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2023/4/15 11:30

「アンダーアーマー事変」勃発! シューズ担当MD、世界戦略を語る/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! 「ランニングシューズ戦線異状なし」

2023「UNDER ARMOUR」春の陣①

 

この春、東京・有明で行われたアンダーアーマー(以下、UA)の新作シューズ発表会は、ギョーカイに強烈なインパクトを与えた。「UAフロー ベロシティ エリート(FLOW VELOCITI ELITE)」の発表は、陸上長距離界にUAが正式に殴り込みをかけた、まさに進撃の号砲だった。

 

ご存じのようにUAは、コンプレッションウェア市場を“開拓”したことで、爆発的な成長を続けてきた。そのUAが展開するランニングシューズは、自らが得意とするトレーニング領域の延長線で展開してきた、と筆者は今まで捉えてきた。野球もサッカーも、アメリカンフットボールも、基礎トレーニングとしてはランニングが欠かせないからだ。

 

しかし、今回のUAフロー ベロシティ エリートは、トレーニングではなく、レースに勝つ“陸上競技領域”のシューズの発表だった。UAランニングは、苛烈を極めるレッドオーシャンとも言えるマラソンなど長距離の競技領域に、その矛先を向けたのだ。

↑今回お話を伺った、アンダーアーマーのシューズを担当する松原恵治さん(ドーム マーチャンダイジング フットウェア プロフェッショナル)。新装となった「UNDER ARMOUR BRAND HOUSE 新宿」内のイベントスペースにて

 

競技領域でも“勝てる”シューズとは?

「いよいよ待望のシューズがデビューします。UAは、今までもランニング領域でシューズを展開していましたが、この新しいコンペティションモデルを皮切りに、日本も、そしてグローバルも、ガチで勝負していきます!」と熱く語るのは、日本でのUAのシューズ商品担当の松原恵治さんである。

↑「UAフロー ベロシティ エリート」。ゴリゴリのレーシングシューズなので、この連載には不向きなハイレベルながら、癖がなく比較的に扱い易いシューズだ。ただし、お値段は2万6400円(税込)と、チト扱いにくい……

 

「UAフロー ベロシティ エリートは、早くもマラソンワールドメジャーズのレースでも結果を残しています。UAは、競技領域でも勝てるシューズを頂点に、幅広いラインアップで、ランナーに向けた最適なシューズを今後も提供していきます」(松原さん)

 

松原さんの鼻息も荒いUAフロー ベロシティ エリートを、実は、筆者も実際に試している。フルレングスのカーボンファイバープレートを搭載し、アウトソール(靴底)のラバーもない超軽量のコンペモデルのため、残念ながら私たち週末アスリートを対象としたこの連載で詳細を紹介することには無理がある。まさに、エリート向けシューズなのだ。

↑ご覧のように、このシューズのアウトソールにはラバーが貼られていない。それでも耐久性が保たれているのは「FLOW(フロー)」という耐摩耗性の高いUA独自素材のため。素材の詳細は後日、本連載「UAフロー ベロシティ ウインド2」の回にて!

 

UAランニング、進化の歩み

UA最新の厚底カーボンシューズは、走るトレーニングをある程度は積んでおかないと、宝の持ち腐れになること請け合いのハイエンドモデルだ。しかしながら、走行時の足の着地場所を問わずに反発性の高いソールとカーボンプレートが加速してくれる、比較的に汎用性の高い一足だった。この春に登場している各社のハイエンド向けカーボンシューズのトレンドの、まさにど真ん中とも言える味付けには、正直、驚かされた。全く良い出来栄えなのだ!

 

「UAは、アパレルからビジネスを開始し、多くのアスリートを支えるパフォーマンスプロダクトを提供してきました。最初は、各競技の競技用スパイク、続いてトレーニングシューズ、そしてランニングシューズをデビューさせています」(松原さん)

 

松原さんと一緒にUAのランニングシューズの進化の歴史を振り返ってみると、2011年に発表された「UAマイクロGスプリット」が、何といってもインパクト大だという。

 

「UAが得意とするアパレルの技術をシューズのアッパーに使い、ミッドソールに『マイクロG』というハイブリッドEVAを使用しました。反発性+衝撃吸収性という異素材の組み合わせが一般的ですが、シンプルにマイクロGというクッション性の高い素材で勝負したモデルです」(松原さん)

↑2011年に発売した「マイクロG」シリーズ。左上が、最上位モデルの「UAマイクロG スプリット」

 

UAがランニングシューズに参戦することも話題になり、薄くてもクッション性が高く、当時としては斬新なデザインだったと筆者も記憶している。UA マイクロGスプリットの次に大きな話題となったのは、2013年発表の「スピードフォーム」だろう。筆者も、発表会が行われたロンドンに赴き、世界選手権で2回優勝したトライアスリートの選手クリス・マコーマック(愛称マッカ)にシューズの印象を取材している。

 

「スピードフォームは、従来の靴作りの概念を覆し、アパレルを得意とするUAならではの画期的なアプローチで、スポーツブラを作っていた企業に、何とシューズの製造ラインを加え、その技術を活かしました」と松原さんも語るように、踵を優しく包み込む装用の心地よさは、白眉だった!

↑2013年に発表されたが、発売は2014年に延期になったスピードフォーム搭載モデル「UAスピードフォーム アポロ」と「UAスピードフォームXC」

 

その次のインパクトは「UAホバー インフィニット」だろう。現在も使われているミッドソールの高反発かつクッション性の高い「HOVR(ホバー)」素材が初めて使用されたモデルだ。

 

「UAホバー インフィニットは、シューズに内蔵されたチップとスマホのアプリを連携する『MAP MY RUN』のシステムも内蔵し、GPSウォッチがなくとも距離やスピード、ストライドなどの情報が得られるスマートシューズとしても話題になりました」(松原さん)

↑2019年に登場した「UAホバー インフィニット」。ミッドソールに「ホバー」素材を用いたモデル。次回は「UAホバー マキナ3」の試走インプレをお届けする予定だ

 

UAにおける、日本の重要性

ランニングシューズ戦線が激烈となる少し前(厚底のカーボンプレート内蔵シューズが世界を席巻する前)まで、UAでは、本国アメリカ、欧州、そしてアジアでは日本が製品開発の拠点として機能していた。UAのみならず、スポーツブランド各社にとって日本は、ランニングシューズや関連商品のトレンドにおいて、世界的に重要なポジションにいたのだ。

 

「たしかに当時は、日本市場のランニングの環境やランナーのニーズに応じて、日本独自の開発をグローバルと展開していました。しかし今は、グローバルスタンダードが世界をリードし、頂点に君臨するように変化しています。なので、“日本向けじゃないから勝てない、合わない”というのは、もはや過去の話なのです」(松原さん)

 

厚底のカーボンプレート内蔵シューズの拡がりにより、現在、公認のレースでは、ソールの厚さ制限のルールが定められている。松原さんによると、こうしたルール変更もあって、UAを含めた各社の開発サイクルは加速されているという。シューズに限らず、トレーニング方法を含め情報を得る手段も大きく変化している。今や、プロトタイプであっても製品化してレースに出す時代なのだ。

 

そして、今。UAはUAフロー ベロシティ エリートを引っ提げ、世界の陸上長距離界に殴り込みをかけている。UAだけでなく、各社がこぞってエリート向けの厚底カーボンシューズを発表する理由は、まさに“時代が求める焦燥感”なのだと言えよう。

 

「現在のUAのフォーメーションは、アメリカのヘッドクォーターがリードする形で、工場と連携して製品開発を担っています。日本からは、市場やアスリートのニーズを吸い上げ、ヘッドクォーターと他社情報などを共有しながら、プロダクツのレベルアップを目指して連携しあっています」(松原さん)

 

次回、UAのランニングシューズを試走インプレ!

UAの今後のシューズ開発の方向は、最新鋭のエリート向けシューズの投入により、また変化してゆくはずだ。というところで、我々が試すことが可能な2つのモデルについて、いよいよ次回からインプレを開始する。

 

まずは、運動不足解消にジョギングを始める方から、フルマラソンで4時間を切るタイムで完走を目指す方に、松原さんおススメの「UAホバー マキナ3(HOVR MACHINA3)」。そして、UAの厚底カーボンシューズにも搭載されているミッドソール素材「フロー」を使った「UAフロー ベロシティ ウインド2(FLOW VELOCITI WIND2)」。

↑手前が、次回紹介するUAホバー マキナ3。奥が、その次に掲載予定のUAフロー ベロシティ ウインド2

 

最後に……。松原さんが筆者に語ったひと言が、心に残った。「アパレルから始まったスポーツブランドが、シューズで大成功した例を私は知りません。アンダーアーマーは、その最初のブランドになるのです」。UAの挑戦の心意気、乞うご期待である!

 

撮影/中田 悟

 

 

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