7月9日、NTT西日本、朝日放送グループホールディングス、朝日新聞社、電通、日宣といったマスコミ界の名だたる企業グループが、「AIカメラを活用したスポーツ映像配信事業に関する共同実証実験」の開始のプレスリリースを発信した。
「AIカメラを活用したスポーツ映像配信」とは、AIを用いてスポーツの自動中継を実現するカメラシステム、「Pixellot」(ピクセロット)を使い、無人撮影によるスポーツ中継の実験をしようというものだ。まずはこちらの動画を見ていただこう。尺が長いが、全部見る必要はない。
まったく不自然さが感じられないバスケットボールの試合の映像。カメラワークも滑らかだ。この動画こそ、無人撮影によって、しかもたった1台のカメラシステムによって撮影され、自動で編集された映像だ。それを可能にしたのが、イスラエルのスタートアップ企業ピクセロット社(Pixellot Ltd.)が開発した「Pixellot」(下写真)である。
なぜこんな形のカメラで自動撮影ができるのか。円筒形の筐体には少しずつ角度を変えて備え付けられた4つのレンズが見える。この4つのレンズがフィールド全体をカバーして撮影する。そして「Pixellot」は、4つのレンズによって撮影された映像をつなぎ、8Kのパノラマ映像を生成。作られた映像はすぐにサーバーに送られ、今度はAIがこのパノラマ映像から必要な部分を判断して切り出して拡大し、スムーズな“中継映像”が作り出される。
つまり、カメラが動いているのではなく、高精細なパノラマ映像を、AIがあたかもカメラでシーンを追っているかのような形で取り出し、編集しているというわけだ(オートプロダクションモード)。「Pixellot」のAIは、競技ごとに設定された高度なビデオ解析アルゴリズムによって、ボールの動きやボールを持っている選手の動きを学習。シーンに合わせた最適なカメラワークを作り出している。
「Pixellot」は現在、サッカー、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、バレーボールなど、12競技の撮影に対応しているという。なにしろカメラを設置するだけで撮影・編集・収録から配信までできてしまうのだから、映像の製作コストは大幅にダウン。すでに海外では多くの実績を積み重ねており、従来では考えられなかった多数の試合の中継が可能となったことは間違いない。
「Pixellot」のAIもどんどん進化しており、試合の見どころを自動で抽出し、ハイライトを作成するところから始まり、さらには上記の動画のように、ブレイクポイントを検知し、自動でCMを挿入することもできるという。特定の選手だけを追うという「●●カメラ」的映像も可能だ。恐るべしAIの時代というべきか。
もちろん、これだけの高度な処理を高速度でこなすには、ハイスペックなインターネット環境が不可欠になる。一方でテレビ一辺倒だったスポーツ視聴スタイルも多様化しており、冒頭で述べたプレスリリースも、5Gの時代をにらんでのものだ。
『5G時代の到来で動画視聴環境がさらに進展する中、観戦スタイルに合ったスポーツ映像コンテンツを供給するために、アマチュアスポーツの試合に着目しました。各社の強みを生かし、新たな配信ビジネスの創出につなげていくため、AIカメラを活用したスポーツ映像配信事業の事業としての可能性を検証していくことにしました』
(PR TIMES「AIカメラを活用したスポーツ映像配信事業の実証実験について」より)
一部にニーズはありながら、コストの問題で映像配信されていないアマチュアスポーツといえば、ユース世代や大学などの全国大会やリーグ戦が思い浮かぶ。スポーツ中継が、テクノロジーの力でどう変化していくのか。今後も注目していきたい。