都市生活者の最適解になるか。ヤマハ125ccスクーター「Fazzio」開発の意図を探る

ink_pen 2026/3/12
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都市生活者の最適解になるか。ヤマハ125ccスクーター「Fazzio」開発の意図を探る
鈴木博之
すずきひろゆき
鈴木博之

フリーランスエディター/ライター。これまでさまざまなジャンルの雑誌編集に携わり独立。現在はモビリティやガジェット、ライフスタイル分野を中心に雑誌・Web媒体で取材・執筆を行う。メーカー発表会や現地取材をもとに、プロダクトの背景や開発ストーリーを掘り下げた記事を得意とする。

いま、国内の二輪市場では劇的な地殻変動が起きています。長年、都市のコミューターバイクとして君臨してきた50cc以下の「原付一種」に対し、51〜125ccの「原付二種」の出荷台数が2023年についに逆転しました。

そんななか、2025年3月9日にヤマハ発動機が東京原宿で開催した新車発表会で披露したのは、同社6車種目となる125ccスクーター「Fazzio(ファツィオ)」。盤石と思われたヤマハの125ccラインアップに、なぜ今、新たなモデルが必要だったのか。現場で語られた開発の意図と、その特徴を紐解いていきます。

価値観を大切にする層へのアプローチとしてFazzioを投入

現在、日本の原付二種市場は年間約10万台強の規模で推移しており、ヤマハはその中で約18.5%(約19,000台強)のシェアを占めています。すでにプレミアム路線の「NMAX」や、機動性に優れた「シグナス グリファス」など5車種を展開していますが、商品企画担当の磯崎祐多氏は「そこにはまだアプローチできていない領域があった」といいます。

それは、バイクを単なる「移動の道具」としてではなく、自分のライフスタイルを彩る「ファッションの一部」として捉える層への訴求です。既存のラインアップがスペックや実用性に重きを置いていたのに対し、新型Fazzioは、20代後半から30代前半の「自分の価値観を大切にする層」に照準を合わせています。

ターゲットは特定の都市に限定せず、首都圏や地方の人口集中地区など、日常的に短距離移動を繰り返すユーザーを想定しています。「軽くシンプルなデザインながら、日常使いで乗りやすいこと」。このコンセプトこそが、ヤマハが描く125cc戦略の第6のピースなのです。

オーバルを配したデザインは独特で洗練された雰囲気

Fazzioという車名は、「Fashion(ファッション)」とイタリア語でシンプルを意味する「Liscio(ラシオ)」を組み合わせた造語です。この名前が示すとおり、デザイン企画担当の久保田葉子氏が掲げたコンセプトは「“Hello, Simple”」です。

会場で実機を目の当たりにしてもっとも印象的だったのは、車体に配された「オーバル(楕円)」のモチーフ。ヘッドライトやメーターパネル、サイドカバーの形状に至るまで、徹底してオーバル形状が繰り返されています。

久保田氏は「どこから見てもアイコンが目に入るように設計し、一目でFazzioだとわかる個性を追求した」と語ります。この造形は、レトロモダンでありながら古さを感じさせない、独特の洗練された雰囲気を醸し出していました。

さらに、機能性と美しさを両立させるため「センターコアストラクチャー」という設計思想が導入されています。これは、ヘッドライト、メーター、操作ボタン、さらには燃料キャップや前後のカラビナフックといった機能パーツを、車体の中心ラインに沿って直線的に配置する手法です。

上から車両を見下ろすと、それらのパーツが整然と並び、視覚的なノイズが排除されていることがわかります。

↑センターコアストラクチャーの設計思想と、オーバル形状のメーターや灯火類を採用。

また、自分らしくカスタムできるアクセサリーパーツも豊富に用意されていました。象徴的な「ヘッドライトリングカバー」をはじめ、「リアキャリア」や「ヘルメットホルダー」、さらに足つき性を高める「ローダウンシート」など、スタイルと実用性を両立させるカスタマイズが可能です。シンプルさを極めつつ、ユーザーが自分専用へと仕立てる余白が残されている点は、ヤマハらしい緻密なこだわりが感じられるポイントといえます。

↑簡単に着せ替えができるカスタマイズパーツも用意され、自分らしさを楽しめる。

ヤマハが国内で初採用した「パワーアシスト機能」がもたらす走りの余裕

メカニズムにおける最大のトピックは、ヤマハの国内モデルとして初採用となる「パワーアシスト機能」の搭載でしょう。

プロジェクトリーダーの渡邊将行氏は、その技術的背景を「既存のスマートモータージェネレーター(SMG)システムをさらに強化し、活用範囲を広げたもの」と説明しています。SMGは、発電機と始動用モーターを一体化することで、静粛なエンジン始動を実現するシステムですが、Fazzioではこれを走行の補助にも利用しています。

具体的には、発進時にアクセルを操作すると、最大約3秒間にわたり、モーターがエンジンの駆動を強力にバックアップ。これにより、信号待ちからの出だしや二人乗り、あるいは急な坂道発進の際でも、125ccとは思えないスムーズで力強い加速を体験できるといいます。

↑パネルのふたを開ければUSB Type-A端子のソケットが装備され、センターにはカラビナがあり荷物を引っ掛けることができる。

特筆すべきは、これだけの先進機能を盛り込みながら、車両重量をわずか97kgに抑え込んでいる点です。ASEAN市場での先行モデルをベースにしつつも、日本仕様としてシート下トランクを19.1リットルに拡大し、ジェットヘルメットが入るサイズまで拡張。100kgを切る軽さは、都市部の狭い駐輪場や押し歩きの際、あらゆるライダーにとって最大の武器となるはずです。

↑ジェットヘルメットであればシート下に収納可能。また、シート先端部にはフックが2個あるため、フックにヘルメットやバッグなどを引っ掛けることもできる。

イラストレーターutu氏が描く、バイクと日常の新しい関係

発表会には、静岡県出身の人気イラストレーター・utu氏も登壇。ヤマハとのコラボレーションにより制作されたのは、Fazzioのある日常を切り取った9人のキャラクター、合計9枚の描き下ろしイラストです。

↑9人のキャラクターと9種類のFazzioのイラストを制作。

utu氏は制作を振り返り、「車体にオーバルのモチーフが散りばめられていて、第一印象で丸くて可愛らしいバイクだと感じた」とコメント。Fazzioが展開する全4色のカラーバリエーションごとに、「どんな場所で、どんなキャラクターが走っていそうか」をヤマハの担当者と共に想像を膨らませて描いたといいます。

↑Fazzioのカラーバリエーションは全4色だが、会場では3色のモデルを展示。

公開されたイラストの中には、バイクが主役として主張しすぎるのではなく、あくまで人物や街並みの背景として自然に溶け込んでいるものもありました。utu氏が「バイクも主張しつつ、背景と人物がうまく合うバランスを意識した」と語るとおり、そこには「ファッションの一部」としてバイクを乗りこなす新しい時代の空気感が表現されていました。

会場ではutu氏プロデュースのスペシャルカラーモデルもお披露目され、オーバルのアイコンをキャンバスに見立てたような、非常にアーティスティックな仕上がりでした。バイクを自分らしくカスタマイズし、日常を彩る楽しさを提案するFazzioのコンセプトを象徴する光景といえます。

↑9人のキャラクターが描かれたイラスト、プロデュースしたスペシャルカラーモデルと、ヘルメットを持つutu氏。

現代の都市生活者が求める最適解として市場をさらに盛り上げる

ヤマハの125ccスクーターが6車種そろったことで、ユーザーの選択肢は劇的に広がりました。移動の道具としての「機能」を追求する時代から、自分の感性にフィットする「体験」を選ぶ時代を感じさせます。97kgの軽量ボディに最新のパワーアシスト機能を備えたFazzioは、まさに現代の都市生活者が求める「ちょうど良くて、ちょっと新しい」最適解となるに違いありません。

メーカー希望小売価格368,500円(税込)という設定は、インドネシア製造ということもあって強気に見えますが、スマホの通知を車両メーターに表示するなどが可能なスマホ連携機能「Y-Connect」や、国内初のパワーアシスト機能を考慮すれば極めて戦略的です。特に、スマホアプリを通じて燃費管理やオイル交換時期を把握できる利便性は、デジタルネイティブな層にとって大きな魅力となるでしょう。

移動を、もっと自分らしく、もっとスマートに。Fazzioが4月24日の発売以降、日本の街並みをどう彩っていくのか。年間6,500台の販売計画を掲げるこのモデルの登場は、125cc市場をさらにおもしろくしてくれるに違いありません。

スペック
・全長×全幅×全高:1,820×685×1,125mm
・車両重量:97kg
・最高出力:6.1kW(8.3PS)/6,750r/min
・最大トルク:9.8Nm/5,000r/min
・WLTCモード燃費:56.4km/L(クラス1) 1名乗車時

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