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2023/4/1 11:30

「On」故知新、最新テクノロジーのプロジェクトが始動!/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし

2023「On」春の陣② On「クラウドサーファー」の巻(前編)

 

「2023年、Onが最も注力するシューズが、3月23日に販売を開始した『クラウドサーファー(Cloudsurfer)』です。“雲の上の走り”というOnの特徴を引き継ぎつつ、今までのOnになかったテクノロジーを採用した、全く新しいシューズです」

↑「クラウドサーファー」(※東京マラソンEXPO2023にて、日本先行限定323足発売された)、1万8480 円(税込)。Creek I White、All I Black、White I Frost の3カラー展開。サイズ展開は、メンズ25~32cm、ウィメンズ22~28cm

 

と、語るのは、オン・ジャパンの前原靖子さん。前原さんは、オン・ジャパン開設時のメンバーであり、同社共同代表の駒田博紀さんの懐刀のひとり。そんな前原さんに、最新鋭クラウドサーファーの魅力を、東京・原宿のフラッグシップストア「On Tokyo」で語ってもらった。

↑オン・ジャパンPRリーダー前原靖子さん。アウトドアをこよなく愛する、まさにOnを体現するアクティビストである!

 

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生まれ変わったクラウドサーファー

「クラウドサーファーは、10年前にOnが最初に開発したシューズの名前でもあります。新発売のシューズは、Onにとって記念すべきクラウドサーファーの名前を継いだモデル。Onのシューズの未来型として期待しています」(前原さん)

※以下、ややこしいので、10年前のクラウドサーファーを便宜上「アーリーサーファー」と呼ぶ。

 

アーリーサーファーは、Onのシューズの顔とも言える、穴の開いたミッドソール=「クラウドテック」を初めて搭載した画期的なシューズだ。筆者も10年前、東京マラソンEXPOの出店ブースで初めてOnのシューズを見た際、ゴムホースを潰して貼ったかのようなルックスと、衝撃吸収の機能性をアウトソールに持たせたような構造の斬新さに、目を見張った記憶がある。

↑Onの顔とも言える、ソールにチューブが埋め込まれたアーリーサーファーのクラウドテック(世界特許)。この機能が、ミッドソールなのか、あるいはアウトソールなのかは、議論が分かれるところだ。現在Onはクラウドテックをミッドソールの機能と解説しているが、筆者は“衝撃吸収機能を有した独創的なアウトソール”と考えている

 

Onの最新テクノロジー「クラウドテック フェーズ」とは?

「Onが(アーリー)サーファーに籠めたのは、クラウドテックというテクノロジーを通じて、従来にない“ランニングの楽しさ”を伝え、ランニング界に新たなセンセーションを巻き起こすというメッセージでした。(新しい)クラウドサーファーには、今までOnの全てのシューズに搭載してきた『クラウドテック』とは異なる『クラウドテック フェーズ』という新たなテクノロジーを使っています。従来の『クラウドテック』の改良版とは全く違う、最新のコンピュータ解析によって生まれた、どなたが履いても快適な心地よさを実現しています」(前原さん)

 

最新のミッドソールテクノロジーであるクラウドテック フェーズは、着地の瞬間、ミッドソールに開いた空間がドミノ倒しのように潰れて衝撃を吸収する。その素材は、Onのパフォーマンスランニング分野で、2019年から積極的に使用している「ヘリオン」と呼ぶ独自フォーム材である。

↑新生クラウドサーファーのミッドソール「クラウドテック フェーズ」。足入れして歩いてみると、“雲の上の”という形容がまさにピッタリな、ふんわりとした履き心地が得られる!

 

ヘリオンは、軽量でクッション性が高く、耐久性や温度変化にも強い素材だという。Onは独自素材としか公表していないが、前原さんは、“EVAではない”とも語っている。総合するとヘリオンは、欧米系のシューズメーカーがレーシングモデルを中心に採用しているエラストマー系素材と考えられる。

 

「新しいクラウドサーファーは、ふわっとした足入れ感が“誰にでも体感できて、分かりやすい”と、各国のバイヤーさんからも高い評価をいただいています。もちろん発売後のランナーの皆さんの評価によって変わる可能性がありますが、Onとしては、レーシング向けではなく、トレーニングや長い距離をゆっくり走るランニングシーンで履いていただくことを想定しています」(前原さん)

↑アウトソールの白い部材が、クラウドテック フェーズ。爪先と踵には、路面を捉えて摩耗しにくいラバーパッドを採用。筆者のような典型的な踵着地のランニングフォームだと、中足部のクラウドテック(特に外側)が早々に削られそうで、チト不安……

 

Onの原点=“走る楽しさ”へのあくなき追及

厚底でありながら、重量は26.5㎝で片足245g! 何と、250gを切っている。軽量化の秘策のひとつは、もちろんクラウドテック フェーズの採用だ。しかし最も寄与したのは、Onのパフォーマンスランニングモデルに共通して搭載される「スピードボード」を廃した点。「スピードボード」は文字通り、足裏全面に敷かれた硬質のプレート。着地衝撃を推進力に換える“板バネ”の役割を担っている。

 

「クラウドテック フェーズのロッカー形状(揺りかごのようなカーブ)は、スピードボードがなくても、流れるような自然な脚運びを生み出します。そのため、クラウドサーファーにはスピードボードを採用していません。スピードを求めるというより、(アーリー)サーファーが提供した“走る楽しさ”を重視したモデルです。最新のテクノロジーでクラウドテックの原点に立ち返った、Onにとっての今年最大の挑戦なのです」(前原さん)

↑踵部が巻き上がったクラウドテックフェーズ。アッパーの下には、Onの故郷であるスイス国旗があしらわれている。ちなみに、Onのロゴの「O」の頭に突起がある理由は、“スイッチOn!”を表す意匠なのだとか

 

「ドープダイ」の採用で、使用する水を95%カット!

前原さんによると、クラウドテック フェーズが、今後のOnの全モデルに標準搭載されるという計画は、今のところはないという。全ては、実際にランナーが履いて走って、その結果によって決まるのだとか。新生クラウドサーファーは、Onにとって(そして、私たちにとっても)実走できる実験機=コンセプトカーのような役割なのだ。

 

「スピードボードを採用しないことで、軽量化とともに、環境にも配慮できました。その点で言えば、クラウドサーファーのアッパーも、環境への配慮がなされています。アッパーを製造する際に使う水を、従来に比べて95%削減することが可能な『ドープダイ』という技術を採用しました。ドープダイは、化繊の糸を染めるのではなく、糸を作る時点で染料を加えています。水資源だけでなく、CO2の削減にも貢献できています」(前原さん)

 

ドープダイは「原液着色糸(原着糸)」とも呼ばれ、文字通り原料のペレットと顔料を混ぜて糸を作る技術だ。そのため、一般的な染色に必要な、精錬、染色、染色後の洗いの工程がそもそも発生しない。大幅に水を減らせる上、電気も使わず、しかも廃水も減らせるメリットがある。環境意識の高いスイスで生まれた、Onならではの取り組みのひとつと言えよう(ただしドープダイは、従来の工法に比べて、生産ロットが大きくなる。大規模な生産でも十分に勝算があるという、Onのクラウドサーファーへの期待と自信の顕れと言えよう)。

↑新生クラウドサーファーにぴったりな軽量シェルを手にする前原さん。シューズイメージの強いOnだが、アパレルが多数並んでいる。ランニングを核にしたライフスタイル全般を網羅する商品構成で、オンでもオフでも着られるコレクションを展開中だ

 

クラウドサーファーの知見を広げたところで、次回はクラウドサーファーの実走インプレをお届けしよう!

 

撮影/我妻慶一

 

 

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