スポーツ
2021/7/3 11:00

元ソフトボール日本代表監督・宇津木妙子さんが語る、オリンピック・教育・日本のこれから

不透明な状況のなかで開催が迫る東京オリンピック。シドニー、アテネオリンピックで日本代表監督として、カリスマ的な指導力が注目を浴びた宇津木妙子さん。東京オリンピックの開催についてや注目している代表選手、さらには、今後の日本におけるスポーツの指導・教育について熱く語ってもらった。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田衛)

 

宇津木妙子(うつぎ・たえこ)1953年埼玉県生まれ。川島中学校1年時からソフトボールを始める。星野女子高等学校を経てリーグ1部のユニチカ垂井に所属し、1974年世界選手権出場。1997年に日本代表監督に就任、2000年シドニー五輪銀メダル。2004年アテネ五輪銅メダル

 

反対派の方も思わず応援してしまうくらいの試合を

──まずは目前に迫った東京オリンピックについてお伺いします。ソフトボールは3大会ぶりに正式種目となりますが、新型コロナの感染が収まり切っていない中、世論は延期や開催中止を求める声も大きく、決して手放しで歓迎されているとは言えません。

 

宇津木 現場の選手としては、万全の状態で準備して本番に備えること。それしかできませんよ。そうするべきですしね。雑音に耳を傾けることなく、目標に向けて集中してほしい。ただし、いろんな意見があるのも当然だと思う。医療従事者の立場もあるし、実際に感染した人の立場もあるし、政府や組織委員会やIOCの立場もあるでしょう。もちろん一般の方の立場もある。それぞれの立場に、それぞれの言い分がありますから。

今はとりあえず開催する方向で進んでいますよね。その前提で話をすると、やるんだったら様々なケースのシミュレーションをしないとマズい。観客を入れるとして、観客から陽性反応が出たらどうフォローするのか? 競技者から陽性反応が出たら? その選手や所属チームは即棄権で、対戦相手は不戦勝になるのか? それとも競技自体を中止にするのか? どんなことが起こってもおかしくないんだから、いろんなケースを想定して運営してほしいですよね。

 

──たしかにそのあたりの議論は十分にされてはいません。

 

宇津木 選手は負けたからといって、コロナのせいにはできないんです。私が代表監督を務めた2004年・アテナオリンピックのときも、SARSの問題とかがいろいろあって結果的にうまく調整できなかった。2000年・シドニーオリンピックのときは事前合宿に何度も行ったけど、アテナのときは1回も行けなかったですし。でも、それを言い訳にすることはできない。だって日本だけじゃなくて、世界中の選手が同じような条件の中で戦っているわけですから。今回、日本は諸外国に比べて事前合宿などがやりやすいし、地の利を活かして戦えるという見方もあるかもしれません。ただ、そんな単純な話ではないと思うんですよね。日本チームだって、いろんな制限の中で調整している部分もあるのだから。

本音を言えば選手だって感染するのは怖いですよ。ワクチンを打ちたくないと思っている選手もいるかもしれない。でも「コロナが怖いから棄権します」と選手の立場からは言えないですって。もちろん開催反対派の意見もわかります。私自身も揺れている部分はありますし。ただ、「開催する」となった以上はコンディションを最高の状態にして臨むのが選手としての務めだと思う。じゃないと、一流とは言えません。やるからには反対派の方も思わず応援してしまうくらいの試合をしないといけない。それがスポーツが人々に与えるパワーというものでしょう。

 

──なるほど。現場の声としてはベストを尽くすしかないと。

 

宇津木 そもそも今回は「福島の復興五輪」ということでスタートしたはず。みんな、そのことをすっかり忘れていますけどね(苦笑)。3・11の東日本大震災から10年が経ちましたが、いまだに苦しんでいる人たちはたくさんいる。「もうすでに復興しました」とは口が裂けても言えない状況ですよ。そういう中、日本でオリンピックを開催されることになり、日本ではソフトボールや野球が盛んなこともあって3大会ぶりに追加種目となった。しかしながら一方で次のパリ大会では正式種目から外されているわけだから、ここでソフトボールという競技の魅力を伝えなくてはいけない。……こうしたもろもろのことを選手がどう考えているのか、ということですよ。だから私は日本代表の合宿初日に、これまでのソフトボールの歴史も含めて選手に伝えようと思ったんです。「あなたたちが戦う意味は何なのか?」ということですよね。

 

──下手したら、ソフトボールが二度と五輪種目にならない可能性もありますからね。

 

宇津木 本当にその通りです。私が現役のころはソフトボールでオリンピック出場なんて考えられなかったし、1996年のアトランタ五輪で初めて正式種目になってからは、なおさら「ソフトボールをメジャーにしたい」「この競技が市民権を獲得できるくらいまで認められたい」という想いが強くなっていきました。

ソフトボールというのは人生ですからね。こんなに素晴らしいスポーツはないと思う。チーム競技だから、個人だけでは勝てない。でも、チームだけでも勝てない。周りのサポートや環境があり初めてそのチームは勝てるわけだけど、それでも最後に求められるのは個人の力だったりする。苦しいときには周囲が助けてくれるけど、結局は自分が頑張るしかないですから。ソフトボールを通じて相手の気持ちも想像できるようになるし、競技を離れたとしても人間的に大きく成長させてくれるのは間違いないです。

 

日本人は変わっていかざるをえない

──宇津木さんは熱血指導で有名ですが、近年はスポーツの世界でも根性論が否定されるようになってきました。

 

宇津木 今は体罰が絶対ダメということになっているじゃないですか。それは時代の流れだから当然だと思う。ただ、指導する立場としてはビシッと言わなくちゃいけない局面も出てきますよね。その場合、やみくもに叱るのではなく、その子の適性や特徴を見抜かなければいけないんです。だってチームが15人いるとして、それぞれ育った家庭環境も物事の捉え方も違うわけじゃないですか。そうなると中には自分で考えて自分で行動できる子もいるでしょう。一方、教えられないと何もできない子だっている。だから全員を同じようには扱えないです。1人ずつきめ細かく向き合っていくしかない。

 

──そのへんは世間から誤解もあると思うんです。「宇津木妙子=スパルタ」というイメージが浸透していますけど、実際は相当こまやかな指導をされていますよね。

 

宇津木 いまだにテレビの取材が来ると、スタッフさんから「もっと鬼軍曹みたいな人かと思っていました」とか言われるんです。「いやいや、鬼軍曹も何も、そんなのあなたたちメディアが作り上げたイメージでしょ」って私からすると言いたいんだけど(笑)。もっとも当時はそんなふうに言われたところで気にもしていませんでしたね。実際、グランドに立ってバットを持てば鬼にだってなるし、甘い考えで勝てるような世界じゃない。「グラウンドでは笑うな。歯も見せるな」みたいなルールも作りましたし、スパルタというのは間違いではないんです。本当はそのうえで一人ひとり個別に指導法を変えていたんだけど、そのへんはなかなか伝わりづらいですよね。

今は完全に「スパルタ=悪」とされている時代じゃないですか。だから(宇津木)麗華には言われるんです。「監督、昔を掘り返されて言われることもあるので気をつけてね」って。むしろ選手のほうが私のことを心配してくれる(笑)。「私たちは監督の真意をわかっているからいいけど、世間は……」って。

 

──体罰は論外だとしても、厳しい指導ができないというのは教えるほうも教わるほうも難しいですよね。これも時代の変化なのかもしれませんが。

 

宇津木 だから、これからの日本人は変わっていかざるをえないと私は思う。小さいころから自立させないといけない。ある意味、今までより厳しい時代になりますよ。それは海外に目を向ければわかるんじゃないかな。たとえばアメリカの子どもたちと日本の子どもたちで何が違うか? 日本の選手たちは合宿でもなんでも周りがすべてお膳立てしてくれるんです。移動する際のチケット、ホテルの予約、食事の段取り……。すべて整っているのが当たり前の世界。でも、アメリカではそうもいかないですよ。小さいときから自分たちで用意しなくてはいけない。一事が万事、そんな調子なんです。

だからソフトボールの日本人選手を見ていると、その競技ではトッププレイヤーですが社会性に乏しいなと感じる部分も多い。ルネサス高崎の監督をやっていたとき、お父さんの仕事の関係で5歳のときからアメリカで育ったという選手が入社しました。まぁ、とにかく自由奔放な子でしたね。彼女は「管理なんてされなくても、全部自分でできる」と主張するんです。「なんで日本の選手は一から十まで管理されているの?」って不思議そうな様子で。今考えても、すごく自立している子でした。これはもう環境ですよ。ソフトボールとかスポーツとか以前に教育の問題。幼いころから本人の自主性を重んじるという文化。だから自分の頭で考える能力がアメリカの選手は非常に高いんです。子どものころからプロ意識みたいなものがありますしね。

 

──管理による教育が否定されている以上、日本人も幼少期から自分で考えることを習慣づけなくてはいけないというわけですか。

 

宇津木 そう。こうなるともう家庭の問題と環境作りです。親も自立しなくてはいけないんですよ。意識を変えないとダメ。「褒めて伸ばす教育」は大いに結構だけど、きめ細かく子どもに目を向けながら「そこは違うよね」ということもきちんと伝える必要がある。他ならぬ私自身もそのことは痛感しているんです。小さな子どもたちに教えながら、「これは指導者が変わらないとダメだな」って。

以前ソフトボール教室中にこういうことがあったんです。ノックをしていたら初めて練習に参加した子がなかなかボールをキャッチできなくて、「もう1本!」「もう1本!」と続けていたんですね。ところが、その子のお母さんが言うんです。「恥ずかしいから、もうやめてくれませんか?」って。それでも続けたら最終的にその子は10本目くらいでキャッチできて、「すごいね。他の子は1回で取れたかもそれないけど、君が一番練習できたということなんだよ」と伝えて特別に私のオリジナルのキーホルダーをあげたんです。他の子は「いいな~」とうらやましがっていましたけどね。でも、ノックを受けた子供にとっては頑張ったという自信になります。その前の段階で親が「恥ずかしい」とか言って躊躇していたら、子どもだって成長できないですよ。

 

──運動会で順位をつけないようなゆとり教育の弊害も指摘されます。

 

宇津木 教育現場で競争を避けたところで社会に出たら競争は避けられないんだから、かえって苦労する面もあるんじゃないですかね。私は教え子たちに言うんです。「ときにはズルをしてでも要領よく勝て」って。「いかに最短距離で進むか?」「いかに相手を欺くか?」といったことを自分で考えないと勝負事には勝てないですよ。ズルというのは少し語弊があるかもだけど、そもそもスポーツというのは矛盾をはらんだものであって、純粋なスポーツマンシップやフェアプレーだけでは勝てないわけです。でも、その矛盾というのは私たちが生きている社会すべてに存在するものじゃないですか。決して綺麗事だけで社会は成立していないので。私なんて日本代表監督を務めたときはこれでもかというくらい世の中からバッシングを浴びたけど、それでも強く生きていくしかないんです。

 

──飴と鞭の使い分けが難しいですね。

 

宇津木 選手に何かを教えてようとしたら、プレーだけ見ていてもダメなんですよ。性格はもちろんのこと、育った環境や私生活や仕事にも目を配らなくてはいけない。私は選手にノートをつけて提出するように言っていたんです。そのノートには自分の親に関する悩みや人間関係での不安も書かれていました。でも真剣にその選手のことを考えようとしたら、そういう部分とも向き合っていく必要もあるんです。

そうやって24時間ずっと選手のことばかり考えていると、正直、非常に疲れますよ。「さすがに今日は叱りすぎたかな」と反省することもあって、そっと寮の部屋を覗きに行くと、その選手は大の字になってイビキをかきながら寝ていたり(笑)。こっちはウジウジ悩んでいたけど、選手は意外と気にしていないんだなと救われた気持ちになることもありました。本人は「監督、気にしすぎじゃないですか?」ってケロっとしていましたけどね。まぁでも私は選手に助けられましたよ。プレーに関していうと、選手たちは私の現役時代なんかよりも全然上ですし。

 

──宇津木さんは、しばしば「私はエリートではない」と発言しています。だからこそ伝えられることもありますか?

 

宇津木 すごくありました。自分が補欠だったから、選ばれない選手の気持ちがわかるんですよ。叱られる選手の気持ちもわかる。逆に上野(由岐子)とか麗華みたいに最初からポテンシャルの高い選手には、「すごいよなぁ」という気持ちで接していました。とはいえチームスポーツだから上野だけでは勝てないわけで、やっぱり全体のルールは守ってもらう必要がある。麗華にしたって、中国から来てもらっても特別扱いはしないと最初から伝えていました。

エリートじゃない私が心掛けていたことは、「指導者も勉強しなくてはいけない」ということでした。技術のこともそうだし、戦術にしてもそう。偉そうにふんぞり返って教えるなんて自分のやり方ではないので。絶えずビデオを見たり、あるいは選手にも「どう思う?」と尋ねたりしつつ、ベストな道を探し求めていたんですよね。キャッチングのやり方ひとつ取っても「基本はこう」という形があるわけです。それは全員に伝えるけど、中にはそうじゃない自分なりの捕り方、投げ方のほうがうまくプレーできるという選手もいる。そこは杓子定規に矯正するのではなく、その選手に合わせて指導しないといけないんです。

 

オリンピックの後悔と、今回の注目選手

──「オリンピックには魔物が棲む」と言われます。宇津木さんも日本代表監督として、普段では考えられない「まさか」というミスをしたとか。

 

宇津木 シドニーの決勝・アメリカ戦は、私のせいで負けたようなものです。ピッチャーを交代すべきタイミングで、それができなかったんですよ。なぜできなかったのかを口で説明するのは難しいんだけど……結局、場の空気にのまれたということなんでしょうね。あの日の先発は増渕まり子。4回には麗華がホームランを打ち、流れをこっちに持ってきた。5回からは髙山樹里に交代するつもりで「樹里、いけるか?」「大丈夫です。準備はできています!」という会話も交わした。ところが、ここで急に身体が動かなくなったんですよね。まるで金縛りのように。

 

──理由は何だったのでしょう?

 

宇津木 わからない。ただ、アメリカの監督がじーっとこっちを睨んでいたんです。今思うと、睨んでなんかいなかったのかもしれない。私が勝手にそう感じていただけなのかもしれない。でもとにかく身体が震え始めて、動くことがままならないんです。自分でも恥ずかしいくらい震えが止まらなかった。これはアメリカの監督うんぬんではなくて、自分が未熟だったというだけの話。私は自分に負けたんです。

その後、増渕は相手にデッドボールを当てて、バッターボックスには強打のヌーブマン。通常ならタイムをかけて髙山に交代するタイミングです。だけど、ダメでした。まだ私の身体は震えていて、タイムをかけることすらできなかった。結果、右中間にヒットを打たれて同点。ゲームは振り出しに戻るわけです。髙山は「監督、何やっているんだろう?」って不思議そうにしていましたね。それで最後は相手のランナーが溜まったところで外野手のエラーでサヨナラ負けですよ。まさかの光景でしたね。信じられなかった。

 

──負けたとき、宇津木さんはその選手に「いつまで泣いているんだ! あなたのエラーで負けたんだでしょ!」と叱ったそうですね。

 

宇津木 それも完全に私が悪かったんです。本当にみっともないことをした。企業で不祥事やミスが起こったとき、部下に責任を押しつけて逃げる上司と同じですよ。本来だったら、すべての責任を監督である私が負わなくてはいけないのに……。彼女を叱ったとき、選手たちは一斉に私に喰ってかかりました。「彼女のエラーじゃない! みんなのエラーだ! 監督、何があっても防波堤になると言ってたじゃないですか!」って。もう返す言葉もなかったですよ。彼女はいまだにあのときのエラーの傷が癒えていない部分があって、「自分にとってオリンピックは……」と言ったまま黙ってしまうんです。それを聞く私もつらいですよ。

 

──栄光の舞台というだけでなく、現実の残酷さを味わう恐れもある。

 

宇津木 そう。また、あのときは試合後の記者会見でもひと悶着ありましてね。アメリカの記者というのは容赦がないから、「レフトの選手に質問があります。今の心境は?」みたいなことばかり尋ねてくるんです。大坂なおみ選手の気持ちもわかりますよ。そんな意地悪な質問ばかり来るものだから、最後はとうとう麗華が怒っちゃってね。「レフトのエラーではありません。チーム全員のエラーです」とだけ言うと、マイクを置いて会見場からみんなで立ち去ったんです。ここでも私は情けない思いをしました。なぜ私は「自分の責任です」と言えなかったのか? 選手に尻拭いをさせるようなまねをしたのか? 私は未熟だったし、カッコ悪かった。ある意味、選手のほうが大人だったのだと思います。

 

──銀を獲得したシドニーに続くアテネは結果的に銅。宇津木さんとしては、この結果に納得がいかないようですが。

 

宇津木 それはそうですよ。散々、非難も浴びましたし。振り返ってみると、アテネはスタート地点からつまずいたところは大きかったです。監督に就任する前、どういうわけか私に関する怪文書が出回ったんです。ちょうどそのころ、私は結婚もしたばかりだったし、ここまで言われるんだったら監督なんて断ろうという気持ちでいました。

ただ、結局は引き受けることになるんです。ひとつには選手から「監督をやってください」って頼まれたことがありました。それから当時の私はルネサス高崎で監督をやっていたんですけど、ルネサスの業績が今一つだったから、ここで全日本の監督を引き受けないと廃部になるんじゃないかということも頭をよぎりましたし。もっとも就任したらしたでやいのやいの言われましたけどね。「なんで今ごろになってやるとか言いだすんだ」とか……。

 

──そんな裏事情があったんですね。

 

宇津木 SARSの問題に加えて、上野がいきなり風邪で寝込んだりして不運なことが重なったんです。選手はシドニーのときとほぼ同じで、しかも私の実業団チームから7人も入っていたから、なんとかなると思ったんですけど甘かったですね。まぁ今となってはすべて言い訳にしかすぎません。

 

──さて東京オリンピックのソフトボール日本代表ですが、やはり中心は上野投手と山田恵里選手ということになりますかね。

 

宇津木 そうですね。上野というのはグランドの上はもちろん、食生活から体調管理まですべて完璧にこなすんです。本当に選手としては超一流。そしてそれだけのことをやっているから、大変な自信家でもある。あとは控えめに言っても変わり者というか個性的ですよね。

 

──どのあたりが変わり者なんですか?

 

宇津木 点を取られたとき、「私は悪くない。キャッチャーがそう構えただけだから」と言い放つんです。だけど普通に考えて、配球が悪いならサインに首を振ればいいだけじゃないですか。そう上野に伝えると、「いや、違う。キャッチャーにわからせなくてはいけない」と答えるんです。言い逃れというのとは違うんですよね。上野の場合、本気でそう考えているわけだから。私はそういう上野の性格も買っているんです。逆にエースが「私がすべて悪い。キャッチャーにも迷惑をかけたので立ち直れない……」なんてクヨクヨしていたら話にならないじゃないですか。また、キャッチャーを育てているのも事実ですから、ド厚かましいくらいでちょうどいいんですよね。

山田は「女イチロー」と言われることもあるけど、本人はそれを嫌がるんです。でもたしかにイチローさんと同じようにストイックなところがあって、生活の中でもいろんなルーティーンを作ってそれを死守するんです。孤高の存在だけど、自分で自分をコントロールする能力に長けているんでしょうね。ただ一方で内面に激しさを持っていて、打てないときはモノにこそ当たらないものの、見るからにイライラしながら怒りを溜め込んでいるときがある。それは自分自身に対する憤りです。打たれてもひょうひょうとしている上野とは、そのへんが対照的ですね。

 

──他に注目すべき選手を教えてください。

 

宇津木 サードの山本優! 彼女は面白いですよ~。個性派で私も大好きな選手なんです。すごく昔気質の選手なんですよね。今の若い選手はおとなしくてスマートにこなす傾向が強いんだけど、優は堂々と我が道を行く野武士タイプ。瞬間的なひらめきや動物的な勘もすごいから単純に見ていて面白いんです。ぜひ注目していただきたいですね。

 

──最後に麗華監督と日本代表にメッセージをお願いします。

 

宇津木 こういう環境であるにもかかわらず試合ができるということに、まずは感謝したほうがいいと思う。なにしろ今回はいろんな犠牲の上に成り立っている大会ですから。コロナ禍に加えて日本の状況も決して明るいとは言えない中、勝たなくちゃいけないというプレッシャーは尋常ではないでしょう。しかしあえて言いますが、彼女たちはそのプレッシャーに打ち克ってほしい。なりふり構わず地べたを這う覚悟で勝利を掴み取ってほしいです。