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2017/1/14 15:06

「江ノ島電鉄」が“普通鉄道”なのはなぜ? 今でも往年の風格が漂う“元・路面電車”が人気の理由

全国を走る路面電車の旅 番外編「江ノ島電鉄」

 

藤沢駅〜鎌倉駅を走る江ノ島電鉄は、四季を通じて観光客で賑わう。この路線には、延べ980メートルにもおよぶ併用軌道区間があり、民家の玄関前を走る箇所などもあり、鉄道線というよりも路面電車の特徴を色濃く残すポイントが多い。

 

それなのに、江ノ島電鉄は一般の普通鉄道に区分けされている。なぜなのだろう? 今回の路面電車の旅では、番外編として“江ノ電”の魅力に迫った。

↑大正中期の江ノ電の絵葉書。七里ヶ浜付近の波打ち際を路面電車タイプの車両が走っていた。左奥は江の島
↑大正中期の江ノ電の絵葉書。七里ヶ浜付近の波打ち際を路面電車タイプの車両が走っていた。左奥は江の島

 

【歴史】“国策”で普通鉄道に変更された

「路面電車」と一般の「普通鉄道」はどのように違うのだろう。実は、法律によって路面電車と普通鉄道が分けられている。路面電車に適用されるのが軌道法と呼ばれる法律で、道に設けられた鉄道に適用される。一方、一般の鉄道に適用されるのが鉄道事業法だ。

 

要するに車両の形で路面電車か、路面電車でないかを分けるのではなく、道に設けられた路線を走る電車なら軌道法という法律が適用され、路面電車ということになる。

↑通称「鎌倉市腰越電車通り」を走る20形電車。「電車接近」の表示に合わせ、車は道路脇に除けて電車の通過を待つ
↑通称「鎌倉市腰越電車通り」を走る20形電車。「電車接近」の表示に合わせ、車は道路脇に除けて電車の通過を待つ

 

道に線路がある江ノ電は、どうして普通鉄道に区分けされているのだろう。江ノ電(当初の会社名は江之島電氣鐵道)が開業したのは、1902(明治35)年のこと。1910(明治43)年には、藤沢〜鎌倉間が全通した。当初は江ノ電も路面電車の仲間だった。

 

ところが、当局(内務省)からの指導で鉄道事業法(当時は地方鉄道法)が適用される普通鉄道への変更を求められた。この求めに応じて当時の江之島電氣鐵道が変更を申請。その後、太平洋戦争中の1944(昭和19)年に変更の許可がおりている(法律の適用は1945年11月から)。

 

当時、軍部は物資の輸送に欠かせない東海道本線や、軍関係施設が多い横須賀線が空襲等で長期間不通になることを恐れた。もし不通となったときには、迂回路として両線に接続する江ノ電の路線を利用したいと考えたのだろう。

 

線路幅は元国鉄の路線と同じ1067ミリで、いざというときに、貨物列車を通すことが可能だった(軌道法では車両の長さなどが制限された)。それ以降、江ノ電は路面電車に戻ることなく、普通鉄道として運用された。

↑通りでは係員が車の誘導をしているものの、ときには電車が車の渋滞に巻き込まれてしまうこともある
↑通りでは係員が車の誘導をしているものの、ときには電車が車の渋滞に巻き込まれてしまうこともある

 

【車両】新旧さまざまな電車が走るにぎやかさ!

江ノ電の電車は、すべてが2両1組、2両の連結部に台車がある連接車だ。そして、ほとんどの電車が2編成をつなぎ4両編成で運行されている。

 

電車の形式は以下のとおり。レトロなスタイルの10形20形、鉄道友の会「ブルーリボン賞」を受賞した1000形、グッドデザイン商品に選ばれた2000形、江ノ電初のVVVFインバーター制御を採用した500形。そして、1956(昭和31)年〜1968(昭和43)年に造られた江ノ電最古参の300形、計6形式だ。

↑1000形1002-1052号車は、姉妹提携を結ぶ京福電気鉄道(通称・嵐電)カラーの京紫色に塗られている
↑1000形1002-1052号車は、姉妹提携を結ぶ京福電気鉄道(通称・嵐電)カラーの京紫色に塗られている

 

そのうち、300形は江ノ電のシンボルとして人気が高い。300形は6編成が造られ、いまは305-355号車1編成のみが残っている。丸いヘッドライト、その下に付く尾灯、広めのおでこに丸い天井部分。顔の真ん中に、四角い3枚窓が並ぶ。決して端正な形とはいえないものの、独特の風貌で新型車両にない風格を伴っている。

↑1960年製の300形305-355号車。正面に「藤沢−鎌倉」と書かれたサボが付く。古参らしい風貌が味わい深い
↑1960年製の300形305-355号車。正面に「藤沢−鎌倉」と書かれたサボが付く。古参らしい風貌が味わい深い

 

【沿線】乗って歩いて楽しい江ノ島〜極楽寺間は要注目!

江ノ島電鉄の路線は、藤沢駅〜鎌倉駅までちょうど10キロ。そのうち、路面電車らしい情景に出会えるのが江ノ島駅と極楽寺駅の間だ。

 

江ノ島駅から鎌倉行きに乗ると、駅を出てすぐ龍口寺(りゅうこうじ)前の急カーブに入る。半径28メートル、普通電車の路線では日本一小さいカーブとされる。ここで、カーブに強い連接車の構造が活きるのだ。

↑龍口寺前の半径28メートルの急カーブを曲がる。連接車ならではの構造が活きるカーブだ
↑龍口寺前の半径28メートルの急カーブを曲がる。連接車ならではの構造が活きるカーブだ

 

このカーブを曲がると、通称「鎌倉腰越電車通り」に入る。道路の中央を4両編成の電車が走る姿はダイナミックそのものだ。通りを走る車も、電車が来ると道路際に除けて通過を見守る姿が見られる。また、電車に乗って見る風景も面白い。魚屋や食事処などが建ち並ぶ商店街、歩く買い物客や車を、電車のすぐ真下に見ながら通りを走り過ぎていく。

 

腰越駅を過ぎれば、いよいよ七里ヶ浜の海岸が見えてくる。海岸沿いにある駅が鎌倉高校前駅だ。駅を出ると海が見える踏切がある。いま中国、香港、台湾、韓国などアジアのさまざまな地域から、わざわざこの場所を訪ねる人たちが目立つ。

 

これは、人気コミック「SLAM DUNK(スラムダンク)」の影響だとされる。コミックのオープニングシーンに登場するのがこの場所だからだ。元々、電車を背に海が見える“名物スポット”として知られていたが、数年前までは昨今の賑わいぶりなど、とてもじゃないが想像できなかった。

↑真冬の強風が吹き荒れる中でもこの状態、ここ数年の鎌倉高校前駅にある踏切の人気ぶりには驚かされる
↑真冬の強風が吹き荒れる中でも、この観光客の数。ここ数年の鎌倉高校前駅にある踏切の人気ぶりには驚かされる

 

電車に乗るだけでなく、途中下車して線路ぞいをゆっくり歩いていただきたいのが、七里ケ浜駅と極楽寺駅との間。とくに七里ヶ浜駅〜稲村ケ崎駅間は、江ノ電とともに海越しに見える富士山を一緒に撮影できるポイントがあるのでおすすめ。空気が澄みわたり、雲が少ない冬の晴天日を選んで訪れたい。

↑七里ヶ浜駅〜稲村ケ崎駅間で撮影した富士山と300形。同エリアでは、色々な構図にチャレンジすることが可能だ
↑七里ヶ浜駅〜稲村ケ崎駅間で撮影した富士山と300形。同エリアでは、色々な構図にチャレンジすることが可能だ

 

さらに、稲村ケ崎駅から先の極楽寺駅間への区間は、歩く人も少ない大人向けのおすすめ区間だ。細い道筋を車と並走するように、江ノ電の電車が走り抜ける。道との境には小さな仕切りがあるのみ。併用軌道を走る江ノ電の電車が身近に感じられる区間で、通行する車に邪魔されなければ4両編成の車両を、きれいに写真に納めることができる。

↑稲村ケ崎駅〜極楽橋駅間では、細い道に沿った併用軌道区間がある。趣ある情景を撮るならこの区間は抑えておきたい
↑稲村ケ崎駅〜極楽橋駅間では、細い道に沿った併用軌道区間がある。趣ある情景を撮るならこの区間は抑えておきたい

 

【TRAIN DATA】

路線名:江ノ島電鉄線

運行事業体:江ノ島電鉄

営業距離:10.0km

軌間:1067mm

料金:190円〜300円(ICカード利用可能)

開業年:1902(明治35)年

*江之島電氣鐵道が藤沢〜片瀬(現・江ノ島)間を開業