「タフ」とか「頑強」とか、「堅牢」や「ヘビーデューティー」という惹句(じゃっく)の付いたモノが大好き! というユーザー層がいる。具体的にいうと、筆者自身がそうだ。
いまの世の中で普通に売られてるモノって、基本的にあんまり壊れないし、タフさが試されるような極地環境も日本国内にはほとんどない。でも、パッケージに「頑強」って書いてあったら、多少高くてもそっちを買ってしまう。なんか良さそうだから。
昨今の“折れないシャープペンシルブーム”というのも、このタフ好き層が支えているんじゃないかと思っている。だって、普通の0.5mmシャープで一日中ずっと書き続けても、正味のところ芯が折れるのは1、2回ぐらい。そんなもの、気にしなきゃ済むレベルの話ではあるのだ。でも、そこが気になって「やっぱ頑丈な方がいいわよねー」と言うのが、我らタフ好きユーザー。実はタフ好きは繊細なのである。
しかし、日常的に使う道具の中で「タフで頑丈」要素が気分レベルじゃなく、ちゃんと効果を発揮するジャンルというのも存在する。刃物、特にハサミだ。
いわゆる良く切れるハサミというのは、かなり薄くて鋭い刃がついている。だからこそスパスパと良く切れるのだが、これが硬めの厚紙なんかを切ってしまうとすぐ刃が潰れてしまい、切れ味がガクンと落ちてしまう。
ということで、結局のところ普段の生活の中で実用的なのは、これから紹介する「厚紙でも段ボールでも雑にガツガツ切れちゃうタフなハサミ」なのだ。
ガッツリとハードかつ良く切れる!
林刃物 ALLEX 厚紙切り/2160円
とりあえずタフなの一丁買うならまずはこれ、という形でオススメしたいのが林刃物の「ALLEX 厚紙切り」だ。そのものズバリ、厚紙や段ボールなどを切るのに適した超ゴツいハサミである。
ご覧の通り、一般的なハサミの倍はある3mmの刃厚もゴツいし、ハンドルもゴツい。このハンドルは静刃側(親指以外の指で支える方)に人差し指だけじゃなく、小指まですっぽり入る。つまり、指の力だけではなく手のひら全体の力を使ってグッと握って切ることができるわけで、厚いモノや硬いモノを切るのがとてもラクなのだ。
そしてこのゴツさ=剛性が高いということで、握った時に刃がヨレたりせず、咬み合う部分から力が逃げない。力がいれやすく、さらにその力が逃げないんだから、そりゃ切りやすいに決まっている。メモパッド台紙のような厚紙に刃がぐいぐいと入っていく感じは、なかなか気持ちがいい。
さらに素晴らしいのは、刃の切れ味の良さ。さすが刃物で有名な岐阜県関市のメーカーが作っているだけあって、分厚い刃でもやたらシャープに作られている。通常のハサミではなかなか切り進めない固めのボール紙や段ボール、プラ板やPPバンドが勢いよく切れるだけでなく、ティッシュペーパーや包帯のような薄くてコシのないものでもスパッと切れるのだから、これ一本あれば家庭用ハサミとして大体の仕事をこなしてしまうだろう。
もちろん作りも頑強で耐久性が高い。とにかく一本買っておけば、長く家庭用ハサミのメインとして使っていけるはずだ。
携帯できるマルチな頑強ハサミ
ミドリ 携帯マルチハサミ/1080円 ※カーキと黒の2種類あり
これまで何度も「ハサミは持ち歩いた方がいいよ」とオススメしてきたわけだが、当然、タフなハサミも携帯性の高いものを紹介しないわけにはいかないだろう。ミドリ「携帯マルチハサミ」は、筆箱に放り込んでおけるコンパクトさなのに、がっつりとタフなハサミだ。
まず、タフ系ハサミで重要な刃厚は、前述のALLEX 厚紙切りと同じ3mm厚。この小ささ(刃渡り約40mm)で3mm厚の刃は、デフォルメ感があっていっそカワイイぐらいだが、切れ味はなかなかのもの。刃先まで切れ味がつづくカーブ刃と安定性のいい直刃の組み合わせで、小さなハサミがクレジットカードをワシワシと切り進む様子は、軽くシュールですらある。
刃の裏面には溝が彫られてあり、おかげでガムテープなどの粘着材が刃に残りにくくなっている。グルーレス刃ともいえないようなちょっとした加工だが、よほどベタベタしたものを切らない限り、これでも十分に効果を発揮してくれるようだ。
ガムテープといえば……、直刃の下にはノコギリのようなギザ刃が刻まれているが、これは開梱作業用のカートンオープナー。宅配便の段ボールなど、このギザ刃をガムテープに押し当ててグイッと引けば、簡単に開梱が可能だ。
また、カシメの後ろは針金が切れるワイヤーカッターになっている。スチールならΦ1.2mm、銅線Φ1.6mmまでの針金をはさんで切断可能なので、わざわざ工具箱からニッパーやワイヤーカッターを出してくることもない(さすがに、刃の方で針金を切ると刃欠けするので注意)。
ひとつ問題として、携帯サイズということでハンドルの穴が小さくて使いづらい、という人もいるだろう。手が大きめの男性だと、動刃静刃ともに指を入れるのがちょっと苦しいはずだ。
ただ、ハンドルの周りを内側に削り込んであるので、力を入れたときにハンドル角が指に当たって痛いということがないのはありがたい。そういうところまで、よく工夫されているのだ。
いっそ工具ハサミを使うという選択肢もあり!
ENGINEER 鉄腕ハサミザイロン/2430円
さすがにそんな人はそうそういないと思うが、日常的にご家庭で防弾チョッキに使われているアラミド繊維、建築現場で使われている黄色と黒のトラロープを良く切る、という方なら工具ハサミを選ぶという手もある。ENGINEER「鉄腕ハサミザイロン」は、そういう特殊用途にも対応しうる凶悪なタフネスさを持つスーパーハサミだ。
刃は全体的にマイクロセレーション刃(ギザノコ刃)になっており、硬くてかつ刃が滑りやすいガラス繊維や厚手の革ベルトなんかも、がっちりつかんでカットできる。
さらに刃奥は鋭くとがったU型ノコ刃になっており、照明コードのような綿被覆線もシャープに切れるようになっている。
で、そういう硬いものを切る場合はどうしても力を入れなければならないのだが、鉄腕ハサミザイロンは大型ハンドルの全体がエラストマー製のソフトグリップなので、相当な力をかけてもハンドルに手指が食い込むこむようなことがない。
アルミ板や編組導線でも平気で切ってしまう切れ味の前では、段ボールや厚紙なんか豆腐みたいなものだ。普通に使うぶんには明らかにオーバーキルな性能ではあるが、それでも「いざという時のためには、より頑丈な方がいいわよね」という繊細すぎるタフ好きなら、これぐらいのハサミを手元に置いておいて欲しい。