【きだてたく文房具レビュー】握りやすく、軽い力で綴じられるホッチキス
“ペーパーレス時代”と言われるようになって久しいが、それでもいまだに、コピー機やプリンターのないオフィスというのを見たことがない。さすがに「業務の電子メールは全てプリントアウトしてファイリング保存」という、蛮族の風習みたいなものはだいぶ廃れた(10年前にはまだあったぞ、そんな会社!)ようだが、それでも近々にオフィスから紙が消えるといったことはなさそうだ。
例えば社内向けの会議資料なんかも、気の利いたところならPDFを各自のノートPCやタブレットPCで見るぐらいは当たり前になってきたが、プリントアウトしたA4の資料をホッチキス留めして配布というケースも、まだまだ多い。
つまり何が言いたいかというと、まだ当分、簡単に紙を束ねられる小型(10号針タイプ)ホッチキスは現役の文房具であり続けるだろうな、ということだ。そこで今回は、つい先日発売されたばかりの最新ホッチキスを紹介したいと思う。
何も変わっていないようで実は最新機構入りのホッチキス「HD-10TL」
現代のホッチキスのトレンドといえば、なによりも軽く綴じられる“倍力機構”と綴じ枚数アップ、“フラットクリンチ”(綴じた針が紙の裏で山にならず平らになる)、そしてボディのコンパクト化だ。
ところが新製品のマックス「HD-10TL」は、そのトレンドからはやや外れた方向にある。
まず一目見て感じるのが、ボディの大きさだ。いかにも“昔のホッチキス”然とした新製品っぽさのないサイズで、同社の定番ヒット商品でトレンド全部盛りの「サクリフラット」の小ささと比べると(次の写真)、その差は一目瞭然である。
しかし、だ。実はトレンドであるボディのコンパクト化というのは「機構上、仕方なく小さくせざるを得なかった」点もあるのだ。
「綴じる力50%減」など非常に軽い力で綴じられる倍力機構は、本体内の二重テコによるもので、必要な力が少なく済む代わりに押し込む距離が長くなる、つまりホッチキスの背が高くなってしまう。結果として、従来通りのサイズだと手で握れないほどに全高が高くなってしまうので、コンパクトにせざるを得なかったのである。
では、従来サイズの「HD-10TL」は倍力機構が入っていないのかというと、さにあらず。実は見た目に反して、最新の“可変倍力機構”というギミックを内蔵しているのである。
これまでの倍力機構は、握り始めから綴じ終わりまで、常に二重テコが効いて軽い力で動く。しかし、実はテコが効いて欲しいのは針が紙に当たってから綴じ終わるまでだけで、それまでは力が軽くなる必要性がないのだ。
そこで、握り始めからしばらくはテコなし、綴じるときだけテコが効く、という方式で押し込み距離をできるだけ短く(本体高さで約23%減)したのが、可変倍力機構というわけ。これなら背は低くても綴じる力は倍力、50%減の軽綴じができるのだ。
握り始めは普通なのだが、途中から倍力機構が働き始めると、ヘッドが磁石で紙に吸い付けられるようにククッと入って、軽くカチャッと綴じられる。これは今までに体感したことのない挙動で、非常に面白い。
また、ボディの大きさがあると何が良いかというと、まずは針の装填量だ。コンパクトな「サクリフラット」が内部に50本(10号針1山)しか入らないのに対して、「HD-10TL」はなんと、3倍の150本が装填可能なロングマガジン(マガジンとは連発銃の弾倉)を採用。これだけ入れば、針切れの心配なくザクザクと綴じられるだろう。
ここしばらくコンパクトホッチキスばかり使っていたので、改めてこの容量は「うわ、こんなに入るのか!」と驚かされる。
また、綴じ奥行きも53㎜と、コンパクトタイプと比べて倍近くなっている。
資料の端を綴じて束ねるような普通の用途なら、コンパクトでも何の問題もないが、豆本の中綴じ製本をしたり、折った紙箱の四隅をホッチキス留めしたりといった工作には、対応できないことも多い。ある程度は奥行きのあるホッチキスの方が、応用力という意味では使いやすいのである。
ただひとつ、「HD-10TL」で個人的に「この機能は欲しかったのに…」と悔やまれたのが、フラットクリンチだ。綴じた針がフラットになることで、綴じた書類を何部も積み重ねてもかさばらず、山崩れも起こしにくいということで便利に使っていた機能だけに、これは惜しい。
とはいえ、使いやすいロングサイズで可変倍力機構とそれ以外の使い勝手は抜群のツールなので、もし手元のホッチキスをそろそろ買い替えようかと思っているタイミングなら、ぜひこちらをオススメする。