と宿泊系の学校イベントがすべて中止となり、今回の修学旅行をすごく楽しみにしていたから、行けて良かった。

 

9月30日(金)

早朝から仕事。昼過ぎに近所の銭湯のサウナに行く。その後、自宅で打ち合わせ。打ち合わせをしていると、娘が修学旅行から帰宅。旅行はとても楽しかったようで、こちらも嬉しい。

 

娘がお土産を出すと、妻が「持って帰って、持って帰って!」と箱ごと打ち合わせに来ていた人にあげてしまい、その人が帰ると娘がじわりと涙ぐむ。家族にも食べてほしかったと。

 

私はここぞとばかりに「せっかく買って来たんだから、家族にも食べさせたいでしょう。どうしてそういう気持ちが分からないかなあ」と言ってやった。勝てるケンカはふっかけるのが私の流儀かもしれない。

 

私のその言葉に、妻は舌打ちというにはあまりに大きな音の舌打ちをして、今しがたお土産を渡した相手に電話して、お土産を返してもらうというカッコ悪い事態に。私は心の中で「いっひっひっー!」。その後、妻は当然、筆舌に尽くしがたい不機嫌になった。

 

※妻より

なんでこんな書き方になるのでしょう。打ち合せした方がお菓子を大量にくれたので、それを娘に伝えたら「私も京都のお土産あるからどうぞ!」と小箱をくれたので、それを渡したまでです。8000円渡していたので他にお土産があるのだろうなと思いましたし、まさか『中の個装のお饅頭2、3粒を先方に渡す』と言う意味とは思いませんでした。箱ごと渡した私も悪いですが、↑の書き方には悪意を感じます。

心底、性根悪いなーと再確認しました。

今月は改めてがっかりすることが多かったです。忙しいとはいえ。お互い言い分はありますが、子どもも大きくなっているし、共に家庭を築いていくパートナーに対しこういう感情が積もり続けると良くないんでしょうね……。毒素排出しないと……。

 

※夫より

どう考えても箱ごと渡すほうがどうかしている。

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、新作の準備中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。