ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす!「ランニングシューズ戦線異状なし」
2023「adidas」新緑の陣①
アディダスのランニングシューズ最上位機種と言えば、「アディゼロ」シリーズ。最新鋭の厚底カーボン「アディゼロ アディオス PRO 3.0」を筆頭に、さまざまなタイプのシューズで、ランナーの走りをサポートしてくれている。実はアディゼロ、日本で開発されたグローバルコレクションであることを、どれくらいの人が覚えているだろうか?
「アディダスは、1949年ドイツで創業しました。創業者のアディ・ダスラーはもともと陸上競技出身で、アスリートの声を聴き、スポーツパフォーマンスを高めるギアとしてのシューズ開発からスタートします」
と語るのは、アディダス ジャパンの山口智久さん。山口さんは、長年アディダスのシューズ開発に携わってきた、まさに“アディダス猛者”。筆者もフットサルで山口さんとも何度か対戦してきたが、実は初のインタビュー。場所は、東京・六本木一丁目のアディダス ジャパンである。
「アディダスのランニングシューズで有名なのは、1972年に登場の『SL72』。ナイロンのアッパーを初めて採用した、軽量モデルの代表作です。これ以降も、クッション機能やマイクロチップを搭載したモデルなど、ランニング界に様々なイノベーションを起こすシューズを作ってきました」(山口さん)
世界と全く異なっていた、日本のランニング文化
「1990年代後半から2000年にかけて、マラソン大国日本のトレンドは、世界のトレンドとは全く異なっていました。世界のランニング界の常識に反して、日本のランナーの多くは、フィッティングが良く、軽量なシューズを求めていました。そのため、アディダス ジャパンは、日本人ランナーをもっと速くするための『アディゼロ』の開発に着手したのです」(山口さん)
こうして2005年、アディダス ジャパンが“ゼロからの挑戦”として開発した「アディゼロ」が誕生する。欧米のランニングシューズ業界が、ランナーの体重が比較的に重いためクッション性を重視し、軽量性よりも耐久性に重きを置いてきただけに、ジャパンメイドのアディゼロが衝撃をもたらすのだ。
「フィッティングにこだわり、軽量なアディゼロは、狙い通り日本のランナーに受け入れてもらえました。さらに記録も伴うようになって、世界でも注目されます。日本発信のアディゼロが、“驚異的な軽さのランニングシューズ”としてワールドワイドに拡がっていきました」(山口さん)
世界的なブームを追い風に、快進撃が続く
アディゼロの快進撃は、陸上競技をDNAに持つアディダスのシューズ開発に一石を投じる。一時期、野球やサッカー、バスケットボール、ゴルフのラインにも“驚異的な軽さ”の代名詞として、アディゼロと名付けられたシューズが続々と登場する。
「アディゼロの成長期は、世界的にも市民マラソンへの参加が拡がっていったタイミングでもあります。ランニングは、一部の競技者のためのものではなく、誰もが気軽に始められるアクティビティとして市民権を得ました。当時のアディゼロの使命は、北米やヨーロッパ各地、そして日本で数多く開催されるマラソン大会に挑戦したいという人たちに寄り添うことにありました」(山口さん)
圧倒的な物量での、ランニングシューズ布陣
グローバルブランドであるアディダスは、日本が生んだアディゼロを通して、より拡大しつつあったランニングカルチャーを再発見したと言えよう。あの当時のアディダス ジャパンのスタッフたちの、アディゼロへの誇りと期待の熱量の高さは、フィットネスライフスタイル雑誌の編集現場にいた筆者にも、ハンパなく伝わってきていた。
「誕生から18年経った今でも、アディゼロの開発にはジャパンが大きく関わっています。ドイツのヘッドクォーターとジャパンとの協業で開発は進められています。シーズンごとの重要なミーティングには、我々も必ず参加させてもらっています」(山口さん)
もちろんアディダスには、アディゼロ以外にも優れたランニングシューズのラインナップがある。よりエネルギッシュに、気分を高めて走りたい人たちに支持されている「ウルトラブースト」シリーズ。高いクッション性で、快適な走りを求める「ソーラー」や「スーパーノヴァ」といったシリーズなど、巨大なグローバルスポーツカンパニーであるアディダスならではの圧倒的な物量の布陣である。
GetNavi web読者への、おすすめシューズ2足!
「今回、GetNavi webの読者の皆さんにおすすめしたいシューズは、2足あります。ひとつは先ほどから話題に上っているアディゼロシリーズの最新作のひとつ『アディゼロ SL』。もうひとつは、ウルトラブーストのシリーズから『ウルトラブースト ライト』です」(山口さん)
シューズの詳細な紹介は次回に譲るが、「アディゼロ SL」は、従来のアディゼロには無いタイプのシューズだ。実業団や大学駅伝部などのエリートランナーと呼ばれる人たちから、初のフルマラソンに挑む人たち、5㎞や10㎞などのイベント性の高いレースで自己ベスト更新を狙うような幅広い層に対応した汎用モデルだという。
「ランニングする人たちのパイも増え、レベルの幅も拡がっています。最近は、週1回の練習でも、フルマラソンに挑戦する人もいます。アディゼロは、トップから裾野まで、自分のタイムが気になるなど、何かに挑戦する全ての方たちをサポートするブランドになりました。アディゼロ SLは、ベストオブ“デイリートレーナー”を目指した一足です」(山口さん)
最軽量ブーストを新たに開発!
そして、もう一足の「ウルトラブースト ライト」は、アディダスが誇る、超弾性とも評される反発性を持ち、耐摩耗性にも優れたブーストフォームを30%も軽量化した最新モデルだ。ブースト素材の第二世代として開発された「ライト ブースト」を搭載した初のモデルである。第一世代の最初に登場した「エナジー ブースト」を履いた筆者にとっても、期待の一足であることは間違いない。
次回以降では、ウルトラブースト ライト、そしてアディゼロ SLの2足について、開発コンセプトやテクノロジーに関して、引き続き山口さんにインタビューを行ってゆく。さらに、実際のフィールドでも、目的に合わせた3つのペースで、実際に走ったインプレッションも記事にする予定だ。運動不足解消、痩せるためのラン、気分をスカッとさせたい時など、私たちが走る理由は、さまざまなのだ。
新たな時代のランニング文化「TOKYO CITY RUN」
「コロナ禍を経て、ランニングをする人はさらに増えました。フルマラソンなどの大会の敷居は高いですが、距離が短くても、多くの方にとって、自分の走力に見合った楽しみができるイベントのニーズは高いと考えています。アディダスでも、3月末にトップ選手によるガチなレースと、同じコースを一般の方が思い思いのペースで走るイベント『ADIDAS TOKYO CITY RUN 2023』を東京・神宮外苑で開催しました」(山口さん)
トップ選手たちにとっては、駅伝シーズンが終わり、スパイクを履いてのトラック競技が始まるタイミング。この時期に、ロードシューズでのハイレベルのレース(しかも陸連公認の記録会)となったことで、選手たちの評判も上々だったとか。
「一般の方々にとって、トップ選手たちと同じ公認コースで走るのは大きな魅力です。こうした新しい試みは、数こそ多くはできませんが、今後も取り組みたいと考えています。唯一残念だったのは、当日が雨だった点です(苦笑)」(山口さん)
“すべてはアスリートのために”という、創業者アディ・ダスラーの理念が受け継がれるアディダスのモノづくりのこだわり。世界で最もたくさんの人たちが参加するアクティビティであるランニングカルチャーに、アディダスはどんな未来を提案してゆくのだろうか。次回以降に、乞うご期待なのだ!
※)アディダス オリジナルス:2001年にスタートしたアディダスの新レーベルのこと。通常レーベルのアディダスとは違い、世界のストリートシーンを彩る斬新でお洒落なスニーカーが多い。
撮影/中田 悟
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