ギョーカイ“猛者”オータワラトオルが、走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし
2022「アシックス」秋の陣②「NOVABLAST 3」の巻
2回目は、アシックスの2022最新シューズ「NOVABLAST(ノヴァブラスト) 3」を実際にテストランしたインプレをお届けしよう(第1回は「アシックス スポーツ工学研究所」の若き開発者インタビュー。第3回は、2022最新「GEL-KAYANO(ゲルカヤノ) 29」の試し履き走インプレの予定)。
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この秋、発表されたばかりの2022最新NOVABLAST 3。飛び跳ねながらゴールを駆け抜けられる爽快感は、とりわけ海外で高い評価を得ている。
「本来は、5km、10㎞のショートのランニングを想定し、初心者に楽しんでもらうシューズとしてNOVABLASTシリーズは開発されました。しかし意外なことに、レースで記録を目指すようなエリートランナーと呼ばれる選手たちからも、NOVABLAST 3への高い支持があったのです」と、満面の笑みで語るのは、NOVABLAST 3の開発に携わった、益本真吾さんだ。
「まずは、アシックスの契約選手たちからの好評価です。トップ選手たちは、さまざまなシューズを練習中に履き替え、異なる刺激によって脚力を養います。そんなトレーニング用の一足として、NOVABLAST 3が採用されたようです」(益本さん)
現在、エリートランナーたちがレースで使用するハイエンドのシューズは、カーボンプレート入りのタイプが主流となっている。そのため選手たちは、カーボンに頼らずに地脚を作るトレーニングとして、NOVABLAST 3で走るのだという。
柔らかいのに、よく跳ねる⁉
「NOVABLAST 3でフルマラソンを走る方もいますが、きちんと鍛えた足でないと、ケガのリスクが否定できません。理由は、設計上、踵や中足部の安定性よりも、前足部の反発性を重要視しているからです。もちろん自由に履いていただいて構わないのですが、天候の急変や気温の変化があるフルマラソンなど“何が起こるかわからない”長距離レースで履くなら、個人的にはGEL-KAYANOをお薦めします(笑)」(益本さん)
NOVABLAST 3の最大の特徴は、着地の衝撃を緩衝し、蹴り出しの際に推進力に換える反発性を活かした、ソール全体の構造だ。本来、衝撃緩衝のクッション性と、推進力としての高反発は、矛盾した機能だと言える。極端に書けば、“柔らかいのに、よく跳ねる”のだから! ひとつのシューズで異なる機能を兼ね備えることは、ひと言で表現するほど簡単ではない。
「私たち開発者は、こうした矛盾を、走る動作のフェイズで解決できると考えてきました」(益本さん)
着地のフェイズで必要なのは、踵や中足部での衝撃緩衝のクッション性だという。
「ミッドソールのフォームの厚みや素材、そして形状が重要です。NOVABLAST 3は、踵部の中央に大きな凹みを作り、動きに合わせたスリットを入れ、フォーム全体が変形しやすい形状を採用しています」(益本さん)
まるでトランポリン! フォーム全体で変形しやすい形状を採用
一方の蹴り出しのフェイズでは、しっかりした反発を得ること。
「足の母指球にあたる部分に、踏み込んでから蹴り出せるよう、中央部に『トランポリンポッド』という膨らみを設けています。こうした形状の工夫によって、クッション性と反発性を担保しました」(益本さん)
ご存じの通りトランポリンは、脚力だけで跳ぶのではなく、着地による衝撃をカラダ全体で吸収しつつ、台の反発力のアシストを得て、重力に逆らう推進力にしている。全身の筋肉の高度な連携があって、初めてトランポリンで高く宙を舞えるのだ。NOVABLAST 3を履くエリートランナーたちも、そうした機能を自分のトレーニングに活用できることを、履いて走った際に感じたのだろう。外見が派手なNOVABLAST 3だが、中身を聞くほど“なるほどアシックス”だ。
「前足部のフォームが変形しないと、きちんと踏み込めません。そのためロッカー(つま先を反らせる形状)も抑えた設計にしています。ドロップ(つま先と踵の高低差)も8㎜と、見た目とは異なりマイルドです。履いてもらうと、奇異ではないことに気付いてもらえるはずです(笑)」(益本さん)
アシックスが、エラストマー系ミッドソールに慎重なワケ!
インパクト大の厚みのあるミッドソールには、新素材も投入されている。
「『FF BLAST PLUS(エフエフブラストプラス)』です。NOVABLAST 3だけでなく、2022新作シューズにも採用されています。クッション性と反発性に優れ、しかも軽量というEVA系の素材です」(益本さん)
軽量EVA素材のひとつとして、アシックスが誇るFF BLAST PLUS。サンプル部材を持たせてもらったが、“EVA=重い”というひと昔前の発想は、永遠に封じ込めた方が良いと反省させられる、驚きの軽さだ。
せっかくの機会なので、ミッドソールのトレンドの素材の話も聞いてみよう。ミッドソールのEVA素材といえば、最近話題になっているのが、厚底シューズへの採用で話題となったエラストマー系のフォームだ。正月の駅伝や、世界最高峰の競技会で目にした、アレである。
しかし、アシックスは、エラストマー系のフォーム素材に必ずしも積極的ではない。慎重さのワケは、何なのだろうか?
「開発チームは、さまざまな素材の中から、コンセプトにベストマッチするモノを選定しています。フォーム材に求められる高反発性とクッション性、軽さを追い求めた結果、現時点でエラストマー系の素材はベストマッチしなかったのです。
今後、開発が進み、高反発性、クッション性、軽量性をバランス良く実現できた場合は、エラストマー系のフォームも採用される可能性はあります。でも、まずランナーたちの要望を満たす目的が先であって、素材ありきではないのです」(益本さん)
今後、NOVABLASTは、どのように進化するのだろう?
「変えてはいけないコンセプトは、(前足部の反発性によって)走ることを楽しんでもらう点です。これからの課題は、高い機能性を担保したまま、脚の負担を減らすべく、軽量化を図ることです」(益本さん)
いよいよNOVABLAST 3で試走!
開発の話をたっぷり聞いたところで、いよいよNOVABLAST 3の試走スタート! まずは、シューズに足を入れた感覚のインプレを行った。そして、初心者も含め、多くの方々がランニングシューズを履く、3つの理由に合ったペースで実際にコースを走ってみた。
最初は、「運動不足解消」が目的、1㎞を約7分で走る(=キロ7分)の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分で走る(=キロ6分)ゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)。さてさて、NOVABLAST 3の実力や、いかに?
【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感)】
今どきのシューズは、とかく解りやすさが重要視される。厚底ブームしかり、柔らかな足入れ感(シューズに足を入れた際の感覚)しかり。で、NOVABLAST 3の足入れ感は、見た目通りの厚みある快適さ。でもって、踵もひっかからない。靴の中での、つま先と踵の足の高低差(ドロップ)も、見た目ほどではない8㎜と、走っても転がり過ぎる怖さもない。見た目はギミックなシューズだが、中身はアシックス。つまり、安心。
【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】
タイムを気にせず、シューズを履いたままに、素直にフラットなコースを走ってみた。後でタイムを確認すると、1㎞をほぼ7分のペース。もちろん、体格や走力によるが、運動不足が気になる方であれば、今風のシューズで快適に走るには◎。次回で紹介するGEL-KAYANO 29のような、レースにも対応するシューズに履き慣れていると、厚底の分だけ安定感に不安があるが、跳ねる感覚って、純粋に楽しい! 気が向いた方向へデタラメに走っても苦じゃなく、そうした散歩の延長みたいな走り方が楽しいシューズなのだ。クルマで例えるなら、「スポーツセダンより、そこそこのエンジンを積んだワンボックスの方が、いろいろ楽しめて好き~」という方にこそオススメ!
【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】
走った距離と、燃える脂肪は、正比例する。ザックリの計算だが、体重1㎏当たり1㎞走れば、約1kcalが燃える。つまり、体重約70㎏の筆者が10㎞走れば、約700kcalが消費される目安だ。となると、どうせ走るなら、距離を稼ぎたくなる。で、キロ6分のNOBABLAST 3はどうか? 平地ではキロ7分ペースとは大きな差はないが、お住いの地域が神奈川県・横浜市や川崎市、兵庫県・神戸市や京都など坂が多い場所なら、ダンゼン買いとなる。
気分は、登り番長! 「俺ってこんなに走れるっけ?」と錯覚するほど。「坂があるから、たくさんは走れない……」なんて言い訳はできなくなる! 下りは、踵着地で慎重に走るもよし。走り慣れているなら、一気に加速して、アラレちゃんよろしく「キーン」(「?」なら検索しよう~)と走り抜けよう。ここ数年で増えた坂道をひたすら登るレースなら、この性能はいかんなく発揮されるはず!
【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】
これには、ビックリ! ターボがかかったような加速感。ミッドソールに採用された新素材FF BLAST PLUSの特性と、シューズ設計のジオメトリーのバランスが嚙み合っている。炎天下のテストコースで、フラットだからと調子こいてスピードを出しても、楽しさが勝ってくる。加減速を繰り返すような、仲間とワイワイ走る市民駅伝なら、ドンズバ。NOBABLAST 3を履いて、最新ウェアに身を包んだら、レース会場“最速”は無理でも、会場“最強”は間違いない! そんな一足だ!
撮影/小川朋央
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