文房具
筆記用具
2018/12/28 21:15

加圧式ボールペンの真価に迫る!再評価したいトンボ鉛筆「エアプレス」

【きだてたく文房具レビュー】発売10年目にして日の目を見そうなボールペン

便利な文房具を紹介する、なんて記事をずっと書き続けていると、「あー、これすごくいい製品なのに、どうしてイマイチ知られていないんだろう」と感じることがよくある。ただ申し訳ないことに、こういう紹介記事はどうしたって新製品が中心になりがちなのだ。毎週のように次々と新しくて便利で高機能な製品が出てくるもんだから、書く方もついそっちに目がいってしまうのである。

 

で、そういう時に救われるのが、その“認知度はあまり高くないけど、いい製品”のちょっとしたリニューアルとか、新色登場とかなのだ。こちらとしてもいい機会だし、なによりメーカーの「よしよし、お前のことは忘れてないよ」という愛情のようなものも感じられて、うれしい。

 

そういうわけで、あらためて紹介したいのが、10年前に発売されたのにあまり知られないまま現在に至り、ようやくつい先日ニューカラーが登場した、トンボ鉛筆「エアプレス」である。

↑トンボ鉛筆「エアプレス アクティブカラー」0.7㎜ 648円

 

ボールペンというのは、意外と複雑でデリケートな機構をしているため、ちょっとしたことで書けなくなることが多い。

 

例えば壁にかけたカレンダーなど垂直の面や、上向きの筆記。濡れた紙への筆記。極低温環境での筆記。場合によっては、素早く書き殴っているだけでインクの供給が追いつかずに書けなくなる、なんてこともある。エクストリームなシチュエーションでいうと、無重力環境や水中にも弱い。

 

しかし、そのすべてに対応しているのが、このエアプレスなのである。

↑軸全体がエラストマーでコートされているため、濡れた手や手袋をしたままでもグリップが安定する

 

まず、上記の書けなくなる状況のうち、わりと面倒なのが重力の存在だ。ボールペンは放っておいても重力によってインクが下側、つまりペン先の方に落ちてくることを前提に作られている。

 

つまり重力に逆らって上向きや横向き(垂直面)筆記をしていると、インクがペン先に供給されない。そのインクが来ない状態でボールの隙間から空気が入って内部に気泡ができてしまうと、もうそのボールペンは二度と書くことができなくなってしまうだろう。

↑上向き筆記もなんなくこなす!

 

じゃあなんでエアプレスなら大丈夫なのかというと、このボールペンが“加圧式”というやや特殊な方式でインクをペン先に供給しているからなのである。

 

エアプレスをノックすると、軸内部でポンプのように空気を圧縮してインクの詰まったリフィルに送り込む。つまり、これが加圧だ。空気の圧力でインクをペン先に押し出しているので、重力にかかわらずどんな向きでも書ける、という仕組みなのだ。

↑ノックを押すと、インクリフィルに空気を送って加圧。軸中央の窓から加圧状態も確認できる

 

あとは、濡れた紙や水中といった場所だと、ボールの隙間から水が入り込んでインクが出なくなったりするのだが、これも常に後ろから強い力でインクを押し出しているので大丈夫。氷点下でインクが固まりがちな場合も、同様に問題なし、だ。

↑油性インク+加圧で、水中でもなんの違和感もなく筆記可能

 

擬人化するとしたら、一般的なボールペンが“自室から出たこともないような深窓の令嬢キャラ”で、エアプレスは“アウトドア上等の現場育ちガテン系姉さん”、といった感じだろうか。

 

今回の新色・ビビッドなアクティブカラーはさらにその印象を強くしていて、ただでさえパワフルなエアプレスによく似合っていると思う。

↑リフィルはトンボ鉛筆の油性ショートリフィル。加圧する必要上、かなりきっちりと軸に収まっているので、交換にはちょっと慣れが必要かも

 

このエアプレス、リフィルはトンボ鉛筆の他製品で言うと「リポーターコンパクト」でも使われている、サイズこそショートだが、けっこう普通のものが使われている。

 

しかし書き比べてみると、リポーターコンパクトよりもややなめらかに書き出せる印象を受けるのだ。この辺りも、後ろから空気圧でインクを押し出していることに起因しているのだと思われる。当然のように早書きしていてインクがどんどんかすれていく、なんてこともまずない。

 

ただ、この押し出しのせいで、加圧したまま放置しておくと,次に書き始める時にインクが紙の上でボタ付きすることもある。書き終わったらそのたびにノックを戻して空気圧をリリースしておくほうがいいだろう。

↑シンプルだけどエネルギー効率の良いトーションバークリップ

 

あと、個人的にエアプレスですごく好きなのが、軸後部のクリップ。バネもなにも使っていないワイヤーだけなのに、かなりしっかりとした力で厚い手帳や作業着のポケットにも挟みこむことができるのだ。

 

これは金属棒のねじれに対する反発力を使った“トーションバー”(ねじり棒ばね)と呼ばれる機構で、コイルばねに比べて同じ質量でも大きなエネルギーを保存できるので、一般乗用車(ハイエースなど)からF1カー、果ては戦車のサスペンションにも使われているものなので、車好きの方だと「ああ、あれか!」と思われるかもしれない。

 

エアプレスのクリップが左右互い違いに挿し込まれているのはそのねじれを生むためで、これが構造的にシンプルなため壊れにくく、軽量なのにパワフルなのである。

↑コイルばねを使っていないのに、手帳やノートを挟んでがっちりホールド

 

こんな細部に至るまでパワフルに作られているエアプレスだが、どうしたって「そんなアウトドア仕様なペン、日常では使わないし……」ということなのか、あまり注目されないままで2008年の発売以降現在に至っている(途中、女性向けのエアプレスエプロなど他バージョンも発売されたが、現在は廃番)。

 

とはいえ、先ほども述べたように書き味もよく、クリップの使い勝手も言うことなしの逸品である。全体で122㎜とコンパクトなボディはポケットに放り込んでおくにもいいので、ぜひ何かの時のために1本ぐらい持っていて損はないと思う。

↑飛ばし書きでもかすれず安定してサラサラと書けるのは、安心感がある

 

ちなみに加圧式ボールペンとしては、エアプレスと同様にノックの空気圧で加圧するパイロットの「ダウンフォース」、特殊なリフィル内に封入した空気で加圧し続ける三菱鉛筆の「パワータンク」やフィッシャーの「スペースペン」などがある。そもそも加圧式が気になるのであれば、いろいろと試してみてもいいだろう。